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Sphingomonas paucimobilisのリグニン・ビフェニル構造の代謝に関与する遺伝子群の解明

氏名 彭 学
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第195号
学位授与の日付 平成11年6月30日
学位論文の題目 Sphingomonas paucimobilisのリグニン・ビフェニル構造の代謝に関与する遺伝子群の解明
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 講師 政井 英司
 副査 教授 山田 良平
 副査 教授 森川 康
 副査 助教授 岡田 宏文

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序章 p.1

第一章 リグニンモデル化合物の合成およびDDVA分解経路の推定 p.10

1-1 緒言 p.10
1-2 結果 p.10
1-2-1 リグニンモデル化合物の合成 p.10
1-2-2 DDVA代謝経路の推定 p.13
(1) SYK-6の休止細胞によるDDVAの代謝実験 p.13
(2) SYK-6およびligB破壊株の増殖細胞によるDDVAと5CVAの代謝実験 p.13
1-3 考察 p.18
1-4 材料と方法 p.22
1-4-1 リグニンモデル化合物の合成 p.22
1-4-2 S.paucimobilis SYK-6によるDDVA代謝経路の推定 p.27

第二章 OH-DDVAオキシゲナーゼ遺伝子(ligZ)の単離と解析 p.29

2-1 緒言 p.29
2-2 結果 p.29
(1) サブクローニングおよび塩基配列の決定 p.29
(2) LigZの部分精製、SDS-PAGE解析およびN末端アミノ酸配列の決定 p.31
(3) 基質特異性 p.35
(4) 金属依存性 p.35
(5) ligZ破壊株(DLZ)の作製および解析 p.35
2-3 考察 p.39
2-4 材料と方法 p.42

第三章 OH-DDVAメタ開裂物質加水分解酵素遺伝子(ligY)の単離と解析 p.48

3-1 緒言 p.48
3-2 結果 p.48
(1) ligZを含む4.9-kb HindIII断片の機能解析 p.48
(2) サブクローニングおよび塩基配列の決定 p.51
(3) LigYの加水分解反応 p.56
(4) LigYの基質特異性 p.56
3-3 考察 p.56
3-4 材料と方法 p.60

第四章 5CVA脱炭酸酵素遺伝子(ligW)の単離と解析 p.62

4-1 緒言 p.62
4-2 結果 p.62
(1) ライブラリーの作製 p.62
(2) 5CVA資化能の相補によるクローニング p.62
(3) 5CVA分解性クローンの検索 p.68
(4) 5CVA分解産物の同定 p.68
(5) 7.0-kb EcoRIのサブクローニングおよび塩基配列の決定 p.70
(6) 遺伝子産物の同定およびN末端アミノ酸配列の決定 p.75
(7) 5CVA分解酵素の諸性質 p.75
(8) 重水を含む反応液中における5CVAのバニリン酸への変換 p.79
4-3 考察 p.79
4-4 材料と方法 p.83

第五章 SYK-6染色体上におけるリグニン分解酵素遺伝子の配置 p.89

5-1 緒言 p.89
5-2 結果 p.89
(1) 1-Mb SpeI断片の解析 p.89
(2) ligX、ligZY、ligW遺伝子間の位置関係 p.95
(3) ligH、ligl-ligABC遺伝子間の位置関係 p.95
5-3 考察 p.97
5-4 材料と方法 p.99

総括 p.101
参考文献 p.104
謝辞

 本研究は樹未成分であるリグニンの有効利用を目的とした。リグニンの生化学的変換系の構築を目指し、リグニン分解菌S. paucimobilis SYK-6のリグニン・ビフェニル構造の代謝に関与する遺伝子群を遺伝学的及ぴ生化学的に明らかにした。

【序章】 リグニンは芳香環を持つ化合物が様々な様式で結合した高分子であり、リグニンを分解することで工業的に利用価値の高い芳香族化合物素材が大量に得られることが期待される。高分子リグニンは自然界において真菌由来のリグニンペルオキシダーゼ等の触媒するラジカル反応によって非特異的に分解され、低分子化される。そして低分子化されたリグニン化合物は細菌によって完全分解されると考えられる。リグニンから有用物質を生産するためには細菌の特異的な酵素系を用いた物質変換系を構築することが有効であると思われる。S. paucimobilis SYK-6株はリグニン・ビフェニル構造の5,5'-デヒドロジバニリン酸(DDVA)の資化菌として単離された。本菌株はグアイアシル型のリグニンモデル化合物をバニリン酸を経由して代謝するため、バニリン酸の代謝経路およびその酵素遺伝子が詳しく解析されてきた。しかし、DDVAをバニリン酸に分解する反応段階に関しては遺伝学的、生化学的な報告は本菌株を含め一例も見あたらない。本研究ではリグニン中で特に分解されにくい構造であるビフェニル構造に着目し、DDVAの分解系を解析した。

【第一章 リグニンモデル化合物の合成とDDVA分解経路の推定】 SYK-6のDDVA分解経路を推定するために代謝実験を行ったところ、DDVAは初めに脱メチル反応により2,2',3-trihydroxy-3'-methoxy-5,5'-dicarboxybiphenyl(OH-DDVA)へと変換され、芳香環開裂反応を含む2段階以上の反応を経て5-カルボキシバニリン酸(5CVA)に分解されることが示された。そして5CVAは主にバニリン酸代謝系に導かれると推定された。

【第二章 OH-DDVAオキシゲナーゼ遺伝子(ligZ)の単離と解析】 DDVAは5CVAを経由して分解されることからOH-DDVAの片方の芳香環が開裂すると考えられる。ベンゼン環の開裂反応はオキシゲナーゼによって行われることが知られ、OH-DDVAもオキシゲナーゼによる環開裂反応を受けることが予想された。OH-DDVA資化能欠損変異株に遺伝子ライブラリーを導入し、欠損変異を相補する15-kb EcoRI断片を取得した。この断片を出発材料としてligZ遺伝子を単離、解析した。以下の事実によりLigZはOH-DDVAのメタ開裂を触媒するジオキシゲナーセであることを明らかにした。1)大腸菌にOH-DDVAに対する酸素吸収活性を与える。2)LigZの推定アミノ酸配列はclassIIIメタ開裂酵素に属するSYK-6のプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼのβサブユニット(LigB)などと相同性が見られる。3)LigZによるOH-DDVAの分解産物はメタ開裂物質に特徴的な黄色(455nmの最大吸収)を示す。4)LigZの酵素活性は既知のメタ開裂ジオキシゲナーゼと同様にFe2+イオンに依存する。

【第三章 OH-DDVAメタ開裂物質加水分解酵素遺伝子(ligY)の単離と解析】 ligZを含む4.9-kbHindIII断片中にOH-DDVAメタ開裂物質を5CVAに変換する酵素の遺伝子ligYが存在することを見いだし、本遺伝子の一次構造を明らかにした。H218Oを含むLigZとLigYの反応液中で、OH-DDVAから生成した5CVAに18Oが組み込まれたことが確認され、LigYはOH-DDVAメタ開裂物質加水分解酵素であることが明らかとなった。本酵素はLigZと同じくリグニン由来の化合物に高い基質特異性を示した。LigZとLigYの反応はPCB分解菌のビフェニル代謝酵素系の反応に類似しているが、一次構造の類縁性が見られず、進化上の関係はほとんどないと考えられた。

【第四章 5CVA脱水炭酸酵素遺伝子(ligW)の単離と解析】 LigYの次の反応段階に働く酵素の遺伝子ligWは5CVAを脱炭酸してバニリン酸に変換する活性を与えるクローンを単離することによって獲得した。大腸菌で生産した酵素LigWを用いて本酵素がどのような反応機構で脱炭酸反応を触媒するかを調べたところ、1)反応液中の重水から1原子の重水素が反応生成物のバニリン酸1分子に組み込まれたこと、2)酵素活性が補酵素や金属イオンに依存しないことが明らかとなった。これらの結果からLigWは還元的脱炭酸酵素であることが示唆された。LigWは一次配列がこれまで知られた酵素とは全く異なり、新規な脱炭酸酵素であると考えられる。

【第五章 SYK-6染色体上におけるリグニン分解酵素遺伝子の配置】 SYK-6からこれまでに単離された全てのリグニン分解酵素遺伝子はパルスフィールド電気泳動で分離した染色体上の1-MbSpeI断片に存在することがサザン分析により示された。リグニン分解酵素遺伝子のうち、リグニン二量体分解系およびバニリン酸代謝以降に関与する遺伝子がそれぞれ染色体上で分かれて存在することが示唆された。ビフェニル代謝に関与する遺伝子の詳細な位置関係を決定した結果、ligZYの約5.5-kb上流にDDVAの脱メチル酵素遺伝子の一部ligXが、そのさらに6.5-kb上流にligWが同じ転写方向で存在し、約18-kb内に固まって配置されていることが明らかとなった。
 本研究によりリグニン中の難分解成分であるビフェニル構造をバニリン酸に分解する酵素系とその遺伝子を初めて明らかにするとともにその染色体上における位置関係を決定した。このことによりリグニンの中でも特に難分解なビフェニル構造の分解酵素系が分子レベルで明らかになった。これらの成果は有用物質生産を目指したリグニンの生化学的変換系の構築に向けて大きな意義を持つものと考えられる。

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