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DNA解析技術を利用した水稲品種育成法および水稲品種判別法の開発

氏名 橋本 憲明
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第328号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 DNA解析を利用した水稲品種育成法および水稲品種判別法の開発
論文審査委員
 主査 教授 山元 皓二
 副査 教授 松野 孝一郎
 副査 教授 福本 一郎
 副査 助教授 高原 美規
 副査 農業・生物系特定産業技術研究機構中央 農業総合研究センター北陸研究センター 上席研究官 芦川 育夫

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第1章 緒言 p.3
 日本における稲栽培と育種の歴史 p.3
 形質調査による選抜の問題点 p.3
 DNAマーカー選抜による水稲品種育成 p.4
 DNAマーカー開発の現状 p.5
 水稲の品種判別 p.5
 水稲品種の作付状況とDNA分析による品種判別の可能性 p.7
 DNA分析を利用した水稲の品種判別の変遷 p.7
 本論の目的と構成 p.9

第2章 いもち病真性抵抗性遺伝子Pizの探索および選抜用マーカーの開発 p.11
 第1節 新潟早生とコシヒカリで多型を示すRFLPマーカーの探索 p.12
 第2節 コシヒカリ/新潟早生F2集団によるPizの座乗位置の推定 p.19
 第3節 Pizに連鎖するSNPマーカーの開発 p.25
 第4節 結論 p.28

第3章 Pizに連鎖するSNPマーカーの育種利用 p.31
 第1節 コシヒカリ/新潟早生//コシヒカリ(B1F1)集団の分析 p.32
 第2節 コシヒカリ/新潟早生//×2コシヒカリ(B2F1)集団の分析 p.37
 第3節 結論 p.40

第4章 PCR法を利用した新潟県内で栽培・流通する水稲品種の判別 p.44
 第1節 コメ判別用PCRキットを利用した品種判別 p.45
 第2節 ランダムプライマーを利用した品種判別 p.48
 第3節 コシヒカリと他品種の混米の分析 p.53
 第4節 結論 p.57

第5章 PCR法を利用したイネ葯培養材料のF1検定 p.61
 第1節 F1検定用プライマーの探索 p.62
 第2節 交配個体の分析 p.67
 第3節 結論 p.74

第6章 総合考察 p.76
 第1節 DNAマーカー選抜によるPiz保有系統の育成 p.77
 第2節 DNAマーカーによる水稲品種の判別 p.79
 第3節 新潟県内におけるDNA分析技術の開発 p.82

摘要 p.85
謝辞 p.88
引用文献 p.89

 近年,米の生産量は消費量を上回る状態が続いているため,米の産地間の競争が激化している。また,米に対する消費者ニーズは多様化しており,新潟県が産地間競争に今後も勝ち続けるために,他県に先んじてニーズに合ったより良い品種を早急に育成することが求められている。イネ育種において,育成初期の個体選抜を確実に行うことは育成年限を短縮する上で非常に重要なことである。また,育成後の品種のブランドを保ち続けるためには,品質管理を徹底する必要がある。そこで,DNA分析技術を利用したいもち病抵抗性品種の早期選抜技術の開発および,米の不正表示の防止を目的とした米品種の判別方法の開発を行った。
 イネいもち病真性抵抗性遺伝子Piz選抜用マーカーを開発するために,イネの第6染色体にあるRFLPマーカーとの組換え価を求めてPizの座乗位置の推定を試みた。その結果,Pizは第6染色体の58.7cMの位置に座乗することが明らかになった。
 次に,育種技術として利用することができる簡易で確実な選抜方法を開発するために,Pizの近傍に存在する1塩基多型(SNP)を基にPCRベースの選抜用マーカーの作成を行った。その結果,Pizの極近くにマーカーを構築することができ,それらのマーカーを利用することにより,Piz保有個体の選抜を確実に行える基盤を作ることができた。
 さらに,開発したSNPマーカーが実際の育種技術として利用できることを実証するために,コシヒカリと新潟早生の戻し交雑集団から,新潟早生由来のPizを持つ個体を選抜した。その結果,従来の検定方法で問題となっていた選抜ミスを生じない,きわめて精度の高い方法であることが示された。また,約200個体を2日間で検定することができ,多くの個体を短期間で検定することが求められる育種技術として利用可能なことが実証できた。
 本法はいもち病抵抗性個体の選抜ミスの回避や育種年限の短縮を可能にする技術であり,今後はPiz以外のいもち病真性抵抗性遺伝子などの選抜用マーカー開発を用いた品種育成技術へと発展させることができる。
 平成14年度にJAS法が改正され,米の品種,産地,産年の表示が義務化されたが,依然として不正表示が行われていると言われている。新潟県においても県内産コシヒカリが不正表示のターゲットとなっていると言われているが,その実体は明らかでない。
 そこで,不正表示を防止し,新潟県産米のブランドを維持するために,県内で栽培,流通する主な16品種について,PCR法を利用した簡易で確実な判別方法の確立を目的として実験を行った。その結果,供試した16品種については,どの組合せでも判別できる技術として確立することができた。
 また,コシヒカリは市場で最も高値で取引されているために,他品種を混ぜコシヒカリ100%と偽って販売されることが考えられる。このようなケースを想定し,コシヒカリに他品種を混ぜた試料を作成し,他品種の割合が何%以上になると検出することが可能か調査した。その結果,他品種を10%以上混ぜると混米として検出可能なことが明らかになった。
 さらに,本法は玄米や白米だけでなく,稲体の判別も可能なことから,育種における交配親の確認にも利用できると考えた。新潟県では水稲の交配育種にF1の葯培養を利用している。培養材料のF1は人工交配により作出しているが,交配種子に若干の母本の自殖種子が混入する場合があった。これら自殖個体を除くために,平成15,16年度に葯培養に供試した9交配組合せ103個体のF1検定をPCR法による品種判別技術を応用して行った。その結果,全ての個体を判定することができ,交配親確認の技術として利用できることが分かった。
 以上のように,本論文の研究により,(1)品種判別技術を応用した交配親の確認(F1検定),(2)マーカー選抜による育種初期段階での個体選抜,(3)品種判別技術を利用した育成品種の管理,などイネの育種や品種管理全体においてDNA分析技術が利用できるようになった。
 今後は新潟県の主力品種こしいぶきのいもち病真性抵抗性準同質遺伝子系統群の育成に本論文で開発したマーカー選抜技術を利用し,育種年限の短縮を図る。また,本論文の品種判別技術を応用して,平成17年度から作付が始まるコシヒカリマルチライン(コシヒカリにいもち病真性抵抗性遺伝子を付与した系統群)の判別技術を開発する。このことにより,新潟県産コシヒカリと他県産コシヒカリの判別が可能になり,新潟県産コシヒカリをターゲットとした不正表示を防止することができる。

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