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通電加熱法による酸化タングステンナノ結晶膜の作製とフォトクロミック特性に関する研究

氏名 萩沢 巧
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第612号
学位授与の日付 平成24年3月26日
学位論文題目 通電加熱法による酸化タングステンナノ結晶膜の作製とフォトクロミック特性に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 高田 雅介
 副査 教授 末松 久幸
 副査 准教授 中山 忠親
 副査 准教授 加藤 有行
 副査 准教授 岡元 智一郎

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目次
第1章 緒言 p.1
 1.1 研究の背景 p.1
 1.2 酸化タングステンの用途 p.1
 1.3 酸化タングステンの基本物性 p.2
 1.4 酸化タングステンの研究動向 p.4
 1.5 フォトクロミック現象 p.4
 1.5.1 フォトクロミック現象 p.4
 1.5.2 酸化タングステンのフォトクロミック現象 p.4
 1.6 断熱窓の開発 p.6
 1.6.1 断熱材開発の背景 p.6
 1.6.2 一般住宅における熱の移動 p.7
 1.6.3 断熱窓の種類 p.8
 1.7 通電加熱法による結晶成長 p.9
 1.7.1 結晶成長 p.9
 1.7.2 酸化亜鉛セラミックス線材の通電加熱による酸化亜鉛結晶の成長 p.9
 1.7.3 基板上への酸化亜鉛結晶の成長 p.11
 1.7.4 亜鉛線材の通電加熱による酸化亜鉛結晶の成長 p.11
 1.7.5 アルミニウム線材の通電加熱による繊維状窒化アルミニウムの成長 p.12
 1.8 本研究の目的と構成 p.13
 参考文献 p.14
第2章 通電加熱法による参加タングステン結晶の粒径制御~印加電圧を一定とした場合~ p.17
 2.1 はじめに p.17
 2.2 実験方法 p.18
 2.2.1 通電方法 p.18
 2.2.2 電気特性 p.19
 2.2.3 通電時の様子 p.19
 2.2.4 基板上の膜の観察 p.19
 2.2.5 膜を構成する粒子の粒度分布 p.19
 2.2.6 基板上の膜の断面観察 p.19
 2.2.7 X線回折測定による生成相の同定 p.19
 2.2.8 フォトクロミック特性の評価 p.20
 2.3 結果と考察 p.22
 2.3.1 電気特性 p.22
 2.3.2 通電時の様子 p.23
 2.3.3 基板上の膜の観察 p.24
 2.3.4 膜を構成する粒子の粒度分布 p.28
 2.3.5 基板上の膜の断面観察 p.30
 2.3.6 膜の生成相の同定 p.31
 2.3.7 煙が発生するメカニズム p.34
 2.3.8 フォトクロミック特性 p.38
 2.4 まとめ p.48
 参考文献 p.49

第3章 通電加熱法による酸化タングステン結晶の粒径制御~印加電圧の上昇速度を変化させた場合~ p.51
 3.1 はじめに p.51
 3.2 実験方法 p.52
 3.2.1 通電方法 p.52
 3.2.2 電気特性 p.53
 3.2.3 通電時の様子 p.53
 3.2.4 通電後のタングステン線材表面の観察 p.53
 3.2.5 基板上の膜の観察 p.53
 3.2.6 基板上の膜の質量測定 p.53
 3.2.7 基板上の膜の膜厚測定 p.54
 3.2.8 X線回折測定による生成相の同定 p.56
 3.2.9 フォトクロミック特性の評価 p.56
 3.3 結果と考察 p.57
 3.3.1 電気特性 p.57
 3.3.2 通電時の様子 p.60
 3.3.3 通電後のタングステン線材表面の観察 p.65
 3.3.4 基板上の膜の観察 p.67
 3.3.5 基板上の膜の質量測定 p.71
 3.3.6 基板上の膜の膜厚測定 p.72
 3.3.7 X線回折測定による生成相の同定 p.73
 3.3.8 フォトクロミック特性 p.74
 3.4 まとめ p.79
 参考文献 p.80
第4章 膜の形状に与える線材-基板間距離の効果 p.81
 4.1 はじめに p.81
 4.2 実験方法 p.82
 4.2.1 通電方法 p.82
 4.2.2 基板上の膜の観察 p.82
 4.2.3 膜を構成する粒子の粒度分布 p.82
 4.2.4 フォトクロミック特性 p.82
 4.3 p.83
 4.3.1 基板上の膜の観察 p.83
 4.3.2 膜を構成する粒子の粒度分布 p.88
 4.3.3 フォトクロミック特性 p.90
 4.4 まとめ p.102
 参考文献 p.103
第5章 減圧下での通電加熱法による膜厚の均一化 p.105
 5.1 はじめに p.105
 5.2 実験方法 p.106
 5.2.1 通電方法 p.106
 5.2.2 基板上の膜の観察 p.107
 5.2.3 膜厚分布の評価 p.107
 5.2.4 膜を構成する粒子の観察 p.107
 5.2.5 フォトクロミック特性の評価 p.107
 5.3 結果と考察 p.108
 5.3.1 基板上の膜の観察 p.108
 5.3.2 膜厚分布 p.110
 5.3.3 膜を構成する粒子の微細構造 p.111
 5.3.4 膜の全光線、直線、拡散透過率 p.112
 5.3.5 フォトクロミック特性 p.113
 5.4 まとめ p.116
 参考文献 p.117
第6章 酸化タングステン膜の断熱窓としての応用の検討 p.119
 6.1 はじめに p.119
 6.2 可視光透過率の向上 p.120
 6.2.1 実験方法 p.120
 6.2.1.1 酸化タングステン膜への樹脂の塗布 p.120
 6.2.1.2 フォトクロミック特性の評価 p.120
 6.2.2 結果と考察 p.121
 6.2.2.1 樹脂の塗布した酸化タングステン膜の観察 p.121
 6.2.2.2 フォトクロミック特性の評価 p.123
 6.3 断熱窓としての応用の検討 p.126
 6.4 まとめ p.127
 参考文献 p.128
第7章 総括 p.129
研究業績 p.133

謝辞

酸化タングステンは、紫外光照射により青色に着色するフォトクロミック現象を示すことから機能性光学材料として注目されている。本材料の粒子や膜はCVD、水熱合成、スパッタリング法など様々な手法により合成されている。筆者が所属する研究室で独自に開発された結晶合成法である通電加熱法は、セラミックスや金属線材に電流を流すだけで、酸化物や窒化物の様々な形態のナノ結晶を合成できる。本手法により合成された結晶からは、その形態やサイズ由来と考えられる特徴的な物性が発現される。
本研究では、タングステン線材の通電加熱により、ガラス基板上に酸化タングステンナノ結晶膜を作製した。作製した膜を機能性光学材料として応用するためには、その光学特性と通電条件の関連を詳細に調査することが工学上極めて重要であると捉え、電圧の印加方法や雰囲気制御などを行いながら膜を作製し、光学特性との関連を調査した。更に本研究では、断熱窓としての応用を検討した。
第1章「緒言」では、酸化タングステンの基礎物性ならびに研究動向を説明し、本研究の目的と構成を述べた。
第2章「通電加熱法による酸化タングステン結晶の粒径制御 ~印加電圧を一定とした場合~」では、線材に印加する電圧を一定として膜を作製し、膜の微細構造やフォトクロミック特性を調査した。タングステン線材に電圧を印加すると、線材は白熱し、煙が発生した。煙は線材上方に配置したガラス基板へと到達し、基板上に膜が堆積した。膜の線材直上に当たる部分には球状粒子(粒径 約100~1000 nm)が堆積し、その外側には八面体粒子(約100~300 nm)が堆積していた。X線による結晶相の調査の結果、市販の酸化タングステンはP21/n相のみであったが、本研究で得られた粒子にはP21/nおよびPc相が存在することがわかった。紫外光照射による膜の光吸収は、可視域よりも近赤外域(ピーク波長1300~2080 nm)において顕著であるという工学上重要な知見を得た。近赤外域における吸収(ピーク波長 1180 nm)は、5価と6価とのタングステン間で電子遷移が起こることによるものと報告されている。両者の吸収のピーク波長が異なったことについて、本研究により得られた粒子に存在するPc相が関与していることが示唆された。以上のことから、本材料をフォトクロミック材料として工業的に応用するためには、通電条件による粒径制御が極めて重要であることを明らかにした。
第3章「通電加熱法による酸化タングステン結晶の粒径制御 ~印加電圧の上昇速度を変化させた場合~」では、線材に電圧を上昇させながら印加し、その上昇速度が、得られた膜の微細構造に与える影響を調査した。電圧の上昇と伴に煙の幅は大きくなり、基板を覆う膜も拡がった。電圧上昇速度が減少する程、粒子径は約1 μmから数十 nmまで小さくなった。また、膜は、八面体および球状粒子の混在したものであった。

煙の発生については、通電加熱によって発生するジュール熱に伴う線材表面に生成した酸化タングステンの平衡蒸気圧の観点から考察した。粒子径の減少については、線材に投入される電力の減少に伴う、線材の温度の低下の観点から考察した。
第4章「膜の形状に与える線材-基板間距離の効果」では、線材-基板間距離を変えることにより、球状および八面体粒子が堆積している領域の面積を制御することを試みた。距離を1.0 cmから2.0 cmとすることにより球状粒子が堆積する部分は広がることがわかった。しかし3.0 cm以上にすると膜の形状は乱れ、球状および八面体粒子が混在するようになった。粒径の線材-基板間距離依存性を調査したところ、距離1.0 cmにおいて粒径は極大(約800 nm)を示した。
 粒子は、線材表面の酸化タングステンが昇華することにより発生したガスが凝集し、線材-基板間で成長したものと考えられる。このため、距離を長くすることにより基板上に得られた粒子の平均粒径が増加したものと推察した。しかし、更に距離を長くすると、大きく成長した粒子は重力の増加によって基板へと到達できなくなるため、基板上に得られた粒子の平均粒径が減少した可能性がある。第2章および本章において得られた結果から、紫外光照射による近赤外域の光吸収と粒径の逆数との間には直線関係があることを見出した。
第5章「減圧下での通電加熱法による膜厚の均一化」では、膜として応用するために課題となっていた、空気の対流により生じると考えられる膜厚分布を無くすために、減圧下で膜を作製し、膜厚分布を評価した。通電加熱時の雰囲気の圧力を減少させると、酸化タングステン粒子の平均自由行程の増加を反映して、線材に対して垂直方向のみに膜が長く帯状に堆積した。膜の断面観察を行うことによって膜厚分布を調査した結果、減圧する程、膜厚は均一になっていることがわかった。10 kPaで作製した膜は、紫外光照射によって可視域よりも近赤外域において顕著な光吸収を示した。しかし、1 kPaで9回堆積させた膜は、フォトクロミック現象を示さなかった。この膜の透過スペクトルが報告されているWO2.72のものと同様であることから、減圧によって膜に酸素欠損が生じたため、4価のタングステンの数が多くなりフォトクロミック現象を示さなかったものと考察した。
第6章「酸化タングステン膜の断熱窓としての応用の検討」では、通電加熱法により作製した酸化タングステン膜の断熱窓としての応用を検討した。膜は粒子で構成されており、可視光を散乱してしまう問題があった。膜に樹脂を塗布したところ、光の散乱が抑えられた。膜のフォトクロミック特性と太陽光スペクトルとを比較し、膜によって太陽光の近赤外線、すなわち熱線が吸収されることを示した。そして、2枚のガラスの間に、真空の中間層を設けた複層ガラスと組み合わせることによって、太陽光の熱線を吸収する断熱窓として応用できることを述べた。
膜への樹脂の塗布により光散乱が抑えられたのは、酸化タングステン粒子を取り囲む媒質が空気から、空気よりも屈折率が高い樹脂に変わることにより、粒子表面での反射が抑えられたことに起因すると考察した。
第7章「総括」では、本研究で得られた研究成果を要約し、本論文の結論とした。

本論文は「通電加熱法による酸化タングステンナノ結晶膜の作製とフォトクロミック特性に関する研究」と題し、7章より構成されている。
第1章「緒言」では、酸化タングステンの基礎物性ならびに研究動向を説明し、本研究の目的と構成が述べられている。
第2章「通電加熱法による酸化タングステン結晶の粒径制御 ~印加電圧を一定とした場合~」には、線材に印加する電圧を一定として膜を作製し、膜の微細構造やフォトクロミック特性を調査した結果が述べられており、作製した膜をフォトクロミック材料として工業的に応用するためには、通電条件による粒径制御が極めて重要であることが明らかにされている。
第3章「通電加熱法による酸化タングステン結晶の粒径制御 ~印加電圧の上昇速度を変化させた場合~」には、線材に電圧を上昇させながら印加し、その上昇速度が、得られた膜の微細構造やフォトクロミック特性に与える影響を調査したことが述べられており、電圧上昇速度によって粒径を制御することにより、フォトクロミック特性も制御可能であることが明らかにされている。また、線材からの煙の発生のメカニズムについて考察されている。
第4章「膜の形状に与える線材-基板間距離の効果」には、線材-基板間距離を変えることにより、粒径制御が可能であることが述べられており、紫外光照射による近赤外域の光吸収と粒径の逆数との間には直線関係があることが見出されている。
第5章「減圧下での通電加熱法による膜厚の均一化」には、通電加熱時の雰囲気を減圧することにより、煙の対流を制御し、膜厚の均一化が可能であることが明らかにされている。1 kPaで9回堆積させた膜は、フォトクロミック現象を示さないことを、減圧によるタングステンの価数の変化から考察している。
第6章「酸化タングステン膜の断熱窓としての応用の検討」には、通電加熱法により作製した酸化タングステン膜に樹脂を塗布することによって、光散乱が抑えられ、可視光透過率が向上することや、膜のフォトクロミック特性と太陽光スペクトルとの比較から、膜によって太陽光の熱線が吸収されることを示している。また、膜を複層ガラスと組み合わせることによって、太陽光の熱線を吸収する断熱窓として応用できることが述べられている。
第7章「総括」では、以上の各章から得られた研究成果を要約している。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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