本文ここから

外乱オブザーバで構成する出力電圧誤差補償法を適用した電圧形インバータによる誘導電動機駆動システムに関する研究

氏名 星野 哲馬
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第582号
学位授与の日付 平成23年3月25日
学位論文題目 外乱オブザーバで構成する出力電圧誤差補償法を適用した電圧形インバータによる誘導電動機駆動システムに関する研究
論文審査委員
 主査 准教授 伊東 淳一
 副査 教授 近藤 正示
 副査 教授 大石 潔
 副査 准教授 宮崎 敏昌
 副査 静岡大学教授 野口 敏彦

平成22(2010)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 序論 p.1
 1.1 研究の背景 p.1
 1.2 本研究の目的 p.9
 1.3 論文の構成 p.10
 参考文献 p.13

第2章 外乱オブザーバを用いた出力電圧誤差補償法 p.15
 2.1 緒論 p.15
 2.2 電圧誤差の発生要因 p.16
 2.2.1 デッドタイムに起因する誤差 p.16
 2.2.2 デバイスに起因するオン電圧誤差 p.19
 2.3 従来の補償法と問題点 p.21
 2.3.1 デッドタイムの不要なスイッチングを行う手法 p.21
 2.3.2 デッドタイム期間に出力電圧をクランプする回路 p.23
 2.3.3 出力電圧を直接検出し,パルス幅を補償する方法 p.25
 2.3.4 電流極性に応じて電圧指令値に補償を行う方法 p.28
 2.3.5 オフラインで作成した電流-電圧誤差テーブルを用いる手法 p.30
 2.3.6 補償量をオンライン推定する手法 p.33
 2.4 提案する外乱オブザーバを用いた出力電圧誤差補償法 p.37
 参考文献 p.40

第3章 ベクトル制御における外乱オブザーバを用いたインバータ出力電圧の誤差補償手法の解析 p.41
 3.1 緒論 p.41
 3.2 原理 p.42
 3.2.1 すべり周波数制御型ベクトル制御 p.42
 3.2.2 ベクトル制御系に適用した外乱オブザーバの解析 p.45
 3.3 ベクトル制御系に適用した外乱オブザーバの解析 p.47
 3.3.1 補償性能・目標値応答 p.47
 3.3.2 安定性解析 p.51
 3.4 実機検証 p.55
 3.4.1 出力電流ひずみの評価 p.57
 3.4.2 パラメータ誤差の影響 p.60
 3.5 結言 p.62
 参考文献 p.63

第4章 誘導機の速度センサレスベクトル制御における外乱オブザーバを用いた出力電圧誤差補償 p.65
 4.1 緒言 p.65
 4.2 原理 p.66
 4.2.1 速度センサレスベクトル制御 p.66
 4.2.2 外乱オブザーバを用いた出力電圧誤差補償法 p.70
 4.3 シミュレーションおよび実験結果 p.72
 4.3.1 シミュレーション結果 p.72
 4.3.2 実験結果 p.78
 4.4 結言 p.81
 参考文献 p.82

第5章 誘導機のV/f 駆動システムにおける外乱オブザーバを用いた電圧誤差補償法 p.83
 5.1 緒言 p.83
 5.2 原理 p.85
 5.2.1 回転座標上にいけるV/f 制御 p.85
 5.2.2 外乱オブザーバを用いた電圧誤差補償法 p.88
 5.3 提案システムの解析 p.91
 5.3.1 システムの伝達関数導出 p.91
 5.3.2 パラメータ整合時の周波数特性 p.92
 5.3.3 モータのパラメータ変動の影響 p.96
 5.3.4 低速運転時の補償法と伝達関数の変化 p.96
 5.3.5 システムの根軌跡を用いた安定性解析 p.97
 5.4 実験結果 p.101
 5.4.1 従来法と提案法の出力電流ひずみによる比較 p.104
 5.4.2 従来法と提案法の低速域での負荷特性評価 p.106
 5.4.3 負荷ステップおよび加減速特性評価 p.108
 5.4.4 提案法のパラメータ誤差による影響の検証 p.111
 5.5 結言 p.113
 参考文献 p.114

第6章 結論 p.115
 6.1 本研究の成果 p.115
 6.2 今後の課題 p.116

謝辞 p.119

論文目録 p.121
 学術論文 p.121
 国際会議口頭発表論文 p.121
 国内学会口頭発表論文 p.122
 参考文献 p.123

 近年,インバータはさまざまな分野に適用されてきた。特に一般産業機器としてインバータは誘導機と組合せ,フアン・ポンプなどの大幅な省エネルギー化に貢献している。また,誘導機の制御の高性能化も進んでおり,誘導機の制御方式の一つであるベクトル制御はトルク制御性能が高く,工作機械,鉄道車両等,高性能な制御が必要な分野に適用されている。はかにも,センサレスベクトル制御は速度センサが不要であり,かつトルク制御が可能であることから,従来のIサ制御ではカバーしきれない分野に適用されている。このように,インバータを用いた誘導機のさまざまな制御方式が開発されているが,上下アームの切り替え時に短絡防止用のデッドタイムを必要とし,この期間に出力電圧の誤差を生じる。デッドタイムにより発生する電圧誤差は,電流波形にひずみを生じさせ,トルクリプルが発生するなど,制御性能を劣化させる。例えば,誘導機の制御に最もよく用いられている町制御はオープンループ制御であるため,出力電圧誤差の影響が特に大きく,回転ムラやトルクリプルが増加する。
 本論文では,外乱オブザーバを用いたデッドタイム誤差電圧補償手法を誘導機駆動システムに適用したときの制御性能および安定性について検討し,設計方針を明らかにする。パラメータミスマッチによる影響を含め,システムの伝達関数の周波数特性を解析する。安定性はシステムの根軌跡より検討する。実機検証の結果,外乱オブザーバを用いる手法は,従来のフィードフォワードを用いる手法に対して,ひずみ率において1/3~1/9に低減できることを示し,またパラメータミスマッチに対する安定性を確認したので報告する。
 本論文は全6章からなる。第l章では研究の背景を述べ,第2章では外乱オブザーバを用いた誤差電圧補償法について述べる。第3章ではIゲ制御された誘導電動機駆動システムに対する,外乱オブザーバを用いた誤差補償法の適用方法を述べ,第4章ではベクトル制御された誘導電動機駆動システムに対する,外乱オブザーバを用いた誤差補償法の適用方法を述べる。第5章ではセンサレスベクトル制御された誘導電動機駆動システムに対する,外乱オブザーバを用いた誤差補償法の適用方法を述べ,最後に第6章において本論文のまとめを述べる。続いて,各章の概説を述べる。
 第2章では,外乱オブザーバを用いた誤差電圧補償法と,従来型補償法の比較を述べる。まず,インバータの出力電圧に発生する誤差電圧の要因として,デッドタイム期間中の誤差電圧,素子の飽和電圧と浮遊容量による誤差電圧の発生について振り返る。次に,従来型補償法について説明し,適用した場合の問題点を明らかにする。そして,外乱オブザーバを用いた誤差電圧補償法を提案し,従来型補償法に対する提案補償法の利点を示す。最後に,提案法に含まれるフィードフォワード項とその役割を説明し,設計指針を示す。
 第3章では,ベクトル制御された誘導電動機駆動システムに対し,提案する外乱オブザーバを用いた誤差補償法を適用する方法を述べる。まず,誘導電動機に対するベクトル制御法を振り返り,提案する補償法の適用方法を説明する。次に,提案法で用いるフィードフォワード項の設計方法を,ベクトル制御との対応から求める。そして,提案する制御法をベクトル制御された誘導電動機駆動システムに適用した場合の,提案制御法の安定性解析を行った結果について述べる。最後に,実験結果を示す。
 第4章では,センサレスベクトル制御された誘導電動機駆動システムに対し,提案する外乱オブザーバを用いた誤差補償法を適用する方法を述べる。まず,誘導電動機に対するセンサレスベクトル制御として,d軸誘起電圧ゼロ制御による手法を振り返る。次に,センサレスベクトル制御に外乱オブザーバ補償法を適用するための方法を説明する。そして,外乱オブザーバ補償法を速度センサレスベクトル制御に適用した場合の,電圧誤差の補償性能を実機実験にて評価する。
 第5章では,V/f制御された誘導電動機駆動システムに対し,外乱オブザーバを用いた誤差補償法を適用する方法を述べる。まず,誘導電動機に対するV/f駆動法を,ベクトル制御との違いを踏まえて説明する。次に,提案法をV/f駆動法に適用する場合の,フィードフォワード項の設計方法と提案法の修正を示す。そして,提案する制御法をV/f制御された誘導電動機駆動システムに適用した場合の,提案制御法の安定性解析を行った結果について述べる。
 最後に,実験結果を示す。
 最後に,第6章で本論文を総括し,提案する補償法の有効性と問題点を挙げ,今後の課題を示す。
 提案手法を用いることで,インバータの出力電圧誤差が引き起こす電流ひずみを低減し,各種誘導機制御手法のさらなる高性能化に貢献した。

 本論文は、「外乱オブザーバで構成する出力電圧誤差補償法を適用した電圧形インバータによる誘導電動機駆動システムに関する研究」と題し、6章より構成されている。
 第1章では、本研究の背景となる技術的な歴史及び目的を述べ、本研究の意義と位置づけを明確にした。
 第2章では、インバータの出力に電圧誤差が発生するメカニズムと、従来型補償法の欠点を明らかにし、外乱オブザーバを用いた電圧誤差補償法を提案した。従来型補償法では電圧誤差推定値の調整にかかる手間が煩雑であり、調整の簡略化が求められていることを述べた。対して、提案する外乱オブザーバを用いた電圧誤差補償法は、電圧誤差をオンライン推定することで、電圧誤差推定値の調整が簡略化できることを示した。
 第3章では、ベクトル制御された誘導電動機駆動システムに対し、提案する外乱オブザーバを用いた誤差補償法を適用する方法を述べ、制御性能の改善を行った。さらに、外乱オブザーバ補償法の動作と安定性を検討した。解析の結果、外乱オブザーバの設計方針を明らかにし、パラメータミスマッチがある場合にもシステムの安定性が損なわれないことを確認した。実験の結果、制御器のパラメータミスマッチがない場合、全速度領域において電流ひずみ率が1%以下とし、従来型補償法に比べて電流ひずみ率を約1/2に改善した。
 第4章では、センサレスベクトル制御された誘導電動機駆動システムに対し、提案する外乱オブザーバを用いた誤差補償法を適用する方法を述べた。外乱オブザーバ補償法を速度センサレスベクトル制御に適用した場合、従来型補償法に比べて電流ひずみ率を1/3以下に低減した。
 第5章では、V/f制御された誘導電動機駆動システムに対し、外乱オブザーバを用いた誤差補償法を適用する方法を示した。実験の結果、コントローラのパラメータ誤差がない場合、 出力周波数1Hzで無負荷の条件において電流ひずみ率は0.98%と従来型補償法に比べ1/9以下に改善できることを明らかにした。そして、低速域における負荷に対する特性は、提案法で119%と従来型補償法に比べ約6倍の起動トルクが得られた。また、ステップ負荷・定格回転数までの加減速に対してもストールせず、提案法が過渡状態でも安定なことを明らかにした。
 第6章では、本論文の有用性と総括を述べ、本研究の有用性を明らかにするとともに、今後の課題についてまとめた。
 以上のように、本論文は、外乱オブザーバを用いた出力電圧誤差補償法を誘導機駆動システムに適用し、その有用性を示した。またベクトル制御、速度センサレスベクトル制御、V/f制御に対して、外乱オブザーバ補償法の動作と安定性を検討、また実機実験により検証しており、誘導電動機駆動システムの高性能化に貢献するものである。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

平成22(2010)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る