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標準尺測定の不確かさ低減に関する研究

氏名 高橋 顕
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第295号
学位授与の日付 平成24年7月25日
学位論文題目 標準尺測定の不確かさ低減に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 明田川正人
 副査 教授 柳 和久
 副査 教授 伊藤義郎
 副査 准教授 平田研二
 副査 准教授 塩田達俊

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目次
第1章 序論 p.2
 1.1 標準尺測定の位置づけと重要性 p.2
 1.2 干渉計の種類と特徴 p.11
 1.2.1 マイケルソン干渉計 p.11
 1.2.2 ファブリー_ペロー干渉計 p.12
 1.2.3 長さ測定に適した干渉計 p.12
 1.3 標準尺測定の研究の現状 p.14
 1.3.1 MIKES(フィンランドの標準研究所) p.14
 1.3.2 Kaunas大学(リトアニアの大学) p.14
 1.3.3 NIST(米国の標準研究所) p.15
 1.3.4 VNIIM(ロシアの標準研究所) p.15
 1.3.5 NMIJ(日本の標準研究所) p.16
 1.3.6 KRISS(韓国の標準研究所) p.16
 1.3.7 CENAM(メキシコの標準研究所) p.16
 1.3.8 Maribor大学(スロベニアの大学) p.16
 1.3.9 ミツトヨ(日本の測定機メーカー) p.17
 1.3.10 PTB(ドイツの標準研究所) p.17
 1.3.11 ハイデンハイン(ドイツの測定機メーカー) p.18
 1.3.12 NIM(中国の標準研究所) p.19
 1.3.13 ブダペスト大学(ハンガリーの大学) p.19
 1.3.14 国際比較 Nano3 p.19
 1.3.15 標準尺測定研究の現状のまとめ p.20
 1.4 結言と本論文の構成 p.22
第2章 標準尺測定機の設計 p.26
 2.1 装置主要部の設計 p.27
 2.2 結言 p.41
第3章 光学系に起因する不確かさの軽減 p.46
 3.1 緒言 p.46
 3.2 光学系に起因する誤差の定性的説明 p.46
 3.3 光学系に起因する誤差のモデルと測定方法 p.50
 3.4 実験手順 p.52
 3.5 実験結果 p.54
 3.6 考察 p.57
 3.7 結言 p.58
第4章 大気圧変化に起因する不確かさの低減 p.60
 4.1 緒言 p.60
 4.2 大気圧による標準尺伸縮のモデル p.61
 4.3 実験方法と手順 p.62
 4.4 実験結果 p.64
 4.5 考察と結言 p.66
第5章 目盛線の異常に起因する不確かさの低減 p.70
 5.1 緒言 p.70
 5.2 光学シミュレーションによる評価 p.72
 5.3 シミュレーションの結果 p.73
 5.4 実験による評価方法 p.73
 5.5 実験結果 p.77
 5.6 考察と結言 p.77
第6章 低膨張・高安定標準尺による長期安定性の向上 p.82
 6.1 緒言 p.82
 6.2 経年変化のモデル p.83
 6.3 製作した標準尺と測定条件 p.84
 6.4 実験結果 p.86
 6.5 モンテカルロ法による長期安定性の測定誤差の見積 p.90
 6.6 結言 p.93
第7章 ガラスセラミックスの経年変化とその一様性 p.96
 7.1 緒言 p.96
 7.2 経年変化と長さ変化一様性のモデル p.98
 7.3 製作した標準尺と測定手順 p.99
 7.4 実験結果 p.101
 7.5 考察 p.109
 7.6 結言 p.110
第8章 結論 p.112
謝辞 p.120
参考文献 p.124
付録A 測定不確かさの確定 p.136
付録B 標準研究所の校正測定能力の一覧 p.145

本論文は「標準尺測定の不確かさ低減に関する研究」と題し、8章より構成されている。
 第1章「序論」では、長さと座標の光学測定における標準尺とそれを校正・測定する標準尺測定機の位置づけをトレーサビリティ体系の中で述べている。その標準尺測定機に関する従来の研究開発の概要を示した上で、標準尺測定の不確かさがリニアエンコーダ測定の不確かさよりも大きい傾向があることを述べている。標準尺の目盛線検出顕微鏡と目盛線に起因する不確かさ要因が大きいことを見出した。また、大気圧に起因する標準尺の伸縮に関する不確かさが従来研究では重要視されていないことを指摘した。さらに、本研究の目標測定不確かさを、長さ1000mmの標準尺測定において35nm(拡張係数2)以下と設定している。
 第2章「標準尺測定機の設計」では、第1章で設定した目標測定不確かさを達成するべく、標準尺の校正のための測定機設計に関して論じている。測定装置を設置する環境条件は通常の工場環境下での使用を前提としており、この目標を達成するために、ヨウ素安定化HeNeレーザの波長を参照して実時間で測長用レーザの波長を校正する干渉計を採用した。これによりレーザ波長の不確かさを20×10-9から0.02×10-9に低減した。また、装置内での干渉計光路を真空とすることで空気揺らぎによる影響を排除した。さらに、アッベの原理を満たす光学系・駆動ステージ配置を装置に適用した。
 第3章「光学系に起因する不確かさの低減」では、被検物である標準尺の平面度やたわみに起因するデフォーカスと目盛線検出顕微鏡の偏心によって発生する目盛線の横方向の偽の移動量(誤差)を評価する測定方法を開発した。この方法は、従来の測定方法が測定値に標準尺のコサイン誤差を含むのに対して、この方法はコサイン誤差を含まないためその補正が不要という利点がある。この測定方法を使用して、偏心を低減した顕微鏡を使用することで、標準尺のデフォーカス範囲±5μmにおいて目盛線の移動誤差を4nmに低減した。
 第4章「大気圧変化に起因する不確かさの低減」では、大気圧変化に起因する標準尺の弾性変形による伸縮の補正式を導入した。大気圧が急激に変動した台風通過時に、本研究で開発した装置で標準尺を測定し、この補正式の実用性を検証した。台風の通過時に大気圧変動による不確かさを、従来の大気圧補正をしない場合の12nmから補正後の0.9nmに低減した。これは補正をしない場合の7.5%にまで低減されている。
 第5章「目盛線の異常に起因する不確かさの低減」では、実際に使用される標準尺の目盛線の局所的な異常(目盛り線の欠けなど)に起因する不確かさ要因を、目盛線検出顕微鏡から得られる目盛線の信号を処理するアルゴリズムによって低減することを論じている。光学結像シミュレーションと実際に使用されている標準尺を使用した測定機上の実験によってこのアルゴリズムを検証し、不確かさを2.8nmに低減した。
 第6章「低膨張・高安定標準尺による長期安定性の向上」では、標準尺測定の長期安定性を向上させるために、超低膨張セラミックス材によって標準尺を製作し、その長さ測定を1年間にわたって行なった。比較対照として、合成石英製の標準尺の長さ測定も同時期に行なった。その結果、超低膨張セラミックス・合成石英製の標準尺ともに、見積もった測定誤差内であり、有意な長さ変化が見られなかった。さらにこの長低膨張セラミックス製の標準尺の長期安定性が1.1×10-8/年であることを見いだした。これは従来の合成石英製の標準尺での長期測定の結果2.1×10-8/年に比べて47%低減されたものである。
 第7章「ガラスセラミックスの経年変化とその一様性」では、長さ標準器や精密機械などに使用されるガラスセラミック材料の経年変化の目盛りの長さ全体にわたる平均値と経年変化の場所による一様性(=場所による伸縮差)の評価方法を提案した。ガラスセラミックス製標準尺の場所ごとの長さの経年変化を2年間にわたって測定する実験を行なった。2種類のガラスセラミックスに関してそれぞれ2本ずつの標準尺に関して長期測定を行ない、ガラスセラミックスの2種類ともに製作した2本の標準尺に有意な経年変化の差が見られないこと、ガラスセラミックスの1種において長期測定の初期において経年変化の一様性(場所による伸縮差)が見られることを明らかにした。
 第8章「結論」では、第2章で述べた装置開発と第3章から第6章までに得られた検討結果をもとにして本装置で標準尺を測定した場合の測定不確かさの推定を行なった。長さ1000mmの低膨張ガラスセラミックス製の標準尺を測定した場合に、研究の目標値である35nmを満足する不確かさ29nm(拡張係数2)が得られたことを述べている。

 本論文は、「標準尺測定の不確かさ低減に関する研究」と題し、8章より構成されている。 第1章「序論」では、長さと座標の光学測定における標準尺測定の位置づけと、その測定・校正法に関する従来の研究の概要を示すとともに、本研究の目的と範囲を述べている。
 第2章「標準尺測定機の設計」では、標準尺の校正のための測定機設計に関し論じている。通常の工場環境下での使用を前提としながら、測定不確かさの目標を長さ1000mmの標準尺測定で35nm(拡張係数2)と設定した。この達成のため、ヨウ素安定化HeNeレーザを参照する実時間波長校正光源の装置への採用、装置内での真空光路の選択、アッベの原理の装置への適用などを述べている。
 第3章「光学系に起因する不確かさの低減」では、被検標準尺のデフォーカスと目盛線検出顕微鏡の偏心に起因する誤差を評価する測定方法を開発した。偏心を低減した顕微鏡を使用することで、デフォーカス範囲±5μmにおいて誤差を4nmに低減した。
 第4章「大気圧変化に起因する不確かさの低減」では、大気圧変化に起因する標準尺の弾性変形による伸縮の補正式を導入した。大気圧が急激に変動した台風通過時に、本研究で設計した装置で標準尺を測定し、この補正式の実用性を検証した。大気圧変動による不確かさを、従来の大気圧補正をしない場合に比べて7.5%まで低減させた。
 第5章「目盛線の異常に起因する不確かさの低減」では、産業界で実際に使用される標準尺の目盛線の局所的な異常に起因する不確かさ要因を、目盛線信号処理アルゴリズムによって低減することを論じている。光学結像シミュレーションと実際の標準尺を使用した実験によってこの不確かさを2.8nmに低減した。
 第6章「低膨張・高安定標準尺による長期安定性の向上」では、標準尺測定の長期安定性を向上させるために、超低膨張セラミックス材によって標準尺を製作し、その長さ測定を1年間にわたり行なった。この超低膨張セラミックス製の標準尺の長期安定性が1.1×10-8/年であることを見いだした。これは従来の合成石英製標準尺に比べて47%低く光学式長さ・座標測定に大きく寄与する。
 第7章「ガラスセラミックスの経年変化とその一様性」では、精密機械などに使用されるガラスセラミック材料の経年変化の場所による一様性(=場所による伸縮差)の評価方法を提案した。ガラスセラミックス製標準尺の場所ごとの長さ経年変化を2年間にわたり追跡した。ガラスセラミック2種類2本ずつを追尾し、これら2本の標準尺に有意な経年変化の差がないことと、ガラスセラミックスの1種で測定の初期に場所による伸縮差が見られることを明らかにした。
 第8章「結論」では、第2章で述べた装置開発と第3章から第6章までに得られた結果より測定不確かさの推定を行なった。長さ1000mmの標準尺測定において目標値を満足する不確かさ29nm(拡張係数2)が得られたことを述べている。
本研究は光学式長さ・座標測定装置の不確かさ低減に大きく寄与するとともに、産業界で多用される低熱膨張材の経年変化を高精度に評価可能である。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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