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対溶融銅腐食及び熱衝撃特性の改良された材料開発

氏名 久留島 豊一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第74号
学位授与の日付 平成5年3月25日
学位論文の題目 対溶融銅腐食及び熱衝撃特性の改良された材料開発
論文審査委員
 主査 教授 石崎 幸三
 副査 教授 武藤 睦治
 副査 教授 鎌田 喜一郎
 副査 教授 植松 敬三
 副査 助教授 小松 高行

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謝辞 p.2
ABSTRACT p.3

第1章 序論 p.6
 1-1 銅合金鋳造及び鋳造用部材の現状と問題点 p.6
 1-2 高温耐食性材料に関する既往の研究 p.7
 1-3 本研究の目的と意義 p.9

第2章 一般的高温耐食性材料の溶融銅合金に対する溶損侵食及び表面
 付着評価 p.10
 2-1 緒言 p.10
 2-2 実験方法 p.10
 2-3 結果と考察 p.12
 2-4 結言 p.12

第3章 窒化物セラミックスによる手法 p.14
 3-1 緒言 p.14
 3-2 実験方法1(窒化物セラミックス及びその助剤と銅、酸化銅との反応) p.15
 3-2-1 粉末調製 p.15
 3-2-2 加熱及び反応挙動の評価法 p.15
 3-3 実験方法2(SIALONセラミックスの酸化銅による溶損侵食) p.17
 3-3-1 SIALONセラミックスの作製 p.17
 3-3-2 溶損侵食試験とその評価 p.19
 3-3-3 低温比熱測定 p.19
 3-3-4 走査型電子顕微鏡(SEM)観察及びXRD分析 p.19
 3-4 実験結果 p.19
 3-5 考察 p.26
 3-5-1 窒素雰囲気中でのセラミックスの安定性 p.26
 3-5-2 反応速度に及ぼす酸素分圧の影響 p.31
 3-5-3 大気中での窒化物セラミックスの酸化挙動 p.32
 3-5-4 SIALONの溶損侵食原因 p.33
 3-5-5 溶融銅合金と鋼の違い p.35
 3-5-6 大気中での焼結助剤と酸化銅の反応 p.38
 3-6 結論 p.39

第4章 ジルコニアセラミックスによる手法 p.42
 4-1 緒言 p.42
 4-2 実験方法 p.43
 4-2-1 ファイバー分散ZrO2の調製 p.43
 4-2-2 熱衝撃特性の評価 p.44
 4-2-3 熱膨張率の測定、XRD分析及びSEM観察 p.45
 4-3 実験結果 p.45
 4-4 考察 p.55
 4-4-1 ファイバー分散による焼結挙動変化 p.55
 4-4-2 曲げ強度に及ぼすファイバー効果 p.58
 4-4-3 △T=600Kの水中急冷に対する熱衝撃特性に及ぼすファイバー効果 p.59
 4-4-4 耐熱衝撃性に及ぼすY2O3含有量の影響 p.64
 4-4-5 耐熱衝撃性に及ぼす気孔率の影響 p.65
 4-4-6 繰り返し熱衝撃に対する耐熱衝撃性に及ぼすファイバーの 形状効果 p.66
 4-4-7 熱衝撃試験方法の違いによる曲げ強度変化の違い p.67
 4-4-8 Y2O3含有量とファイバー分散の組み合わせによる耐熱衝撃性 ZrO2セラミックス p.68
 4-5 結論 p.69

第5章 ジルコニア溶射による手法 p.71
 5-1 緒言 p.71
 5-2 実験方法 p.72
 5-2-1 金属基板の熱膨張係数と嵩密度の測定 p.72
 5-2-2 金属基板上へのZrO2溶射 p.72
 5-2-3 水中急冷による耐熱衝撃性の評価 p.74
 5-2-4 ZrO2溶射試料の通気度の評価 p.74
 5-3 実験結果 p.76
 5-4 考察 p.80
 5-4-1 金属基板の熱膨張率 p.80
 5-4-2 金属基板の組成 p.80
 5-4-3 Ni・Cr中間層 p.83
 5-4-4 金属基板の嵩密度 p.86
 5-4-5 き裂発生の機構 p.88
 5-4-6 き裂を発生させる熱処理方法 p.90
 5-4-7 多孔質ZrO2溶射鋼の通気性 p.91
 5-5 結論 p.92

第6章 工程への適用と成果 p.93
 6-1 窒化物セラミックス p.93
 6-2 ジルコニアセラミックス p.93
 6-3 ジルコニア溶射鋼 p.94

第7章 総括 p.95
 7-1 まとめ p.95
 7-2 総合討論及び今後の展望 p.95

文献 p.98
本研究に関する著者の研究論文・特許のリスト p.104

 溶融銅合金は化学反応性が高く、黄銅よりも鋳造温度の高い青銅の場合は、鋳造用部材として、毎回作り直す砂型と寿命の短い黒鉛系耐火物しか使えなかった。また一方で銅合金鋳造分野は、鉄やアルミニウムに比べて経験と勘に頼るところが大きく、研究報告も少ないため、生産技術の遅れが生じていた。
 本研究では、銅合金鋳造用部材の溶損侵食特性と熱衝撃特性を向上させ、高寿命の部材を開発することによって、銅合金鋳造分野の生産技術を向上させることにした。
 まず一般的に高温耐食性材料とされる14種類の素材を1200℃の溶融銅と反応させる実験を行ったところ、酸化銅の影響でほとんどの材料が溶損侵食したり、スラグが付着して取れなくなったりした。その中でZrO2だけが全く溶損侵食もスラグの付着もなく、ZrO2の熱衝撃特性さえ向上させれば、最適の部材になることが分かった。そこでZrO2ファイバー分散ZrO2ファイバー分散ZrO2セラニックスとZrO2溶射鋼の2通りの手法でその可能性を追求することにした。また窒化物セラミックスに関してはSIALONよりもSi3N4の方が良いという鋳鉄と全く逆の結果を得たため、その原因を調べ、さらに優れた性能の可能性を追求する手法を採ることにした。
 窒化物セラミックスによる手法としては、窒化物セラミックス(SIALON、Si3N4、AlN)及びその焼結助剤(Al2O3、Y2O3、SiO2、MgO)と酸化銅の反応挙動、並びにSIALON焼結体の酸化銅による溶損侵食挙動を調べた。
 その結果、温度が1200℃、酸素分圧1Pa以下では、熱力学的に酸化銅より銅の方が安定で、主として銅との反応を考えればよく、また酸化皮膜の形成により窒化物セラミックスの酸化がほとんど起こらないか、非常に遅く、焼結助剤と酸化銅の反応もほとんど起こらないため、比較的簡単な設備改良で現状の素材がそのまま半永久的な銅合金鋳造用部材になり得る可能性があることが判明した。またSi3N4は大気中酸化銅存在下でも1000℃までは安定であるため、黄銅鋳造用部材には半永久的に使用できることが確認された。一方、SIALONの溶損侵食は、主に粒界の珪酸質ガラス相が酸化銅と反応して溶融することが原因で、できるだけガラス相を作らないことが重要であることが分かった。溶融鉄には溶損侵食されないのに、溶融銅には溶損侵食されてしまう理由も、ここに明らかにすることができた。
 ZrO2セラミックスによる手法では、分散するZrO2ファイバーの長さ、及びマトリックス中のY2O3含有量を変化させたZrO2セラミックスを、1250℃~1650℃の温度で2時間焼成し、焼結挙動を調べ、△T=600Kの水中急冷及び△T=1240Kの気中急冷による熱衝撃試験を最大50回繰り返す実験中に曲げ強度変化を調べた。
 その結果、ZrO2粉末中のY2O3含有量を1.5mol%程度にして38%程度の単斜相を残し、完全安定化したZrO2ファイバーを12wt%分散し、嵩密度を理論密度で割った値、ρが0.93になるような条件で焼成すれば、最も耐熱衝撃性に優れるZrO2セラミックスが作製できることが分かった。ファイバーの長さに関しては、平均長さ2.5mm、平均直径10μmの長いファイバーを分散した試料は、実験の最高温度である1650℃でもファイバー形状を維持し、水中急冷と気中急冷による熱衝撃試験を50回行っても、曲げ強度の低下がほとんどなかった。この素材は対溶融銅合金溶部材だけでなく、一般の高温耐食性素材としても、今までにない高性能な画期的素材である。
 ZrO2溶射鋼による手法では、金属基板の組成と嵩密度を変えること、Ni・Cr中間層を用いることにより新規な耐熱衝撃性ZrO2溶射鋼を開発した。
 ρが0.75以下の多孔質金属基板に、Ni・Cr中間層を施して、その上に溶射したZrO2被膜は、1125℃から25℃への水中急冷を行っても、き裂が入るだけで剥離しない。その理由は825℃以上の保持温度からの水中急冷で発生したき裂により、ZrO2被膜にかかる応力が緩和されたことが考えられる。この素材は、ZrO2被膜が耐熱衝撃性及び耐食性に優れ、金属基板は加工性が良く、脱ガスを可能にする通気性があるため、半永久的に使用できる鋳造型として最適な条件を備えていることが分かった。
 本研究の結果を基に行っている工程試験は、本研究の正確さと重要度を再確認させてくれる。たとえば、これまで10日で交換していた鋳鉄製の黄銅鋳造用熱電対保護管をSi3N4製にしたところ、9ヶ月経過した現在もほとんど溶損侵食されることなく、連続使用できている。本研究の成果により、銅合金鋳造部材に全く新しい素材の使用が可能となり、銅合金鋳造プロセスが新しくなった。

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