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接線力推定値を用いた電気車の空転滑走再粘着制御に関する研究

氏名 門脇 悟志
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第371号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 接線力推定値を用いた電気車の空転滑走再粘着制御に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 大石 潔
 副査 教授 近藤 正示
 副査 助教授 野口 敏彦
 副査 助教授 伊東 淳一
 副査 東京大学大学院 情報理工学系研究科助教授 古関 隆章

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 研究背景 p.1
 1.2 研究目的 p.9
 1.3 本論文の構成 p.10

第2章 最粘着制御法と空転検知 p.13
 2.1 はじめに p.13
 2.2 電気車の1動輪軸換算モデル p.15
 2.3 結果及び考察 p.19
 2.4 結論 p.21
 2.4.1 従来の外乱オブザーバを用いた再粘着制御法 p.21
 2.4.2 従来から用いられる再粘着制御法 p.23
 2.5 速度センサレスベクトル制御の導入 p.26
 2.6 提案する空転再粘着制御法 p.28
 2.6.1 空転再粘着のためのトルク指令パターン p.28
 2.6.2 接線力係数の差分値を用いた空転検知法 p.29
 2.6.3 トルク指令パターンの評価 p.31
 2.6.4 演算軸加速度を用いた空転検知法 p.35
 2.7 まとめ p.41

第3章 台車振動系を考慮した空転再粘着制御 p.43
 3.1 はじめに p.43
 3.2 台車振動系のモデル化 p.44
 3.2.1 台車モデル p.44
 3.2.2 2M1C速度センサレスベクトル制御 p.48
 3.3 台車モデルにおける空転再粘着制御方式の検討 p.49
 3.3.1 接線力係数差分値を用いた空転検知方式の検討 p.49
 3.3.2 演算軸加速度を用いた空転検知方式の検討 p.56
 3.3.3 空転検知感度に関する検討 p.59
 3.4 台車試験装置による空転再粘着制御 p.60
 3.4.1 台車試験装置パラメータによるロバスト性の検証 p.60
 3.4.2 台車試験装置による空転再粘着制御試験 p.66
 3.5 まとめ p.69

第4章 滑走再粘着制御への応用 p.71
 4.1 はじめに p.71
 4.2 回生制動時の滑走制御 p.73
 4.2.1 回生制動時の外乱オブザーバによる接線力推定 p.73
 4.2.2 滑走検知 p.75
 4.2.3 滑走再粘着のためのトルク指令パターン p.79
 4.3.4 台車試験装置による滑走再粘着制御試験 p.85
 4.3 電空協調時の滑走制御 p.88
 4.3.1 電空協調システム構成 p.88
 4.3.2 空制補足時の外乱オブザーバによる接線力推定 p.89
 4.3.3 電制失効 p.90
 4.3.4 システムの改良 p.92
 4.4 まとめ p.94

第5章 実車両における空転・滑走再粘着制御とその評価 p.95
 5.1 はじめに p.95
 5.2 再粘着制御系の構成 p.96
 5.2.1 車両モデル p.96
 5.2.2 外乱オブザーバによる接線力推定 p.98
 5.2.3 4M1C速度センサレスベクトル制御 p.98
 5.2.4 再粘着制御方式 p.99
 5.2.5 電流リプルの影響 p.106
 5.3 実車走行試験結果 p.109
 5.4 再粘着制御試験結果の性能評価 p.113
 5.4.1 再粘着性能評価に対する考え方 p.113
 5.4.2 粘着力の有効利用率による評価 p.114
 5.4.3 乗り心地の評価 p.119
 5.5 まとめ p.119

第6章 結論 p.121
 6.1 本論文の成果 p.121
 6.2 今後の展望 p.124

謝辞 p.125

参考文献 p.127

発表論文 p.135

 鉄道車両の駆動力は、動輪とレール間の接線力によって伝達され加速、減速する。もし、車両の駆動力が接線力を上回れば、空転現象を引き起こすことになる。また、制動時においては滑走を引き起こし、動輪軸がロック状態にまでいたると車輪踏面にフラットを生じさせ極端な乗り心地の悪化を招くとともに、レールの損傷の原因となる。これまでの研究により、接線力係数は環境条件に強く影響されるので変動し易いことが知られている。そのため、鉄道発祥以来、空転及び滑走現象を速やかに解消し良好な加減速運転特性を得るとともに乗り心地の悪化を防止する再粘着制御が求められている。本論文では、近年一般的となっているインバータ制御による誘導機駆動の通勤電車を対象にして、外乱オブザーバによって推定した接線力を用いたモータトルク制御に基づく空転及び滑走再粘着制御方式を提案し実現した。
 第1章では、本研究の背景となる技術的な歴史および目的を述べ、本研究の意義、位置づけを明らかにした。
 第2章では、まず電気車を1動輪軸に換算したモデルを示し、外乱オブザーバを用いた接線力推定器の構成方法について述べた。はじめに、このモデルにおいて、従来の空転再粘着制御のシミュレーションを行って問題点を示した。一般に電気車におけるエンコーダは、種々の制約から1回転あたり60パルス程度の低分解なものが用いられる。そのため、高性能な再粘着制御を目指すうえで障害となる。そこで、演算周期毎に速度情報を得ることができる速度センサレスベクトル制御を導入した。そのうえで、空転再粘着のためのトルク制御法と、空転検知方式について検討した。本章では、外乱オブザーバで推定した接線力を軸重、車輪半径で除してギア比倍した接線力係数の差分値と速度センサレスベクトル制御で推定した演算加速度を比較した。その結果、振動系を含まない1動輪軸換算モデルにおいては、重力加速度の影響を考慮する必要がなく検知感度を高く設定することができる接線力係数の差分値を用いた検知方式を用いることで、粘着限界点近傍を動作点とする高性能な再粘着制御が実現できることを確認した。
 第3章では、第2章のモデルを電気車の台車が有する複雑な振動系を含む1台車モデルへと拡張した再粘着制御系を構築した。そして、台車系が再粘着制御系に及ぼす影響をより現実に近い状態で解析を行った。計算機シミュレーションでは、実験での再現が困難な条件下での挙動把握を行い、実用上想定される外乱に対する制御系のロバスト性を検証した。その結果、空転検知信号に接線力係数の差分値を用いると台車振動に対して安定性を欠くことが確認された。そこで、速度センサレスベクトル制御で推定された演算加速度を用いることにした。すなわち、外乱オブザーバで推定した接線力は再粘着のためのモータトルク制御のみに用い、空転検知信号とトルク制御信号を分離することで、安定かつ俊敏な空転再粘着制御が実現できることを確認した。さらに、実際の電気車の台車を用いた台車試験装置による散水試験を行い、計算機シミュレーションとほぼ同等の結果を示した。これにより、提案する空転再粘着制御方式の有効性を確認することができた。
 第4章では、第3章で述べた空転再粘着制御を制動時の滑走再粘着制御への応用について述べた。はじめに、滑走制御時においても接線力係数差分値による検知方式では実現困難なことを示し、空転検知信号とトルク制御信号を分離することの優位性を示した。そして、制動時の滑走再粘着のためのトルク制御について言及したうえで、滑走再粘着制御は空転再粘着制御と統一的な制御方式で実現した。さらに、回生制動時において、第3章で用いた台車試験装置による散水試験を行い、計算機シミュレーションとほぼ同等の再粘着性能が得られることを確認した。次に、電気ブレーキと空気ブレーキとの協調制御を行う場合の再粘着性能について検討を行った。提案してきた外乱オブザーバによる滑走再粘着制御方式が、電気と空気の協調制御時においても有効に動作することを計算機シミュレーションにより確認した。
 第5章では、第3章、第4章で述べた空転および滑走再粘着制御の実車両への適用について述べた。ここでは試験車両JR東日本205系5000番代電車において散水試験を行い、空転再粘着制御と滑走再粘着制御の試験結果を示した。また、再粘着制御の試験結果に対する評価法の提案を行った。粘着力の利用率による試験結果に対する評価を行い、本制御が95%に近い高い粘着力の利用率を得ながら実現されていることが確認された。なお、本論文で提案した空転・滑走再粘着制御方式を搭載した205系5000番代電車は、JR東日本の路線にて営業運転を行っている。
 以上の結果より、接線力推定値を用いた空転滑走再粘着制御法を確立したことは、工学的、社会的にとても意義のあるものである。

 本論文は、「接線力推定値を用いた電気車の空転滑走再粘着制御に関する研究」と題し、6章より構成されている。
 第1章「序論」では、鉄道における粘着特性や再粘着制御に関する従来の研究の概要を示すとともに、本研究の目的および構成を述べている。
 第2章「再粘着制御法と空転検知」では、まず電気車を1動輪軸に換算したモデルを示し、外乱オブザーバを用いた接線力推定器の構成方法について述べている。電気車における低分解なエンコーダによる障害を回避するため、演算周期毎に速度情報を得ることができる速度センサレスベクトル制御を導入し、空転再粘着のための新しいモータトルク制御法と空転検知方式を提案している。
 第3章「台車振動系を考慮した空転再粘着制御」では、電気車の台車が有する複雑な振動系を含む1台車モデルへと拡張した再粘着制御系を構築し、台車系が再粘着制御系に及ぼす影響をより現実に近い状態で解析を行っている。計算機シミュレーションでは、実験での再現が困難な条件下での挙動把握を行い、実用上想定される外乱に対する制御系のロバスト性を検証している。さらに、実際の電気車の台車を用いた台車試験装置による散水試験を行って、計算機シミュレーションとほぼ同等の結果を示している。
 第4章「滑走再粘着制御への応用」では、空転再粘着制御を制動時の滑走再粘着制御への応用について述べている。滑走再粘着制御は空転再粘着制御と統一的な制御方式で実現している。さらに、回生制動時において台車試験装置による散水試験を行い、計算機シミュレーションとほぼ同等の再粘着性能が得られることを明らかにしている。次に、電気ブレーキと空気ブレーキとの協調制御を行う場合の再粘着性能について検討を行い、外乱オブザーバによる滑走再粘着制御方式が、電気と空気の協調制御時においても有効に動作することを計算機シミュレーションにより示している。
 第5章「実車両における空転・滑走再粘着制御とその評価」では、実車両において散水試験を行い、空転再粘着制御と滑走再粘着制御の試験結果を示している。また、再粘着制御の試験結果に対する評価法の提案と評価を行い、本制御が95%に近い高い粘着力の利用率を得ながら実現できていることを示している。
 第6章では、「結論」では本論文で得られた研究成果をまとめ総括している。
 以上のように、本論文では電気車の新しい空転および滑走再粘着制御法を確立している。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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