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Chaos Synchronization of Multidelay Feedback Systems and Its Application in Secure Communications(多重遅延フィードバックシステムのカオス同期と秘匿通信への応用)

氏名 Hoang Manh Thang
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第430号
学位授与の日付 平成19年8月31日
学位論文題目 Chaos Synchronization of Multidelay Feedback Systems and Its Application in Secure Communications (多重遅延フィードバックシステムのカオス同期と秘匿通信への応用)
論文審査委員
 主査 教授 中川 匡弘
 副査 教授 荻原 春生
 副査 教授 福村 好美
 副査 准教授 太刀川信一
 副査 准教授 岩橋 政宏

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List of Abbreviations p.vii
List of Figures p.ix
List of Tables p.xiii
Abstract p.xv
Chapter 1. Introduction
 1.1 Research Motivations p.1
 1.2 Research Objectives p.2
 1.3 Original Key Contributions p.3
 1.4 Organization of This Dissertation p.4
Chapter 2. Chaos Synchronization and Its Application in Communications
 2.1 A Historical Overview of Chaos Synchronization p.7
 2.2 Research Backgrounds on Chaos Synchronization p.8
 2.2.1 Schemes of Synchronization of Coupled Chaotic Systems p.8
 2.2.1.1 Identical Synchronization p.9
 2.2.1.2 Generalized Synchronization p.10
 2.2.1.3 Projective Synchronization p.11
 2.2.1.4 Phase Synchronization p.12
 2.2.1.5 Lag Synchronization p.12
 2.2.1.6 Anticipating Synchronization p.13
 2.2.2 Control Approaches to Achieve Synchronization p.13
 2.2.2.1 OGY-based Approach p.14
 2.2.2.2 Feedback-control-based Approach p.15
 2.2.2.3 Adaptive-control-based Approach p.16
 2.2.2.4 Observer-based Approach p.16
 2.3 Applications of Chaos Synchronization in Communications p.18
 2.3.1 Chaotic On-Off-Keying p.19
 2.3.2 Chaos Shift Keying p.19
 2.3.3 Chaotic Masking p.21
 2.3.4 State Variable Modulation p.22
 2.3.5 Parametric modulation p.22
 2.4 Applications of Chaos Synchronization in Secure Communications p.23
 2.4.1 Chaotic Cryptography p.23
 2.4.2 Chaotic Secure Communications p.24
 2.5 Summary p.25
Chapter 3. Chaos Synchronization of Coupled Multidelay Feedback Systems with Multidelay Driving Signal
 3.1 Overview of Time Delay Feedback Systems p.28
 3.2 The Complexity Analysis for MDFSs p.30
 3.3 The Proposed Synchronization Model p.31
 3.4 Lag Synchronization p.32
 3.5 Projective-Lag Synchronization p.34
 3.6 Anticipating Synchronization p.37
 3.7 Projective-Anticipating Synchronization p.38
 3.8 The Proposed Synchronization Model of Coupled Nonidentical MDFSs p.40
 3.8.1 Structure of Master Partially Identical to That of Slave p.42
 3.8.2 Structure of Master Completely Nonidentical to That of Slave p.45
 3.9 Numerical Simulation p.47
 3.9.1 Complexity Evaluation for Two Delay Mackey-Glass System p.47
 3.9.2 Simulation for Synchronization Schemes on the Proposed Models p.49
 3.10 Discussions p.60
 3.11 Conclusions p.63
Chapter 4. Application of Synchronization of Coupled Multidelay Feedback Systems in Secure Communications
 4.1 Overview of Chaotic Secure Communications p.65
 4.2 Novel Secure Communication Model Using Synchronization of Coupled Multidelay Feedback Systems p.67
 4.2.1 Novel Modulation Scheme of Synchronization manifold Shift Keying p.67
 4.2.2 Secure Communication Model Using Lag and/or Anticipating Synchronization p.68
 4.2.3 Application of Projective-Lag and/or Projective Anticipating Synchronization in The Proposed Model p.71
 4.3 Numerical Simulation p.73
 4.4 Security Analysis for The Proposed Security Model p.80
 4.4.1 Applicability of Conventional Methods to the Proposed Secure Communication System p.82
 4.4.2 Identifying Potential Attacking Methods p.85
 4.5 Performance Analysis for The Proposed Secure Communication Model p.86
 4.5.0.1 Transmission Rate p.87
 4.5.0.2 Bit-Error Rate versus Signal-to-Noise Ratio p.88
 4.6 Discussions p.95
 4.7 Conclusions p.96
Chapter 5. Security Enhancement for The Proposed Communication Model
 5.1 Revisitation for The Proposed Chaotic Secure Communication Model p.99
 5.2 Security Enhancement via Non-stationary Dynamics by Changing Values of Master's Parameters p.100
 5.2.1 The Security Model Using Lag and/or Anticipating Synchronization p.100
 5.2.2 The Security Model Using projective-Lag and/or Anticipating Synchronization p.101
 5.3 Security Enhancement via Non-stationary Dynamics by Changing Values of Manifolds' Delays p.102
 5.4 Numerical Simulation p.104
 5.5 Discussions p.118
 5.6 Conclusions p.121
Chapter 6. Conclusion and Future Research
 6.1 Summary p.123
 6.2 Future Research p.126
Bibliography p.129
Acknowledgments p.147
Curriculum Vitae p.149

 本論文では、多重遅延フィードバックシステムにおけるカオス同期とその秘匿通信への応用について論じた。具体的には、多重遅延駆動信号の同期モデルを提案し、その秘匿通信への応用の可能性を示した。また、同期多様体シフトキーイング通信方式と呼ばれる変調方式を提案し、新規秘匿通信モデルの設計に適用した。さらに、情報通信のセキュリティを改善するための一手法として、パラメータのカオス制御による非定常的ダイナミクスに基づいたモデルを提案し、セキュリティに関する解析結果から本秘匿通信手法が、従来のクラッキング法に対して高い堅牢性を有していることを見出した。
 これまで、単一遅延や多重遅延フィードバックシステムにおけるカオス同期が注目され、駆動信号が状態変数の線形、或いは、非線形写像の加算形で与えられるような場合について論じられてきた。しかしながら、第2章で論じられるように、そのような場合には、マスター側のダイナミクスが容易にクラックされ得るため、そのような同期手法は一般に秘匿通信には適さないことが指摘されている。そこで、第3章では、多重遅延フィードバックシステムを秘匿通信に対して適用することを試みる。具体的には、駆動信号を多重遅延型状態変数の線形或いは非線形加算の形に一般化する。さらに、新規な多重遅延駆動信号を有する多重遅延フィードバックシステムを構築し、Krasovskii-Lyapunovの定理を多重遅延に拡張することによりその同期条件を明らかにした。提案モデルの駆動信号は、高次カオス信号であり、従来の駆動信号よりも極めて複雑であり、その秘匿性において優れている。さらに、リアプノフ解析の結果、提案システムはハイパーカオスであり、より高い複雑性を有するため、アトラクタの再構成のような従来手法では、容易にクラッキングが達成されないことが明らかとなった。また、同期状態間の遷移は、遅延時間や結合定数等のパラメータによって実現され得ることが示された。本章における解析の結果、多重遅延駆動信号を有する多重遅延フィードバックシステムは、秘匿性の高い通信システムに適用可能であることが明らかとなった。
 また、従来のカオスセキュリティモデルにおいて、低次元カオスの適用のためシステムが脆弱であり、加えて伝送信号の複雑性が比較的低く、符号器においては、伝送信号とカオス信号の単純な混合やカオス力学系の切り替えによる符号化方式が主流であった。そこで、第4章では、上記の欠点を克服するため、多重遅延フィードバックシステムが再構成の危険性が極めて低いことから、同期多様体シフトキーイングを提案し、それを多重遅延フィードバックシステムに導入することを目的とする。本手法では、多様なビットブロックに対して異なる同期多様体が対応し、このようなシフトキーイングの手法は、上記のように伝送信号とカオス信号を直接混合しないため、通信路で混入し得る加算性の雑音に対する堅牢性が一層向上することが期待される。結果として、本カオス秘匿通信手法は、従来のカオス秘匿通信手法の短所を克服し、さらに、本研究における解析結果から、従来のクラッキングに対する高い堅牢性を有していることが明らかとなった。
 前章で提案された秘匿通信手法においては、符号器のダイナミクスが定常であるような同期多様体シフトキーイングと多重遅延フィードバックシステムを用いていた。一方、カオスダイナミクスを支配しているパラメータ自体を頻繁に変動するようなシステムでは、定常性の欠落のために、さらに秘匿性が向上することが期待される。そこで、第5章では、符号器のパラメータをカオス変数で制御し非定常化することにより、従来の定常的ダイナミクスの情報抽出に基づくクラッキング手法の適用が一層困難になることが期待される。さらに、本研究では、非定常な符号器に関してもカオス同期が実現され、多重カオスアトラクターと多重同期多様体が生成されることが分かった。このことから、符号器の非定常性は、セキュリティのレベルを高める上で極めて有効であることが示唆される。
 最後に、第6章においては、本研究で得られた成果を総括し、さらに実用化に向けた今後の課題について述べた。
 上記のように、本論文では、多重遅延フィードバックシステムの同期モデルを提案し、さらに、駆動信号を遅延カオス系で生成された高次元カオスである状態変数の遅延非線形和として与えることにより、新しいカオス秘匿通信モデルを提案した。また、そのような多重遅延システムに対してKrasovskii-Lyapunov定理を拡張することにより、カオス同期現象が定常、非定常な符号器に対して実現され得る事を明らかにした。従って、本提案手法は、高次カオスによる伝送信号の高い複雑性に加えて、クラッキングに対する堅牢性を備えており、従来のカオス秘匿通信モデルと比較して、より高い秘匿性を実現手法として期待される。また、多重遅延フィードバックシステムに同期多様体シフトキーイングを導入することにより、高い秘匿性と耐伝送ノイズ特性を実現し得ることが示された。

 本論文は"多重遅延フィードバックシステムのカオス同期と秘匿通信への応用"と題し、以下のように全6章から構成されている.
 まず、第1章では、カオス秘匿通信システムの歴史的な背景と従来の秘匿通信モデルについて概説し、本研究の目的と本論文の構成について述べている。さらに、第2章では、カオス同期と秘匿通信に関する従来技術に関する問題点を指摘している。
 これまで、単一遅延や多重遅延フィードバックシステムにおけるカオス同期が注目され、駆動信号が状態変数の線形或いは非線形写像の加算形で与えられるような場合について主に論じられているが、そのような駆動信号を観測することにより、マスター側のダイナミクスが容易に推測され得るため、そのような同期手法は一般に秘匿通信には適さないことが指摘されている。そこで、第3章では、多重遅延フィードバックシステムを秘匿通信に対して拡張することを試みている。具体的には、駆動信号を多重遅延型状態変数の線形或いは非線形加算の形に一般化し、新規な多重遅延駆動信号を有する多重遅延フィードバックシステムを構築すると共に、Krasovskii-Lyapunovの定理を多重遅延に拡張することによりその同期条件を明らかにしている。その結果、提案モデルの駆動信号は、高次カオス信号であり、従来の駆動信号よりも極めて複雑であり、その秘匿性において優れていることを示している。
 また、従来のカオスセキュリティモデルにおいて、低次元カオスの適用のためシステムが脆弱であり、また、伝送信号の複雑性が比較的低く、符号器においては、伝送信号とカオス信号の単純な混合やカオス力学系の切り替えによる符号化方式が主流であった。そこで、第4章では、上記の欠点を克服するため、多重遅延フィードバックシステムが再構成の危険性が極めて低いことから、同期多様体シフトキーイングを提案し、それを多重遅延フィードバックシステムに導入することを目的とする。本手法では、多様なビットブロックに対して異なる同期多様体が対応し、このようなシフトキーイングの手法は、上記のように伝送信号とカオス信号を直接混合しないため、通信路で混入し得る加算性の雑音に対する堅牢性が一層向上することが期待される。結果として、本カオス秘匿通信手法は、従来のカオス秘匿通信手法の短所を克服するものであり、アトラクタの再構成のような従来のクラッキングに対する高い堅牢性を有していることが明らかにされた。
 次に第5章では、符号器のパラメータをカオス変数で制御し非定常化することにより、従来の定常的ダイナミクスの情報抽出に基づくクラッキング手法の適用が一層困難となる新規なカオス秘匿通信モデルを提案している。さらに、本研究では、非定常な符号器に関してもカオス同期が実現され、多重カオスアトラクターと多重同期多様体が生成されることが分かった。このことから、符号器の非定常性は、セキュリティのレベルを高める上で極めて有効であることを示している。
 第6章では、以上の検討によって得られた結論をまとめ、さらに、今後の課題を記してた。
 本研究の成果から、本論文で提案した多重遅延フィードバックモデルの秘匿通信システムにおける有用性、並びに、新規カオスシフトキーイング技術に関して新機軸を確立しており、カオス同期モデルの秘匿通信技術への応用に関して新機軸が確立された。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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