Molecular Recognition of Multi-Functional Polar Organic Molecules via Multiple Hydrogen bonding interaction
(多点水素結合に基づく多官能性極性分子の分子認識)
氏名 浅川 真澄
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第73号
学位授与の日付 平成5年3月25日
学位論文の題目 Molecular Recognition of Multi-Functional Polar Organic Molecules Via Multiple Hydrogen Bonding nteraction(多点水素結合に基づく多官能性極性分子の分子認識)
論文審査委員
主査 教授 青山 安宏
副査 教授 塩見 友雄
副査 助教授 五十嵐 善信
副査 助教授 戸井 啓夫
副査 京都大学 教授 生越 久靖
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Contents
General Introduction p.1
Chapter 1 Simultaneous Hydrogen Bonding and Metal Coordination Interaction in the Two-Point Fixation of Amino Acids with a Bifunctional Metalloporphyrin Receptor p.5
Chapter 2 Molecular Recognition of Quinones: Two-Point Hydrogen- BondingStrategy for the Construction of Face-to-Face Porphyrin- Quinone Architectures p.40
Chapter 3 Induced-Fit Adjustabilityof Flexible Molecular-Clefts Composed of Convergent Quinolyl Groups: A Sizable Selectivity Arising from theStructural Correspondence of Aromatic Guest and Aromatic Spacer of the Guest p.82
Chapter 4 Enantioselectivity in theInteraction of Calf Thymus DNA withAcridine Derivatives Having an Amino Ester or Amino Alcohol Substituent p.103
List of Publications p.123
生体系における、酵素や抗体、膜中の様々な分子認識に由来する現象は、多数の分子間相互作用を巧みに組み合わせることによって成り立っている。なかでも水素結合は酵素の基質認識等において重要な役割を果している。そこで本研究では多点水素結合に基づくアミノ酸、核酸等の生体関連物質及びその他の極性分子の分子認識とその機構について詳細に検討した。
第1章、第2章では、ポルフィリン類のrigidな骨格を利用した多点水素結合場におけるアミノ酸やキノン類の多点水素結合補捉とその選択性を分子認識の観点から論じている。
対角線上のメゾ位に2-ヒドロキシナフチル基をトランス及びシス配置で持つポルフィリン1及び2は、それぞれアミノ酸やキノン類を多点捕捉する。その駆動力は水素結合に基づいており、このことを水酸基のIR及びNMRシグナルの低波数側及び低磁場側へのシフトにより確認した。また、分光光度法及びNMR分光法によって錯形成の平衡定数を測定し、多点相互作用の選択性を詳細に検討した。その結果、多点水素結合におけるそれぞれの相互作用は、分子内相互作用として働き(分子内水素結合)、エントロピー変化が分子間相互作用と比べてそれほど不利にならないことがわかった。このため、アミノ酸やキノン類を多点捕捉すれば、著しい選択性が発現することが明らかになった。さらに、多点相互作用に基づく分子認識を利用することにとって、中性の水溶液中のアミノ酸を選択的に有機溶媒中に抽出し、他の水層へ輸送すること(第1章)、光合成の電荷分離モデル系を共有結合を用いず多点水素結合によって構築し、その構造体が光照射により極めて有効な電子移動が起こること(第2章)、等を明らかにした。
第3章では、求心的に配置されたキノリル基によって構築されるflexibleな多点水素結合場を有するホストによるジカルボン酸やポリヒドロキシベンゼン類の選択的多点捕捉について論じている。
ベンゼン環の1, 4位にエステル結合によって連結されたキノリル基を有するジキノリルホスト(3)は、ジカルボン酸を二点水素結合によって有機溶媒中に抽出する。この抽出は、ジカルボン酸のメチレン鎖長選択的であり、こはく酸に対して著しい選択性を示した。また、3のフェノール、カテコール、ヒドロキノンに対する結合定数(K, M-1)は、それぞれフェノール、レゾルシノール、フロログルシノールと多点相互作用しており、NMR分光法によって錯形成の平衡定数を測定し、多点水素結合の選択性を検討した。その結果、水素結合点が1点、2点、3点と増えるに従い平衡定数(K, M-1)も1、10、100と増大することがわかった。このことより、flexibleな構造を有するホストであってもゲスト捕捉において誘導結合(induced fit)により著しい選択性を示すことがわかった。また、これらのホストは容易に合成できることから、この方法は今後、芳香族性のゲストに対するレセプターを新たに設計する際の一つの重要な指針と成りえる。
第4章では、光学活性なアミノアルコールもしくはアミノエステルを有するアクリジン誘導体と核酸との相互作用を論じている。
アクリジンはDNA二重ら旋に挿入(インターカレート)することが知られており、これに種々の極性側鎖を持った光学活性アミノ酸誘導体(アルコール及びエステル)を導入すれば、光学選択性や、水素結合に基づく高結合能が発現するのではないかと考え検討を行った。分光光度法を用いたScatchard解析によって相互作用を検討した結果、(1)DNAへの結合能は減少すること、(2)D体に対してL体の方が親和性が高いこと(光学選択性の発現)が明らかになった。