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結晶格子間隔を基準とする微小長さ測定に関する研究

氏名 明田川 正人
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第99号
学位授与の日付 平成9年6月18日
学位論文の題目 結晶格子間隔を基準とする微小長さ測定に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 高田 孝次
 副査 教授 田中 紘一
 副査 教授 秋山 伸幸
 副査 教授 久曽神 煌
 副査 教授 矢鍋 重夫
 副査 教授 柳 和久

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 計測分野における微小長さ測定とその問題点 p.1
1.2 STM(SPM)による長さ測定の問題点と従来の研究状況 p.3
1.3 結晶格子をスケールとする場合の問題点 p.8
1.3.1 格子振動の影響 p.8
1.3.2 格子欠陥・原子ステップの影響 p.10
1.4 本研究の目的と論文の内容 p.10
1.4.1 目的 p.10
1.4.2 論文内容 p.11
第2章 DTU-STMを用いた結晶格子隔離を基準とする比較測長の原理 p.13
2.1 緒言 p.13
2.2 DTU-STMによる比較測長法の原理 p.13
2.2.1 DTU-STMの構成 p.13
2.2.2 結晶格子STM画像を基準とする画像補正法 p.14
2.2.3 格子の基本並進ベクトルから長さを換算する方法 p.16
2.3 STM画像のゆがみ要因とDTU-STMへの影響 p.18
2.4 結言 p.20
第3章 2次元FFTによるSTM画像のゆがみ成分の抽出とその補正 p.21
3.1 緒言 p.21
3.2 X-Yスキャナーのスキャニング誤差 p.21
3.3 熱ドリフト誤差 p.25
3.4 試料傾斜誤差 p.28
3.5 STMによる画像ゆがみのプロセス p.32
3.6 結晶格子STM画像からのその画像ゆがみの抽出 p.34
3.6.1 結晶格子STM画像とその2次元FFTパワースペクトラム p.34
3.6.2 熱ドリフトの抽出法 p.36
3.6.3 スキャニング誤差(スキャナーパラメータ)の導出 p.40
3.7 DTU-STMによる画像補正法 p.41
3.8 結言 p.44
第4章 DTU-STMの試作と性能評価 p.45
4.1 緒言 p.45
4.2 試作DTU-STMの概要 p.45
4.2.1 DTU-STMヘッドの構成 p.45
4.2.2 DTU-STMのシステム構成 p.48
4.3 試作DTU-STM装置の性能評価 p.48
4.3.1 XYスキャナーの運動特性 p.48
4.3.2 Z軸スキャナーの感度校正 p.51
4.3.3 最大走査周波数 p.51
4.4 原子像評価とスキャナーパラメータの比較 p.54
4.5 結言 p.58
第5章 逆格子を用いた格子計数補間法 p.59
5.1 緒言 p.59
5.2 逆格子ベクトルを用いた長さ計測 p.59
5.3 格子間隔以下の長さの補間方法 p.63
5.4 DTU-STMを用いた比較測長法への適用と検証 p.65
5.4.1 HOPGの結晶格子STM画像への適用 p.65
5.4.2 DTU-STMを用いた比較測長法への適用 p.70
5.5 結言 p.72
第6章 DTU-STMによる比較測長実験 p.73
6.1 緒言 p.73
6.2 1μmまでの比較測長の可能性評価 p.73
6.2.1 比較測長実験の確認事項 p.73
6.2.2 1μm比較測長のための走査方式の改良 p.74
6.2.3 システム構成 p.77
6.2.4 比較測長実験 p.80
6.2.5 熱ドリフトとステージ変位量 p.82
6.3 SEM基準回折格子とHOPG結晶格子の比較測長実験 p.85
6.3.1 熱ドリフト対策の為のシステム改良 p.85
6.3.2 高速走査による原子像取得 p.89
6.3.3 SEM基準回折格子の準備 p.91
6.3.4 SEM基準回折格子のピッチ比較 p.91
6.4 結言 p.96
第7章 結論 p.97
付録(A) DTU-STM用恒温セルと低熱ドリフトDTU-STMの試作 p.99
1.1 緒言 p.99
1.2 恒温水を用いたSTM用恒温セルの試作 p.99
1.2.1 恒温セルの試作とその構造 p.99
1.2.2 恒温セルの評価 p.102
1.3 新型低熱ドリフトDTU-STMの試作とその評価 p.106
1.3.1 新型低熱ドリフトDTU-STMの構造 p.106
1.3.2 新型低熱ドリフトDTU-STMの熱変形挙動評価 p.109
1.4 結言 p.111
付録(B) 走査型トンネル顕微鏡(STM)の原理 p.113
付録(C) 高配向焼結グラファイトの結晶構造 p.115
参考文献 p.116
謝辞 p.120

 今日、ナノテクノロジー、マイクロマシーンなどに代表されるように、約10μmから1nmまでの極微細領域(以下、メゾスコピック領域と呼ぶ)での新しい加工技術の研究開発がますます進展し、その寸法管理にはサブnmの精度が要求されつつある。しかし、現在の長さ測定の事実上の工業標準となっているレーザ干渉計の空気中における測定精度は10nm程度と考えられ、このような新規分野で要求される精度を満たしていない。このため、メゾスコピック領域をサブnmの分解能で計測することを可能とする新しい測長法が求められている。
 結晶の格子間隔は0.2nm程度であり、無応力状態では長距離にわたって安定している。いっぽう、走査トンネル顕微鏡(STM)は結晶表面の原子像を空気中で実時間で捉えることができる。したがって、結晶格子間隔そのものをスケールとしSTMを検出器とすれば分解能がサブnmの測長法を構築できるものと考えられる。
 本研究は、以上のような背景をもとに、川勝らの提唱したDual Tunneling Unit STM(DTU-STM)を用いた分解能がサブnmの比較測長法に関して、その実現に必要な基本技術の確立を目指したものである。DTU-STMは、1個の共通XYステージと2個の互いに独立に制御されるZ軸圧電素子がついたトンネリングユニットからなり、これを用いた比較測長は、一方のトンネリングユニットで基準となる結晶格子表面のSTM画像を、他方のトンネリングユニットで測定すべき試料表面のSTM画像を同時に取得し、結晶格子像の格子間隔を基準に試料像の測長を行うものである。本論文で明らかにしようとした事項は以下の3点に集約される。第1点は、DTU-STMと結晶格子を用いた比較測長法での誤差要因を解析し、その補正方法を示すこと、第2点は、結晶格子間隔を基準とする比較測長のための格子計数補間法を提示すること、第3点は、DTU-STMを用いた比較測長装置を実現し、メゾスコピック領域での精密測長の可能性を実験的に確認することである。
 第1章では、ナノテクノロジー、マイクロマシーンなどの新しい分野での微小長さ測定、特にメゾスコピック領域での測長法の重要性に関して論じるとともに、従来の測長法の限界を指摘し、本論文の目的と位置づけを示している。
 第2章では、DTU-STMを用いた結晶格子間隔を基準とする比較測長法の原理と測定系の基本構成に関して論じている。すなわち、本方法での比較測長には2種類の等価な方式が可能であることを示し、両者の得失を明確にしている。さらに、STM画像のゆがみの要因を検討し、各要因の測長誤差への影響を明らかにしている。
 第3章では、STM画像のゆがみを抽出し補正する手法に関して述べている。ここでは、高い精度と汎用性が期待できる方法として、基準結晶格子のSTM画像の2次元FFT処理により得られる逆格子を基に、測定誤差の主要因となるSTM画像のゆがみを検出し補正する方法を示している。さらに、本方法によってトンネリングユニットの熱ドリフト、および、XYスキャニング誤差を検出し補正することができることを示している。
 第4章では、DTU-STMを用いた比較測長装置を試作し、その基本性能の評価を行っている。まず、第3章で示した画像ゆがみの検出補正方法の有効性を実験的に確認し、次いで、トンネリングユニットの熱ドリフト、および、XYスキャニング誤差を評価し、間接的にDTU-STMを用いた比較測長法が成立することを確認している。
 第5章では、基準結晶格子の基本並進ベクトルの計数法に関して論じている。すなわち、スケール用基準結晶格子の逆格子の空間位相情報を用いて測定軸方向の格子を計数し、かつ、格子間隔以下の長さを決定する補間法を示している。さらに、高配向焼結グラファイト(HOPG)のSTM画像で、その有効性を確認している。
 第6章では、試作装置により1μmを超える長さの比較測長実験を行っている。ここでは、HOPGをスケール用基準結晶とし、回折法で校正されたSEM用基準回折格子(ピッチ240nm)を被測定試料として比較測長を行っている。その結果、HOPGの格子間隔から求められたSEM用基準回折格子のピッチは回折法による校正値とよい一致を見た。
 第7章では本研究の総括を行い、DTU-STMと結晶格子を用いた比較測長法がメゾスコピック領域における精密測長法となりうることを結論づけている。

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