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Si(001)上での有機シランおよび有機ゲルマンの初期表面反応過程に関する研究

氏名 原島 正幸
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第365号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 Si(001)上での有機シランおよび有機ゲルマンの初期表面反応過程に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 安井 寛治
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 教授 高田 雅介
 副査 助教授 木村 宗弘

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 緒言 p.2
 1.2 単価ケイ素(SiC)成長に関する研究 p.2
 1.3 Si(001)-2×1清浄表面上への3C-SiC成長初期課程 p.3
 1.4 Si(001)上へのGe(SiGe)成長 p.6
 1.5 本研究の背景と目的 p.8
 1.6 論文構成 p.11
 参考文献 p.11

第2章 Si(001)-2×1表面でのMMSiの反応課程 p.13
 2.1 緒言 p.13
 2.2 実験 p.14
 2.2.1 実験装置 p.14
 2.2.2 実験方法及び実験条件 p.17
 2.3 評価方法 p.18
 2.3.1 RHEED観察による表面構造変化 p.18
 2.3.2 STMによる表面モフォロジーの観察 p.20
 2.3.3 水素脱離の評価(TPD測定) p.27
 2.4 実験結果及び考察 p.30
 2.4.1 c(4×4)構造形成過程(Aの領域) p.30
 2.4.2 c(4×4)構造消失とSiC核発生(B,Cの領域) p.51
 2.4.3 ステップバンチングを利用した核発生 p.53
 2.5 小括 p.57
 参考文献 p.61

第3章 Si(001)-2×1表面上でのMMGeの反応過程 p.65
 3.1 緒言 p.65
 3.2 実験 p.66
 3.2.1 実験装置 p.66
 3.2.2 実験方法及び実験条件 p.66
 3.3 評価方法 p.68
 3.3.1 RHEEDによる表面構造評価 p.68
 3.3.2 表面構造に対する総合状態の評価 p.68
 3.3.3 水素脱離の評価(TPD測定) p.70
 3.4 実験結果及び考察 p.71
 3.4.1 表面構造のRHEED観察 p.71
 3.4.2 表面組成の分析 p.76
 3.4.3 MMSiを用いた場合との活性化エネルギーの比較 p.78
 3.4.4 TPD測定によるc(4×4)構造形成時の表面組成の評価 p.81
 3.5 小括 p.89
 参考文献 p.91

第4章 Geドット埋め込みSiC構造形成の評価 p.93
 4.1 緒言 p.93
 4.2 実験 p.94
 4.2.1 実験装置 p.94
 4.2.2 実験方法及び実験条件 p.94
 4.3 評価方法 p.95
 4.3.1 フォトルミネッセンス p.95
 4.4 評価方法 p.95
 4.4.1 光学特性の評価 p.95
 参考文献 p.97

第5章 結論 p.99

謝辞 p.103

本研究に関する発表論文及び学会発表 p.105

付録A 付録 p.111
 A.1 TPD測定用電流制御プログラム p.111
 参考文献 p.119

 化学気相堆積(CVD)法において原料ガスと基板との初期反応過程について理解することは組成や欠陥密度を制御した高品質結晶成長において非常に重要である。特に、近年注目を集めるナノ構造を有するデバイス作製への適応においては、基板表面での原料分子の解離や脱離、生成された原子の凝集、そして相互拡散などの様々な過程の理解が構造制御のために不可欠である。
 そこで本研究では、そのバンドキャップ差から強いキャリア閉じ込めの期待されるGeドット埋め込みSiC構造の形成を目指し、シランやゲルマンに比べ安全な原料である有機シラン(モノメチルシラン:MMSi)および有機ゲルマン(モノメチルゲルマン:MMGe)のSi(001)-2×1清浄表面上での反応過程について反射高速電子線回折(RHEED)、走査トンネル顕微鏡(STM)、X線光電子分光(XPS)そして昇温脱離(TPD)法を用いて原子スケールでの解析を行った。
 第1章では、Si上でのSiCおよびSiGe成長時の初期反応過程に関する研究の現状及び課題について示し、本研究の目的について明確にした。
 第2章ではSi(001)-2×1表面上でもMMSiの反応過程について示した。この系での成長初期段階には、その後のSiCドット系政治に大きな影響を及ぼすSi(001)-(4×4)構造が形成される。この構造の単位格子はこれまで報告されている結果と同様αとβセルであったが、αセル中央タイマーはそのバイアス依存性から、これまでとは違う特性、即ちSi-Cタイマーである可能性が示唆された。このc(4×4)構造の形成は原料中に含まれる炭素原子の基板内への拡散に起因し、その領域は拡散した炭素量にほぼ比例して拡がることが明らかになった。また、構造の広がりと共にタイマー欠損等の欠陥が修復されることにより、欠陥密度が低くかつステップバンチングを有した表面が得られることが分かった。これはMMSiを用いた場合特有の現象で表面欠損修復は原料中のSiの欠陥埋め込み、水素による不安定元素のエッチングに起因し、またステップバンチングは成長表面においてシュワーベル効果によりステップダウン方向でのSiアダトムの取り込みが優位となるため発生したことが推察された。
 このようなMMSiの反応過程で生じる現象をナノ構造形成用のテンプレート作製に利用するため微傾斜基板上での成長について解析を行った。基板に<111>方位へ2°傾斜させたSi(001)を用いることで<110>方向へ沿って直線化したステップ列が得られる。c(4×4)構造形成は微傾斜基板上においても上述の反応過程で生じ、ステップバンチングの直線化が可能であることが確認された。その強度は基板温度の上昇と共に強くなり、テンプレートとして重要な要素であるステップ間隔の制御が可能であることが分かった。また、ステップバンチングを有した基板の超高真空内でのアニールにより、ステップ付近での歪エネルギーの上昇に起因して、表面層での炭素拡散がステップ間に閉じ込められる現象が生じ、ステップに沿って配列した直径40nm程度のSiCナノドットの形成に成功した。この手法による成長はステップバンチングの高さや均一性に強く依存するため、バラツキのないステップバンチングの形成がテンプレート基板作製において重要であることが明らかになった。
 SiCドットの配列した基板上へのGeナノドットの形成を考えた場合、SiCとGe形成のみが生じる原料を用いることが好ましい。そのような原料の1つとして分子内に炭素とGeを含むMMGeが挙げられる。しかし、MMGeの2×1上での反応過程についての研究はこれまでなく、その理解はSiC形成後の基板上へのGeナノドットの形成と配列制御を目指す上で重要である。
 そこで第3章では、Si上でのMMSiと同様に、MMGeの反応過程について解析を行った。その結果、MMGeではMMSiの場合と同様にc(4×4)構造が形成され、その後SiCの核発生が見られた。また、MMSiでは見られなかったスポットがRHEEDにおいて確認され、これはMMGeが容易に解離することに起因する過剰なメチル基の供給によるSiC双晶の形成とGeを含む構造の形成を示すものと考えられた。
 c(4×4)形成過程の活性化エネルギーの見積もり、XPSおよびTPDを用いた組成分析を行った結果、c(4×4)形成時点の表面上にGeが存在することが確認された。Si上ではGeと炭素原子の反発的な相互作用が生じるためMMGeを用いる場合、Si表面上にはSiCとGeが互いに分離したサイトに形成されるといった特異な現象を引き出すことが推察された。これは配列したSiCドットが形成された基板上にGeドットを形成する場合、SiCドットの存在しない領域にGeドットを選択的に形成できる可能性を示唆するものである。
 以上の知見をもとに第4ではGeドット埋め込みSiC構造を試作し、発光特性について評価した結果、CVD法により形成を行ったGeドット埋め込みSiC構造において初めてGeドットに関連した発光を確認した。今後、ドットサイズや埋め込み構造の最適化により更なる発光効率の向上が期待される。
 第5章では、以上の各章で得られた結果を総括し、本論文の結論とした。

 本論文は「Si(001)上での有機シランおよび有機ゲルマンの初期表面反応過程に関する研究」と題し、CVD法での名の構造形成において重要である真空中での原料ガスと基板であるSi(001)-2×1清浄表面との間の反応プロセスの解明に重点をおいてまとめたものであり、5章より構成されている。
 第1章「序章」では、Si上でのSiC初期成長過程およびGeナノ構造形成についての現状を述べた後、ナノ構造のCVD法での形成において原料ガスと基板との間の原子スケールでの反応メカニズムを解明することの重要性を示し、本研究の目的、意義を述べている。
 第2章「Si(001)-2×1表面上でのMMSiの反応過程」では、Si(001)表面上にMMSiを供給した際に現れるSi(001)-c(4×4)構造についての期限の解明とその利用について述べている。MMSiの供給により、表面層に炭素拡散が生じステップ付近からc(4×4)構造の形成が始める。この時、表面に拡散した炭素量とc(4×4)構造の面積との間には比例関係があることをSTMとTPD法により明らかにしている。また、構造形成が進むに従い清浄表面に残されたダイマー欠損等の欠陥が原料中のSiおよび水素により効果的に修復されると共に、ステップフロー成長に起因したステップパンチングが生じることを示している。このステップパンチングをナノ構造制御へと利用するため、基板を微傾斜基板とすることでステップ直線化、およびSiCドットの配列制御が達成できることを提案している。
 第3章「Si(001)-2×1表面上でのMMGeの反応過程」では、MMGeの反応過程評価についても示している。この系ではMMSiの場合と同様、c(4×4)構造形成とSiCの核発生が生じるとともに、SiC双晶の形成とGe原子が関与した構造の形成が生じることを示している。TPD法を用いることでc(4×4)構造形成時からすでに表面上にGe原子が存在し、このことがc(4×4)構造形成の起原である炭素拡散に影響を及ぼすことを示している。成長初期段階におけるRHEEDパターンの中にSiCスポットが確認されていること、更にGeの核発生が生じSi上でGe炭素が反発的な振舞いを示すことからMMGeを用いた際の反応過程では表面上にSiCドットとGeドットが分離して形成されることを述べている。このことからMMGeを利用することで単一原料のみで基板上に2種類のドットを同時に配列・形成できることを提案している。
 第4章「Geドット埋め込みSiC構造形成と評価」では、以上で得られた結果をもとに強いキャリア閉じ込めの期待できる埋め込み構造を形成し、その発行特性を評価することでこの構造の応用の可能性と今後の課題などについて述べている。
 第5章「結論」では、本研究で得られた結果についてまとめている。
 以上、本論文は、有機シラン及び有機ゲルマンという安全性の高い新規の原料ガスを用いてSi(001)-2×1表面上でのSiC及びGeナノドット形成と配列制御についてのメカニズムを解明し、作製指針を明らかにした。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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