フォトレジストと無機基板との接着機構に関する研究
氏名 河合 晃
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第66号
学位授与の日付 平成4年8月31日
学位論文の題目 フォトレジストと無機基板との接着機構に関する研究
論文審査委員
主査 教授 高田 雅介
副査 教授 赤羽 正志
副査 教授 鎌田 喜一郎
副査 助教授 安井 寛治
副査 助教授 濱崎 勝義
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目次
第1章 序論
1.1 研究の背景 p.1
1.2 LSIと光リソグラフィー技術 p.2
1.3 LSIにおける接着の課題 p.7
1.4 本研究の目的 p.11
第2章 異なる表面エネルギーを有する無機基板上での接着
2.1 はじめに p.14
2.2 表面エネルギー理論 p.14
2.3 実験方法 p.21
2.4 結果と考察 p.23
2.4.1 各無機膜の表面エネルギー p.23
2.4.2 乾燥下での接着挙動 p.24
2.4.3 TMAH水溶液中での接着挙動 p.26
2.5 まとめ p.31
第3章 レジスト膜の熱処理と接着挙動
3.1 はじめに p.32
3.2 レジスト材料 p.32
3.3 レジストの光、熱反応 p.34
3.4 TMAH水溶液中での接着挙動 p.37
3.4.1 実験方法 p.37
3.4.2 表面エネルギー依存性 p.38
3.4.3 レジストの溶解及び膨潤の影響 p.41
3.5 乾燥下での接着挙動 p.46
3.5.1 実験方法 p.47
3.5.2 表面エネルギー依存性 p.48
3.6 まとめ p.56
第4章 原子間力顕微鏡(AFM)による表面力検出と接着挙動
4.1 はじめに p.57
4.2 実験方法 p.59
4.3 AFMの動作原理 p.59
4.4 結果と考察 p.63
4.4.1 表面力と表面エネルギー p.63
4.4.2 表面力と接着強度 p.67
4.5 まとめ p.70
第5章 Al表面の弱結合層(WBL)での接着破壊
5.1 はじめに p.72
5.2 実験方法 p.72
5.3 結果と考察 p.73
5.3.1 Al上での接着強度 p.73
5.3.2 Alの表面エネルギー p.75
5.3.3 表面エネルギー理論による考察 p.77
5.3.4 WBL理論による考察 p.79
5.4 まとめ p.83
第6章 レジストパターン内の熱応力発生と接着力低下
6.1 はじめに p.84
6.2 実験方法 p.84
6.3 有限要素法による二次元熱応力分布解析 p.87
6.4 結果と考察 p.90
6.4.1 凹凸パターン p.90
6.4.2 開口パターン p.94
6.4.3 ラインパターン p.99
6.4.4 レジスト表面硬化層の影響 p.103
6.5 まとめ p.107
第7章 レジスト膜中へのアルカリ水溶液浸透効果による接着力低下
7.1 はじめに p.108
7.2 実験方法 p.108
7.3 結果と考察 p.109
7.3.1 真空処理とレジスト膜の物性 p.109
7.3.2 TMAH水溶液の浸透効果 p.113
7.4 まとめ p.118
第8章 レジスト/基板界面でのボイド形成
8.1 はじめに p.119
8.2 実験方法 p.119
8.3 レジスト内の歪みエネルギー p.120
8.4 結果と考察 p.122
8.4.1 ボイド形成モデル p.122
8.4.2 表面エネルギー依存性、及び感光材濃度依存性 p.125
8.4.3 形成ファクターの有効性 p.128
8.5 まとめ p.132
第9章 結論 p.133
謝辞 p.135
参考文献 p.136
付録1 p.140
本研究に関わる研究発表 p.155
本研究は、サブミクロンサイズのフォトレジストパターンと無機基板との接着挙動について、その接着および破壊のメカニズムを明確にし、LSI(Large Scaled Integrated Circuit)開発上生じる接着の問題を解決したものである。今やLSIは産業発展の基盤をなし、その大規模な集積度は多くの先端技術の集積によって実現されてきた。中でも、紫外光によるリソグラフィー技術の発展は目ざましく、最近ではクォーターミクロン付近の解像力達成の可能性が指摘されている。この様な技術進歩の中、無機膜表面と微細レジストパターンの接着の問題は、LSIの高集積化において重要な課題となっている。しかし、現状ではこの分野における研究発表が非常に少ない。以上のような背景に立ち、接着技術の重要性を認識し本研究のテーマとしてとり上げた。本研究の目的として次の三点を挙げる。
1)レジスト微細パターン特有の接着要因を追及する。
2)従来の接着要因の適用限界を明確にする。
3)接着力向上、および破壊耐性向上を目的とした新規プロセスを開発する。
まず、研究手法として代表的な接着要因である表面エネルギーの釣合いに注目し、接着挙動を解析した。又、金属基板との接着に多いとされるWBL(Weak boundary layer)理論や、熱応力解析手法として有限要素法等を取り入れた。新規の表面解析手法として原子間力顕微鏡を導入し、接着力の起源である表面力(原子間力)の解析を行った。
本論文は、以上を目的として第1章「序論」の他、次に示す8章で構成されている。それらは大きく二つに分類される。2~4章は接着力の発生メカニズムに、5~8章は接着破壊に関するものである。
第2章では、表面エネルギー理論について概説し、その手法として用いる接触角法について述べている。10種類以上の無機膜の表面エネルギーを求め、乾燥下、およびアルカリ水溶液中でのフォトレジストとの接着エネルギーを求めている。これらの接着挙動が表面エネルギー理論を用いて十分に説明できる事を確認した。又、2つの環境下での接着挙動は、無機膜表面の極性成分に対して互いに逆の傾向を示すことを新たに見いだした。
第3章では、フォトレジストの組成、および現像、熱架橋等の各反応について概説し、80~325℃の広範囲で熱処理したレジストの乾燥下、アルカリ水溶液中での接着挙動について考察している。表面エネルギーモデルでは全温度範囲の接着挙動を説明する事はできず、新たな要因としてレジストの膨潤及び溶解を導入した。
第4章では、接着剤の起源とされる表面力(原子間力)をAFM(Atomic Force Microscopy)を用いて検出し、これと熱力学的な表面エネルギーとの相関について考察している。探針と表面の間には、極性及び水素結合的な相互作用が働いている事を見いだした。ここではAFMの応用の1つとして、接着挙動のモニタリングツールとしての有用性を示した。
第5章では、WBL理論について概説し、接着挙動とAlの表面層膜厚との相関を議論している。Al表面での接着挙動は、従来の表面エネルギー理論では説明できず、Al表面層が、拙着破壊に深く関わっている事を見いだした。
第6章では、レジストパターン形状と接着挙動の相関について、有限要素法を用いた二次元熱応力分布を用いて解析している。凹凸、閉口などのパターンでの応力解析の結果、凹凸部及びレジストと基板界面付近で生じる応力集中が、接着挙動に大きく関わる事を見いだした。
第7章では、現像中に生じる接着不良について考察し、これはレジスト膜中への現像液の浸透によって生じることを見いだした。現像液の浸透はレジスト膜内の残留溶媒によって加速され、これによりレジスト膜の応力が増加し、接着破壊につながる事を見いだした。真空ベークによる残留溶媒量の制御といった接着力改善の新規プロセスを提案した。
第8章では、パターン露光中に生じるレジストボイドについて考察し、その形成メカニズムのモデル化を行った。形成パラメーターとして(レジストと基板間の接着エネルギー)と(レジスト膜の歪みエネルギー)の差を用いて定義した。これを用いる事により、任意のレジストと基板の組み合わせにおけるボイド発生予測、防止対策が可能となった。
第9章では、本研究で得られた結果をまとめている。
以上の様に、本研究はレジストパターンの接着挙動について代表的な従来モデルである表面エネルギー理論による解析を行うと共に、マイクロ領域特有の接着ファクターを見いだし、今後の接着設計向上に対する指針を示した。