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分子認識機能を持つ膜の開発に関する研究

-分子インプリント法による新しい機能化技術と分子認識特性の評価-

氏名 王 紅英
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第153号
学位授与の日付 平成9年9月30日
学位論文の題目 分子認識機能を持つ膜の開発に関する研究 -分子インプリント法による新しい機能化技術と分子認識特性の評価-
論文審査委員
 主査 教授 藤井 信行
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 塩見 友雄
 副査 教授 鈴木 秀松
 副査 助教授 竹中 克彦
 副査 助教授 小林 高臣

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目次
第1章 序論
1-1 緒言 p.1
1-2 分子インプリント技術 p.2
1-3 分子認識機能を有する高分子膜 p.5
1-4 研究目的と論文構成 p.5
参考文献 p.8
第2章 分子インプリントによる新しい機能化技術と分子認識機能膜の開発構想についての考察
2-1 緒言 p.10
2-2 分子インプリント膜の新規機能化技術の構想
2-2.1 製膜方法の設計 p.11
2-2.2 高分子膜素材の選択 p.12
2-2.3 分子インプリント膜の分子設計 p.13
2-2.4 相転換法による分子認識機能膜の開発 p.14
2-3 表面分子インプリント膜の開発構想 p.16
2-4 分子認識機能を持つ酵素固定化膜の開発 p.18
参考文献 p.20
第3章 相転換法による分子インプリント膜の作製法の確立
3-1 緒言 p.23
3-2 実験
3-2-1 合成試薬 p.24
3-2-2 P(AN-co-AA)の合成 p.24
3-2-3 相転換法による膜の作製 p.26
3-2-4 膜のキャラクタリゼーション p.27
3-3 鋳型分子とP(AN-co-AA)の相互作用
3-3.1 キャスト液の粘度変化 p.28
3-3.2 1H-NMR分析 p.29
3-3.3 FT-IR分析 p.31
3-4 相転換法で作製した膜の透過特性の評価
3-4.1 SEMによる膜構造の観測 p.33
3-4.2 膜の透過特性 p.35
3-5 まとめ p.37
参考文献 p.39
第4章 相転換分子インプリント膜の分子認識性
4-1 緒言 p.41
4-2 実験
4-2.1 溶質透過実験と溶質分析 p.42
4-2.2 膜の溶質取り込み実験 p.42
4-3 分子認識性に対する鋳型分子の役割
4-3.1 鋳型分子の取り込み p.43
4-3.2 カフェン溶液の透過と分子インプリント膜の選択性 p.44
4-4 凝固温度の影響 p.48
4-5 P(AN-co-AA)のカルボン酸基含有率の影響 p.54
4-6 まとめ p.58
参考文献 p.59
第5章 表面分子インプリント膜の開発に関する研究
5-1 緒言 p.60
5-2 実験
5-2.1 試薬 p.61
5-2.2 感光性膜材料ポリマーの合成 p.61
5-2.3 膜の作製と光グラフト重合反応 p.62
5-3 表面光グラフト膜のキャラクタリゼーション p.67
5-4 表面光グラフト膜の透過特性 p.70
5-5 表面分子インプリント膜の分子認識特性 p.73
5-6 まとめ p.76
参考文献 p.77
第6章 分子認識機能を持つ酵素固定化膜の開発に関する研究
6-1 緒言 p.78
6-2 実験
6-2.1 試薬 p.78
6-2.2 酵素固定化膜の作製 p.79
6-2.3 酵素固定化膜の活性実験 p.81
6-2.4 基質のクロスフロー循環透過実験 p.81
6-3 酵素固定化膜の作製と特性 p.83
6-4 酵素固定化膜の活性評価 p.86
6-5 固定化酵素膜の動力学的解析 p.89
6-6 まとめ p.92
参考文献 p.93
第7章 結論 p.94
本研究に関する公表論文 p.97
謝辞 p.100

 膜分離は古くから溶質の分離や濃縮に使用されてきた技術であり、膜としての基礎的な技術はほぼ完成したと言える。そのような状況で、科学技術の進展に伴い、新規な機能を持つ分離膜の開発が、期待されている。
 分子インプリント法は鋳型分子の形状や機能の情報を高分子のような材料に記憶させる新規機能化技術である。そこで、本研究では、この分子インプリント法による分子認識機能を有する膜の開発を目指した。
 本論文は、「分子認識機能を持つ膜に関する研究」と題し、「分子インプリント法による新しい機能化技術と分子認識特性の評価」を副題とし、7章より構成されている。
 第1章「序論」では、分離膜の研究現状を説明しながら分子インプリント技術による機能化膜の開発、応用に関する利点を明示し、本研究の意義と目的について述べた。
 第2章「分子インプリントによる新しい機能化技術と分子認識機能膜の作製の構想についての考察」では、これまで、高分子材料への分子インプリント法の応用に関する研究調査に基づき、分子インプリント技術と相転換法による製膜技術を組み合わせた機能化手法の可能性について述べた。さらに、この方法による分子認識性をもつ全く新しい機能膜の開発について総合的に考察した。
 第3章「相転換法による分子インプリント膜の作製法の確立」では、相転換法により分子インプリント膜を作製する技術を確立するため、アクリロニトリル(AN)とアクリル酸(AA)の共重合体P(AN-co-AA)を合成し、鋳型分子であるテオフィリン(THO)を添加したポリマーキャスト溶液から相転換法により製膜を行った。ここで、キャスト溶媒にはジメチルスルホキシド(DMSO)を、膜材料高分子の凝固液(非溶媒)には水を用いた。P(AN-co-AA)膜の赤外吸収分析の結果から、THO鋳型分子は、P(AN-cc-AA)膜のカルボン酸基と水素結合を介して相互作用していることが明らかとなった。このように作製されたP(AN-co-AA)膜は多孔性の非対称構造を有する膜であることが膜の電子顕微鏡観測の結果から分かった。P(AN-co-AA)のAAセグメントとTHOが相互作用しているため、P(AN-co-AA)の水中での凝集性はキャスト液中の鋳型分子濃度と共に変わり、その結果、得られた膜の透過特性にも影響することが示された。さらに、酢酸洗浄によって膜内に固定されている鋳型分子を抽出できることが確認された。
 第4章「相転換分子インプリント膜の分子認識性」では、相転換法で作製したTHOインプリント膜の分子認識特性について述べた。鋳型分子として用いたTHOを透過溶質として用い、また、THOと分子構造が似ているカフェイン(CAF、THOの7位の窒素原子に水素の代わりにメチル基が結合している)も比較のために透過した。THO溶液を透過した場合、高い鋳型分子濃度のキャスト液から作製した膜ほど、膜への基質取り込み量は多くなり、また、分子認識性も高いことが、CAF溶液の透過比較実験より判明した。THOの代わりに、CAFを鋳型分子として作製した膜は、THOまたはCAF基質をほとんど取り込まないことから、THOインプリント膜の分子取り込みには、基質と膜間の水素結合(-N-H…O=C-)が関与していることも明らかとなった。相転換時に水凝固浴の温度を10-40℃の範囲で膜を作製し、得られた膜の分子認識特性を調べた結果、凝固温度が低い場合には、膜内に存在するTHO鋳型分子量は多く、このため、分子認識サイトが膜内に多く形成していることを見出した。P(AN-co-AA)のAA含有率が異なる5種類の共重合体を用いて同様にして、得られた膜の分子認識特性について調べた。AA含有率が高い膜ほど、分子認識サイトが膜内に多く形成され、THOを多く取り込む傾向があるが、膜の安定性や製膜性などから、AA含量が15mol%で製膜した場合に、最もよい基質認識膜が得られることが分かった。
 第5章「表面分子インプリント膜の開発に関する研究」では、光グラフト共重合を用いて膜表面にのみ鋳型分子を分子インプリントする方法を採用し、新しいタイプの機能性膜を開発することを検討した。このために、光共重合可能な官能基であるジチオカルバメート基を共有結合した新しいポリアクリロニトリル共重合体(P(AN-co-DTCS))を合成し、これを材料として、膜を作製した。そして、メチルビスアクリルアミド(MBAA)とAAにTHOを共存させて、光グラフト共重合により膜表面に分子インプリントポリマー層を作った。鋳型分子を抽出後に、THOまたはCAF溶質の透過実験により膜への溶質の取り込み量を調べた。種々の比較実験の結果、AAを含む二官能性のMBAAが形成する堅いグラフトポリマー層が、鋳型分子のサイトをインプリントするのに重要な役割を持つことが示された。THO溶液透過とCAF透過との比較により、このような表面光グラフトポリマー層を有する膜が高い溶質選択性を持つことが明らかになった。
第6章「分子認識機能を持つ酵素固定化膜の開発に関する研究」では、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のヒドロシリル化硬化の際に、酵素水溶液を添加しPDMS多孔性膜を作製し、酵素活性を保持させた分子認識膜を新規開発した。この研究では、まず、ポリマーの架橋網目内に酵素を包括固定化する技術を確立するとともに、酵素活性を付与させた新規酵素多孔膜としての可能性を検討した。その固定された酵素反応の触媒反応動力学的解析をバッチ反応系とクロスフロー循環透過反応系で行うことにより、その活性評価を行った結果、膜利用の有効性が見出された。
 第7章「結論」では各章の研究成果を総括し、本論文の結論としてまとめた。

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