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セラミックスの疲労き裂伝ぱ特性に関する基礎的研究

氏名 高橋 学
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第75号
学位授与の日付 平成5年3月25日
学位論文の題目 セラミックスの疲労き裂伝ぱ特性に関する基礎的研究
論文審査委員
 主査 教授 武藤 睦治
 副査 教授 田中 紘一
 副査 助教授 長谷川 光彦
 副査 助教授 古口 日出男
 副査 助教授 岡崎 正和
 副査 大阪大学 教授 城野 政弘

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第1章 序論 p.1
 1-1節 セラミックスの疲労研究の歴史 p.1
 1-2節 疲労き裂伝ぱに関する研究の現状 p.2
 1-3節 本研究の目的 p.9
 1-4節 本論文の構成と概要 p.9
 参考文献

第2章 窒化けい素の基本的疲労き裂伝ぱ特性 p.13
 2-1節 緒言 p.13
 2-2節 実験方法 p.14
 2-2-1 供試材および試験片 p.14
 2-2-2 実験方法 p.15
 2-3節 結果および考察 p.17
 2-3-1 疲労き裂伝ぱ挙動 p.17
 2-3-1-1 応力比の影響 p.17
 2-3-1-2 周波数の影響 p.19
 2-3-1-3 応力波形の影響 p.19
 2-3-2 き裂開閉口挙動 p.20
 2-3-3 き裂伝ぱ経路および破面観察 p.23
 2-3-3-1 き裂伝ぱ経路 p.23
 2-3-3-2 き裂伝ぱ破面観察 p.23
 2-4節 結言 p.25
 参考文献

第3章 窒化けい素の疲労き裂伝ぱ機構とき裂先端応力拡大係数 p.27
 3-1節 緒言 p.27
 3-2節 疲労き裂伝ぱ過程の in situ 観察 p.28
 3-3節 き裂伝ぱメカニズム p.31
 3-4節 き裂先端応力拡大係数 p.32
 3-5節 き裂先端応力拡大係数の適用 p.36
 3-5-1 き裂開口端変位の測定方法 p.36
 3-5-2 き裂先端応力拡大係数による整理 p.37
 3-6節 結言 p.45
 参考文献

第4章 疲労き裂伝ぱ挙動に及ぼすき裂長さの影響 p.48
 4-1節 緒言 p.48
 4-2節 実験方法 p.49
 4-2-1 Kmax一定試験 p.49
 4-2-2 短い貫通き裂試験片の作成および伝ぱ試験 p.49
 4-3節 結果および考察 p.51
 4-3-1 Kmax一定試験におけるき裂伝ぱ挙動 p.51
 4-3-2 短い貫通き裂の疲労き裂伝ぱ挙動 p.54
 4-3-3 き裂先端応力拡大係数Ktipによる伝ぱ挙動の整理 p.56
 4-3-3-1 Kmax一定試験への適用 p.56
 4-3-3-2 短い貫通き裂への適用 p.58
 4-4節 結言 p.60
 参考文献

第5章 表面き裂の疲労き裂伝ぱ挙動 p.62
 5-1節 緒言 p.62
 5-2節 実験方法 p.62
 5-2-1 供試材および試験片 p.62
 5-2-2 疲労き裂伝ぱ試験 p.64
 5-2-3 表面き裂長さの測定 p.66
 5-3節 結果および考察 p.70
 5-3-1 導入した表面き裂の有効性 p.70
 5-3-2 表面き裂の下限界値のき裂長さ依存性 p.70
 5-3-3 表面き裂の繰返し疲労き裂伝ぱ特性 p.73
 5-3-4 表面き裂のき裂先端応力拡大係数 p.75
 5-4節 結言 p.80
 参考文献

第6章 疲労き裂伝ぱ挙動に及ぼす結晶粒径の影響 p.82
 6-1節 緒言 p.82
 6-2節 実験方法 p.83
 6-2-1 供試材および試験片 p.83
 6-2-2 実験方法 p.84
 6-3節 結果および考察 p.86
 6-3-1 き裂伝ぱ挙動 p.86
 6-3-2 破面およびき裂伝ぱ経路の観察 p.87
 6-3-3 Ktipによるき裂伝ぱ速度の整理 p.87
 6-4節 結言 p.94
 参考文献

第7章 疲労強度に及ぼす研削加工の影響と寿命評価 p.96
 7-1節 緒言 p.96
 7-2節 実験方法 p.97
 7-2-1 供試材および試験片 p.97
 7-2-2 実験方法 p.98
 7-2-3 表面性状の測定 p.98
 7-3節 結果および考察 p.100
 7-3-1 疲労強度に及ぼす表面粗さの影響 p.100
 7-3-2 疲労強度に及ぼす残留応力の影響 p.101
 7-3-3 疲労強度と表面形状パラメータの関係 p.101
 7-3-4 研削仕上げした窒化けい素の寿命推定 p.102
 7-4節 結言 p.107
 参考文献

第8章 数種のセラミックスの疲労き裂伝ぱ特性の比較 p.108
 8-1節 緒言 p.108
 8-2節 実験方法 p.110
 8-2-1 供試材 p.110
 8-2-2 繰返し疲労き裂伝ぱ試験 p.110
 8-2-3 静疲労き裂伝ぱ試験 p.111
 8-3節 結果および考察 p.111
 8-3-1 静疲労および繰返し疲労き裂伝ぱ特性 p.111
 8-3-2 破面観察およびき裂伝ぱ経路 p.113
 8-3-3 き裂先端応力拡大係数による伝ぱ曲線の一般化 p.118
 8-3-4 下限界でのプロセスゾーンと組織特性寸法 p.120
 8-3-5 他の研究との比較 p.121
 8-3-5-1 Si3N4に関する研究 p.121
 8-3-5-2 SiCに関する研究 p.121
 8-3-5-3 TiB2に関する研究 p.121
 8-3-5-4 ZrO2に関する研究 p.121
 8-3-5-5 Al2O3に関する研究 p.124
 8-4節 結言 p.126
 参考文献

第9章 結論 p.128

謝辞

 セラミックスは従来の材料に比べて、高強度、耐熱性、耐摩耗性、耐食性および低密度などの優れた特性を有しているため、次世代のガスタービンなどの熱機関あるいは航空宇宙分野の機器・装置などの構造用材料として利用することが試みられるようになった。このような分野への利用を進めるためには構造信頼性・安全性確保の観点から、当然のことながら各種強度特性、特に疲労特性の把握が必要である。
 そこで本研究では、セラミックスの疲労き裂伝ぱ特性を明らかにすることを目指し、具体的には供試材として窒化けい素を取り上げ、その疲労き裂伝ぱ挙動を調べるとともに、その伝ぱ過程を in situ 観察などにより詳細に検討し、疲労き裂伝ぱのメカニズムの解明を試みた。このような基本的な検討結果に基づき、疲労き裂伝ぱ挙動を支配している力学的パラメータを明らかにするとともに、き裂寸法や形状、負荷履歴などの諸因子の影響を調べ、その支配力学パラメータの有効性を確認した。さらに、窒化けい素以外の数種の構造用セラミックスの疲労き裂伝ぱ挙動を調べ、窒化けい素について得られた結論がどのような範囲の、あるいはどのような特性を有するセラミックスに対して有効であるのかについても検討した。
 第1章「緒論」ではセラミックスの疲労研究の歴史および疲労き裂伝ぱに関する研究の現状について概観するとともに、本研究の意義および目的を明らかにした。
 第2章「窒化けい素の基本的疲労き裂伝ぱ特性」では、窒化けい素の基本的な疲労き裂伝ぱ特性を把握するために、応力比、周波数および応力波形を変化させた繰返しおよび静疲労き裂伝ぱ試験を行った。その結果、応力比が小さくなるとともに、繰返し負荷による伝ぱ速度の加速が顕著となることがわかった。
 第3章「窒化けい素の疲労き裂伝ぱ機構とき裂先端応力拡大係数」では、疲労き裂伝ぱ機構を解明するため、疲労き裂伝ぱ経路の in situ 観察を行い、さらに疲労き裂伝ぱ挙動を支配している力学的パラメータを明らかにすることを試みた。詳細な in situ観察結果に基づくと、窒化けい素の基本的な疲労き裂伝ぱ機構は以下のように考えられる。疲労き裂先端の結晶粒界にマイクロクラックを生じ、これが要因となり、き裂のウェイク部にブリッジングやき裂面摩擦等を生ずる。一方、き裂先端後方のウェイク領域の端部ではこれらブリッジング等が解消され、き裂の開口を促す。このような現象を繰り返すことにより疲労き裂が伝ぱする。
 このように、き裂先端近傍にはブリッジングおよびき裂面摩擦等により応力遮蔽効果を生じるため、き裂先端の有効な応力拡大係数は負荷応力に基づく見掛けの応力拡大係数とは異なっている。そこで、実験的に計測可能なき裂開口変位からこの応力遮蔽効果を考慮したき裂先端応力拡大係数Ktipを求める手法を提案した。
 第4章「疲労き裂伝ぱ挙動に及ぼすき裂長さの影響」および第5章「表面き裂の疲労き裂伝ぱ特性」では、き裂伝ぱに伴い負荷応力を低下させKmaxを一定に保持した繰返しおよび静疲労き裂伝ぱ試験およびき裂ウェイク部に応力遮蔽要因が形成されている短い貫通き裂を用いた繰返し疲労き裂伝ぱ試験、表面き裂の繰返し疲労き裂伝ぱ試験を行った。その結果、伝ぱ挙動にき裂長さおよび形状、負荷履歴の影響が認められた。そこで、Ktipによりそれらの伝ぱ速度を整理すると、き裂寸法や形状、負荷履歴などに依らない固有の伝ぱ曲線が得られた。
 第6章「疲労き裂伝ぱ挙動に及ぼす結晶粒径の影響」では、粒径の異なる窒化けい素を用い、疲労き裂伝ぱ挙動に及ぼす粒径の影響を調べた。その結果、大きな結晶粒の伝ぱ速度は小さな結晶粒のそれよりも低速度側であった。このように、結晶粒の粗大化は顕著なブリッジング、き裂面間摩擦および大きなき裂偏向等をもたらし、き裂伝ぱ抵抗を増大させるため、疲労き裂伝ぱに対して有効である。
 第7章「疲労強度に及ぼす研削加工の影響と寿命評価」では、種々の条件で研削加工した試験片の疲労試験を行うとともに、表面き裂の伝ぱ曲線を用い、研削された材料の疲労強度を破壊力学的手法に基づき推定する方法を示した。
 第8章「数種のセラミックスの疲労き裂伝ぱ特性」では、代表的な構造用セラミックスのSi3N4、SiC、TiB2、ZrO2およびAl2O3を用い、それらの疲労き裂伝ぱ挙動について比較し、セラミックス間の類似性や相違について調べるとともに、き裂先端応力拡大係数による伝ぱ速度の整理を試みた。その結果、窒化けい素の場合と同様に粒界破壊を生じるAl2O3およびTiB2は繰り返し負荷による伝ぱ速度の加速が見とめられた。一方、粒内破壊を生じるSiCおよびZrO2の場合には繰り返し負荷による伝ぱ速度の加速が認められなかった。繰り返し疲労き裂伝ぱ挙動を示すセラミックスについて Ktip/E で伝ぱ速度を整理すると、材料に依らず伝ぱ曲線はほぼ一致した。
 第9章「結論」では、以上の各章の主な結論を要約し、今後のセラミックスの疲労に関する展望について述べた。

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