本文ここから

スペクトル拡散通信方式の周波数利用効率向上に関する研究

氏名 佐々木 重信
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第26号
学位授与の日付 平成5年3月25日
学位論文の題目 スペクトル拡散通信方式の周波数利用効率向上に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 丸林 元
 副査 教授 大竹 孝平
 副査 教授 荻原 春生
 副査 教授 袖山 忠一
 副査 助教授 太刀川 信一

平成4(1992)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 序論 p.1
1.1 まえがき p.1
1.2 スペクトル拡散通信方式の歴史 p.2
1.3 スペクトル拡散通信方式の原理とシステム p.4
1.3.1 直接拡散(DS)方式 p.6
1.3.2 周波数ホッピング(FH)方式 p.8
1.3.3 その他の方式 p.8
1.4 本論文の概要と位置づけ p.10
文献 p.11
第2章 並列組合せSS通信方式とその写像法、復調法に関する研究 p.13
2.1 本章の概要 p.13
2.2 PC/SS通信方式の基本原理
2.2.1 既存直接拡散方式とPC/SS方式 p.13
2.2.2 基本原理 p.14
2.3 PC/SS通信システムの構成 p.17
2.3.1 システム構成 p.17
2.3.2 周波数利用効率と処理利得 p.21
2.3.2.1 周波数利用効率 p.21
2.3.2.2 処理利得 p.22
2.4 分割写像法と最尤判定復調法 p.25
2.4.1 写像法 p.25
2.4.2 分割写像法による写像 p.26
2.4.3 並列組合せ系列の最尤判定による復調法 p.26
2.5 最尤判定で復調した場合の誤り率特性 p.29
2.5.1 並列組合せ系列の誤り率 p.29
2.5.2 ビット誤り率 p.32
2.5.3 シミュレーションおよび考察 p.35
2.6 まとめ p.39
文献 p.42
付録 p.43
第3章 並列組合せSS通信方式における誤り制御に関する研究 p.49
3.1 本章の概要 p.49
3.2 PC/SS通信システムと誤り制御 p.49
3.2.1 PC/SS通信システム p.49
3.2.2 PC/SS方式における誤り制御法 p.50
3.3 通常の符号化法 p.53
3.3.1 リード・ソロモン符号による符号化 p.53
3.3.2 符号語の誤り率とビット誤り率 p.54
3.4 誤り制御を用いた写像法 p.60
3.4.1 巡回重み一定符号を用いた2重相関による誤り抑圧法 p.60
3.4.2 システム構成 p.62
3.4.3 系列選択用符号の設計 p.65
3.4.4 シミュレーション結果 p.66
3.4.5 通常の符号化法との比較 p.66
3.5 まとめ p.68
文献 p.69
第4章 並列組合せSS通信方式の多元接続性能の研究 p.70
4.1 本章の概要 p.70
4.2 並列組合せSSMAにおける多元接続モデル p.71
4.2.1 並列組合せSS通信システムモデル p.71
4.2.2 SSMAシステムモデル p.71
4.3 多元接続性能の考察 p.71
4.3.1 1局当たりに必要な拡散系列数 p.74
4.3.2 PC/SSMAにおける他局間干渉の影響と平均SN比 p.74
4.3.3 多元接続局数と周波数利用効率 p.76
4.4 誤り制御技術を適用した場合の多元接続性能 p.80
4.5 まとめ p.84
文献 p.84
付録 p.85
第5章 総括 p.89
謝辞 p.93
発表論文一覧 p.94

 情報化社会といわれる今日において、通信の占める役割は、ますます重要なものとなってきている。このような中で将来の通信形態として、公共的な通信網において端末がパーソナル化したパーソナル通信、あるいは微弱無線、電灯線等を通信路として用い、通信網の管理、運用を自主的に行なうコンシューマ通信が注目されている。このような通信では通信回線として理想的とはいえない状況の中で多様な要求を満足する必要があり、用いる通信方式も、これに耐え得るものが求められている。
 この中で、最近、スペクトル拡散(Spread Spectrum:SS)通信方式が注目を集めている。SS通信方式は、情報信号を、それと独立した高速の拡散信号を用いてその周波数スペクトルを非常に広い領域に拡散させて通信を行なう方式で、妨害や干渉に強い、秘話性、秘匿性に優れる等の長所を持つ。
 しかしながら、SS方式が広く実用化されてゆくためには、解決すべき多くの問題がある。その中で最も大きいものは、周波数利用効率を他の方式に比べて高めにくいことである。将来、SS方式が、音声伝送、工場内におけるデータ通信、無線LAN等多様な用途にわたって応用されていくことを考えた場合、SS方式自体の周波数利用効率を高めるための研究が必要不可欠なものとなってくる。
 本論文は、このような問題点を解決するために、SS方式自体の周波数利用効率の向上を図ったものである。その実現のために本論文では、新しいSS方式として先に提案された、並列組合せSS(Parallel Combinatory Spread Spectrum:PC/SS)通信方式について検討した。PC/SS方式は、情報データを低速の並列データに分割し、これを1局に用意した複数の拡散系列の組合せに変換してデータを伝送することにより、拡散系列1周期あたりに伝送できる情報ビット数の増加を図った方式である。本方式は、複数の拡散系列からデータの状態に応じて1つを選んで送信するM-ary/SS方式に比べ、系列選択の自由度が高くなるため、拡散系列1周期あたりに伝送できるデータ量がはるかに大きくなる。また多元接続の観点から見た場合、1局当たりに割り当てる拡散系列数を少なくできるため、ネットワークを構成する上で、より多くの局に拡散系列を割り当てることが可能である。
 本論文では、PC/SS方式のシステム構成法と基本性能、誤り制御技術の適用法とその効果、多元接続性能について検討を行った。
 第2章では、PC/SS方式単体のシステムの構成と基本性能について検討を行った。ここではまず、PC/SS方式の概要を直接拡散SS(DS/SS)方式等の従来のSS方式との関連にふれつつ示した。そして送信側の具体的なシステム構成法として、データから系列の組合せへの変換を行なう際に、情報データを、送信する拡散系列の組合せを表現するデータと、送信する拡散系列の状態を表わすデータとに分割した変換を行なう分割写像法について、系列の組合せを得るためにSchalkwijkの重み一定符号を用いる方法を提案した。また受信側について、送信側の写像法に対応した最尤判定復調法を提案し、性能評価を行った。その結果、符号化なしのBPSK方式と比べ、データ速度、所要帯域が同じ場合、ビット当たりの所要SN比を低減できることがわかった。
 第3章では、PC/SS方式における誤り制御技術の適用法とその効果について検討した。ここでは、PC/SS方式の性質を生かし、通常の符号化法としてリード・ソロモン符号を用い、誤り率の理論式をもとに最適の符号化率を求め、ビット誤り率の改善が得られることを示した。またもう一つの方法として、PC/SSシステム中の、データを拡散系列の組合せに変換する部分に誤り制御を組み込む方法について検討した。ここでは、送信側でChungらの巡回重み一定符号を用いて変換を行ない、受信側において拡散系列との相関出力の組をさらに重み一定符号と相関をとって最尤判定することにより、性能の改善が図れることを示した。
 第4章では、PC/SS方式を多元接続で用いた際の性能について検討を行った。ここでは、1ユーザ当りに必要な拡散系列の数、周波数利用効率の面から検討を行った結果、本方式を用いることにより1ユーザ当たりの系列数を少なくし、かつ周波数利用効率が改善されることを示した。そして、さらに高い周波数利用効率を得るために、3章で述べた誤り制御技術を用いた場合のPC/SS方式の多元接続性能について検討し、誤り制御技術の併用により、非常に高い周波数利用効率が得られ、本方式が、SS方式の周波数利用効率の改善に有効なことを示した。

ページの先頭へ戻る