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実構造・環境を考慮したガスタービン高温部材の長寿命化に関する基礎研究

氏名 関原 傑
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第234号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 実構造・環境を考慮したガスタービン高温部材の長寿命化に関する基礎研究
論文審査委員
 主査 教授 岡崎 正和
 副査 教授 宮田 保教
 副査 教授 栗田 政則
 副査 教授 福澤 康
 副査 教授 古口 日出男
 副査 助教授 南口 誠

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第1章 緒論 p.1
 1.1 背景 p.1
 1.2 従来の研究 p.7
 1.3 本研究の構成 p.9
 1.4 参考文献 p.15

I編 実機環境下における劣化と損傷加速 p.17

第2章 動翼用Ni基超合金一方向凝固材における高温酸化と疲労き裂進展の相互作用 p.17
 2.1 緒言 p.17
 2.2 クリープ疲労き裂進展試験 p.19
 2.3 結果および考察 p.23
 2.3.1 き裂進展速度と破壊力学パラメータの関係 p.23
 2.3.2 引張荷重保持による影響 p.31
 2.3.3 酸化層の成長観察 p.36
 2.3.4 考察 p.45
 2.4 結言 p.49
 2.5 参考文献 p.51

第3章 ロータディスク用CrMoV鋼におけるクリープ予ひずみ及び繰り返し予ひずみのクリープ,疲労き裂進展速度への影響 p.53
 3.1 緒言 p.53
 3.2 予損傷材の作製 p.54
 3.3 予損傷材におけるき裂進展 p.59
 3.3.1 クリープ予損傷材におけるクリープき裂の進展結果 p.59
 3.3.2 クリープ予損傷材における疲労き裂の進展結果 p.71
 3.3.3 疲労予損傷材における疲労き裂の進展結果 p.74
 3.4 結言 p.78
 3.5 参考文献 p.80

II編 実機複雑構造における損傷挙動 p.81

第4章 CrMoV鋳鋼のクリープき裂発生とそれに及ぼす予損傷
 ならびに応力緩和の影響 p.81
 4.1 緒言 p.81
 4.2 試験方法 p.82
 4.2.1 供試材と試験片形状 p.82
 4.2.2 試験方法 p.82
 4.3 試験および解析結果 p.85
 4.3.1 CT試験片を用いた試験結果 p.85
 4.3.2 環状切欠き試験片を用いた試験結果 p.85
 4.3.3 有限要素法を用いた解析結果 p.86
 4.4 結言 p.99
 4.5 参考文献 p.100

III編 実機長寿命化技術 p.101

第5章 残留応力制御による低サイクル疲労の長寿命化 p.101
 5.1 緒言 p.101
 5.2 残留応力の発生機構 p.103
 5.2.1 加工による残留応力 p.103
 5.2.2 ショットピーニングによる残留応力 p.103
 5.3 平均応力効果の調査による残留応力利用の有効性の検討 p.107
 5.3.1 試験方法 p.107
 5.3.2 試験結果 p.107
 5.4 ショットピーニングによる疲労強度の向上策 p.115
 5.4.1 試験方法 p.115
 5.4.2 試験結果 p.115
 5.5 結言 p.123
 5.6 参考文献 p.124

第6章 圧縮残留応力の分布の制御によるロータディスクの長寿命化と構造最適化 p.125
 6.1 緒言 p.125
 6.2 中心孔応力を低減する構造最適化 p.128
 6.3 アルミロータディスクをシミュレート部材として用いた試験 p.135
 6.3.1 試験方法 p.135
 6.3.2 試験結果 p.135
 6.4 結言 p.152
 6.5 参考文献 p.153

第7章 結論 p.154
 7.1 本研究の結論 p.154
 7.2 今後の展望 p.157

研究業績 p.158
 ・論文 p.158
 ・口頭発表 p.158
 ・関連論文 p.159
 ・特許 p.159

謝辞 p.160

 火力発電では,省エネルギ,環境保全を目的として,コンバインドサイクルが実用化され,主要な地位を占めつつある.本システムの高効率化のためには,ガスタービンの高温化は不可欠であり,また頻繁な起動停止など,運用の過酷化も進んでいる.一方で,電力の規制緩和により,タービン部品には高い信頼性と同時に経済性も要求されており,部品の劣化損傷を正確に予測する必要がある.
 本研究では,過酷な環境下において使用され,複雑な形状を有する実ガスタービン高温部材の寿命評価・管理・寿命延伸に関する技術の高度化を目的とし,高温酸化,およびクリープ予ひずみ,繰返し予ひずみなどによる機械的な劣化が,種々の形態の破壊におけるき裂進展に及ぼす影響について検討を行った.また実構造応力集中部を考慮し応力緩和挙動に伴う,き裂の発生挙動について検討を行った.さらに圧縮残留応力の付与,構造最適化による実機高温部材の長寿命化技術についても研究を行った.
 まず,動翼材である一方向凝固Ni基超合金を用いて,大気中におけるき裂進展挙動の温度依存性と凝固組織依存性,さらに実機高温環境下における酸化層の成長が,き裂進展へ及ぼす影響について検討を行った.き裂の発生と成長挙動は,凝固組織により配置の異なるデンドライト構造に影響を受けやすいため,45°,90°方向材はほぼ同等の挙動を示すのに対して,0°方向材は両材よりもき裂の発生寿命が長くなる傾向にあった,一方クリープおよび酸化の影響が支配的となる860℃ではき裂の進展速度は同等であるものの,600℃では遅くなる傾向にあった.また860℃でのクリープ疲労き裂進展試験において,き裂の進展速度が一旦低下する挙動が観察されたが,これはき裂表面および先端での成長酸化層により体積膨張が生じ,周囲の母材に拘束されることで,圧縮応力が発生したためであるとのメカニズムの提案を行った.
 次にロータ材であるCrMoV鋼を用いて,長期運用にともなうクリープ損傷,および起動・停止に伴う熱疲労損傷などの機械的な損傷を対象とし,クリープ損傷はクリープ予ひずみで,また疲労損傷は繰り返し予ひずみで代表されると考え,各損傷がクリープき裂進展挙動および疲労き裂進展挙動へ及ぼす影響について,実験的な検討を行った.クリープ予損傷により,クリープき裂進展速度は未損傷材に対して加速され,特に10%程度の過大な予ひずみの付与により5倍程度加速されること,およびクリープ予損傷がクリープき裂進展速度を加速するメカニズムには,クリープボイドが大きな役割を果たしていることを明らかとした.同様にクリープおよび疲労予損傷により,疲労き裂進展速度は未損傷材に対して加速され,特に10%程度の過大なクリープ予ひずみの付与により,20倍程度加速されることを明らかにした.さらに,これらの挙動を統一的に把握できる力学的パラメータについて検討を行い,C*,ΔJなどのパラメータの適用により材料の変化を反映させた統一的な寿命評価・管理が可能となることを示した.
 またケーシング材であるCrMoV鋳鋼を対象とし,損傷材および未損傷材を用いて,クリープき裂の発生挙動に及ぼす応力集中と応力緩和の影響について,実験と解析により検討を行った.損傷材は未損傷材よりも,同じ時間に対して荷重線変位が増加する挙動が観察され,長期運用材のクリープ損傷の評価に当たっては,損傷の影響を考慮したクリープ構成則を用いた評価が重要であることを明らかとした.またクリープひずみの増加に伴う応力緩和により,切欠き底断面における応力が再配分されて最大主応力発生位置が移動することで,クリープき裂が応力集中部表面ではなく内部に発生する可能性がある事を明らかにした.
 さらにタービン高温部材であるNi基鍛造材を対象とし,疲労強度に対する平均応力の効果を検討するとともに,ショットピーニング施工による疲労およびクリープ疲労寿命の延伸効果について検討を行った.平均応力が低いほど疲労寿命は長寿命化の傾向にあるものの,圧縮側での逆降伏により平均応力の低減には限界があることを明らかとした.さらにショットピーニングの施工により,長寿命化効果は1.2倍から2倍程度であることを明らかとした.一方で,最大引張荷重保持を伴うクリープ疲労寿命は,低サイクル疲労寿命に対して1/10まで低下したものの,ショットピーニングの施工により,き裂が進展する引張保持時のピーク応力の低減,表面での圧縮応力によるき裂開口抑制等により,2/10~3/10まで回復を図ることが可能であった.したがって,実機の長寿命化には圧縮平均応力を付与することが効果的であることを明らかとした.またショットピーニングの施工および保持の有無に関わらず,き裂長さと寿命比の関係はほぼ一本の狭いバンド内に集まったことから,本評価手法は実機寿命管理に有効であることを明らかとした.
 以上の知見を受け,実機ロータディスクの脆性破壊強度と疲労寿命の向上を目的とし,過回転による中心孔への圧縮残留応力の付与に最適なロータディスク構造の開発を行い,アルミニウム製ロータディスクを用いた過回転試験と弾塑性有限要素解析による検証を行った.まず中心孔での最大応力値を低減するために最適なロータディスク構造は,中心孔での肉厚が減少した逆テーパ構造であることを明らかとした.本構造の適用により,断面積が増加されることで中心孔中央での応力値が低減されるとともに,逆に断面積と連動して増加した遠心力が中心孔両端に分散され,中心孔表面の応力分布が均一化されることにより,過回転による圧縮残留応力が均一に付与されると予測された.そこでアルミニウム製ロータディスクを用いた過回転試験および弾塑性有限要素解析を行い,最適構造の応力低減効果ならびに応力均一化効果について実験的に評価を行った.中心孔での残留応力の値および残留変形の値は,過回転試験により測定した値と良く一致したことから,逆テーパ構造が圧縮残留応力を最も効果的に付与できる構造であることを明らかとした.

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