本文ここから

嫌気性排水処理における微生物の多様性と生態-rRNAアプローチによる嫌気性微生物群集の構造解析-

氏名 関口 勇地
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第192号
学位授与の日付 平成11年3月25日
学位論文の題目 嫌気性排水処理における微生物の多様性と生態-rRNAアプローチによる嫌気性微生物群集の構造解析-
論文審査委員
 主査 教授 原田 秀樹
 副査 教授 桃井 清至
 副査 助教授 大橋 晶良
 副査 助教授 小松 俊哉
 副査 豊橋技術科学大学助教授 平石 明
 副査 工業技術院生命工学工業技術研究所主任研究官 鎌形 洋一

平成10(1998)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第一章 総論 p.1

 第一節 研究の目的 p.2

 第二節 研究の背景 p.3
 1. 嫌気性排水処理プロセス p.3
 2. 嫌気環境下での有機物分解とそのプロセスに関与する微生物群 p.4
 3. グラニュール汚泥の微生物生態 p.13
 4. 微生物生態を解析する上での問題点 p.15
 5. rRNAアプローチによる微生物群集構造の解析 p.16

 第三節 研究の構成 p.19

 参考文献 p.22

第二章 rRNA遺伝子から見た中温・高温グラニュール汚泥の微生物多様性 p.27

 第一節 はじめに p.28

 第二節 実験方法 p.28
 1. サンプルを採取したUASB反応槽 p.28
 2. グラニュール汚泥からのDNAの抽出 p.29
 3. PCR及びクローニング p.29
 4. 塩基配列の決定と系統解析 p.30

 第三節 実験結果 p.30
 1. UASB反応槽の処理パフォーマンス p.30
 2. PCR増幅 p.31
 3. 系統解析の結果 p.32

 第四節 考察 p.38

 参考文献 p.41

第三章 Fluorescence in situ hybridizationによるグラニュール汚泥内微生物の空間的分布の解明と未知微生物の検出 p.44

 第一節 はじめに p.45

 第二節 実験方法 p.46
 1. サンプルを採取したUASB反応槽 p.46
 2. グラニュール汚泥の固定、切片化 p.46
 3. in situ hybridization法 p.46
 4. dot blot hybridization法 p.47
 5. 電子顕微鏡観察 p.48

 第三節 実験結果 p.48
 1. in situ hybridizationによる、高温グラニュール汚泥内の水素利用性メタン生成古細菌群の検出 p.48
 2. 中温・高温グラニュール汚泥内の微生物構造とメタン生成古細菌群の分布 p.48
 3. グラニュール汚泥内の未知な細菌の検出とその分布 p.52

 第四節 考察 p.54

参考文献 p.57

第四章  グラニュール汚泥内のメタン生成古細菌及び各種細菌の分離の試み p.59

 第一節 はじめに p.60

 第二節 メタン生成古細菌の分離と同定 p.60
 1. 実験方法 p.60
 2. 結果及び考察 p.63

 第三節 嫌気共生細菌の分離と同定 p.66
 1. 実験方法 p.66
 2. 結果及び考察 p.68

 参考文献 p.79

第五章 総括 p.81

謝辞

 UASB (Upflow Anaerobic Sludge Blanket) 法に代表される嫌気性廃水処理プロセスでは、多種の微生物を反応器内に高密度で保持することによって廃水の高速処理を可能にしている。この処理法では、廃水処理に投入するエネルギーが従来の好気性処理法に比べ圧倒的に少ないだけでなく、有機性廃水からメタンとしてエネルギーを回収できる。従って本処理法は、昨今の地球規模での環境問題の視点からも理論的には理想的な廃水処理技術であるといえる。しかし、現在のところ本処理法は一部の高濃度有機性廃水を除き、好気性処理法に匹敵するほどの普及率を示すには至っていない。その原因の多くは、プロセスに関する経験的知識が不足していることもさることながら、プロセスのスタートアップ、維持管理の困難さなどのプロセスの不安定さに起因する。それは、反応基内の保持されている嫌気性微生物群そのものの性質に由来するものである。
 嫌気環境下での有機物分解では、異なる代謝特性を持つ微生物群のいわば有機物の食物連鎖により反応が進行する。従って、嫌気性汚泥ではそれぞれの分解のステップを担う微生物群がバランス臭く汚泥内に存在することが望まれる。嫌気性処理プロセスの安定した管理の上で、この汚泥内の微生物群の健全な構成 (微生物群集構造) とその維持は、欠くことのできない要素であろう。現在まで、その嫌気性汚泥内の微生物群集構造を解明するための努力が払われてきたが、しかし未だその全容を理解するには至っていない。しかし、今後の嫌気性処理の更なる安定したプロセス管理、及び迅速なプロセスのスタートアップには、その汚泥の微生物群集構造の十分な理解と、その知見に即した適切な技術的管理が望まれていると思われる。
 本論文は、嫌気性処理プロセスを把握する上での土台となる汚泥内微生物群集構造の理解のため、嫌気環境下での有機物分解に関与する微生物生態の基礎的知見を収集することを目的とした。通常の中温 (35℃) 処理UASB反応槽内に形成したグラニュール汚泥、及び高温 (55℃) 処理グラニュール汚泥内の微生物群集構造を把握するため、分子生物学的手法を用いた微生物群集構造解析(rRNAアプローチ) を行うと同時に、重要であると思われる細菌群の分離・同定を試みた。
 第一章では、嫌気性廃水処理技術と嫌気性微生物群集に関する現在までの知見を総説し、それを踏まえて本論文の背景と目的を述べた。
 第二章では、中温 (35℃) 処理UASB反応槽、及び高温 (55℃) 処理UASB反応槽に形成されたグラニュール汚泥の微生物群集構造とその多様性を解明するため、両グラニュール汚泥からDNAを抽出後、16S rRNA遺伝子を PCR 増幅し、そのクローンライブラリを作成した。その各クローンを解析した結果、両グラニュール汚泥とも、その内部に現在まで培養、同定されたことのない多くの未知な微生物を内包することが明らかとなった。また、反応基の運転温度の違いで微生物群集構造と微生物多様性の大きな相違が観察された。
 第三章では、16S rRNAをターゲットとしたDNAプローブを用いて、先の中温、高温グラニュール汚泥内部の微生物分布の解明を行った。本章では、グラニュール汚泥の切片を作成後、その切片に対してin situ hybridizationを行った。はじめに、細菌、古細菌、各種メタン生成古細菌群に特異的なプローブを用い、グラニュール汚泥内部での微生物分布の全体像を明らかにし、次に第二章で存在が推定された未知な細菌に特異的なプローブを作成し、その顕微鏡レベルでの検出を行った。
 第四章では、以上の分子生物学的手法に基づくグラニュール内部の微生物群集構造の調査に加え、先の中温、高温グラニュール汚泥から種々の基質をエネルギー源として微生物の分離を行った。各グラニュール汚泥に存在するメタン生成古細菌、嫌気共生細菌の分離、同定を行い、その分離された微生物の情報と第二章、第三章の結果を照らし合わせ、その菌株のグラニュール内部での生理学的役割を調査した。その結果、グラニュール汚泥内部に多く存在すると推定された新たな細菌、古細菌を数種分離することに成功した。
 第二章から第四章にかけて、グラニュール汚泥の微生物群集を、分子の視点と、分離・培養に基づく視点から調査を行い、その内部に存在する微生物の系統的同定から機能の解析までを試みたが、その結果から得られた知見のまとめと考察、また今後必要とされる展開にっいてを、第五章において述べた。

平成10(1998)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る