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Bacillus circulans WL-12由来キチナーゼの反応機構

氏名 松本 拓男
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第207号
学位授与の日付 平成12年3月24日
学位論文題目 Bacillus circulans WL-12由来キチナーゼの反応機構

論文審査委員
 主査 教授 曽田 邦嗣
 副査 教授 山田 良平
 副査 教授 森川 康
 副査 講師 政井 英司
 副査 助教授 野中 孝昌

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第1章 序論
1-1 キチナーゼ p.1
1-2 キチナーゼの分類 p.3
1-3 キチナーゼの阻害剤 p.7
1-4 Bacillus circulans 由来キチナーゼA1 p.9
1-5 ChiA1 の各ドメインの役割 p.11
1-5-1 触媒活性ドメイン p.11
1-5-2 フィブロネクチンタイプIII様ドメイン p.11
1-5-3 キチン吸着ドメイン p.12
1-6 キチナーゼにおける糖鎖分解メカニズム p.13
1-7 ChiA1 の反応機構 p.18
1-8 目的 p.20

第2章 CatD の構造解析
2-1 タンパク質の結晶化 p.21
2-1-1 結晶化方法 p.22
2-2-2 ChiA1 の結晶化 p.23
2-2-3 CatD の結晶化 p.24
2-3 回折強度データの測定 p.27
2-3-1 CatD の結晶学的 characterization p.29
2-3-2 標準母液の探索 p.30
2-4 構造解析 p.31
2-4-1 分子置換法による構造決定 p.31
2-4-2 位相の改良 p.33
2-5 活性ドメイン(CatD)の立体構造 p.37
2-5-1 精密化されたCatD の構造の評価 p.37
2-5-2 CatD の構造 p.42
2-5-3 活性中心の構造 p.45

第3章 CatD/阻害剤複合体の構造解析
3-1 阻害剤(基質類似体)複合体の構造解析 p.46
3-2 阻害剤複合体結晶の作製 p.47
3-3 データ収集及び結晶学的パラメータの決定 p.50
3-4 CatD/阻害剤複合体の構造決定 p.52
3-5 CatD/阻害剤複合体の構造 p.53
3-5-1 精密化されたCatD/阻害剤の構造の評価 p.53
3-5-2 全体構造 p.57
3-5-3 阻害剤の結合 p.59
3-5-4 活性中心付近の構造変化 p.60

第4章 E204Q/基質複合体の構造解析
4-1 基質複合体結晶の作製 p.62
4-2 回折強度データの収集及び結晶学的パラメータの決定 p.70
4-3 E204Q/基質複合体の構造決定 p.74
4-4 E204/基質複合体の構造 p.75
4-4-1 精密化されたE204Q/基質複合体の構造の評価 p.75
4-4-2 E204Q/8NAG と CatD の構造比較 p.78
4-4-3 基質の構造 p.79
4-4-4 基質の結合部位の構造変化 p.82
4-4-5 基質と酵素の間の水素結合 p.85
4-4-6 基質と酵素の間の疎水的相互作用 p.87
4-4-7 Phe312 p.88
4-4-8 CatD のサブサイト p.89

第5章 考察
5-1 CatD の反応機構 p.90
5-2 Asp202 の構造変化 p.94
5-3 類縁酵素との構造比較 p.98
5-3-1 Phe312 の考察 p.101
5-3-2 基質結合クレフトの芳香族アミノ酸残基 p.105
5-3-3 βドメインについての考察 p.106
5-4 基質への吸着様式 p.108

謝辞 p.112

参考文献 p.113

 キチナーゼは、N-アセチルグルコサミンがβ-1,4結合したホモポリマーであるキチンを、加水分解する酵素であり、様々な生物から見いだされている。キチンを構造多糖として持つ、真菌、昆虫、軟体動物などの生物において、キチナーゼはその成長に深く関与し、生存上欠かすことが出来ない。興味深いことに、キチナーゼは、キチンそのものは生産しない植物の様な生物でも見つかり、生体防御機構の一つとして働いている。また、微生物が生産するキチナーゼは自然界で多量に生産されるキチンを分解し、生態系の中で循環させるという一般的な役割を担っている。土壌中の、ある種のキチナーゼ生産菌は、キチンを含有する植物性病原菌を溶菌するため、その数を制御するという意味で農業への利用が考えられている。Bacillus circulans WL-12由来キチナーゼA1は、アミノ酸配列の比較から、糖鎖分解酵素一般の分類上のファミリー18に属する。キチナーゼA1は、強いキチン分解活性を有し、多量に生産されることから、この菌における主要なキチナーゼであると考えられている。
 本研究では、キチナーゼA1の触媒活性ドメイン(CatD)の立体構造を、X線結晶構造解析の手法を用いて明らかにするとともに、数種の阻害剤や基質との複合体結晶の構造についても解析を行った。これらの構造解析から得られた情報をもとに、キチナーゼの反応機構や、ファミリー18に属するキチナーゼの構造と機能の相関について考察を行った。
 第1章は序論であり、キチナーゼ一般の性質をまとめ、これまでに行われたキチナーゼA1についての実験結果、提唱されている反応機構の概要について述べた。
 第2章では、キチナーゼA1の部分構造CatD(触媒活性ドメインだけにした変異体酵素)の結晶化及び、結晶構造解析を行った結果をまとめた。X線回折強度データは、高エネルギー加速器研究機構において、1.13Å分解能という非常に高分解能での収集に成功した。既に立体構造解析が報告されている、Serratia marcescens由来キチナーゼAの座標をもとにした、分子置換法による結晶構造解析を試み、高分解能データを使って位相を拡張する事によって構造解析に成功した。高分解能のデータによる構造精密化が進むに連れて、電子密度図上で窒素、酸素、炭素の識別が可能となった。明らかにしたCatDの立体構造は、(α/β)8のTIMバレルと呼ばれる構造をとっていた。
 第3章では、CatDと阻害剤の複合体結晶を作製し、構造解析を行った結果をまとめた。ファミリー18のキチナーゼに特異的な阻害剤であるアロサミジン、デメチルアロサミジンとの複合体結晶の結晶化を行った。これらの結晶についても、非常に高分解能で(それぞれ1.35Å、1.1Å分解能)、良質の回折強度データの収集を行った。複合体結晶構造では、基質結合部位に阻害剤が結合している様子を明確にした。阻害剤は、大きな基質結合クレフト底部に結合していて、水素結合や芳香族アミノ酸残基による疎水的相互作用により結合していた。
 第4章では、CatDの必須の触媒活性残基と思われるGlu204をGlnに変異させた、触媒活性ドメインの変異体E204Qと、6種類の基質との複合体結晶の結晶化及び、それらの構造解析を行った結果をまとめた。得られた複合体結晶構造では、活性中心付近で、結合している基質分子の大きな構造変化が見られた。切断されると思われる、グルコシド結合の酸素と触媒活性残基に相当するGln204が水素結合を形成していたことから、立体構造からも、Gln204が触媒活性残基である可能性が示唆された。基質が結合することより、活性中心付近のAsp202に構造変化が見られ、反応に大きく関与していることが示唆された。基質結合クレフト内には芳香族アミノ酸が基質と並行に並び、基質の結合には、疎水的相互作用が重要であると思われる。基質結合クレフトの還元末端側にあるPhe312が、立体障害となり、反応生成物の長さを決定していると思われる。
 第5章では、構造解析から得られた情報をもとに、CatDの反応機構について考察を行った。本研究で得られたCatD酵素単独の構造と、複合体の構造比較から、反応機構についての検証を行い、CatDが近年提唱されたsubstrate assisted catalysisメカニズムによって反応が進む可能性が高いことを示唆した。また、酵素の性質を左右すると思われる、いくつかのアミノ酸残基に注目し、類縁酵素との一次構造や、三次構造の比較を行った。それにより、ファミリー18に属するキチナーゼにおける、exo型、endo型酵素の基質への吸様式の違いについて考察を行った。

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