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嫌気性リアクターを導入した低濃度排水向け処理技術の開発

氏名 角野 晴彦
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第264号
学位授与の日付 平成19年6月20日
学位論文題目 嫌気性リアクターを導入した低濃度排水向け処理技術の開発
論文審査委員
 主査 准教授 小松 俊哉
 副査 教授 松下 和正
 副査 准教授 山口 隆司
 副査 准教授 高橋 祥司
 副査 東北大学大学院教授 原田 秀樹
 副査 広島大学大学院教授 大橋 晶良

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第1章 序論
 1.1 研究の背景と目的 p.1
 1.2 論文の構成 p.3
 参考文献

第2章 既往の研究
 2.1 緒論 p.6
 2.2 低温・低濃度有機性排水の嫌気性処理の性能
 2.2.1 易分解性有機物含有排水の処理 p.6
 2.2.2 下水処理 p.10
 2.2.3 ポストトリートメント p.13
 2.3 低温・低濃度有機性排水の嫌気性処理に関わる微生物生態
 2.3.1 有機物の嫌気的分解 p.16
 2.3.2 メタン生成細菌 p.18
 2.3.3 硫酸塩還元細菌 p.22
 2.3.4 硫黄酸化細菌 p.23
 参考文献

第3章 UASBとDHSリアクターによる下水の低コスト型処理システムの開発
 3.1 緒論 p.34
 3.2 実験方法
 3.2.1 UASB p.35
 3.2.2 DHS G1リアクター p.35
 3.2.3 DHS G2リアクター p.36
 3.2.4 活性試験 p.37
 3.2.5 分析方法 p.37
 3.3 結果と考察
 3.3.1 UASBとDHS G1リアクターを組み合わせた下水連続処理 p.38
 3.3.2 UASBとDHS G2リアクターを組み合わせた下水連続処理 p.41
 3.3.3 UASB保持汚泥の性状 p.46
 3.3.4 DHSリアクター保持汚泥の性状 p.48
 3.4 小括 p.52
 参考文献

第4章 UASBと好気槽を組み合わせた硫黄サイクル活性型の低温・低濃度有機性排水処理
 4.1 緒論 p.54
 4.2 実験方法
 4.2.1 実下水処理装置 p.54
 4.2.2 低温排水処理装置 p.55
 4.2.3 活性試験 p.56
 4.2.4 分析方法 p.56
 4.3 結果と考察
 4.3.1 実下水処理装置による連続処理性能 p.57
 4.3.2 実下水処理装置の保持汚泥特性 p.59
 4.3.3 低温排水処理装置による連続処理性能 p.61
 4.3.4 低温排水処理装置の物質収支と保持汚泥特性 p.62
 4.4 小括 p.64
 参考文献

第5章 UASBと固定床型接触曝気槽を組み合わせたパイロットスケール下水処理実験
 5.1 緒論 p.67
 5.2 実験方法
 5.2.1 実験装置 p.68
 5.2.2 UASB保持汚泥の活性試験 p.68
 5.2.3 分析方法 p.69
 5.3 結果と考察
 5.3.1 連続処理性能 p.69
 5.3.2 UASB保持汚泥活性 p.71
 5.3.3 UASB保持汚泥性状 p.73
 5.4 小括 p.74
 参考文献

第6章 AnDHSリアクターによる低温・低濃度有機性排水に適した嫌気性処理の開発
 6.1 緒論 p.76
 6.2 実験方法
 6.2.1 実験装置 p.77
 6.2.2 連続処理実験 p.77
 6.2.3 単一基質供給実験 p.77
 6.2.4 分析方法 p.78
 6.3 実験結果と考察
 6.3.1 連続処理性能 p.78
 6.3.2 循環比が処理性能に及ぼす影響 p.80
 6.3.3 流入濃度を変化させた単一基質供給実験 p.81
 6.3.4 室温15℃・HRT4hrにおける単一基質供給実験 p.82
 6.3.5 保持汚泥濃度 p.83
 6.4 小括 p.84
 参考文献

第7章 総括
 7.1 UASB/DHSシステム p.87
 7.2 硫黄サイクル活性型システム p.87
 7.3 嫌気性懸垂型ろ床(AnDHSリアクター) p.89
 7.4 まとめと今後の展望 p.90
 参考文献

謝辞

 人間活動(生活、産業等)の結果として出される排水の大部分は、低濃度で低温の排水である。先進国ではこの処理方法として活性汚泥法の採用が最も多く、高い処理水が得られるのと引き替えに、エアレーションや余剰汚泥の処分による莫大なコスト消費と温暖化ガス発生を伴っている。本論文では、このような排水に対して、エアレーション不要で余剰汚泥の少ない嫌気性処理を導入する技術開発を行った。対象とする排水は、嫌気性処理で敬遠されてきた難条件である。本研究では、3つの処理方法を提案し、その有効性と処理機構の解明を長期連続処理実験によって評価した。以下に、各実験から得られた研究成果を要約する。

・UASB/DHSシステム(第3章)
 UASB(Upflow Hanging Sponge Blanket)にエアレーション不要型のDHS(Downflow Hanging Sponge)G1あるいはG2リアクターを組み合わせた下水処理システムを開発した。開発途上国を想定した処理温度25℃に設定し、HRTはUASB:6hrとDHS G1リアクター:2.5(DHS G2リアクターの場合、2.0)hrで、システム全体として8.5(8.0)hrで実下水の連続処理を行った。
 その結果、UASB/DHSシステムは、エアレーション不要・余剰汚泥ゼロで卓越した有機物除去能を発揮した。UASBによる全BOD除去率は60~80%であったが、ポストトリートメントとしてDHSリアクターを付加すると全BOD除去率は90%以上となった。G2はセットアップが容易、敷地面積が抑えられる等の理由から、スケールアップが有望な実用性の高いリアクターとなった。
 UASBは1100日を超える長期間の運転において、処理性能が安定しいてからも、保持汚泥のメタン生成活性は増加していた。DHSリアクターの余剰汚泥がゼロであったメカニズムは、スポンジ内の汚泥濃度が活性汚泥法に比較して1オーダーも高く、有機物分解に伴う同化と保持汚泥の自己分解が均衡していることが考えられた。

・硫黄サイクル活性型システム(第4・5章)
 15℃以下の温度条件でメタン生成が衰える問題を別の方法で解消するために、硫黄サイクル活性型システムを提案した。前段UASB、後段好奇性反応槽で構成する排水処理装置(循環比2)を用い、実都市下水と低温・低濃度人工排水の連続処理実験を行った(第4章)。
 都市下水のように流入BODに対する硫酸塩含有率(本実験の供給下水で0.50 gS/gBOD)が高くなりやすい低濃度排水では、UASB-好気性反応槽で循環措置を施すことによって硫黄サイクルが活性化され、有機成分の除去が可能であることがわかった。すなわち、流入原水に含まれる硫酸塩は、UASBで硫酸塩還元とそれに伴うBOD除去に利用され、後段好気性反応槽で硫酸塩還元の結果生じた硫化物が硫酸塩まで再生され、その硫酸塩を循環ラインによってUASBに返送することで再びBOD除去のドライビング・フォースとして利用できた。
 実下水の連続処理実験(RUN2:設定HRT 12hr、UASB温度 17~33℃)では、流入下水の平均全BOD 303mg/Lが処理水で13mg/Lまで処理できた。UASBには硫酸塩還元細菌、好気槽には硫黄酸化細菌が増殖した。
 低温・低濃度人工排水の連続処理実験では、不凍液排水を想定したプロピレングリコールを主体とする原水550mgCOD/Lを原水として用いた。R6(HRT 24hr、UASB平均温度 12.2℃、流入硫酸塩濃度 100mgS/L)の運転期間では、平均全COD除去率93%(平均全COD 30mg/L)を達成した。R6期間中のCODバランスをとると、流入CODの46%がUASBで硫酸塩還元反応により除去され、45%が好気性反応槽で除去されていた。活性試験より、好気槽保持汚泥の硫黄酸化細菌(チオ硫酸酸化細菌)の至適温度は25~35℃の中温域にあり、UASB処理水の硫化物酸化に寄与し得ることがわかった。
 第4章で基礎的知見を収集した硫黄サイクルを活性化させる排水処理システムの実用性を調査するために、UASBと接触曝気槽を組み合わせた国内最大級のパイロットプラントによって、HRT 24hr・無加温の条件化での実下水を連続処理した(第5章)。
 処理水の全BOD平均値が夏期(循環比2):11 mg/L、秋期(循環比2):18 mg/L、冬期(循環比0.3):25 mg/Lまで処理できた。処理温度が15℃以下に低下する冬季に循環比を2から0.3に変更した直後から、UASBの硫酸塩還元が活発になり、その後循環比を1としても硫酸塩還元は衰えることはなかった。活性試験より、UASBでは処理温度が低下した場合、硫酸塩還元細菌が嫌気的な有機物分解における水素消費者であることが示唆された。

・嫌気性懸垂型スポンジろ床(AnDHSリアクター)(第6章)
 嫌気性生物膜の形成・維持が困難な条件として、AnDHS(Anaerobic Downflow Hanging Sponge)リアクターを開発し、300~400 mgCOD/Lの人工排水の連続処理実験を行った。
 室温20℃、HRT 2hr、室温15℃、HRT 4hrの運転状況において、全COD除去率は70~80%、メタン回収率は60~90%であった。室温10℃、HRT 10hrの運転状況において、全・溶解性CODの平均除去率は80・86%であった。生物膜状汚泥の植種をせずとも、運転期間中にプロセスを破綻させるような汚泥に関するトラブルは皆無で、これまで困難であった当該排水種のメタン発酵処理を従来法よりも簡単な運転管理で成功した。循環による処理性能の影響を調査したところ、循環比0(循環なし)が最も高いCOD除去率を得た。本プロセスでは、懸垂したスポンジろ床に排水を重力で流下させることで、低い流下線流速条件下でも基質-微生物の接触効率が十分に確保できているようで、ろ床に供給する有機物濃度を確保することが処理効率の向上に有効であった。単一基質供給実験より、酢酸資化性メタン生成細菌が温度低下に比較的弱いことが示唆された。

 本論文は、「嫌気性リアクターを導入した低濃度排水向け処理技術の開発」と題し、7章より構成されている。
 第1章では、序論で研究の背景と目的について記述している。
 第2章では、既往の研究と、研究の意義について記述している。低温・低濃度排水の嫌気性処理の適応事例を取りまとめている。また、処理に関わる微生物生態についての知見を整理している。ここから当該分野の課題を抽出し、研究の位置づけと研究方法を設定している。
 第3章では、温暖な気候条件が整う地域を想定し、前段に上降流嫌気性スラッジブランケット(UASB)、後段に好気性懸垂型スポンジ(DHS)リアクターを配置した処理システムを提案し、下水の処理性能を評価している。実験結果に基づいて物質収支を示しており、処理性能が明確に表されている。また、DHSリアクターの保持汚泥の調査結果を加味して、生成汚泥量を定式化し、技術的な裏付けを記述している。
 第4章では、嫌気性処理においてメタン生成菌による有機物除去が期待できない低温条件で、硫酸塩還元細菌による有機物除去をねらいとしている。処理方式は嫌気槽と好気槽で構成され、還元された硫酸塩(硫化物)を再び酸化させて、嫌気槽に循環させ人為的に硫黄サイクル活性化させている。ラボスケールとセミパイロットスケールによる連続処理実験と硫黄サイクルに関わる微生物生態調査によって、開発した処理方法の有効性を明らかにしている。
 第5章では、第4章で得られた知見を基に、下水処理場に建設した国内最大級の試験装置によって実証実験を行い、その処理性能と実用性の可能性について記述されている。また、温度(季節)変動によるUASB保持汚泥のメタン生成細菌と硫酸塩還元細菌の関係についての調査・考察がなされており、処理機構の解明に努めている。
 第6章では、従来の嫌気性処理の問題点である生物膜汚泥の入手・維持形成や生物膜内への基質の浸透・拡散不足を解消できる新規な生物膜利用法(嫌気性懸垂型スポンジろ床)による人工排水の処理実験より、基礎的知見を加えて従来法との相違点について記述されている。
 第7章では、第3章から第6章までの総括を記述し、低濃度排水への嫌気性処理の普及の可能性と導入方法を提言している。また、より安定的で高効率な嫌気性処理技術を開発するための展望を示している。
 以上のように本論文では、多大なエネルギーやコストが必要とされている低濃度排水処理に対して、現場の条件に即した嫌気性リアクターの導入方法を開発し、有用な知見を得ている。さらに、保持微生物についての知見収集は、処理機構の解明や制御方法の一助となっている。よって、本論文で開発された技術は、低濃度排水処理における嫌気性リアクターの導入について、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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