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フラーレン類の生物学的機能および生体影響に関する研究(Biological Function and Effect of Fullerenes)

氏名 青島 央江
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第286号
学位授与の日付 平成22年9月8日
学位論文題目 フラーレン類の生物学的機能および生体影響に関する研究 (Biological Function and Effect of Fullerenes)
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 准教授 岡田 宏文
 副査 准教授 河原 成元
 副査 准教授 小笠原 渉
 副査 教授 政井 英司
 副査 慶應義塾大学薬学部教授 増野 匡彦

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目次
抄録 p.1
略語 p.3
序章 p.5
1. フラーレンの構造と発見 p.5
2. フラーレン類の特性と産業利用 p.5
3. フラーレン類の応用可能な用途 p.7
4. フラーレン類の安全性 p.8
5. 本研究目的 p.9
第1章 フラーレンの抗菌活性 p.12
1-1. 序論 p.12
1-2. 実験材料および方法 p.13
 1-2-1. 実験材料 p.13
 1-2-2. 方法 p.17
1-3. 結果 p.18
 1-3-1. MIC p.18
 1-3-2. MBC/MFC p.20
1-4. 考察 p.22
第2章 フラーレンの抗酸化能評価および光分解抑制効果 p.24
2-1. 序論 p.24
2-2. 実験材料および方法 p.26
 2-2-1. 実験材料 p.26
 2-2-2. 方法 p.26
2-3. 結果 p.28
 2-3-1. フラーレンの抗酸化能評価 p.28
 2-3-2. フラーレンの光分解抑制試験 p.31
2-4. 考察 p.34
第3章 フラーレンによる影響評価 p.36
3-1. 序論 p.36
3-2. 実験材料および方法 p.38
 3-2-1. 実験材料 p.38
 3-2-2. 方法 p.38
3-3. 結果 p.41
 3-3-1. 眼刺激性試験 p.41
 3-3-2. 皮膚一次刺激性試験および累積皮膚刺激性試験 p.42
 3-3-3. 皮膚感作性および光感作性試験 p.43
 3-3-4. 皮膚光毒性試験 p.45
 3-3-5. ヒト皮膚パッチテスト p.46
3-4. 考察 p.47
第4章 水溶性高分子包接フラーレンによる生体影響評価 p.49
4-1. 序論 p.49
4-2. 実験材料および方法 p.50
 4-2-1. 実験材料 p.50
 4-2-2. 方法 p.51
4-3. 結果 p.54
 4-3-1. 復帰突然変異試験(Ames 試験) p.54
 4-3-2. 染色体異常試験 p.56
 4-3-3. 光毒性代替法試験 p.58
 4-3-4. プロオキシダント効果 p.59
4-4. 考察 p.61
総括 p.63
APPENDIX p.66
謝辞 p.73
参考文献 p.74

 1985年に発見された炭素同素体の一種であるフラーレン類は、C60(炭素60個より形成されたサッカーボール状の化合物)に代表されるように、炭素原子が球状構造を形成するものの総称で、C70以上の高次フレーレンや酸化フラーレンも存在する。フラーレン類は、優れた電子受容性と、熱や電気を通しにくく、ポリマー化が容易といった特徴から、様々な産業分野への応用が期待されている。また、フラーレン類は優れたラジカル捕捉能を有し、生体内における高い抗酸化活性も認められていることから、ラジカル疾患等に対する治療薬への利用も期待されている。しかしながら、フラーレン類の研究は、誘導体合成や物性解明に関する報告が多く、生物学的機能が十分解明されていない。さらに、アスベスト等ナノ材料による健康影響の問題から、フラーレン固体は数μm以上のクラスターでありながら、1分子の直径が1nm以下であることから、安全性を懸念する声もあり、産業化を広げる上で大きな障壁となっている。
本研究においては、フラーレン類をライフサイエンス分野で産業利用することを目指し、フラーレン類の生物学的機能を解明することを目的とした。同時に、ライフサイエンス分野のうち、外用用途を想定した生体に対する影響を検討することにより、生体に対するリスク評価を行うことによりフラーレン類の安全性を立証することを目的とした。
第1章.フラーレン類の抗菌活性
フラーレン類を様々な方法で水に分散したフラーレン化合物およびフラーレンに官能基を付与した水酸化フラーレン誘導体を用いて、一般的な細菌および人体に対して病原性をもつ細菌・真菌類に対する抗菌活性を評価した結果、フラーレン化合物はいずれの微生物に対しても抗菌活性を示さないものの、水酸基を付与した誘導体は、一部の細菌に対して抗菌活性を示すことが明らかになった。さらに、水酸基数の増加に伴って、抗菌活性が高くなり、かつ適用可能な微生物種が増加することも明らかになった。フラーレン誘導体の最小殺菌濃度を調べた結果、水酸化フラーレンの抗菌活性は、殺菌によるものではなく微生物の増殖を抑制する作用によることが明らかになった。また、水酸化フラーレンは、P.acnes由来リパーゼ阻害活性を有することが明らかになったことから、細胞膜に対する直接的な攻撃に加えて、酵素阻害により抗菌特性を示す可能性も示唆された。以上の結果から、水酸化フラーレンはニキビに対する有効物質として利用できる可能性が高いと判断し、脂腺細胞を用いた皮脂分泌抑制効果を調べた結果、皮脂の分泌を抑制する効果を有していた。以上の結果から、水酸化フラーレンは、ニキビ改善に有用な成分として利用できる可能性が期待される。
第2章.フラーレン類による抗酸化及び光分解抑制効果
カロテノイド退色法を用いて、フラーレン類による退色抑制効果を検討した結果、β-カロテンおよびアスタキサンチンに対して、優れた退色抑制効果を有することが明らかになった。また、光照射に対して不安定な物質に対する抑制効果を検討した結果、フラーレン類によるヒドロキノン、アボベンゾン、アスコルビン酸に対する光分解抑制効果が認められた。フラーレン類はアスコルビン酸やセミキノンラジカルに対して捕捉能を有する可能性が示唆された。ビタミンCなどの抗酸化物質は、金属イオン存在下など特定条件下で、抗酸化とは相反して酸化反応が加速するプロオキシダント効果を示すことが知られている。フラーレン類のプロオキシダント効果の有無を検証した結果、フラーレン類はプロオキシダント効果を示さなかった。
第3章.フラーレン類による生体影響評価
 フラーレン類を外用塗布目的に使用する場合を想定し、医薬部外品申請時に提出することが義務付けられている10項目の毒性評価を行った結果、眼刺激性試験においてわずかに物理的な刺激が確認されたものの、他のいずれの毒性評価においても毒性は認められず、フラーレン類は安全性が高い可能性が示唆された。
第4章.包接フラーレン化合物による生体影響評価
 フラーレン類は不溶性であるため、水溶性高分子を用いて包接した化合物を用いて、in vitro光毒性、Amesテスト、染色体異常発現性を評価した結果、いずれにおいても包接フラーレン化合物の毒性は認められなかった。さらに、ヒト皮膚パッチテストを行った結果、ヒト皮膚に対して全く影響を及ぼさなかった。
 以上の結果から、本研究に使用したフラーレン類は安全であり、フラーレン研究者間における「フラーレン類の毒性は小さい」という認識を支持する結果が得られた。フラーレン類による抗酸化能に加えて、誘導体化することにより抗菌活性を示すことが明らかになったことから、抗菌成分としての利用も期待される。フラーレン誘導体において抗菌活性が認められたP. acnesの関与する代表的な皮膚疾患であるニキビに対しても有効性を示唆する結果が得られたことから、化粧品・医薬部外品としての応用も期待される。

 本論文は、炭素同素体の一種であるフラーレンを、ライフサイエンス分野で幅広く産業的に応用することをめざしたものである。「フラーレン類の生物学的機能および生体影響に関する研究」と題して、フラーレンおよび誘導体における生物学的機能の解明および外用用途を想定した生体影響の評価を目的とし、フラーレンおよび誘導体の抗菌活性、抗酸化活性、および光分解抑制効果を研究するとともに、動物や細胞を用いた毒性等にかかわる評価を行った一連の研究結果をまとめている。
 第1章では、各種フラーレン(包接、高分散化、化学修飾)を用いて様々な微生物に対する抗菌活性を評価した結果、水酸化フラーレン誘導体が一部の微生物に対する抗菌活性を有することを見出した。第2章では、フラーレンの抗酸化活性をカロテノイド退色法により評価し、フラーレンが不飽和脂肪酸および紫外線照射に由来するカロテノイドの退色に対して、いずれの場合にも抑制効果を発揮することを見出すとともに、フラーレンが紫外線照射により生成するセミキノンラジカルやアスコルビン酸ラジカルに対する捕捉効果を有することを示唆した。第3章では、哺乳動物(齧歯類およびヒト)を用いて生体影響評価を行い、フラーレンがわずかな物理的眼刺激性以外には明確な毒性を示さないことを明らかにした。第4章では、遺伝学的、生化学的および化学的手法を用いて水溶性包接フラーレンの生体影響評価を行い、その安全性を立証した。
 本論文では、水酸化フラーレン誘導体の有する抗菌活性を見出し、またフラーレンが外用用途に使用するために十分な安全性を有することを世界に先がけて明らかにした。本研究で得られた知見は、学術的な価値が高いだけでなく、フラーレンを産業利用する上で、非常に価値の高い知見を提供するものと考えられる。
よって本論文は、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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