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製品リスク評価手法と傷害情報システム改善の統合的アプローチ-傷害情報高度利用のための社会技術-

氏名 張 坤
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第608号
学位授与の日付 平成24年3月26日
学位論文題目 製品リスク評価手法と傷害情報システム改善の統合的アプローチ-傷害情報高度利用のための社会技術-
論文審査委員
 主査 教授 三上 喜貴
 副査 教授 淺井 達雄
 副査 教授 門脇 敏
 副査 教授 福田 隆文
 副査 准教授 木村 哲也
 副査 准教授 岡本 満喜子

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目次
1章 序論 p.1
 1.1 研究背景 p.1
 1.2 先行研究 p.4
 1.3 研究目的 p.5
 1.4 論文の構成 p.4
2章 総合的アプローチの考え方 p.8
 2.1 社会技術とは p.8
 2.2 製品安全分野での動き p.9
 2.2.1 1960年代から1970年代までの動き p.9
 2.2.2 1980年代から1990年代までの動き p.10
 2.2.3 2000年以降最近までの動き p.11
 2.3 製品安全の考え方の日米欧の比較 p.13
 2.3.1 日本の消費生活用製品安全法 p.13
 2.3.2 米国の消費者製品安全法 p.16
 2.3.3 欧州の一般製品安全指令 p.18
 2.3.4 法令の観点からみる製品安全の考え方 p.24
 2.4 本論文で提案する考え方の意義と特徴 p.26
3章 傷害情報システムの現状及び改善案 p.29
 3.1 傷害情報システムとその社会的機能 p.29
 3.1.1 社会の「痛覚」としての傷害情報システム p.29
 3.1.2 狭義及び広義の傷害情報システム p.30
 3.1.3 傷害情報システムの二つの機能 p.31
 3.2 傷害情報システムの現状 p.33
 3.2.1 日米欧における代表的な傷害情報システム p.33
 3.2.2 日本のその他の傷害情報システム p.38
 3.3 傷害情報システムへの提案 p.40
 3.3.1 傷害情報記述の枠組み p.40
 3.3.2 傷害情報の標準記述語彙リスト(集合) p.43
 3.4 提案枠組みに基づく現状再整理 p.47
 3.4.1 日米欧の比較 p.47
 3.4.2 国内の各種システムの比較 p.50
4章 製品リスク評価手法 p.53
 4.1 リスク評価とは p.53
 4.2 リスク評価手法の例 p.54
 4.2.1 IEC61508-5の例 p.54
 4.2.2 米国MIL-Std-882.cの例 p.57
 4.2.3 欧州のRAPEXガイドラインの例 p.57
 4.2.4 日本R-Mapの例 p.60
 4.3 傷害情報システムに基づく製品リスク評価手法の提案 p.63
 4.3.1 製品リスク評価手法のプロセス p.63
 4.3.2 多次元ハザード・マトリックスの作成 p.66
 4.3.3 リスク・マトリックスの作成 p.67
 4.3.4 リスク評価 p.69
5章 応用分析事例と評価 p.71
 5.1 五要素法に基づく仮想的傷害情報データの作成 p.71
 5.1.1 事故データの選定 p.71
 5.1.2 データの編集 p.72
 5.2 リスク評価用マトリックスの作成 p.74
 5.2.1 ハザード・マトリックスの作成 p.74
 5.2.2 リスク・マトリックスの作成 p.75
 5.3 傷害情報高度利用の実例 p.80
 5.3.1 子供の製品事故の分析 p.80
 5.3.2 ストーブ事故の日米比較分析 p.85
 5.3.3 五要素法の利点を活かした多次元リスク分析 p.87
 5.3.4 危険パターンをツリー図に展開 p.89
6章 結論 p.93
 6.1 なぜ統合アプローチが求められるのか p.93
 6.2 統合的アプローチの内容 p.94
 6.3 統合的アプローチの効果 p.95
参考文献 p.97
 本研究に関連した発表論文 p.100
 I 学会論文 p.100
 II 国際会議 p.100
謝辞 p.101
付録 p.102
 付録A 危険源リスト p.102
 A-1 RAPEXの危険源リスト p.102
 A-2 ISO14121の危険源リスト p.104
 A-3 ISO/IEC50の危険源リスト p.108
 付録B 傷害タイプリスト p.109
 付録C メカニズムリスト p.110
 付録D 実験用ハザード・マトリックス p.113
 D-1 子供の製品事故-1(子供の為に設計された世界) p.113
 D-2 子供の製品事故-2(大人の為に設計された世界) p.113
 D-3 日本NITEストーブ事故(2008年度) p.114
 D-4 米国NEISSストーブ事故(2008年度) p.114
 付録E 実験用リスクアナリシス表 p.115
 E-1 子供の製品事故-1(子供の為に設計された世界) p.115
 E-2 子供の製品事故-2(大人の為に設計された世界) p.116
 E-3 ストーブ事故(日本NITE) p.117
 付録F 2009年度以降ストーブ事故に応じる対策の事例 p.117

本研究の目的は、傷害情報システムが収集・提供すべき傷害情報の内容や分類体系の改善方法及びこれを用いた製品リスク評価手法を一体的に提案し、これが政策当局者や製品設計者など多数の利用者に有益な知見をもたらすものであることを示すこと。
本論文は6章より構成されている。
1章では、本研究を行うに至った背景、目的に加え、本研究と関連のある先行研究の例について述べる。
2章では,歴史的な視点から製品安全に関する制度と技術の変化を整理し、制度と技術を組み合わせた統合的アプローチが必要とされるに至った背景について考察した。国内外における社会技術の在り方を論じ、本論文で提案する製品リスク評価手法と傷害情報システム改善の統合的アプローチに関連する製品安全分野の歴史や法的な製品安全の考え方を整理した。こうした内外の歴史的経過を比較する中で明らかになったことは、日本でも自主管理型の製品安全確保の方向に向かって消費者、事業者及び政府の三者が協力していくことが必要な時代となったことであり、本研究の狙いとするところが文字通り社会求める方向であることを確認できたことである。特に政府においては、事故の再発防止だけを重視することでは不十分であり、事業者による事故の未然防止努力を如何に支援するか、消費者の安全教育を如何に支援するかといった視点から政策を考える必要がある。そのような観点から傷害情報システムのあり方を大きく改善する必要があり、一方、事業者は自主管理型システムにおける安全な製品の設計と言う責任を果たすために製品のリスクアセスメント技術を高度化する必要がある。こうしたふたつの改善課題を統合的に提案したものが本論文の提案する「統合的アプローチ」である。制度と技術を組み合わせて社会問題を解決するという意味で、このアプローチを「社会技術」と捉えた。
3章では,人間が痛覚を感じる痛覚神経系の仕組みになぞらえて傷害情報システムの枠組みを論じ、両者のアナロジーを通じて、傷害情報システムとしては「痛み」を感知・伝達する機能と、危険源からの回避行動を学習する機能という二段階の機能を持つべきことを示した。この二つ機能を向上させるため、社会システム中の当事者たちの役割を論じるとともに、内外の傷害情報システムの現状の調査と比較を行った。日本の傷害情報システムに関して最も重要と思わられる問題点は、その情報内容記述形式が自由記述方式であることにより、蓄積したデータの効果的利用が不可能であることであった。それは一面で長所でもあることは本文でも述べたが、豊富な情報を組織的、分析的に取り出すためには適切な事故記述枠組と記述のための語彙リストが不可欠である。解決方法として、本論文では五要素法による事故記述方式を提案し、また国際標準に基づく具体的な語彙リスト(集合)も提案した。
4章では,製品分野における既存リスク評価手法を考察した上で、3章で提案した新しい傷害情報を用いた製品リスク評価手法を提案した。本提案の柱となるのは、危険源同定用ツールとしての多次元ハザード・マトリックス及びリスク見積もり用ツールとしてのリスク・マトリックスである。多次元ハザード・マトリックスの特徴としては、五要素法(ホスト、ベクター、エージェント、傷害環境、傷害結果)により記述収集された各情報要素を最大限に活用できる機能を持つことである。利用者にとって、それぞれの立場から情報分析を行うことができ、特に、設計者にとって、想定されたリスクシナリオの範囲を拡張することができる。また、リスク・マトリックスの特徴としては、最も捕捉率の高い統計である人口動態統計とのクロスチェックにより一次情報源(本論文においてはNITE IDBなど)の捕捉率推計を行い、リスクの発生頻度の推計方法をより客観的な根拠の基に確立したことである。
5章では、日本の子供の製品事故データおよび日米のストーブ事故データから3章の提案に基づいて仮想的なデータを構築し、4章の提案により傷害情報の高度利用がどのように達成されたか検討を行った。結果としては、客観的な事故発生頻度の推計五要素法に基づく収集データを利用し、多次元ハザード・マトリックス分析により製品設計者、消費者教育の当事者、規制当局者などが、それぞれの立場からより有益な知見を得ることが確認された。
6章では、本研究のまとめと今後の課題について述べる。
本論文で得られた成果は傷害情報システム改善に関する制度上の提案と製品リスク評価に関する技術上の提案を統合的に行ったものであり、これが実際に社会において実装されることにより、製品設計者、政策当局者などにとって有益な結果が得られる。

本論文は、「製品リスク評価手法と傷害情報システム改善の統合的アプローチ-傷害情報高度利用のための社会技術-」と題し、6章より構成されている。
第1章「序論」では、研究背景、先行研究について述べるとともに、研究目的と本論文の構成が示される。
第2章「総合的アプローチの考え方」では、本論文の特色である「社会技術」の概念を明らかにするとともに、内外における製品安全政策、製品安全技術の歴史的変遷の足取りを概観しつつ、なぜ現在の日本において本論文の提案する統合的アプローチが必要とされるのかについて論じる。
第3章「傷害情報システムの現状及び改善案」では、日米欧の製品事故に関する傷害データベースの現状について詳述するとともに、現行データベースの長所・短所の分析やISO,WHO等の関連国際規格・基準の分析を通じて、傷害情報の記述枠組みに関する改善提案としての五要素法とそれぞれの要素の属性項目の体系及び各属性項目記述のための標準語彙リスト(集合)が示される。また、この改善提案が日本において十分実現可能であることが、提案枠組に基づく現行データベースの再構成を通じて示される。
第4章「製品リスク評価手法」では、現在内外で利用されている主要な製品リスク評価手法について紹介するとともに、第3章で提案した傷害情報システムの有する豊富な内容を十分に活用するための多次元リスク評価手法、特に多次元ハザード・マトリックスの作成方法や製品事故発生確率の推計方法が詳細に述べられる。
第5章「応用分析事例」では、日米の傷害情報データベースから抽出された子供の事故及びストーブ事故を検証用データとして取り上げ、これを第3章の提案に基づく情報記述枠組によって再編成した仮想的傷害情報データベースが作成され、このデータベースと第4章の提案に基づきハザード・マトリックス及びリスク・マトリックスが作成される。そして、本論文の提案する手法により製品設計者や政策当局者にとって有益な情報が抽出されることが示される。
第6章「結論」では、本論文の成果とその意義について総括する。
2007年における消費生活用製品安全法改正による重大事故報告の義務化、2008年における消費者庁の設置や国内の事故データベースの統合など、近年の日本では、消費者にとって安全安心な社会を構築するために、政府部内においても産業界においても、傷害情報を有効に活用すべきという期待が急速に高まっている。本論文はこうした社会の期待に応える具体性のある提案を行っている。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

平成23(2011)年度博士論文題名一覧

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