本文ここから

安全確認の原理に基づく機械保守作業の安全に関する研究

氏名 木村 真
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第570号
学位授与の日付 平成23年3月25日
学位論文題目 安全確認の原理に基づく機械保守作業の安全に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 福田 隆文
 副査 教授 三上 喜貴
 副査 教授 平尾 裕司
 副査 准教授 木村 哲也
 副査 明治大学教授 杉本 旭

平成22(2010)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 序論 p.1
 1-1 本研究の背景 p.1
 1-2 本研究の目的 p.5
 1-3 リスクアセスメントとの関係 p.5
 1-4 本論文の構成 p.6
 第1章参考文献 p.7
第2章 既往の研究と安全管理 p.9
 2-1 はじめに p.9
 2-2 安全の原理 p.9
 2-2-1 空間定義 p.9
 2-2-2 安全の生成過程 p.10
 2-2-3 予測の過程 p.10
 2-2-4 安全確認手段 p.13
 2-3 安全確認型作業システムの原理 p.14
 2-3-1 安全作業システムの定式化と安全作業の原理 p.14
 2-3-2 人-機械作業システムのインタロック p.15
 2-4 機械保守作業のエネルギ管理に関する規制 p.18
 2-4-1 代表的な規格、規制 p.18
 2-4-2 用語の定義 p.18
 2-4-3 適用範囲 p.19
 2-4-4 要求事項 p.19
 2-4-5 トラップト・キー・インタロック p.22
 2-5 エネルギ供給を必要とする保守作業に対する安全規格 p.25
 2-6 小括 p.26
 第2章参考文献 p.26
第3章 機械の電源遮断とロックアウト p.29
 3-1 はじめに p.29
 3-2 本章の取り扱い範囲 p.29
 3-3 人間機械作業システムの構成 p.30
 3-4 機械の通常運転時における安全作業 p.32
 3-5 機械の保守時における安全作業 p.35
 3-5-1 保守作業の安全条件 p.35
 3-5-2 MMS p.36
 3-5-3 機械的インタロックにおける人の立場 p.36
 3-5-4 一人保守作業の安全確保 p.37
 3-6 小括 p.41
 第3章参考文献 p.41
第4章 トラップト・キー・インタロックの安全機能要件 p.43
 4-1 はじめに p.43
 4-2 トラップト・キー・インタロックの必要条件 p.43
 4-3 トラップト・キー・インタロックの現状 p.49
 4-3-1 調査および比較の方法 p.49
 4-3-2 調査結果 p.51
 4-4 新たな装置構成例 p.56
 4-5 小括 p.60
 第4章参考文献 p.60
第5章 機械の安全制御構造とその保守作業への適用 p.63
 5-1 はじめに p.63
 5-2 安全制御構造原則 p.64
 5-2-1 合目的的安全 p.64
 5-2-2 制御に基づく安全 p.64
 5-2-3 人-機械作業システム p.67
 5-2-4 調整制御の位置付け p.68
 5-3 テスト運転等への適用 p.69
 5-3-1 テスト運転等の作業空間定義 p.69
 5-3-2 作業手順書の位置付けと危険状態 p.70
 5-3-3 テスト運転等の調整制御 p.71
 5-3-4 テスト運転等のインタロック p.72
 5-3-5 調整制御およびインタロックの非対称故障性 p.73
 5-4 小括 p.74
 第5章参考文献 p.75
第6章 保守作業手順における安全制御構造 p.77
 6-1 はじめに p.77
 6-2 保守作業の全体構造 p.77
 6-3 治具と保護具の関係 p.78
 6-4 安全作業手順書の要件 p.79
 6-5 小括 p.82
 第6章参考文献 p.83
第7章 ロックアウトシステムにおけるテスト運転等 p.85
 7-1 はじめに p.85
 7-2 ロックアウトシステムの複数人作業への拡張 p.85
 7-3 テスト運転等の実現の方法 p.88
 7-3-1 作業空間定義と自己の可能性 p.88
 7-3-2 複数機械存在下におけるテスト運転等の安全条件 p.89
 7-4 小括 p.91
 第7章参考文献 p.94
第8章 総括 p.95
謝辞 p.99

付録-A 労働安全衛生規制におけるロックアウト要求 p.101
付録-B OSHA 29 CFR 1910.147 The control of hazardous energy (Lockout/tagout) 対訳 (ロックアウト関連要求抜粋) p.103
付録-C 機械的相互インタロックの基本構造 p.121
付録-D 労働安全衛生規制における作業手順要求 p.125

 本論文では,機械の保守作業を「エネルギ供給を必要としない保守作業」と「エネルギ供給を必要とする保守作業」に分け,「安全確認の原理」および「安全作業システムの原理」を適用し,それぞれの安全の構築について,論理的な安全の原則を検討した.
本研究で得られた主な結果は,以下のとおりである.
「エネルギ供給を必要としない保守作業」について,以下を示した.
(1) 人間と機械の存在する作業空間について,通常運転時と保守作業時とでは空間構造が異なり,予期せぬ空間構造の遷移が事故につながること.
(2) 安全に作業を行うためには,機械の状態である通常運転時のエネルギ供給状態とエネルギ供給が遮断された状態ZMS(Zero Mechanical State)に加え,エネルギ供給操作が阻止された状態MMS(Maintenance Mechanical State: Locked ZMS)が必要であること.
(3) 予期せぬ空間構造の遷移を防止するためには,エネルギ供給状態,MMS,ZMS間の遷移について,人の操作に順番を与えるインタロック構造が必要であること.
(4) MMS状態を維持するために鍵等を所持することが,安全確認を常時実施していることに相当すること.
(5)トラップト・キー・インタロックにおける設計のポイントとして以下の3点を示した.
(a) ホステージ制御用の鍵を抜かなければ可動ガードが開かない設計とすること.
(b) 可動ガードが開いている状態では,ホステージ制御用の鍵をKey exchange unitに挿すことができない設計とすること.
(c) ホステージ制御用の鍵の置き去りを抑制する設計とすること.
(6) トラップト・キー・インタロックにおける設計のポイントを満足する具体的構成例を示し,提案が実現可能であることを示した.
「エネルギ供給を必要とする保守作業」について,以下を示した.
(1) 機械における安全が,以下のように構成されていることを示した.
(a) 機械の導入目的である作業を実施するための「目的制御」と,その能力不足による失敗を未然に防ぐ「調整制御」の組み合わせによる合目的的安全制御が安全構築の主体であること.
(b) インタロックは,合目的的安全制御の失敗によって現に発現する危険状態を目的制御の断念によって未然に防ぐ機能であること.
(c) 非常停止装置は,インタロックの監視範囲の限界等を補う形で設置される.
(2) 「安全は,制御の失敗により発生するであろう一つの危険状態に対して,第一の制御の能力不足を第二の制御が補完し,第二の制御の能力不足を第三の制御が補完し,これを繰り返すという多段制御システムで構築すること.」が,安全なシステムを構成する上での原則(安全制御構造原則)であり,事例をとおして機械以外の制御にも適用可能な一般化した原則であることを示した.
(3) 安全制御構造原則を機械の保守作業に適用した場合,作業を実施する人の他に,次の人を配置して作業を実施することがインタロックを一部解除して行うテスト運転等の保守作業の原則であることを示した.
(a) その作業が危険状態にならないように,作業者に対して情報提供する機能を担う人(調整制御介助者)
(b) 安全な状態が確認できなくなった場合に作業を停止させる機能を担う人(安全確認実施者)
(4) 保守作業の「確認された範囲」に相当する,作業手順を構築するにあたり,安全制御構造による安全確保が,制御の欠陥を次の制御が補完する多段制御であることから,以下の必要性を示した.
(a) 多段制御になるように保守作業そのものを構成すること
(b) 目的制御に使用する「治具」と調整制御に使用する「保護具」を区別し,目的制御の失敗を補完するために「保護具」を機能させること
(c) 要素作業毎に「安全確認」,「目的制御」,「調整制御」を構成し,それが順につながっていること
(5) 作業手順書に記載すべき内容として,「安全確認」と「調整制御」かかわる以下を記載する必要があることを示した.
(a) 要素作業を実施の許可条件(その要素作業が安全に実行できる根拠)
(b) 要素作業そのものを安全に実施する方法(安全状態から逸脱しないための方法)
「エネルギ供給を必要としない保守作業」を前提としたロックアウトシステムにおいて,「エネルギ供給を必要とする保守作業」を複数人(グループ)で実施する場合の必要条件が以下であることを示した.
(1) テスト運転等を実施するために共同作業領域に入った人数と共同作業領域から出た人数をカウントし,それが等しくなったことを条件としてMMSを解除すること.
(2) ガード内に進入する前に,ガード内の全ての機器をMMSとし,ガード内に入った後にテスト運転等を実施する対象となる機器に対してのみエネルギを供給すること.

 本論文は、「安全確認の原理に基づく機械保守作業の安全に関する研究」と題し、8章より構成されている。第1章「序論」では、保守作業時の事故が多いが、その安全に関する論理的な研究が欠如していることを指摘している。第2章「既往の研究と安全管理」では、「安全の原理」及び「安全作業システムの原理」について説明した。また、アメリカの労働安全規制を調査し、保守作業の安全に関する規制状況、機械安全に係る国際規格における規格の制定状況について記述した。第3章「機械の電源遮断とロックアウト」では、エネルギ供給を必要としない保守作業について、事故が発生する原因とプロセスの解析から、安全を構築する上での原則を検討した。第4章「トラップト・キー・インターロックの安全機能要件」では、具体的な安全方策となる「トラップト・キー・インタロック」の安全要件を検討した。これら第2~4章では、エネルギ供給を必要としない保守作業を安全に行うためには、機械の状態である通常運転時のエネルギ供給状態とエネルギ供給が遮断された状態に加え、エネルギ供給操作が阻止された状態が必要であり、この3状態の遷移を防止するためには、人の操作に順番を与えるインタロック構造が必要であることを導き、更に前者の状態を維持するための鍵管理法等の設計の要件を示した。第5章「機械の安全制御構造とその保守作業への適用」では、エネルギ供給を必要とする保守作業でも特にリスクの高いインタロックを一部解除して実施する作業を検討対象とした。機械の安全の構造がどのように構築されるべきかを改めて検討し、(a)機械の目的作業のための「目的制御」と、その能力不足による失敗を防ぐ「調整制御」の組合せによる合目的的安全制御が安全構築の主体であること、(b)インタロックは、合目的的安全制御の失敗によって発現する危険状態を目的制御の断念によって未然に防ぐ機能であること等を示した。
 次いで、危険状態に対して、第一の制御の能力不足を第二の制御が補完し、第二の制御の能力不足を第三の制御が補完し、これを繰り返す多段制御構造がシステム構成上の原則であることを示し、この原則を保守作業の安全に適用した。その結果、作業を実施する人の他に、作業者に対して情報提供する調整制御介助者及び安全な状態が確認できなくなった場合に作業を停止させる安全確認実施者を配置して作業を実施することが安全原則であることを示した。第6章「保守作業手順における安全制御構造」では、作業手順書に書かれる保守作業の構造について検討した。第7章「ロックアウトシステムにおけるテスト運転等」では、ロックアウトシステムを構築した作業環境において、エネルギ供給を必要とする保守作業を行うための原則を示した。第8章「総括」では、研究全体を総括し、今後の課題について述べた。
 本論文は、従来検討が十分でなかった保守作業の安全に関して論理的に考察し,その原理を示したものである。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

平成22(2010)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る