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有機物の嫌気的分解過程における硫酸塩還元細菌の生態学的役 割の解明と硫酸塩含有廃水の処理特性評価

氏名 山口 隆司
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第118号
学位授与の日付 平成10年6月17日
学位論文の題目 有機物の嫌気的分解過程における硫酸塩還元細菌の生態学的役割の解明と硫酸塩含有廃水の処理特性評価
論文審査委員
 主査 教授 原田 秀樹
 副査 教授 桃井 清至
 副査 助教授 大橋 晶良
 副査 助教授 小松 俊哉
 副査 山形大学農学部 助教授 上木 厚子
 副査 長岡工業高等専門学校 助教授 荒木 信夫

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第1章 序論
1.1 研究の背景と目的 p.1
1.2 論文の構成 p.4
第1章 参考文献 p.5

第2章 既往の研究(嫌気性生物処理における硫酸塩還元細菌の関与に関する研究動向)
2.1 緒論 p.6
2.2 嫌気的有機物分解過程と微生物生態 p.6
2.3 硫酸塩還元細菌の種類と諸特性 p.8
2.4 酢酸・水素を利用する硫酸塩還元細菌とメタン生成細菌の動力学特性 p.10
2.5 UASB法による硫酸塩含有廃水処理(プロセス・パフォーマンス) p.15
2.6 硫酸塩含有廃水処理槽保持汚泥の性状(微生物の代謝ポテンシャル) p.16
2.6.1 硫酸塩含有廃水処理槽保持汚泥の硫酸塩還元活性とメタン生成活性 p.16
2.6.2 硫酸塩含有廃水処理槽保持汚泥のメタン生成活性と補酵素F420含量 p.20
2.7 反応槽処理特性と微生物代謝活性に及ぼす硫化物の影響 p.23
2.8 まとめ p.23
第2章 参考文献 p.26

第3章 UASB反応器による高濃度硫酸塩含有廃水の嫌気性処理特性
3.1 はじめに p.34
3.2 実験装置・方法 p.35
3.2.1 UASB反応器 p.35
3.2.2 活性評価試験 p.36
3.2.3 分析方法 p.37
3.3 実験結果・考察 p.39
3.3.1 反応器運転結果 p.39
3.3.2 保持汚泥のメタン生成活性と硫酸塩還元活性 p.43
3.3.3 UASB反応器のCOD除去率とCOD・硫酸塩利用速度の関係 p.45
3.3.4 硫化物濃度とCOD除去率の関係 p.47
3.3.5 微生物の代謝活性に対する硫化物濃度の影響 p.48
3.4 小括 p.49
第3章 略記号一覧 p.50
第3章 参考文献 p.50

第4章 プロピオン酸・パルミチン酸分解過程における硫酸塩還元細菌と水素生産性酢酸生成細菌の活性に及ぼす硫化物の影響
4.1 はじめに p.52
4.2 実験方法 p.53
4.2.1 実験装置・反応器運転条件 p.53
4.2.2 反応槽内生成硫化物の脱硫方法 p.54
4.2.3 バイアル活性試験の方法 p.54
4.2.4 分析方法 p.55
4.3 実験結果・考察 p.55
4.3.1 プロピオン酸分解に及ぼす硫化物の影響(R1,R2) p.55
4.3.1.1 汚泥の培養 p.55
4.3.1.2 SRBとPRBとによるプロピオン酸分解 p.56
4.3.1.3 プロピオン酸分解活性と硫化水素濃度の関係 p.58
4.3.2 パルミチン酸分解に及ぼす硫化物の影響(R3,R4) p.60
4.3.2.1 汚泥の培養 p.60
4.3.2.2 R1とR2のメタン生成・硫酸塩還元活性 p.62
4.3.2.3 SRBとPRBとによるパルミチン酸酸化 p.63
4.3.2.4
4.4 小括 p.66
第4章 略記号一覧 p.67
第4章 参考文献 p.68

第5章 高級脂肪酸の嫌気的分解過程における硫酸塩還元細菌とメタン生成細菌の基質競合
5.1 はじめに p.70
5.2 実験装置・方法 p.70
5.2.1 実験装置・培養方法 p.71
5.2.2 メタン生成・硫酸塩還元活性試験 p.71
5.2.3 菌数計数 p.72
5.2.4 分析方法 p.72
5.3 結果及び考察1 p.72
5.3.1 汚泥の培養 p.72
5.3.2 硫酸塩還元反応によるCOD除去割合 p.75
5.3.3 硫酸塩還元活性とメタン生成活性 p.75
5.3.4 SRBとMPBの水素利用特性 p.78
5.3.5 MPBの増殖と硫化物濃度の関係 p.79
5.3.6 SRBとMPBの酢酸利用特性 p.80
5.3.7 酢酸資化性SRB・MPBの増殖とナトリウムイオン濃度の関係 p.80
5.3.8 補酵素F420含量の経日変化 p.81
5.3.9 細菌数計数 p.81
5.3.10 電子顕微鏡観察 p.82
5.4 小括 p.84
第5章 参考文献 p.85

第6章 高級脂肪酸の嫌気的分解過程における硫酸塩還元細菌の生態学的役割
6.1 はじめに p.89
6.2 実験方法 p.92
6.2.1 汚泥培養 p.92
6.2.2 活性試験の方法 p.93
6.2.3 パルミチン酸酸化実験の方法 p.93
6.2.3.1 パルミチン酸酸化実験のねらいと△G'の算出方法 p.93
6.2.3.2 パルミチン酸酸化実験手順 p.95
6.2.4 分析方法 p.95
6.3 実験結果と考察 p.96
6.3.1 汚泥の馴養 p.96
6.3.2 実験1:硫酸塩還元活性とメタン生成活性 p.96
6.3.2.1 硫酸塩還元活性 p.96
6.3.2.2 メタン生成活性 p.98
6.3.3 実験2:パルミチン酸酸化実験 p.101
6.4 小括 p.107
第6章 参考文献 p.108

第7章 プロピオン酸の嫌気的分解過程における硫酸塩還元細菌の生態学的位置づけ
7.1 はじめに p.113
7.2 実験方法 p.113
7.2.1 実験装置・反応器運転条件 p.113
7.2.2 活性試験 p.114
7.2.3 プロピオン酸酸化試験 p.115
7.2.4 分析方法 p.116
7.3. 結果と考察 p.116
7.3.1 反応器運転結果 p.116
7.3.2 活性試験 p.117
7.3.3 プロピオン酸酸化試験 p.118
7.3.4 プロピオン酸酸化活性比較 p.121
7.4 小括 p.122
第7章 参考文献 p.123

第8章 低濃度硫酸塩含有廃水処理UASB反応器における硫酸塩還元細菌の発酵的生育特性
8.1 はじめに
8.2 実験方法
8.2.1 実験装置・反応器運転条件
8.2.2 活性試験
8.2.3 プロピオン酸酸化試験
8.2.4 硫酸塩還元細菌の集積
8.2.5 分析方法
8.3 実験結果
8.3.1 反応器運転結果
8.3.2 活性試験
8.3.3 プロピオン酸酸化試験
8.3.4 グルコース由来生成物の分解に対するSRBの寄与
8.3.5 硫酸塩還元細菌の発酵的生育特性
8.4 考察
8.5 小括
第8章 参考文献

第9章 総括
9.1 硫酸塩含有廃水の嫌気性処理
9.1.1 硫酸塩含有糖・有機酸混合廃水供給UASB型反応器の処理特性
9.1.2 硫酸塩含有パルミチン酸廃水供給完全混合型反応器の処理特性
9.1.3 反応器保持微生物の増殖・代謝特性に対する硫化物の影響
9.1.4 高濃度硫酸塩含有廃水処理嫌気性UASB型反応器の制御方法
9.2 有機物分解過程における硫酸塩還元細菌の生態学的役割
9.2.1 酢酸・水素基質に対する硫酸塩還元細菌とメタン生成細菌との競合
9.2.1.1 高級脂肪酸分解過程における酢酸・水素基質競合
9.2.1.2 硫酸塩含有廃水分解過程における水素・酢酸利用特性
9.2.2 有機物酸化・酢酸生成性硫酸塩還元細菌の増殖特性と有機物分解寄与
9.2.2.1 高級脂肪酸酸化過程における硫酸塩還元細菌の役割
9.2.2.2 硫酸塩低負荷嫌気性廃水処理槽内における硫酸塩還元細菌発酵的生育特性
9.2.2.3 硫酸塩還元細菌の発酵的生育特性と有機物分解寄与
謝辞

 本論文は、嫌気性生物廃水処理プロセスにおける硫酸塩還元細菌の動態に注目し、高濃度硫酸塩含有廃水の処理特性評価、および有機物分解過程での硫酸塩還元細菌の代謝特性評価から、硫酸塩還元細菌の生育特性・生態学的役割を実験的に解析したものであり、全9章から成る。
 第1章は「序論」であり、嫌気的有機物分解過程における硫酸塩還元細菌の生態学的地位の重要性を述べて、本研究の背景・意義と目的について整理した。
 第2章では、これまでの既往の研究成果に基づき、硫酸塩還元細菌の分類、細胞生理、代謝特性、生態学的特性などを整理し、さらに嫌気性生物処理法による硫酸塩含有廃水処理、および廃水処理プロセスにおける硫酸塩還元細菌の動態についてまとめた。
 第3章では、高濃度硫酸塩含有廃水処理UASB反応器の処理パフォーマンス、菌叢動態、および廃水処理特性と微生物代謝活性とに与える磁化物の影響について評価した。その結果、高硫酸塩含有廃水処理槽ではプロピオン酸酸化、および酢酸・水素分解は、硫酸塩還元細菌によってのみ行われた。また、COD去率80%以上を保持するためには槽内硫化水素濃度を100mgH2S-S・l-1以下で維持することが必要と考えられた。更に、水素と酢酸資化性微生物の代謝活性は、硫化水素濃度のが低いほど高まることが明らかとなった。
 第4章では、酢酸生成段階を担う硫酸塩還元細菌と水素生産性酢醸生成細菌の活性に及ぼす硫化物の影響をについて、実験対象基質にプロピオン酸とパルミチン酸を用いて検討した。この結果、硫酸塩還元細菌は硫化水素濃度の増大に準じて活性が一様に低下し、一方、水素生産性酢酸生成細菌は硫化水素の増大によって活性が上昇しピークを有してから低下する特性をであることがわかった。すなわち、廃水処理においては硫化物負荷の最適制御法があることが示された。
 第5章では、高級脂肪酸分解過程における水素・酢酸除去に対する硫酸塩還元細菌の生態学的地位をメタン生成細菌のそれと比較して検討した。この結果、硫酸塩添加系反応槽において、水素基質に関して硫酸塩還元細菌はメタン生成細菌を駆逐して、水素除去者としてのニッチェを獲得した。これに対して酢酸除去者としての硫酸塩還元細菌のニッチェは、メタン生成細菌に対して低くかった。
 第6章では、パルミチン酸を分解対象高級脂肪酸として用い、(1)水素生産性酢酸生成細菌とメタン生成細菌の共生系、(2)水素生産性酢酸生成細菌と硫酸塩還元細菌の共生系、および、(3)パルミチン酸酸化硫酸塩還元菌、それぞれのパルミチン酸分解に対する寄与度を実験的に定量評価した。その結果、高級脂肪酸酸化硫酸塩還元細菌は、馴養過程の硫酸塩負荷に従って増殖することが示された。
 第7章では、低硫酸塩負荷のメタン発酵槽内において、プロピオン酸酸化硫酸塩還元細菌が発酵性細菌として生育し、有機物分解に寄与していることを解明できた。
 第8章では、反応槽植種汚泥から集積したDesulfobulbus sp 様の硫酸塩還元細菌が、低硫酸塩負荷反応槽内でも乳酸等の有機物分解に寄与しつつ増殖していることを明らかにできた。発酵的生育によって有機物分解に寄与しつつ高い割合で増殖しやすい硫酸塩還元細菌は、水素資化性および不完全酸化型の硫酸塩還元細菌であると考えられた。
 第9章では、本研究で得られた知見を総括し、嫌気性廃水処理法による硫酸塩含有廃水の処理方法と、硫酸塩還元細菌の生態学的役割について述べている。
 以上のように、本論文は、硫酸塩含有廃水の嫌気性処理、および有機物分解過程における硫酸塩還元細菌の生態学的役割に関する重要な基礎的知見を多く得ており、UASBの適用廃水種の拡大、反応槽運転と微生物制御とに大きく貢献できるものである。

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