橋梁構造物の最適構造設計の実用化に関する研究
氏名 平山 博
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第77号
学位授与の日付 平成5年3月25日
学位論文の題目 橋梁構造物の最適構造設計の実用化に関する研究
論文審査委員
主査 教授 林 正
副査 教授 小川 正二
副査 教授 鳥居 邦夫
副査 助教授 長井 正嗣
副査 助教授 池田 清宏
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目次
記号
第1章 序論
1.1 緒言 p.1
1.2 既往の研究 p.3
1.2.1 最適構造設計の問題点 p.3
1.2.2 最適化問題の効率的な数値計算法 p.4
1.2.3 プレストレスを考慮した最適構造設計 p.6
1.2.4 多目的計画法と多目的最適構造設計 p.8
1.3 研究目的と概要 p.11
参考文献 p.13
第2章 最適構造設計のための数理計画法
2.1 概説 p.17
2.2 逐次線形計画法 p.18
2.3 多目的数理計画法 p.20
2.3.1 目標計画法 p.20
2.3.2 非線形目標計画法 p.22
2.4 まとめ p.23
参考文献 p.23
第3章 立体骨組構造物の最適化計算法
3.1 概説 p.24
3.2 構造解析と設計条件 p.25
3.2.1 最適設計条件 p.25
3.2.2 構造解析と荷重条件 p.31
3.3 最適化計算法 p.32
3.3.1 最適構造設計の安式化 p.32
3.3.2 余裕変数の導入 p.33
3.3.3 制約条件式の選択 p.34
3.3.4 感度係数の計算 p.35
3.3.5 道路橋示方書の適用 p.37
3.3.6 ムーブリミットの変更 p.38
3.3.7 非許容解の改良 p.39
3.3.8 修正逐次線形計画法 p.40
3.4 まとめ p.41
参考文献 p.42
第4章 プレストレスを考慮した最適構造設計法
4.1 概説 p.43
4.2 プレストレスを考慮した最適化 p.44
4.2.1 プレストレスの設計条件 p.44
4.2.2 プレストレスの最適化 p.45
4.3 斜張橋の最適構造設計法 p.47
4.3.1 設計条件 p.47
4.3.2 最適構造設計法 p.49
4.4 まとめ p.53
参考文献 p.54
第5章 逐次線形計画法による最適構造設計
5.1 概説 p.55
5.2 トラス橋 p.56
5.3 連続箱桁橋 p.59
5.4 アーチ橋 p.62
5.5 2径間連続斜張橋 p.64
5.6 3径間連続斜張橋 p.72
5.7 数値計算法の考察 p.80
5.7.1 制約条件式の選択数 p.80
5.7.2 非許容解の改良法 p.82
5.7.3 修正SLPの効率性 p.84
5.7.4 総括 p.86
5.8 まとめ p.87
参考文献 p.88
第6章 非線形目標計画法による最適構造設計
6.1 概説 p.89
6.2 変位制約問題 p.90
6.2.1 目標計画法の適用 p.90
6.2.2 単一変位制約の問題 p.92
6.2.3 2変位制約の問題 p.98
6.2.4 考察 p.105
6.3 片側目標計画法 p.105
6.3.1 片側目標計画法の適用 p.105
6.3.2 3径間連続桁橋 p.106
6.3.3 単径間トラス橋 p.108
6.3.4 考察 p.111
6.4 応力調整問題 p.112
6.4.1 ニールセン橋の最適構造設計法 p.112
6.4.2 下略式アーチ橋 p.114
6.4.3 3径間連続アーチ橋 p.121
6.4.4 考察 p.124
6.5 まとめ p.125
参考文献 p.125
第7章 結論 p.127
謝辞 p.129
構造物の設計、特に橋梁構造物のように高次の不静定構造物の設計計算には、多大の労力と長い期間を必要とする。そのため、現状の設計業務に対して大幅な省力化を図ることが望まれている。この要望にこたえるために、構造物の設計を最適化問題として定式化し、数理計画法を用いて最適な設計量を決定する最適構造設計法に関する研究が、様々な分野で活発に行われている。しかし、本研究で対象とする橋梁構造物の設計においては、最適構造設計法が十分に役立っているとは言い難く、実用化はかなり遅れているように見受けられる。
橋梁構造物の設計では、一般に部材数の多い大規模な骨組構造を対象とし、設計変数と考慮すべき制約条件式の数も多い。したがって、橋梁構造物の最適構造設計は大規模な非線形最適化問題となるために、数値計算で実用化への障害が起きているものと考えられる。さらに、実際の設計では、目的が一つとは限らず数多く存在する場合もあり、これを忠実に表現するには複数個の目的関数を同時に考慮する必要が生じるため、問題は一層難しくなる。
本論文は、種々の形式の鋼橋梁構造物を対象とする実用的な最適構造設計法の開発を目的として、数値計算の効率化に重点を置いた最適化計算法の検討から、プログラムの構築まで含めた総合的な研究を行ったものである。
本論文は7章から成り、各章の概要を以下に示す。
第1章では、本研究に関する既往の研究について考察し、本研究の目的と意義を述べている。
第2章では、最適構造設計を行う上で基礎となる数理計画法について論じており、本研究で非線形最適化法として用いる逐次線形計画法と、多目的最適化法として用いる非線形目標計画法の基礎式を誘導している。
第3章では、立体骨組構造物の最適化計算法について論じている。まず、本研究で採用する設計条件について記述しており、実用性を重視して、道路橋示方書の規定をできる限り広範囲にわたって考慮し、立体骨組解析法を使用して、実構造物により忠実な応力状態で全部材の板幅・板厚を同時に設計できるようにしている。次に、大規模な非線形最適化問題を効率よく解くための数値計算法について検討している。性質の異なるものが混在する示方書の照査式を4種類の無次元化した余裕変数で表して、制約条件式の取扱いを容易にし、考慮すべき膨大な制約条件式の中から有効な式のみを選択する方法を考案して、大規模な数値計算を可能にしている。さらに、反復計算の収束性を改善するためのムーブリミットの制御方法や、非許可領域に飛び出した設計点を速やかに改良する方法、ならびに感度解析を適宜省略する手法について研究し、計算時間の大幅な短縮化を実現している。
第4章では、プレストレスを考慮した最適構造設計法について論じている。まず、非正の設計変数も扱えるように逐次線形計画法の基礎式を拡張し、全域的最適解が得られるように、断面寸法とプレストレスに関する設計変数を同時に最適化する計算法について検討している。さらに、プレストレスの適切な初期値を自動的に決定する計算法や、最適化の各反復過程で激しく振動するプレストレスに対して設計点を補正する計算法について研究し、数値計算の安定性を向上させるとともに、死荷重とプレストレス作用時に塔に曲げ変形が起きない斜張橋の最適構造設計法を開発している。
第5章では、種々の異なる形式の実橋規模の構造物について最適構造設計を行い、3章および4章で提案した最適化計算法の効率性と開発したプログラムの実用性について検証している。そして、大規模な設計問題に適用した場合でも、最適解が実用的な計算時間で確実に求められることを示し、さらに、実橋の設計値との比較や初期値を変更した場合の計算を行い、本最適設計法の妥当性および信頼性を確かめている。
第6章は、非線形目標計画法を用いた多目的最適化に関する内容である。まず、非線形目標計画法を実橋規模の多目的最適設計問題に適用し、様々な観点から解法の実用性について検討している。そして、大規模な問題に適用しても、数値計算上の障害もなく精度のよい最適解が求められることを示すとともに、特に、すべての制約を満たす初期値が設定しにくい場合や実行可能解が存在しない場合には、通常の単一目的として扱う方法よりも、片側目標計画法の方が安定性・収束性に優れていることを明らかにしている。さらに、この解法の特長を吊材の応力調整問題に活用して、ニールセン系アーチ橋の最適構造設計法を開発している。
第7章では、本研究で得られた成果を総括している。
以上述べたように、数値計算上の様々な問題点を克服して、実用的な最適構造設計法を開発したことにより、鋼橋の概略設計業務において大幅な省力化が可能となる。