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液晶分子の光波制御配向による異方的構造体の作製とその光学特性に関する研究

氏名 佐々木 友之
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第493号
学位授与の日付 平成21年3月25日
学位論文題目 液晶分子の光波制御配向による異方的構造体の作製とその光学特性に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 小野 浩司
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 上林 利生
 副査 教授 打木 久雄
 副査 准教授 木村 宗弘
 副査 産学融合特任准教授 塩田 達俊

目次

第1章 序論 p.1
 1.1. 研究の背景 p.1
 1.2. 研究の目的 p.2
 1.3. 本論文の構成 p.3
第2章 序論 p.5
 2.1. 液晶 p.5
 2.2. 異方正媒質中における光波の伝播 p.6
 2.2.1. 異方正媒質 p.6
 2.2.2. 偏光 p.9
 2.2.3. Jonesベクトル及びJones行列法 p.11
 2.2.4. 拡張Jones行列法 p.14
 2.2.5. 4×4行列法 p.16
 2.2.6. 時間領域差分法 p.24
 2.3. ホログラム p.27
 2.3.1. ホログラム記録による回折格子 p.28
 2.3.2. 偏光の干渉 p.30
 2.3.3. 格子からの回折 p.32
第3章 多重ホログラム記録による変更解析素子 p.37
 3.1. 光架橋性高分子液晶 p.37
 3.2. ホログラム記録による1次元異方性回折格子 p.38
 3.3. Stokesパラメータ p.39
 3.4. 偏光検出素子の設計 p.42
 3.5. 多重ホログラム記録による偏光検出素子の作成 p.44
 3.6. 偏光検出機能の確認 p.44
 3.7. まとめ p.46
第4章 コレステリック液晶へのホログラム記録による2次元格子構造の光学特性 p.48
 4.1. コレステリック液晶の基本的な光学特性 p.48
 4.2. 試料 p.53
 4.3. 反射帯域の光制御 p.56
 4.3.1. 実験方法 p.56
 4.3.2. 実験結果 p.56
 4.4. 捩れ周期の変調構造による回折格子 p.60
 4.4.1. 実験方法 p.60
 4.4.2. 実験結果 p.60
 4.4.3. 計算モデル p.61
 4.4.4. 計算結果 p.63
 4.5. まとめ p.65
第5章 3次元ベクトルホログラム記録による異方的構造体の形成 p.66
 5.1. アゾポリマーへの偏光ホログラム記録 p.66
 5.2. 3次元ベクトルホログラム記録の理論 p.67
 5.3. 試料 p.72
 5.4. 光誘起配向変化 p.73
 5.5. 3次元ベクトルホログラム記録 p.75
 5.5.1. 実験方法 p.75
 5.5.2. 配向分布モデル p.77
 5.5.3. 回折特性の計算方法 p.80
 5.5.4. 実験及び計算結果 p.84
 5.6. まとめ p.92
第6章 結論 p.94
 6.1. 多重ホログラム記録による偏光解析素子 p.94
 6.2. コレステリック液晶へのホログラム記録による2次元格子構造の光学特性 p.94
 6.3. 3次元ベクトルホログラム記録による異方的構造体の形成 p.95
参考文献 p.97
謝辞 p.103
本研究に関する公表論文及び学会発表 p.104
付録 p.108

論文要旨

 光学的異方性媒質であり、その異方性を外場によって制御することのできる材料である液晶は、古くから様々な光学デバイスへと応用が試みられている。液晶は、分子が集団的に配向することにより光学的異方性を生じるため、各種デバイスへの応用を考える際、液晶分子の配向制御手法は非常に重要な技術となる。その中で、光配向と呼ばれる配向制御に光波を用いる方法が近年盛んに検討されている。光配向の特徴の一つに、ホログラム記録の手法などを用いることによって、微細な周期での配向構造を比較的容易に形成できることが挙げられる。周期的な異方性の空間分布は、回折格子としての機能とともに、その異方性に起因して偏光の制御機能も示し得ることが知られており、光の有する様々な性質を複合的に制御することのできる素子としての応用を期待することができる。
 これまでのホログラム記録の手法による液晶の分子配向制御に関する研究は、1次元周期構造に関するものが中心であり、多次元での光配向制御について詳細に検討した例は少ない。また、異方性を多次元かつ周期的に分布させること自体が難しいことであるため、多次元の異方性分布(異方的構造体)の光学特性に関しても未解明な部分が多い。1次元構造の示す特異な光学特性から考えて、異方的構造体は多様な光学特性を示し、複合的或いは新規な機能を有する光学デバイスへ応用できることが予想される。そこで本研究は、ホログラム記録の手法を用いることで液晶分子配向の多次元制御を実現するとともに、その光学特性を明らかにすることを目的として行なった。本論文の内容を以下に示す。
 第1章では、研究の背景として、液晶を光学デバイスへ応用することの有用性、ホログラム記録による液晶の分子配向制御と液晶分子配向分布の回折格子としての機能について述べた。また、本研究の目的及び本論文の構成について説明を行なった。
 第2章では、本研究全体に共通する理論的背景を示した。特に、液晶の光学特性を検討する場合、偏光及び異方性媒質中での光波伝播に関する知識が必要となることから、Jones行列法、拡張Jones行列法、4 × 4行列法、時間領域差分法などの偏光伝播を取り扱うことのできる各種計算手法について詳細な説明を行なうとともに、各手法の特徴について言及した。また、本研究では偏光の干渉によるホログラム記録を行っていることから、偏光の干渉についても理論的考察を行ない、干渉光において偏光が空間的に分布し得ることを明らかにした。
 第3章では、多重ホログラム記録による偏光解析素子と題して、液晶分子の2次元配向分布を偏光検出素子として応用することを提案した。回折光強度の測定により入射偏光の同定が可能となるような異方性分布による2次元回折格子をJones行列法を用いて設計し、これを光架橋性高分子液晶の薄膜中へ多重ホログラム記録の手法を用いて作製した。この格子は実際に偏光検出機能を有するものであり、液晶の光波制御配向による異方的構造体の有用な応用例を示すことができたと考えられる。
 第4章では、コレステリック液晶へのホログラム記録による2次元格子構造の光学特性と題して、自己組織的に1次元周期配向構造を形成するコレステリック液晶中へホログラム記録を行うことで、2次元配向構造を形成することを試みた。回折特性の観測結果から、形成された構造体がコレステリック液晶の有する波長及び偏光に対して選択的に光を反射するという性質に起因し、特異な回折特性を示すことを明らかにした。また、モデル化した分子配向分布を用い、その光学特性を理論的にも再現可能であることを示した。
 第5章では、3次元ベクトルホログラム記録による異方的構造体の形成と題して、3次元ベクトルホログラム記録と呼ばれる新たなホログラムの記録方式を提案するとともに、この手法を用いて液晶の分子配向を空間的に制御することを試みた。この手法は、異方性媒質へ偏光の干渉光を照射することにより、媒質中で生じる空間的な偏光変調を記録するものである。偏光選択的な分子再配列を誘起することのできるアゾ色素ドープ高分子複合体液晶中へ、この手法を用いて異方的構造体を形成し、その光学特性を詳細に検討した。回折特性の観測結果とモデル化した分子配向分布に対して時間領域差分法を適用して計算した回折特性との比較検討から、3次元ベクトルホログラム記録の理論の正当性を実証した。また、この手法を用いることで液晶の分子配向を多様に制御できることを示し、実際に形成した様々な異方的構造体の光学特性を理論的にも明らかにした。
 第6章では、本論文を総括した。
 以上、本論文により、液晶の分子配向を光波により制御することで様々な異方的構造体の作製が可能であることが示された。また、異方的構造体の示す光学特性が実験及び理論の両面から明らかとなった。

論文審査の結果の要旨

本論文は、「液晶分子の光波制御配向による異方的構造体の作製とその光学特性に関する研究」と題し、6章により構成されている。
 第1章「序論」では、液晶の光配向及びこれまでに行なわれてきた光配向を用いた液晶の光学デバイスへの応用に関する研究の概要を示している。また、本研究の目的と論文の構成について述べている。
 第2章「理論的背景」では、本研究全体に共通する理論的背景を示している。特に、異方性媒質である液晶の光学特性を計算するための手法として、Jones行列法や時間領域差分法などについて説明している。また、本研究において異方的構造体の作製手法として用いられているホログラムの原理についても記述している。
 第3章「多重ホログラム記録による偏光解析素子」では、液晶の2次元配向分布を偏光検出素子として応用することを提案している。Jones行列法を用いた検討により、異方性を周期的に分布させることによる回折格子を用いることで、回折光強度から入射光の偏光の同定が可能となることを示している。また、光架橋性高分子液晶膜中へ多重ホログラム記録の手法を用いることで格子の試作も行っており、実験的にもその偏光検出機能を確認している。
 第4章「コレステリック液晶へのホログラム記録による2次元格子構造の光学特性」では、自己組織的に1次元の異方性分布構造を有するコレステリック液晶へホログラム記録を行なうことで、2次元配向構造を形成することを試みている。回折特性の観測結果から、形成された構造体がコレステリック液晶の有する波長及び偏光に対して選択的に光を反射するという性質に起因し、透過型格子と反射型格子の機能を併せ持つことを明らかにしている。また、簡単化した分子配向分布モデルを用いることで、観測された光学特性を理論的にも再現可能であることを示している。
 第5章「3次元ベクトルホログラム記録による異方的構造体の形成」では、3次元ベクトルホログラム記録と呼ばれる新たなホログラムの記録方式を提案している。この手法は、異方性媒質中で偏光を干渉させることにより、媒質中での偏光伝播及び干渉の効果による空間的な偏光変調を記録するものである。実際にアゾ色素ドープ高分子複合体液晶中へ3次元ベクトルホログラム記録が行なわれ、形成された異方的構造体の光学特性の観測結果と時間領域差分法による計算結果との比較検討から3次元ベクトルホログラム記録の理論の正当性を実証している。また、この手法を用いることで液晶の分子配向を多様に制御できることを実験、理論の両面から示している。
 第6章「結論」では、本論文が総括されている。
 以上のように、本論文は液晶分子の光波制御配向を種々の手法及び液晶材料によって実現し、異方的構造体の光学特性についても有用な知見を得ている。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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