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Numerical Analysis of Pulsed Ion Beam-Driven Ablation Plasma for Space Propulsion Applications(宇宙機推進に応用するパルスイオンビームで生成されたアブレーションプラズマの数値解析)

氏名 Buttapeng Chainarong
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第470号
学位授与の日付 平成20年3月25日
学位論文題目 Numerical Analysis of Pulsed Ion Beam-Driven Ablation Plasma for Space Propulsion Applications (宇宙機推進に応用するパルスイオンビームで生成されたアブレーションプラズマの数値解析)
論文審査委員
 主査 教授 原田 信弘
 副査 教授 濱崎 勝義
 副査 教授 増田 渉
 副査 教授 末松 久幸
 副査 宇宙船空研究開発機構准教授 船木 一幸

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Acknowledgments p.i
Abstruct p.iii
Contents p.v
List of Figures p.viii
List of Tables p.xi

1. Introduction p.1
 1.1 General Background p.2
 1.2 Problem statements p.6
 1.3 Research statements p.7
 1.4 Scope and Limitations p.8
 1.5 Contributions p.8
 1.6 Organization p.9
2. A One-Dimensional Hydrodynamic Fluid Model
 2.1 Introduction p.11
 2.2 Numerical model and governing equations p.11
 2.2.1 Hydrodynamic of the compressible fluid p.12
 2.2.2 Electron thermal conductivity p.15
 2.2.3 Artificial viscosity p.16
 2.2.4 Stopping power p.16
 2.2.5 Ionization process p.22
 2.2.6 Equation of state (EOS) p.23
 2.3 Mathematical solving method p.25
 2.3.1 Boundary conditions p.26
 2.4 Summary p.27
3. Characteristics of Ablation Plasma and Momentum-Producing Mechanism for Flyer Acceleration Model
 3.1 Introduction p.30
 3.2 Behavior of ablation plasma p.31
 3.2.2 Ablation plasma velocitv p.31
 3.2.3 Surface plot distributions of hydrodynamic variables p.32
 3.2.4 Shock wave inside the target and its speed p.35
 3.2.5 Ablation pressure and velocity for wide range of ion beam energies p.39
 3.3 Momentum-producing mechanism p.39
 3.3.1 Summary p.43
4. Ion Beam Ablation Rocket Model (i-BAR)
 4.1 Introduction p.45
 4.2 Numerical model and boundary p.46
 4.3 Hydrodynamic variables of ion beam ablation rocket p.47
 4.4 Evaluation of momentum-producing capability p.52
 4.5 Comparison of flyer acceleration with i-BAR model p.53
 4.6 Summary p.57
5. Proposal for Practical Use of Ion Beam-Driven Ablation for Space Propulsion
 5.1 Introduction p.59
 5.2 Requirement to make ablation plasma p.60
 5.3 Compact pulse power generator using SI-Thyristor p.61
 5.4 Conceptual design of a compact pulse power generator using SI-Thyristor for ion beam-driven ablation p.62
 5.4.1 Hydrodynamic variables p.63
 5.4.2 Momentum-producing capability p.67
 5.5 Compact pulse power generator for high power region p.69
 5.6 Proposal of using i-BAR model for deep-space exploration p.75
 5.7 Summary p.78
6. Ablation Expansion Behavior for Various Solid Targets
 6.1 Introduction p.81
 6.2 Deposition profiles for various solid targets p.81
 6.3 Evaluation of momentum-producing capability of each target p.92
 6.4 Summary p.95
7 Conclusions and Recommendations
 7.1 Conclusions p.97
 7.1.1 Flyer acceleration model p.97
 7.1.2 Ion beam ablation rocket model p.98
 7.1.3 Compact pulse power driving ablation plasma p.99
 7.1.4 Characteristics of ablation plasma for various targets p.100
 7.2 Recommendations for further studies p.100

Appendix p.103
List of Publications p.105

 近年,宇宙探査分野ではこれまでの代替となる新たな宇宙船推進システムの研究開発が急速に進められている。化学推進は簡単で高信頼性のためによく知られているが,比推力が小さいために経済的なシステムではなく,中短距離の宇宙ミッション以外では不適切である。したがって,高い比推力を生み出せる利点がある電気推進システムが提案されてきた。しかしながら,電気推進システムの電力消費は比較的小型の宇宙船の太陽電池アレイで供給することができないくらい過酷であり,またシステム全体の小型化も容易ではない。
 これらの限界を克服するために、多くの提案がなされており,イオンビームによるアブレーション推進システムもそれらの1つである。パルスイオンビームをターゲットに照射することによって発生するアブレーションプラズマの膨張による推進システムは,高いエネルギー効率で高圧力,高温度,また高エネルギー密度のアブレーションプラズマの生成が可能なために,次世代の宇宙推進システムの有力候補となりうる。そこで,我々はこのパルスイオンビームによるアブレーション推進に焦点を合わせて研究を行った。
 本研究では,パルスイオンビームによるアブレーション推進における運動量すなわち推進力を発生するメカニズムを調べ,さらに推進性能を評価するために,単パルスあたりのプラズマ膨張速度,比推力,及び推力などを詳細に調べることを目的とした。まず,このアブレーションプラズマの膨張過程を解析するための,1次元圧縮性流体力学モデルを開発した。ここでは,通常の連続の式,運動量及びエネルギー保存則を適用し,イオンビームと固体ターゲットとの相互作用には,いわゆる"ストッピングパワー"による定式化を採用した。我々が対象としている圧力・温度域では,アブレーションプラズマを理想気体として取扱うのは適当でなく,より正確にアブレーションプラズマの生成過程や膨張の挙動を知るために,実在気体の状態方程式を採用した。実際に実験結果と比較して,実在気体の状態方程式を採用する方がより正確にその挙動を知ることができることを明らかにした。この取扱いによって,推進性能に重要な役割をするプラズマ内の衝撃波の位置や衝撃波速度,マッハ数をより正確に理解することが可能となった。
 アブレーションプラズマ推進に関して,2種類の基本概念を提案し,それぞれの数値解析と推進性能の評価を行った。すなわち,"飛翔体加速"と"i-BAR(イオンビームアブレーションロケット)"である。一般的に,充分厚い固体ターゲットにイオンビームが照射されると,イオンビームはある深さまで進入し,その部分が蒸発・電離してアブレーションプラズマを形成する。残った部分はアブレーションプラズマの膨張の反作用で固体のまま加速され,この部分は"飛翔体"と呼ばれる。これが飛翔体加速の概念である。この場合,イオンビームの照射方向と推進力発生の方向が一致するため,イオンビームは宇宙船の後方から照射する必要がある。一方,"i-BAR"の場合,固体ターゲットは完全に蒸発・電離し高い推力を生み出すアブレーションプラズマを形成し,このプラズマはビーム照射方向に膨張する。その結果として宇宙船がビーム照射と反対方向に加速される。この場合,イオンビームは宇宙船内部で作られたパルス電気エネルギーで発生させることになる。これら両方の推進の概念に対して行った数値解析の結果から,どちらの方法でも宇宙推進システムとして充分な性能を期待できることがわかった。また,"i-BAR"概念の方が"飛翔体加速"より若干ではあるが推進性能が高いことがわかった。
 本研究では,さらにアルミニウム,金,銀,銅,鉛など種々のターゲット材料の違いに対する推進力を発生する能力の相違を明らかにした。鉛ターゲットを用いた場合が,単パルスあたりのアブレーションプラズマの膨張速度は最も遅いにもかかわらず,推進性能が最も高くなる。対照的に,銅ターゲットを用いると,その膨張速度は最も高いにもかかわらず,推進性能が低いことがわかり,推進剤の選択にも本解析が大変有効であることがわかった。
 さらに本研究で提案する推進システムを実用化するための検討を行った。このためには,まずより小型で軽量なパルス電力発生システムの開発が必要である。本研究では,パルスイオンビームを発生するための高電圧で動作するビーム発生用ダイオードを駆動するスイッチング素子としてSIサイリスタを用いて,宇宙船に搭載可能な小型・軽量パルス電源システムを提案した。
 最後に,現状の他の推進システムと比較して本提案のパルスイオンビームアブレーション推進システムが充分導入に値するかどうかを確認するために,低高度地球周回軌道から火星への航行軌道と必要な航行時間とペイロードの見積もりを行った。その結果,イオンビームアブレーション推進は,従来の化学ロケットと比べて比推力が大きいためより多くのペイロードが期待でき,一方でイオンロケットやレーザーアブレーション推進と比較して,より大きな推力が得られるため航行時間の短縮が可能である。特に有人ミッションではこの航行時間の短縮が重要と考えられるので,本提案のイオンビームアブレーション推進システムが次世代宇宙推進システムとして充分な可能性を持つと結論付けることができた。

 本論文は「Numerical Analysis of Pulsed Ion Beam-Driven Ablation Plasma for Space Propulsion Applications」(宇宙機推進に応用するパルスイオンビームで生成されたアブレーションプラズマの数値解析)と題し,7章より構成されている。
 第1章「Introduction」では,宇宙分野の高効率推進システムとして,イオンビームを用いたアブレーション推進の位置づけを明確にし,本研究の目的と取り扱う範囲を明示している。
 第2章「A One-Dimensional Hydrodynamic Fluid Model」では,パルスイオンビームによるアブレーションプラズマの生成とその膨張過程を記述するために1次元圧縮性流体モデルを提唱している。ビームと固体ターゲット間の相互作用はStopping Powerで定式化している。また電離は熱平衡とし,実在気体の状態方程式を用いるなどの工夫をしている。
 第3章「Characteristics of Ablation Plasma and Momentum-Producing Mechanism for Flyer Acceleration Model」では,本研究での解析結果を示し,幅広い入射イオンビームエネルギー範囲で実験結果をよく説明できること,実在気体の状態方程式を用いる方がより正確にアブレーションプラズマやターゲット内の衝撃波の挙動を知ることができることを明らかにしている。
 第4章「Ion Beam Ablation Rocket Model (i-BAR)」では従来の飛翔体加速法(Flyer Acceleration)に対し,より実用的なion-Bean Ablation Rocket(i-BAR)の概念を新たに提案し,i-BARでも宇宙推進システムとして従来型より推進性能が高くできることを示している。
 第5章「Proposal for Practical Use of Ion Beam-Driven Ablation for Space Propulsion」では,提案した推進システムを実用化するための検討を行っている。パルスイオンビームを発生するために,高電圧動作のビーム発生用ダイオードを駆動するスイッチング素子としてSIサイリスタを用い,宇宙船に搭載可能な小型・軽量パルス電源システムを提案している。
 第6章「Ablation Expansion Behavior for Various Solid Targets」では,アルミニウム,金,銀,銅,鉛など種々のターゲット材料すなわち推進剤の違いに対する推進性能の相違を明らかにしている。鉛ターゲットを用いた場合が,単パルスあたりのアブレーションプラズマの膨張速度は最も遅いにもかかわらず,推進性能が最も高くなる。対照的に,銅ターゲットを用いると,その膨張速度は最も高いにもかかわらず,推進性能が低いことを明らかにしており,推進剤の選択にも本解析手法が大変有効であることを明らかにしている。
 第7章「Conclusions and Recommendations」では,本研究で得られた結論をまとめ,今後の研究への提言を示して,本論文の総括としている。
これら本論文で得られた知見は,ビームによるアブレーション現象の解明,その応用としての推進システムの実現に向けて非常に有益である。よって本論文は工学上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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