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鏡面ポリシング加工技術およびその知的運用技術の開発

氏名 井山 徹郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第293号
学位授与の日付 平成24年3月26日
学位論文題目 鏡面ポリシング加工技術およびその知的運用技術の開発
論文審査委員
 主査 教授 田辺郁男
 副査 教授 柳 和久
 副査 教授 福澤 康
 副査 教授 明田川正人
 副査 准教授 磯部浩已

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 目次
 第1章 緒論 p.1
 1.1 研究背景 p.1
 1.2 従来の技術と比較した本研究の位置づけ p.2
 1.2.1 手作業によるポリシング加工の問題と自動化への要望 p.2
 1.2.2 大型工作物の鏡面加工に関する研究と求められる技術 p.4
 1.2.3 小型工作物の鏡面加工に関する研究 p.5
 1.2.4 軟質材料の鏡面加工に関する研究 p.6
 1.3 本研究の目的 p.6
 1.4 本論文の構成 p.7
 参考文献 p.10
 第2章 多様な形状・大きさの工作物の加工を想定した自動ポリシングシステムの構築 p.16
 2.1 緒言 p.16
 2.2 ポリシングシステムの概要 p.16
 2.3 ポリシングツールの開発および評価 p.17
 2.3.1 品質工学を用いたロバスト性のあるポリシングツールの設計 p.18
 2.3.2 平面ポリシング加工による評価 p.28
 2.3.3 3次元形状工作物のポリシング加工による評価 p.36
 2.4 長時間の無人加工に対応できる研磨剤の開発 p.44
 2.4.1 水溶性ポリマーを用いた研磨剤の検討 p.44
 2.4.2 加工実験による研磨剤の評価 p.54
 2.4.3 研磨剤の再利用方法 p.56
 2.5 表面粗さ改善速度推定モデルの提案とその評価 p.65
 2.5.1 一次遅れ要素を用いた表面粗さ改善速度モデルの提案 p.65
 2.5.2 実験地との比較によるモデル式の精度評価 p.72
 2.6 結言 p.74
 参考文献 p.74
 第3章 複数のポリシングユニットを集積しびびり振動を抑制したポリシングツールによる大型工作物の鏡面加工 p.76
 3.1 緒言 p.76
 3.2 均一な研磨圧力を発生できる研磨端子の設計 p.76
 3.3 びびり振動の発生を伴わない端子サイズと加工条件の検討 p.82
 3.4 実加工実験による開発したポリシングツールの評価 p.90
 3.4.1 大型平面の鏡面加工 p.90
 3.4.2 大型斜面の鏡面加工 p.93
 3.4 結言 p.95
 参考文献 p.95
 第4章 リニアモータを搭載した高速駆動ポリシングツールによる小型工作物の鏡面加工 p.97
 4.1 緒言 p.97
 4.2 リニアモータによる高速駆動可能なポリシングツールの開発 p.97
 4.3 エポキシ樹脂による総形端子の検討 p.100
 4.4 実加工実験による開発したポリシングツールの評価 p.103
 4.4.1 微小平面および微小曲面加工による評価 p.103
 4.4.2 小型歯車用金型の仕上げ加工による評価 p.110
 4.5 結言 p.113
 参考文献 p.114
 第5章 熱軟化による硬さ制御可能な端子を用いた軟質材料の鏡面加工 p.115
 5.1 緒言 p.115
 5.2 軟質材料のポリシング加工における適切な端子硬さの検討 p.115
 5.2.1 工作物と端子のビッカース硬さ比が仕上げ面粗さに及ぼす影響 p.115
 5.2.2 FEMを用いた均一な砥粒切込み深さを得るためのビッカース硬さ比の検討 p.117
 5.3 熱軟化により端子硬さの制御が可能な端子の開発 p.119
 5.4 平面ポリシング加工による熱軟化端子の評価 p.123
 5.5 結言 p.129
 参考文献 p.129
 第6章 自動ポリシング加工における加工条件の最適化アルゴズムの構築とそのロバスト性の評価 p.131
 6.1 緒言 p.131
 6.2 単一加工条件の最適アルゴリズム p.131
 6.3 複数工程からなる加工条件の最適アルゴリズム p.134
 6.3.1 表面粗さ改善速度の最大化による加工の効率化 p.134
 6.3.2 工作物洗浄時間を考慮した最適化アルゴリズム p.135
 6.4 最適化アルゴリズムにより計算された加工条件のロバスト性の評価 p.142
 6.5 結言 p.146
 参考文献 p.146
 第7章 結論 p.148

本論文は、「鏡面ポリシング加工技術およびその知的運用技術の開発」と題し,因習的に行われてきている手磨きによる仕上げ行程の問題を解決する技術として,専用装置を用いること無く,容易かつ精密な自動鏡面加工技術を開発することを目的としたものである.安価に製作可能なロバスト性のあるポリシングツールを汎用NC工作機械に取り付け,研磨剤中に工作物を浸漬させた状態で行うポリシングシステムを開発した.さらに一貫した無人加工に対応できるように,砥粒を均一分布させることができる研磨剤と,工作物表面粗さの改善曲線を加工条件から推定する実験モデルを構築した.また,長時間の加工が必要な大型の工作物と,時間当たりの加工効率が低い小型の工作物および研磨痕がつきやすい軟質材料の迅速な鏡面加工のために,それぞれの加工に適した工具と端子を設計・開発し,それらの有効性を示した.これらの装置および工具をスキルレスに運用するための最適加工条件計算プログラムを開発し,計算された加工条件のロバスト性を評価した.

第1章「緒論」では,手作業による研磨加工における現状と問題点を挙げ,それらの対応策として行われている従来の研究をまとめた.調査の結果より工作物の大きさや材質を選ばない汎用性のある自動ポリシングシステムを開発することの必要性を示し,本研究の目的について述べた.
 第2章「多様な形状・大きさの工作物の加工を想定した自動ポリシングシステムの構築」では,安価で汎用性のある自動ポリシング加工の構築を目的として,汎用のNC工作機械を用いて工作物を研磨剤中に浸漬させた状態で行うポリシングシステムをした.次に本システムにて使用する研磨剤として水溶性ポリマーを用いた研磨剤を開発し,砥粒の分布性能について実験により評価した.また,使用済み研磨剤中の砥粒の再利用方法について検討した.
 本システムを用いたポリシング加工の工作物の表面粗さの改善についてモデル化し,過剰な加工による形状精度の低下を伴わない効率的な加工ができるか検討した.具体的には,工作物の改善特性を実験的に明らかにし,従来提案されている理論モデルと組み合わせることで,工作物の表面粗さ改善速度を加工条件から計算できる加工モデルを構築し,実加工による実験値と比較した計算精度について評価した.
 第3章「複数のポリシングツールを並列配置した集積型のツールによる大型工作物の鏡面加工」では,大型工作物の高速ポリシング加工のための工具を開発し,評価した.まず,加工面に対して発生する研磨圧力の差を小さくすることができるポリシングツールの端子形状について,有限要素法を用いて考察し,ポリシングユニットの設計を行った.次に,複数のポリシングユニットを集積した大型工作物加工用のポリシングツールを開発し,工具にびびり振動が発生しない限界の加工条件を実験的に明らかにした.最後に開発したポリシングツールを使用して,大型工作物の平面と斜面の鏡面加工を行い,その工業的な実用性を評価した.
第4章「リニアモータを搭載した高速駆動ポリシングツールによる小型工作物の鏡面加工」では,小型・微細形状部品を高速鏡面ポリシング加工するために,高速・微細ポリシング加工可能なポリシングツールの開発・評価を行った.高速・微小送り可能なリニアモータ駆動デバイスを搭載したポリシングツールを開発し,微細な工作物表面を加工するための総形の端子の作成方法を確立した.さらに開発したツールを用いた場合の最適な加工条件を明らかにし,平面の鏡面加工と微細部品の鏡面加工により工業的な実用性を評価した.
第5章「熱軟化端子による硬度制御可能な端子を用いた軟質材料の鏡面加工」では,プラスチックレンズのような軟質材料を用いた製品の,形状修正や精密仕上げ加工を目的として軟質材料の自動研磨方法を確立した.まず,基礎実験として軟質材料の研磨加工後の表面粗さに工作物と工具端子のビッカース硬度比がどのように影響するかを明らかにした.また,有限要素法と加工実験によって,加工欠陥を抑制できる工作物と工具端子のビッカース硬度比を検討した.次にポリシングツールの端子内部に加熱用のヒーターを設けた熱軟化端子によって,工作物と端子のビッカース硬度比を管理する手法を提案し,実験により熱軟化端子を用いた軟質材料の鏡面加工について評価を行った.
第6章「自動ポリシング加工における最適加工条件計算アルゴリズムの構築と品質工学によるアルゴリズムのロバスト性の評価」では,2章にて構築したポリシングシステムの加工モデルを展開し,複数の行程により加工される工作物の最適な加工条件の組合せを算出するアルゴリズムを構築し,パソコン上で動作する加工条件の計算ソフトウェアの開発を行った.開発したソフトウェアによる結果と,アルゴリズムの妥当性およびロバスト性を,品質工学を用いた実験結果と比較し,評価した.
第7章「結論」では、本研究で得られた結果を各章ごとにまとめ,従来技術と比較することで本研究の有効性を示した.本研究にて開発した,安価,容易かつ精密な自動鏡面ポリシング加工技術は,手磨き行程の問題を解決するきわめて重要なものであることを明らかにした.

本論文は,「鏡面ポリシング加工技術およびその知的運用技術の開発」と題し,7章より構成されている.第1章「緒論」では,因習的に行われている手磨きによる仕上げ加工の問題と,それを解決するための技術に関する従来の研究の概要を示すとともに,本研究の目的と範囲を述べている.
第2章「多様な形状・大きさの工作物の加工を想定した自動ポリシングシステムの構築」では,研磨剤供給装置など新たに追加することなく既存のNC装置を用いて,工作物を研磨剤中に浸漬させたまま加工をおこなうポリシング加工方法を提案している.また,工作機械の位置決め誤差に対してロバスト性のある,安価に製作可能なポリシングツールや,長時間の無人加工を想定した水溶性ポリマーを用いた研磨剤を開発し,加工条件から工作物の表面粗さの改善曲線を推定する加工モデルの構築を行っている.これにより,様々な形状,大きさの工作物に対してきわめて安価に表面粗さRz 0.1 μmの鏡面加工が可能なポリシングシステムを開発している.
第3章「複数のポリシングユニットを集積しびびり振動を抑制したポリシングツールによる大型工作物の鏡面加工」では,均一なポリシング圧力を発生できる端子構造を,有限要素法を用いて決定し,加工中の工具のびびり振動を抑制できる端子サイズおよび加工条件を明らかにしている.この端子をユニット化し,複数個並列配置した集積型ポリシングツールを開発しており,大型平面のきわめて高速な鏡面加工が可能であることを示している.
第4章「リニアモータを搭載した高速駆動ポリシングツールによる小型工作物の鏡面加工」では,リニアモータによる微小かつ高速送り可能なポリシングツールの開発を行い,これに加工面と総形の端子を取り付けることで,小型・微細形状の工作物に対してきわめて高速な鏡面加工が可能であることを実験により示している.
第5章「熱軟化による硬さ制御可能な端子を用いた軟質材料の鏡面加工」では,加工欠陥の生じ易い軟質材料に対して,端子を加熱し,軟化させた状態でポリシング加工を行うことで,砥粒の工作物に対する切込み深さを均一化し,従来の工具では困難であった軟質材料の鏡面加工を容易に達成できることを明らかにしている.
第6章「自動ポリシング加工における加工条件の最適化アルゴリズムの構築とそのロバスト性の評価」では,第2章から第5章で確立した鏡面加工技術を熟練技術等を必要とせずに行うための最適加工条件計算ソフトウェアの開発を行い,計算された加工条件が加工環境に対して十分ロバスト性があることを品質工学を用いた実験により示している.
第7章「結論」では,本研究で得られた結果をまとめ,工業的に有効な技術であるか評価している.その結果,特殊な装置を必要としない浸漬型のポリシング加工技術,大型工作物の迅速加工のための集積型ツール,小型かつ微細な工作物加工のためのリニアモータ駆動ポリシングツール,熱軟化端子による軟質材料の鏡面加工方法並びにこれら加工方法の知的な運用技術が,それぞれ鏡面ポリシング加工の効率化と高精度化に大きく寄与できている.
よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.

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