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中温作動固体酸化物燃料電池の空気電極材料としてのランタン鉄ニッケル酸化物(LNF)における耐クロム被毒特性および熱的安定性

氏名 小松 武志
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第446号
学位授与の日付 平成19年12月31日
学位論文題目 中温作動固体酸化物燃料電池の空気電極材料としてのランタン鉄ニッケル酸化物(LNF)における耐クロム被毒特性および熱的安定性
論文審査委員
 主査 教授 佐藤 一則
 副査 教授 松下 和正
 副査 教授 梅田 実
 副査 准教授 松原 浩
 副査 准教授 齊藤 信雄
 副査 特任教授 井上 泰宣

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第1章 序論 p.1
 1.1 はじめに p.1
 1.2 SOFCの原理 p.5
 1.3 SOFCの特徴 p.6
 1.4 SOFCの構成材料と構造 p.6
 1.4.1 SOFCの構成材料 p.6
 1.4.2 SOFCの構造 p.8
 1.5 SOFCの作動温度の低温化とその意味 p.9
 1.6 中温作動SOFCの課題 p.9
 1.6.1 低温化による空気極性の低下 p.10
 1.6.2 合金セパレータの適用によるクロム被毒 p.10
 参考文献 p.15
第2章 LNF[LaNi(Fe)O3] p.17
 2.1 空気極に求められる特性 p.17
 2.2 LNF開発の経緯と諸特性 p.17
 2.3 本研究の目的 p.25
 参考文献 p.27
第3章 LNFの熱的安定性、及び空気極材料のクロム酸化物に対する化学的安定性 p.29
 3.1 はじめに p.29
 3.2 実験方法 p.29
 3.2.1 試料の作製 p.29
 3.2.2 測定 p.30
 3.2.2.1 X線回折測定 p.30
 3.2.2.2 Rietveld解析 p.30
 3.3 結果と考察 p.31
 3.3.1 LNF粉末自体の熱的安定性 p.31
 3.3.1.1 LNF粉末のX線回折パターン p.31
 3.3.1.2 LNF粉末のRietveld解析 p.33
 3.3.2 空気極材料のクロム酸化物に対する化学的安定性 p.38
 3.3.2.1 LNFとクロム酸化物の混合粉末のX線回折パターン p.38
 3.3.2.2 LNFとクロム酸化物の混合粉末のRietveld解析 p.40
 3.3.2.3 LSMとクロム酸化物の混合粉末のX線回折パターン p.45
 3.3.2.4 LSMとクロム酸化物の混合粉末のRietveld解析 p.47
 3.3.2.5 LSCFとクロム酸化物の混合粉末のX線回折パターン p.49
 3.3.2.6 LSCFとクロム酸化物の混合粉末のRietveld解析 p.51
 3.4 まとめ p.56
 参考文献 p.58
第4章 クロム被毒に対するLNFの電気化学的安定性 p.60
 4.1 はじめに p.60
 4.2 実験方法 p.60
 4.2.1 セルの作製 p.60
 4.2.1.1 LSM/SASZ/Ni-YSZセルの作製 p.62
 4.2.1.2 LNF/SASZ/Ni-YSZセルの作製 p.62
 4.2.1.3 LSCF/GDC/SASZ/Ni-YSZセルの作製 p.63
 4.2.2 発電実験 p.63
 4.2.3 空気極構造の観察 p.66
 4.2.4 空気中の気相クロム化学物のシュミレーション p.66
 4.3 結果と考察 p.67
 4.3.1 クロム被毒のLSM空気極の電気化学特性に及ぼす影響、及び本測定系の妥当性 p.67
 4.3.2 クロム被毒のLNF空気極の電気化学特性に及ぼす影響 p.71
 4.3.2.1 空気極に乾燥空気を供給する場合 p.71
 4.3.2.2 空気極に加湿空気を供給する場合 p.71
 4.3.3 クロム被毒のLSCF空気極の電気化学特性に及ぼす影響 p.75
 4.3.4 空気極のキャラクタリゼーション p.77
 4.3.5 LNFを空気極に用いたセルの長寿命試験 p.82
 4.3.4 クロム被毒の機構について一考察 p.83
 4.4 まとめ p.85
 参考文献 p.87
第5章 結論 p.88
業績リスト p.90
 自著論文 p.90
 共著論文 p.90
 国際会議 p.91
 口頭発表 p.91
 特許 p.92
謝辞 p.93

 近年、環境・エネルギーに関する問題がクローズアップされ、環境負荷の少ないクリーンな発電システムとして個体酸化物形燃料電池(SOFC)が注目を集めている。特に、低コスト化の取り組みとしてSOFCの作動温度を高温領域(1000℃)から中温領域(800℃以下)へ低下する検討が活発に行われている。作動温度が低くなれば、インターコネクタなど燃料電池構成部材としてセラミックの材料の代わりに合金の使用が可能となる。合金を使用することの利点は、(1)比較的安価で整形性がよい、(2)高い熱導電率を有しており、セルの熱応力緩和が図られる、(3)電子伝導性が高い、(4)ガスの非透過性が高い、(5)機械的強度がある、などである。すなわち、合金が使用できれば、SOFCのシステム開発も飛躍的に前進するものと考えられる。また中温作動のSOFCの実現身向け、SOFCに関する材料、同材料を用いたセルの作成及びスタック構成の研究が精力的にとともに行われている。例えば、セルの空気極材料として注目されているランタン鉄ニッケル酸化物[LaNi(Fe)O3、LNF]は作動温度である800℃領域で電気伝導率及び電気化学的活性が高く、電解質材料と熱膨張係数が合っている等、燃料電池の空気極として機能するための要求条件を満たしている。
 中温作動SOFCでは、セルを直並列に接続するためのインターコネクタに高温の参加雰囲気に耐えうる材料としてクロム含有合金が候補に挙げられている。しかしながらクロム含有合金を用いる場合、高温の参加雰囲気下で合金からクロム化合物が気相に拡散し、空気極と空気極/電解質海面に析出し、酸化剤学の電気化学反応を阻害して、発電開始から数~数十時間以内に空気極の過電圧が著しく増加し、燃料電池の発電性能を大きく低下させるクロム被毒と呼ばれている現象が起こることが知られている。そのため実用化するためには、燃料電池の寿命にかかわる健闘としてLNFのクロム被毒に対する知見が必要と考える。また、発電雰囲気下におけるLNF自体の熱的安定性についても知られていない。
 そこで本研究ではインターコネクタを用いるLNF空気極材料の適用性を検討するために、クロム被毒を受けることで知られているLSM[La(Sr)MnO3]、触媒活性が高いことで注目を集めているLSCF[La(Sr)Co(Fe)O3]と比較しながら、LNF空気極を用いたセルの発電試験を行い、LNF自体の熱的安定性を評価するとともにLNFのクロム被毒に対する影響を調べた。
 LNF粉末自体の熱的安定性を検討するために、LNF粉末を800℃で100-1000時間加熱した試料についてX線回折パターンの測定とRietveld解析を行った。LNFは本加熱時間内において結晶構造が変化しないこと、分解生成物と考えられるピークは明確に見られないことがわかった。また、空気極材料とクロム酸化物の反応性を検討するために、LNFとCr2O3の混合粉末についても加熱処理を行った。LNFとCr2O3の混合粉末においてLNFは結晶構造が変化しないこと、また1000時間加熱後もCr2O3の存在を確認できるのに対しLSMとCr2O3の混合粉末とLSCFr2O3の混合粉末ではそれぞれ400時間、600時間加熱後にCr2O3のピークが見られないことがわかった。以上の結果から、LNF粉末はクロム酸化物との反応性が低いため、クロム被毒に対して安定である可能性が示唆される。
 次にLNF、LSM、そしてLSCFを空気極に用いたセルで発電試験を行い、クロム被毒に対する電気化学的安定性について検討を行った。クロム被毒雰囲気を実現するため空気極近傍には代表的なクロム含有合金であるInconel600を配置し、定電流密度で作動させた時の空気極過電圧を測定した。クロム被毒があることが知られているLSMを用いた空気極では合金配置時に発電開始から数十時間以内に空気極過電圧が急激に増加し、合金がない状態で測定した場合の1/10程度の電流値しか流せず、典型的なクロム被毒時の過電圧特性を示した。LSCFを用いた空気極においてもInconel600の配置の有無による空気極過電圧の違いを観察した。一方、LNFを用いた空気極においては、空気極過電圧が時間とともに緩やかに増加するものの、その増加の割合は、合金がない条件における場合と同程度であった。またクロム被毒を加速させる条件である加湿空気に酸化剤を変更した場合や、または異なる電解質に空気極を作製したセルを用いた場合においても、空気極過電圧の振る舞いに合金の存在有無による大きな違いは見られなかった。
 以上の検討から、SOFCの空気極材料であるLNFは材料自体の熱的安定性はもとより、合金を構成機材に使う場合大きな問題になるクロム被毒に対してより耐性を有しており、高信頼な空気極として期待できると考えられる。

 本論文は、「中温作動個体酸化物形燃料電池の空気極材料としてのランタン鉄ニッケル酸化物(LNF)における耐クロム被毒特性および熱的安定性」と題し、5章より構成されている。
 第1章では、燃料電池について概論を述べた後、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の研究開発の必要性と動向、特に作動温度の低温化に関する現状の課題である空気極の特性向上と空気極の劣化現象であるクロム被毒について述べている。
 第2章では、空気極材料に求められる特性を実現する可能性があるLNFの開発経緯及び既知の諸特性について論じた後、第1章で述べた課題を解決するために本研究の目的について述べている。
 第3章では、LNF粉末の安定性を調べている。LNF粉末の単相加熱試験からLNFの結晶構造は800℃・1000 hr加熱後において変化しないこと、LNF粉末に含まれる相以外の相の存在は認めらないことから、材料自体として積極的に熱分解する可能性は低く熱的に安定であることを明らかにしている。さらに、空気極の劣化現象の一つであるクロム被毒の検討の観点から、LNF粉末、既存の空気極材料であるランタンストロンチウムマンガネート酸化物(LSM)粉末、高い電極特性が確認されているランタンストロンチウムコバルタイト鉄酸化物(LSCF)粉末についてクロム酸化物と混合・反応させたところ、LSMやLSCFではクロム酸化物と反応して分解が起こるのに対して、LNFでは、LNF粉末中に含まれる微量不純物の酸化ニッケルがクロム酸化物と反応するものの、LNF自体は反応せず、1000 hrにわたって極めて安定であることを見出している。
第4章では、クロム被毒に対する空気極の電気化学的安定性について調べている。LNF、LSM、LSCFを空気極に用いたセルで発電試験を行い、LNF空気極は従来のLSM空気極、LSCF空気極に比べて、クロム被毒に対する高い耐性を有していることを明らかにしている。さらに、クロム被毒が発現する機構について考察している。
5章では、本研究が、LNFが中温作動SOFC部材に鉄クロム系合金を用いる場合に大きな問題となるクロム被毒に対して高い耐性を有しており、長寿命・高信頼な空気極として期待できることを科学的な裏付けにより示し、SOFC開発の大きな前進に寄与している。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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