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半導体開放スイッチを用いた高電圧パルスパワー電源の開発とナノ秒パルスコロナ放電の応用

氏名 横尾 知行
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第497号
学位授与の日付 平成21年3月25日
学位論文題目 半導体開放スイッチを用いた高電圧パルスパワー電源の開発とナノ秒パルスコロナ放電の応用
論文審査委員
 主査 教授 末松 久幸
 副査 教授 原田 信弘
 副査 准教授 伊東 淳一
 副査 准教授 中山 忠親
 副査 特任教授 新原 晧一

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目次
第1章 序論 p.1
 1.1 はじめに p.1
 1.2 大気圧非熱平衡プラズマの生成方法 p.2
 1.2.1 誘電体バリア放電 p.2
 1.2.1 パルスコロナ放電 p.4
 1.3 パルスパワーの発生方法 p.6
 1.3.1 容量性エネルギー蓄積方式 p.6
 1.3.2 誘導性エネルギー蓄積方式 p.8
 1.4 パルパワー発生装置の高繰り返し技術 p.11
 1.4.1 磁気スイッチ p.12
 1.4.2 半導体スイッチ p.13
 1.4.3 半導体解放スイッチ[33,34] p.15
 1.5 本研究の目的 p.17
第2章 半導体解放スイッチを用いた高電圧パルスパワー電源の開発 p.18
 2.1 開発目標 p.18
 2.2 回路構成 p.19
 2.3 回路パラメータの決定 p.25
 2.3.1 半導体解放スイッチ p.25
 2.3.2 回路出力の検討 p.27
 2.3.3 磁気スイッチの検討 p.33
 2.4 回路動作試験 p.35
 2.5 放電負荷試験 p.40
 2.6 放電負荷試験回路の低電圧化とエネルギー回生回路の付加 p.42
 2.7 抵抗負荷試験 p.44
 2.8 エネルギー効率 p.47
 2.9 まとめ p.48
第3章 SOS電源のパルスコロナ放電負荷特性 p.49
 3.1 はじめに p.49
 3.2 実験方法および実験条件 p.49
 3.3 実験結果および考察 p.52
 3.3.1 出力波形の電源電圧依存性 p.52
 3.3.2 出力波形の電極間隔依存性 p.54
 3.3.3 投入電力、エネルギーおよび負荷インピーダンスの測定 p.57
 3.4 まとめ p.62
第4章 SOS電源を用いたナノ秒パルスコロナ放電滅菌装置の開発 p.63
 4.1 はじめに p.63
 4.2 実験装置 p.65
 4.3 実験方法および実験条件 p.66
 4.4 実験結果および考察 p.69
 4.5 まとめ p.73
第5章 ナノ秒パルスコロナ放電を用いたポリテトラフルオロエチレンシートの表面処理 p.74
 5.1 はじめに p.74
 5.2 実験装置 p.75
 5.3 実験方法および実験条件 p.76
 5.4 実験結果 p.78
 5.5 まとめ p.85
第6章 総括 p.86
参考文献 p.88
謝辞 p.97
研究業績 p.98

 本研究では、小型で繰り返し動作の可能な高速・高電圧パルスパワー電源の開発と、これを用いたパルス幅がナノ秒オーダーのパルスコロナ放電(ナノ秒パルスコロナ放電)生成、およびその応用を目指して研究を行った。
 第1章では研究背景としてパルスパワーの概略と必要性、その応用例について述べた。パルスパワーの発生において、誘導性エネルギー蓄積方式が装置の小型化について有効であることを示し、オープニングスイッチの性能が重要な役割を果たすことを述べた。また、近年のパルスパワー応用の産業分野への進展から、固体スイッチを使用した小型で高繰り返し動作のできるパルスパワー発生装置の開発が重要であることを示した。さらに、パルスパワーの応用として、パルスコロナ放電について述べ、大気圧非熱平衡プラズマ源としての観点から、重要性を述べ、最後に本研究の目的について記した。
 第2章では、半導体開放スイッチ(Semiconductor Opening Switch: SOS)を用いた高電圧パルスパワー電源(SOS電源)の開発と、ナイフプレート型電極を用いた動作試験について述べた。大気中で放電を発生させるためには、通常数十kVといった高電圧が必要であること、電源には高繰り返しで安定した動作が求められることから、大電流を高速で遮断することのできるSOSとIGBTおよび磁気スイッチで構成される全固体の高電圧パルスパワー電源を開発した。放電電極は被処理物を連続的に処理することのできるナイフプレート型の電極を採用した。電源の開発にあたっては、ストリーマ理論におけるMeekの気中での絶縁破壊電圧の計算結果および、SOSの動作定格値を参考に、回路の各パラメータを設定した。電極間隔10 mmの放電電極を用いた動作試験の結果、負荷電圧ピーク値およびパルス幅がそれぞれ50 kV, 50 nsの出力波形が得られ、250Hzの繰り返し動作でのパルスコロナ放電の生成に成功した。
 第3章では、SOS電源でナノ秒パルスコロナ放電を生成した場合の負荷特性を調べるために、幅360 mmのナイフプレート電極を用いて、放電時の電極間電圧および電流を計測し、投入電力、投入エネルギーおよび、電極間インピーダンスの電極間隔依存性について調べた。実験の結果、作製したSOS電源においては直流電源電圧1.5 kV、電極間隔15 mmで動作させた場合に最も高い出力電力が得られた。また、電極間インピーダンスは放電電流に依存し、最も高い出力電力が得られた条件のときその値はおよそ170 Ωであった。放電電極の代わりに抵抗を接続し、直流電源電圧1.5 kVで同様に出力電力の抵抗値依存性について調べた結果、ほぼ同様の抵抗値で最も高い出力電力が得られた。
 第4章では、SOS電源を用いたナノ秒パルスコロナ滅菌装置の開発について述べた。実験では、生理食塩水およびグリセリンの混合液体中に懸濁した大腸菌Escherichia Coli DH5αをカバーガラス上に10 μ?滴下、風乾して作製したサンプルを電極上に配置し、電極間隔10 mm、直流電源電圧1.3 kV、繰り返し40HzでSOS電源を駆動させサンプルに放電を行った。放電時の電極電圧および電流のピーク値はそれぞれ30 kV, 140 Aで放電に投入される平均電力は2.8 Wであった。放電時間を変えて実験を行った結果、未放電後のサンプルの菌の生存数が105個であったのに対し、120秒放電したサンプルでは培養後の培地にコロニーの形成が見られず、サンプルのE.Coli DH5αは120秒で完全に不活性になったと考えられる。この結果からナノ秒パルスコロナ放電を生成する本装置では、誘電体バリア放電のように電極を誘電体で覆う必要のない、より簡便な装置構成でナノ秒パルスコロナ放電滅菌装置が構成できることを示した。
 第5章では、本装置の応用としてナノ秒大気圧非熱平衡プラズマを用いたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの表面処理について述べた。実験では、35×20 mmに裁断した厚さ0.3 mmのストリップをメタノール中で30分間超音波洗浄を行った後に電極上に配置し、電極間隔15 mm、SOS電源の直流電源電圧1.5 kV、繰り返し40 HzでSOS電源を駆動させストリップに放電を照射した。放電時の電極電圧および電流のピーク値はそれぞれ50 kV, 250 Aで放電に投入された平均電力は7 Wであった。表面の濡れ性を評価するために、実験後のストリップに精製水を10μ?滴化して、精製水の接触角を求めた。プラズマの照射時間を変えて実験を行った結果、照射時間10分で接触角は最も低くなったが照射時間が10分以降のサンプルでは接触角に変化は見られなかった。また、照射なし、照射時間10分および70分のストリップ表面を光学顕微鏡で観察した結果、放電に起因する形状の変化は確認されず、本装置によって放電による形状変化なしでPTFE表面の濡れ性を向上できることが明らかになった。
 第6章では、本研究で得られた結果を総括し、誘導性エネルギー蓄積方式の高速・高電圧パルスパワー電源が、小型なナノ秒パルスコロナ放電発生および大気圧非熱平衡プラズマ装置の実現に最適であるという結論を得た。

 本論文は「半導体開放スイッチを用いた高電圧パルスパワー電源の開発とナノ秒パルスコロナ放電への応用」と題し全6章から構成されている。
 第1章「序論」では研究背景として大気圧非熱平衡プラズマの応用について述べるとともに、大気圧非熱平衡プラズマの生成方法として、パルスコロナ放電について概説している。また、ナノ秒パルスコロナ放電を小型な高電圧パルスパワー電源によって発生させ、応用することを目的とした研究の流れ
について述べている。
 第2章「半導体開放スイッチを用いた高電圧パルスパワー電源の開発」では半導体開放スイッチ(SOS)を用いた小型な高電圧パルスパワー電源の開発とナイフプレート型電極を用いた動作試験について述べている。開発した高電圧パルスパワー電源に電極間隔を10 mmに設定した電極を接続し動作を行った結果、負荷電圧およびパルス幅がそれぞれ50 kV、50 nsの出力が得られ、250 Hzの繰り返し動作でのナノ秒パルスコロナ放電の発生に成功している。
 第3章「SOS電源のパルスコロナ放電負荷特性」では開発した電源でナノ秒パルスコロナ放電を生成したときの負荷特性を調べるために、ナイフプレート電極の電極間隔を変えて実験を行っている。放電時の電圧、電流波形および、投入電力、電極間インピーダンスを算出し、これらの結果から電源と負荷を組み合わせ時の回路特性を明らかにしている。また、作製した電源においては、直流電源電圧1.5k V電極間隔15 mmで動作させ場合に、最も高い出力電力が得られ、このときの放電インピーダンスが170 Ωであったと述べている
 第4章「SOS電源を用いたナノ秒パルスコロナ放電滅菌装置の開発」ではSOS電源を用いたナノ秒パルスコロナ放電滅菌装置の開発について述べている。カバーガラス上にEscherichia Coli DH5αを載せ、開発した装置によってサンプルにナノ秒パルスコロナ放電を照射する実験を行っている。放電時間を変えて実験を行った結果、105個のE.Coli DH5αは120秒で完全に不活性になる結果を得ている。この結果からSOSを用いた高電圧パルスパワー電源による大気圧プラズマ滅菌装置の開発に初めて成功したと述べている。
 第5章「ナノ秒パルスコロナ放電を用いたポリテトラフルオロエチレンシートの表面処理」では本装置を用いたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの表面処理について述べている。35×20 mm、厚さ0.3 mmのPTFEに、開発した装置で放電を照射する実験を行っている。放電照射後のシート表面状態を調べるために、精製水の接触角を求めている。その結果、照射時間10分で接触角は最も低くなる結果を得ている。また、放電未照射と照射時間10分および70分のストリップ表面には、光学顕微鏡像から、放電に起因する形状の変化は確認されず、これらの結果から本装置によって、放電による形状変化なしでPTFE表面の濡れ性を向上できることを示している
 第6章では本研究で得られた結果を総括し、半導体開放スイッチをもちいた高電圧パルスパワー電源がナノ秒パルスコロナ放電の発生とこれらの応用の実現に最適であるという結論を得ている。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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