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圧電体の共振効果による金属薄膜触媒の活性化

氏名 大河原 譲
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第161号
学位授与の日付 平成10年3月25日
学位論文の題目 圧電体の共振効果による金属薄膜触媒の活性化
論文審査委員
 主査 教授 井上 泰宣
 副査 助教授 佐藤 一則
 副査 教授 山田 明文
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 助教授 丸山 一典

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第1章 序論第1節 触媒の歴史 p.1
第2節 触媒研究の現状 p.2
第3節 本研究の目的および意義 p.4
第4節 圧電体結晶 p.5
第5節 本論文の構成 p.6
参考文献 p.7
第2章 圧電体素子の特性
第1節 緒言 p.9
第2節 実験 p.11
2-1 圧電体素子の作製 p.11
2-2 自発分極の測定 p.13
2-3 共振特性の測定 p.15
第3節 結果 p.15
3-1 自発分極 p.15
3-2 圧電体素子の共振周波数 p.19
(1) 低周波数域(<1MHz)での共振周波数 p.19
(2) 高周波数域(>1MHz)での共振周波数 p.19
第4節 考察 p.27
4-1 圧電性 p.27
4-2 自発分極 p.27
4-3 共振周波数 p.30
4-4 共振振動モード p.32
(1) 径方向の振動モード p.32
(2) 厚み方向の振動モード p.34
第5節 結言 p.36
参考文献 p.37
第3章 固体触媒の及ぼす共振効果
第1節 緒言 p.39
第2節 実験 p.39
2-1 触媒調製 p.39
(1) PdおよびAg触媒 p.39
(2) Pt触媒 p.40
(3) Co,RuおよびIr触媒 p.43
2-2 触媒素子 p.43
2-3 反応セル p.45
2-4 反応装置 p.45
2-5 電力印加回路 p.45
(1) 電圧印加システム p.45
(2) 電力印加システム p.49
2-6 エタノール酸化反応 p.49
(1) 反応気体 p.49
(2) 反応操作 p.51
2-7 CO酸化反応 p.51
2-8 クロトンアルデヒド水素化反応 p.52
2-9 Ag薄膜触媒の状態分析 p.52
(1) X線回折法 p.52
(2) X線光電子分光法 p.53
第3節 結果 p.53
3-1 Pd触媒によるエタノール酸化反応 p.53
3-2 Ag触媒によるエタノール酸化反応 p.56
3-3 共振印加前後におけるAg触媒の状態 p.61
3-4 Pt触媒によるCO酸化反応 p.64
3-5 金属触媒によるクロトンアルデヒド水素化反応 p.64
第4節 考察 p.67
4-1 活性増加に対する温度効果の寄与 p.67
4-2 共振振動が反応気相分子に及ぼす影響 p.69
4-3 共振効果によるAgの状態変化 p.70
4-4 共振振動モードの影響 p.70
4-5 分極面の影響 p.71
4-6 反応機構 p.71
(1) エタノール酸化反応 p.71
(2) CO酸化反応 p.72
4-7 共振状態での活性化エネルギーの変化 p.73
4-8 水素化反応に及ぼす共振効果 p.76
第5節 結言 p.78
参考文献 p.79
第4章 共振状態における圧電体の物性第
1節 緒言 p.80
第2節 実験 p.81
2-1 容量振動法による表面電位の測定 p.81
(1) 測定原理 p.81
(2) 測定システム p.81
(3) 測定試料および測定条件 p.81
2-2 低エネルギー光電子分光法による光電子放出の測定 p.84
(1) 測定原理 p.84
(2) 測定システム p.84
(3) 測定試料および測定条件 p.84
2-3 レーザードップラー法による格子変位測定 p.88
(1) 測定原理 p.88
(2) 測定システム p.88
第3節 結果 p.90
3-1 表面電位 p.90
3-2 光電子放出 p.97
3-3 格子変位 p.104
(1) 径方向 p.104
(2) 厚み方向 p.104
3-4 共振状態における物性の変化 p.111
第4節 考察 p.111
4-1 表面電位発生機構(音波-電子相互作用) p.111
4-2 仕事関数変化の機構 p.112
(1) 表面電位の影響(ショットキー効果) p.112
(2) 仕事関数を支配する因子と共振の効果 p.114
4-3 吸着酸素種に及ぼす共振効果 p.121
4-4 種々の金属に対する共振効果 p.124
4-5 共振効果による触媒の活性化機構 p.125
第5節 結言 p.126
参考文献 p.127
第5章 異常光起電力効果を付加した共振効果
第1節 緒言 p.129
第2節 実験 p.129
2-1 触媒素子の作製 p.129
2-2 表面電位測定 p.131
2-3 気相エタノールからの脱水素反応 p.131
(1) 反応装置 p.131
(2) 反応操作 p.131
第3節 結果 p.132
3-1 光照射による圧電体の物性変化 p.132
(1) 共振特性 p.132
(2) 表面電位 p.132
3-2 Pt触媒上での気相エタノールからの脱水素反応 p.132
第4節 考察 p.136
4-1 異常光起電力効果に及ぼす共振効果-表面電位の変化- p.136
4-2 異常光起電力効果に及ぼす共振効果-光触媒作用- p.139
第5節 結言 p.141
参考文献 p.141
第6章 総括 p.143
本研究に関する発表論文 p.146
本研究に関する学会発表 p.147
謝辞 p.150

 固体触媒は,化学工業プロセスのみならず,大気汚染物質の浄化,エネルギー変換などに幅広く利用され,その役割はますます重要となっている.これに伴い,触媒の機能に対する要求は,例えばメタンの部分酸化反応のように安定な分子を活性化することや希少な貴金属触媒に代わる新しい触媒の開発など高度化してきている.固体の触媒作用は,固体表面の幾何学的および電子的構造と密接に関連する.しかし,金属の超微粒子化,金属-担体間相互作用の効果および異種元素の添加などの,従来の触媒開発の方法では,両因子を十分に制御できず,触媒作用の高度化が困難となっている.本研究では,外部信号により固体触媒の原子配列および電子状態を人為的に変化させ,固体の触媒作用を人工制御できる固体触媒表面系を確立することを目的として,単分域化処理により自発分極軸を揃えた圧電体の共振現象を応用した新しい原理に基づく固体触媒の研究を行った.本論文の研究内容と得られた成果は以下のようにまとめられる.
 第1章では,固体触媒の歴史的背景,従来の触媒制御方法と問題点を挙げ,本研究の目的と意義,さらに本研究で用いる圧電体の共振効果の原理について述べた.
 第2章では,本研究で用いる圧電体の特徴および触媒基板としての適合性について検討した結果を示した.圧電体として,電気機械結合係数が大きく,2種類の振動モードを持ち,キュリー温度が高く,半導性および強誘電性を合わせ持つストロンチウム添加チタン酸ジルコン酸鉛(Pb0.95Sr0.05Zr0.53Ti0.47O3,以下PSZTと略す)を選び,自発分極軸を表面に垂直に揃え,結晶の表裏に正および負分極面を露出させたPSZTについて,Sawyer-Tower回路により自発分極特性を調べ,さらにアドミッタンス,インピーダンスおよびキャパシタンス測定により反応条件下での共振特性を評価した.共振周波数の理論計算と実測値との比較から,圧電体の共振振動モードを解析し,金属触媒の担体基板として用いるための最適条件を求めた.
 第3章では,触媒反応に及ぼす共振効果について述べた.PSZTに100nmの膜厚でPdを把持した触媒(Pd/PSZT)上でエタノール酸化反応を行い,共振効果が触媒の活性を顕著に増加させることを示した.印加電圧の増加に伴い活性化比Q(=共振状態における触媒活性/非共振状態での触媒活性)は増加し,また,周波数依存性から共振周波数でQが最大値を示すことを明らかにした.Ag/PSZT上でのエタノール酸化反応およびPt/PSZT上でのCO酸化反応において,本反応条件下で10MHzの厚み方向の振動(TE)モードが80kHzの径方向の振動(RE)モードに比べ,高い活性化効果を持つことを示した.PSZTの正あるいは負分極面のみにAgを接合した触媒((+)Ag/PSZTおよび(-)Ag/PSZT)上のエタノール酸化反応において,REモードの場合では,(+)および(-)Ag/PSZT間でQ値に差はなく,また反応の活性化エネルギーは共に60kJmol-1を示すこと,一方,TEモードの場合,(-)Ag/PSZTに比べて(+)Ag/PSZTの方がQは大きく,またそれぞれ63および109kJmol-1の異なる活性化エネルギーを与えることを見出した。X線回折法およびX線光電子分光法による測定から,共振効果はAg薄膜の結晶構造と表面状態への不可逆的変化には困らないことを示した.酸化反応の機構から,表面酸素種の吸着状態の変化が共振効果による活性化機構と密接に関連すること示した.さらに,クロトンアルデヒド水素化反応において,共振効果による活性化効果は,Co〉Pt〉Ru,Irの順に増加し,触媒金属の違いで共振効果が異なることを示した.
 第4章では,共振状態が圧電体の表面状態に与える効果とその効果が触媒作用に及ぼす機構について述べた.非共振下および共振下(REモードおよびTEモード)に対して,容量振動法により表面電位,低エネルギー光電子分光法により仕事関数,さらにレーザードップラー法により格子変位量を測定した.REモードでは,格子は径方向に主な変位を示すが,表面電位の変化および仕事関数の変化はほとんど認められないのに対し,TEモードでは,主格子変位は厚み方向であり,(+)面において負電位が,また(-)面において正電位が発生し,さらに仕事関数は(+)面において0.12eV減少することを示した.表面状態に与えるREとTEモードの異なる効果が音波-電子相互作用とPSZTの自発分極場の作用に基づくことを明らかにし,さらに仕事関数の変化を正電荷密度の変化および表面電子の浸み出しの増加による電気二重層の緩和を考慮したモデルにより説明した.この機構に基づき,エタノール酸化反応の触媒作用に及ぼすREとTEモードおよび(+)と(-)面の効果の違い,さらにクロトンアルデヒド水素化の金属活性序列を説明した.
 第5章では,PSZTのもつ光異常起電力特性に及ぼす共振効果について,光触媒作用に関連して述べた.光照射により,表面電位は(+)面では負電位,(-)面では正電位を与えるが,これにTEモードを加えることにより,それらの電位がさらに増加することを示した.Pt/PSZT上での気相エタノールからの脱水素反応において,光照射単独およびTEモード単独では反応は進行しないのに対し,両者を共存させることにより活性が発現することを見出し,光およびTEモード両効果カ言Pt/PSZT内の光励起電荷の挙動を変化させ,また電子の還元電位および正孔の酸化電位を高める効果を持つことを明らかにした.
 第6章では,圧電体の共振効果が固体表面の触媒作用に及ぼす効果および活性化機構を総括して述べ,共振効果が固体触媒の人工制御に有用であることを結論した.

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