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アコースティックエミッション法による型抜き用板紙の加工特性評価

氏名 鈴木 茂和
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第376号
学位授与の日付 平成18年3月24日
学位論文題目 アコースティックエミッション法による型抜き用板紙の加工特性評価
論文審査委員
 主査 教授 福澤 康
 副査 教授 東 信彦
 副査 助教授 永澤 茂
 副査 青山学院大学理工学部教授 佐久田 博司
 副査 福島工業高等専門学校校長補佐 佐東 信司

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第1章 緒論 p.1
 1.1 研究の背景 p.1
 1.2 本研究の位置付け p.7
 1.2.1 従来の研究状況 p.7
 1.2.2 本研究の範囲 p.10
 [参考文献] p.13

第2章 紙の変形に関する実験手法 p.16
 2.1 緒言 p.16
 2.2 実験方法 p.16
 2.2.1 引張試験 p.16
 2.2.2 引掻試験 p.18
 2.2.3 押抜実験 p.25
 2.2.4 実用機械による押抜実験 p.26
 2.3 結言 p.27
 [参考文献] p.27

第3章 AE法による板紙の引張変形挙動の評価 p.28
 3.1 緒言 p.28
 3.2 供試材 p.28
 3.3 AE法による引張破断の評価 p.29
 3.4 結言 p.35
 [参考文献] p.35

第4章 引掻試験による白板紙の機械的性質の評価 p.36
 4.1 緒言 p.36
 4.2 供試材 p.36
 4.2.1 表層と中層の剛性の比較 p.37
 4.3 実験結果及び考察 p.39
 4.3.1 引掻荷重応答(球状圧子) p.39
 4.3.2 引掻痕とAE特性 p.45
 4.3.3 2次元引掻試験における荷重応答 p.46
 4.3.4 2次元引換試験における切削抵抗とAE波 p.55
 4.4 結言 p.57
 [参考文献] p.58

第5章 押抜実験における切刃先端幅と音響特性 p.59
 5.1 緒言 p.59
 5.2 実験条件 p.60
 5.2.1 加工および計測条件 p.60
 5.2.2 切刃高さと面板押込み量の関係 p.67
 5.3 実験結果及び考察 p.68
 5.3.1 切断特性と切断機構 p.68
 5.3.2 AE特性と切断特性の関係 p.69
 5.3.3 AE波と切刃先端幅の関係 p.73
 5.3.4 AE波と切断音の関係 p.77
 5.3.5 大型打抜機械におけるAE計測 p.82
 5.4 結言 p.90
 [参考文献] p.91

第6章 結論 p.93
 1. 学位論文に関連する研究論文 p.96
 2. 学位論文に関連する口頭発表 p.96

謝辞 p.98

包装容器製造分野で用いられる板紙の型抜加工において,加工特性にかかわる因子として,板紙の機械的特性,負荷荷重・加工速度および切刃の形状変化等がある.板紙の多くは,古紙を主成分とした層状で0.1から1mm程度の厚みのある材料で,表面には印刷を施すために粘土質の塗工層が存在することから,異方性複合材料の一種である.機械的性質は,製紙会社,製造時期,保存方法等によっても異なるため,加工条件設定に必要な機械的性質の評価手法は,工業的・学術的にも確立されていない.本論文では,型抜用板紙の機械的性質を簡易評価する手法と型抜加工中における切刃先端の状態変化を評価する手法の開発および加工過程の学術的な解明を目的として,非破壊試験法でその場観察に適しているアコースティックエミッション(AE)法を用いて,AE信号と板紙の機械的性質の関係および音響特性(AE特性および切断音特性)と型抜加工中の切断特性との関係を調べた.

板紙の変形挙動調査は引張試験,引掻試験で行い,結果をそれぞれ第3章および第4章に示した.また,小型押抜試験機を用いて実際の加工プロセスを模した実験では,切刃先端形状と音響特性の関係について調査して,本研究で開発した手法の有効性を,大型打抜機械を用いた実験で検証し第5章に示した.

本論文の構成は6章からなり,各章の概要を以下に述べる.
第1章 「緒論」では,研究背景,研究目的,本研究の位置付けを述べた.研究背景では,紙の定義,製紙会社および紙加工現場における紙の機械的性質評価の現状について述べ,紙の評価方法に関する問題点を示した.また,紙の変形挙動およびAE法に関する従来の研究状況を概観した.次に,現状における本研究の位置付けを明確にした上で本研究の目的を述べた.最後に本論文の構成をまとめた.

第2章 「紙の変形に関する実験手法」では,本論文において実施した実験手法についてその概要を述べた.引張試験における変形および破壊挙動を評価するためにAE法を適用した.板紙の機械的性質の簡易評価手法として引掻試験を提案し,球面および楔状圧子を用いた引掻試験におけるAE計測方法について述べた.また,紙加工現場において使われている打抜機の構造を模した試験機を用いた押抜きの実験方法について述べた.

第3章 「AE法による板紙の引張変形挙動の評価」では,板紙の引張変形過程における変形挙動とAE信号との対応を明らかにすることを目的として,数種類の板紙に対して引張試験とAE計測を行った.引張強度は繊維長さに依存する傾向が認められ,AE発生機構と繊維間のすべり変形との対応を明らかにした.また,引張強度と押抜実験における最大切断抵抗との関係を示した.

第4章 「引掻試験による白板紙の機械的性質の評価」では,板紙の機械的性質を簡易評価する手法の開発を目的として,楔・球面圧子を用いた引掻試験とAE計測を行った.球面状圧子による引掻試験では,接線荷重と押込み深さ曲線から表裏の変形抵抗の相異が評価でき,AE発生状態と圧子による板紙の破損状態の変化が対応することを示した.楔状圧子による引掻試験では,接線力で紙表面の変形および破壊挙動評価が可能であり,古紙層内部でせん断破壊や剥離が生じるときにAE波が検出されることを示した.以上の結果から,板紙の機械的性質を簡易評価する手法としてAE法を併用した引掻試験が有効であることを示した.

第5章 「押抜試験における切刃先端幅とAE特性」では,AE法による型抜加工加工診断システムを構築することを目的とし,切刃先端を任意の幅に加工した切刃を作製して押抜試験と音響計測を行った.AE波形は(1)切刃が板紙にかみ込んで状態での面板上の負荷変化,(2)板紙の最終破断による急激な負荷変動ならびに切刃と面板の衝突による負荷変動,(3)面板から切刃が離れることによって生じる負荷の変化に対応して発生することから,AE信号計測により切刃先端幅変化の評価ができることを明らかにした.また,マイクロフォンで計測した切断音とAE波の間に相間関係があることを示した.さらに,大型打抜機械における音響計測結果から加工プロセスの変化をその場で観察し,切刃形状の変化を評価する手法として,本研究で構築した音響法が有効であることを示した.

第6章 「結論」において,本研究で得られた結果をまとめ,今後の課題を述べた.

 本論文は,「アコースティックエミッション法による型抜き用板紙の加工特性評価」と題し,6章および付録より構成されている.

第1章「緒論」では,紙の歴史,分類,使用用途,板紙類の型抜加工における操業上の問題点を示し,従来の問題点解決に関する研究の概要と本研究の目的と範囲を述べている.

第2章「紙の変形に関する実験手法」では,本研究において実施した手法,AE法,引張試験,引掻試験および押抜き試験の概要について述べている.また,紙器加工の現場において使われている打抜機械を用いた実験方法を述べている.

第3章「AE法による板紙の引張変形挙動の評価」では,型抜き加工時の板紙に負荷される切断抵抗と引張強さの関係を求めることを目的に,板紙類の繊維長さと引張強さの関係を調べている.この結果,AE発生機構から繊維のすべり挙動が検出できることを明らかにし,板紙の種類による切断抵抗の相異をAE法で評価できる可能性を示している.

第4章「引掻試験による白板紙の機械的性質の評価」では,板紙の機械的な性質を簡易評価する手法としての引掻試験の効果について述べている.引掻き抵抗力および引掻き痕の長さおよび形状とAE発生機構との対応から板紙の表面層,中層の変形・破壊挙動の相異を明らかにしている.

第5章「押抜試験における切刃先端幅と音響特性」では,紙器加工の現場で使われている打抜機械の構造を模した試作機を用いて,切刃先端幅とAE波振幅の相関性を求め,切断加工中の切刃先端形状変化の評価法としてのAE法の有効性を示している.また実用の自動平盤打抜機を用いて,実際の打抜き加工中のAE波と切断音の計測を行い,型抜加工の異常状態の検出方法として,本研究で開発した音響法が有効であることを明らかにしている.

第6章「結論」において,本研究で得られた結果をまとめ,今後の課題について述べた.付録においては,紙の機械的な性質に関する試験方法の規格およびパルプの分類について示している.

以上のように,本論文は,AE法を用いた板紙の打抜加工特性を簡易評価する手法および加工中の異常状態の評価手法を開発して,その有効性を学術的に実証しているよって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.

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