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高温登熟条件が及ぼす水稲の品質低下要因解析と整粒歩合向上技術の確立

氏名 永畠 秀樹
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第327号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 高温登熟条件が及ぼす水稲の品質低下要因解析と整粒歩合向上技術の確立)
論文審査委員
 主査 教授 山元 皓二
 副査 教授 松野 孝一郎
 副査 教授 福本 一郎
 副査 助教授 高原 美規
 副査 新潟大学 農学部教授 福山 利範

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目次

第I章 緒論 p.1

第II章 高温登熟条件下における整粒歩合向上技術の確立
 第1節 緒言 p.11
 第2節 登熟期間の気象と品質の年次間変動 p.12
 第3節 水管理による乳白粒および胴割粒発生軽減技術の確立 p.21
 第4節 籾黄化率から推定した高温登熟時の刈取適期判定技術の確立 p.37
 第5節 中干しおよび緩効性肥料を用いた整粒歩合向上技術の確立 p.46
 第6節 見かけの草冠幅を利用したコシヒカリの中干し開始期判断板の開発 p.52
 第7節 草姿を利用したコシヒカリの幼穂形成期生育診断基準器の開発 p.60

第III章 新品種「ゆめみづほ」の育成と高品質安定生産技術の確立
 第1節 緒言 p.67
 第2節 新品種「ゆめみづほ」の育成と奨励品種採用 p.69
 第3節 「ゆめみづほ」の目標収量構成要素と育成指標 p.77

第IV章 高温登熟性検定法の確立と高温登熟性の評価
 第1節 緒言 p.87
 第2節 簡易ビニルハウスによる高温登熟性検定 p.88
 第3節 人工気象室による高温登熟性検定 p.99
 第4節 温度勾配ビニルハウスによる高温登熟性検定 p.102
 第5節 高温登熟性の基準品種の選定 p.115

第V章 登熟期間中の時期別高温が被害粒発生に及ぼす影響
 第1節 緒言 p.118
 第2節 白未熟粉発生に及ぼす高温時期の解明 p.119
 第3節 割れ籾発生に及ぼす高温時期の影響と斑点米発生との関係 p.131

第VI章 高温登熟条件が物質生産および食味関連形質に及ぼす影響
 第1節 緒言 p.135
 第2節 高温登熟条件下における乾物生産および窒素吸収量の品種間差異 p.136
 第3節 高温登熟条件下における食味関連形質の変動 p.145

第VII章 総合考察 p.160

謝辞 p.172

引用文献 p.173

 近年,温暖化や異常気象の影響による米の品質低下が全国的に問題となっている.良質米産地として知られる北陸地域においても品質の年次変動が大きく,農家経営や産米の流通評価に影響が及んでいる.今後予測される中長期的気象変動も,高温・低温,多照・寡照の間で振幅の幅を広げつつ,基調として温暖化に向かうと推測されている.一方,米政策改革大綱に基づく新たな米政策の展開により,前年の需要実績によって各産地の生産目標数量に傾斜配分が設定されることとなり,これまで以上の産地間競争が予測されることから,作柄の安定と品質の確保を図る必要があり,気象変動にも最大限対応しうる水稲生産技術の早急の対応が求められている.本研究は気象変動のうち,登熟期の高温条件が品質に与える影響を解析し,気象変動に対応しうる水稲生産技術の開発を栽培技術と品種育成の観点から検討したものである.
 まず,品質低下を軽減し整粒歩合を向上させる栽培技術の確立を行った.品質低下要因のうち,胚乳の全体および一部が白色不透明になる白未熟粒や玄米の胚乳部に亀裂を生じた胴割粒の発生には栽培環境と生理的及び遺伝的性質が関与しており,これまで,登熟期間の温度や日射条件,土壌水分等の環境条件と穎花数や稲体窒素濃度,根の機能等,作物側の条件の関与が報告されている.整粒歩合の向上には,気象変動の影響を受けにくい体質の稲体への誘導が前提となるため,本研究ではシンクとソースのバランスを維持する管理対策として登熟期間中の水管理と施肥管理について主に検討した.登熟期間の通水管理は,土中温度を下げ,稲体への水分ストレスを軽減し,成熟期の葉色や根の機能を高く維持する効果が認められた.また,溝切りや中干しは根の機能を維持するだけでなく適正なシンクとソースのバランスの稲への誘導に有効であると考えられた.肥培管理の点からは,緩効性肥料を用いることで登熟期の後半まで窒素栄養が維持され,乳白粒や胴割粒の発生軽減効果が現地試験からも明らかになった.また,高温登熟年では通常年の収穫適期である籾黄化率90%時の収穫では胴割粒の発生を防げないことが明らかとなったことから,出穂後日数(出穂後積算気温)と籾黄化率と籾水分および品質変化の関係を調査し,高温登熟年の収穫適期幅と現地生産圃場で生産者が簡便かつ客観的に刈取始期を判断できる指標を着粒位置別の籾黄化率より明らかにした.以上の管理の効果を生産者が生産圃場で効率的に実施するためのツールとして中干し開始期判定板や幼穂形成期の適正生育量を診断する判定板,刈り取り適期判定板を開発し,その実用性を認めた.
 次に気象変動下においても品質変動の少ない品種の育成技術の確立を行った.稲作期間中に猛暑やフェーンに遭遇しやすい北陸地域は「育種の場」として玄米品質に関して高温登熟性に優れる遺伝子型を必然的に選抜してきたことが指摘されているが,高品質米の安定生産への育種対応として,さらなる高温登熟性の付与は,重要な育種目標となる.高温登熟性に優れる品種の選抜過程で,基準となる品種の選定や検定方法を確立することは重要な課題であるが,安定して高温登熟性や品種の温度反応を評価できる検定法と検定条件や品種特有の温度反応についての研究は開始されたばかりである.本研究では高温登熟性の検定手法として,簡易ビニルハウスによる検定法,人工気象室による検定法,温度勾配ビニルハウス(TGC)による検定法について検討し,検定法の特徴と有効性,その適用場面について明らかにした.加えて,上記の検定法から高温登熟性の品種間差異を評価し,検定方法によって発生する白未熟粒の種類や発生程度が変動することを示し,品種の高温登熟性の評価には検定法の特徴や品種の特性を考慮した評価が必要であることを明らかにした.さらに,登熟期間の時期別の高温が品質に与える影響および品質低下の限界温度の品種間差異を明らかにすることで,さらなる検定の効率化の可能性を探った.また,良食味と良品質を両立させた品種育成を行うにあたり,高温登熟条件による外観品質の低下が食味関連形質へ与える影響について明らかにしておく必要があった.分析の結果,食味に関する選抜形質は,高温条件や外観品質低下の影響を受け,食味の低下要因となる可能性が示唆された.
 本研究は課題設定から生産現場への技術普及を意識して行ったものであり,栽培技術の効果を明らかにし,生産者のためのいくつかのツールを開発した.育種対応として玄米品質の選抜に新たな手法を提案し,さらなる育種の効率化を可能にした.本研究によって得られた結果は直接および間接的に産米の品質向上に寄与できるものと思われる.

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