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生態系での消費者出現とその構造

氏名 小野 宣明
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第106号
学位授与の日付 平成9年9月17日
学位論文の題目 生態系での消費者出現とその構造
論文審査委員
 主査 教授 松野 孝一郎
 副査 教授 山元 晧二
 副査 教授 山田 良平
 副査 教授 福本 一朗
 副査 助教授 本多 元

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目次
第1章 序論 p.3
第2章 栄養力学モデル p.17
2.1 エネルギーフローの測定と不均衡の発生 p.18
2.2 エネルギーフローの更新 p.23
2.3 供給者規制と消費者規制 p.24
2.4 系の永続性 p.26
第3章 生態系を発展させる力 p.28
3.1 エネルギーフローの時間発展 p.29
3.2 環境擾乱の影響 p.33
3.3 たびたび発生する種の絶滅 p.34
3.4 供給者による規制 p.38
3.5 消費者の存在 p.39
3.6 生態系の支配者 p.40
第4章 生態系の段階性 p.46
4.1 自然界における栄養段階 p.47
4.2 栄養段階数 p.48
4.3 栄養段階の発展と普及 p.51
第5章 多様性の増大 p.53
5.1 生態系の進化的変化 p.54
5.2 種の絶滅と分化 p.55
5.3 自然選択のはたらき p.56
5.4 多様性と時間発展 p.61
第6章 食物連鎖網の発展 p.62
6.1 雑食動物が遍在する栄養力学 p.63
6.2 雑食による栄養力学の発展 p.64
6.3 雑食による食物網の発展 p.66
6.4 単純から複雑へ p.67
第7章 結論 p.70
謝辞 p.77
参考文献 p.78

 本論文は、生態系の進化発展という現象に着目し、原始状態では極めて単純なものでしかなかった生態系がやがて複雑性を獲得、増大して行く過程を明らかにした。そのために、生態系での特徴量であるエネルギーフローに着目した。生態系を担う各行為者はそれぞれエネルギーフローの連続維持のため行動するが、長期間にわたり存続する生態系はインフォメーション発生を伴い特定の選択、決定行動を取ってくることを明らかにした。また、インフォメーション発生させながら、長期間存続してくる安定なエネルギーフローネットワークの構造を明らかにした。生態系を担う各行為者はそれぞれのエネルギーフロー連続維持のため供給者としての行動、あるいは、消費者としての行動を取る。すなわち、各行為者はエネルギーの供給と消費といういずれの行動をも選択、決定可能である、とみなす。本研究では、これらの供給と消費の関係を評価可能とする関係式を与えた。
 エネルギーフローネットワークとしての生態系はエネルギーフローの連続維持のための行為、行動によって、その時間発展を遂げる。そのシミュレーションは、エネルギーの供給と消費に係わる選択、決定を絶え間なく更新することによって可能となる。生態系の時間発展は、結局はその構成者であるいずれかの栄養段階の絶滅によって巨視的な転機を迎える。しかも、その絶滅、転機が必然的なものであろうとも、進化過程において意義ある生態系はできるだけ長期間にわたって存続するものとなる。
 本論文では、生態系はそこでのインフォメーション発生を介してより安定に、より長期間に及び存続してきたことを、シミュレーションによって明らかにした。エネルギーフローの連続を担う各行為者がほとんど消費者として行動するとき、その系は長期間安定に維持されることが判明した。また、生態系の各栄養段階が消費者として行動するとき、段階数4が最も安定になること、種分化があることによって生態系が長期間安定に存続すること、雑食性が安定をもたらすことをそれぞれ明らかにした。生態系はインフォメーション発生させ、より安定なネットワーク構造へと進化発展して行くことを見い出した。
 第1章「序論」では、生態系の持つ能力の重要性を指摘し、生態系の進化発展に着目する本研究の意義を示し、さらに、各章で取り扱う内容について述べた。
 第2章「栄養力学モデル」では、本論文で構築する生態系のネットワークモデルについて取り上げた。生態系の挙動が各栄養段階でのエネルギーフロー維持の行動によって記述できることを示した。また、エネルギーフロー更新の行動がネットワークを担う行為者の消費行動によるのか、あるいは、供給行動によるのか具体的に評価可能な式を与えた。それと共に系の安定性を調査する方法について示した。
 第3章「生態系を発展させる力」では、生態系モデルのシミュレート結果を示し、各栄養段階で取られる行動がほとんど消費者としての役割を持ってくることによって生態系が長期間安定に維持されることを明らかにした。また、生態系の進化発展の歴史において、その安定維持のため、供給者支配から消費者支配へと移り変わってきたことを指摘した。
 第4章「生態系の段階性」では、生態系の各栄養段階がほとんど消費者として行動するとき、4段階が最も安定になることを明らかにし、生態系が長い時の流れと共に縦方向の広がりである段階性を獲得すべきであったことを示した。
 第5章「多様性の増大」では、種の絶滅と分化について取り上げ、種分化があることによって生態系が長期間安定に保たれることを明らかにした。絶滅と分化によって生態系は生物種を入れ替え横方向の広がりを獲得し、多様性を増大させていったことを示した。
 第6章「食物連鎖網の発展」では、生態系における雑食性を取り上げ、雑食が存在するネットワーク構造がより安定であることを明らかにした。生態系の最上位に位置する栄養段階が雑食動物として機能し続ける食物連鎖網が最も耐久性を有していることが判明した。生態系が複雑性を獲得、増大していくことによってより安定な方向に向かってきたことを示した。
 第7章「結論」では、本研究で得られた諸結果を総括し、生態系ではその行為者が供給者としての行動から消費者としての行動へと向かうこと。生態系でのインフォメーション発生によって長期間の進化発展が可能となり、そのネットワークは段階性や多様性を獲得、増大させることによってより安定な構造へと移り変わってきたと結論づけた。

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