本文ここから

On the Chaos and Multi-fractal Analyses in Human Brain Function Measurements with Near-Infrared Spectroscopy (近赤外分光法を用いたヒト脳機能計測におけるカオス・マルチフラクタル解析)

氏名 TRUONG QUANG DANG KHOA
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第510号
学位授与の日付 平成21年3月25日
学位論文題目 On the Chaos and Multi-fractal Analyses in Human Brain Function Measurements with Near-Infrared Spectroscopy (近赤外分光法を用いたヒト脳機能計測におけるカオス・マルチフラクタル解析)
論文審査委員
 主査 教授 中川 匡弘
 副査 教授 渡邉 和忠
 副査 准教授 北谷 英嗣
 副査 准教授 岩橋 政宏
 副査 准教授 石原 康利

平成20(2008)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

Achnowledgments p.4
List of figures p.5
List of tables p.8
Abstract p.9
Chapter1 Introduction p.11
 1.1 Functional Near-Infrared Spectroscopy Technology p.12
 1.1.1 Comparison of NIRS with Other Neuroimaging Modalities p.12
 1.1.2 Principles of Functional Near-Infrared Spectroscopy p.16
 1.1.3 Comparison between Hitachi and Shimadzu Technology p.19
 1.1.4 Human Subject Studies p.24
 1.2 Research Objectives p.28
 1.3 Original key contributions p.31
 1.4 Organization of this dissertation p.32
Chapter2 Testing for Nonlinearity in Functional Near-Infrared Spectroscopy Time Series p.33
 2.1 Introduction p.34
 2.2 Biomedical time series acquisition p.35
 2.3 Results p.40
 2.4 Discussions p.44
 2.5 Conclusions p.46
Chapter3 Chaos Analyses of Functional Near-Infrared Spectroscopy Time Series p.48
 3.1 Introduction p.49
 3.2 Biomedical time series acquisition p.54
 3.3 Results p.57
 3.4 Discussions p.66
 3.5 Conclusions p.66
Chapter4 Multi-Fractal Analyses of Functional Near-Infrared Spectroscopy Time Series p.67
 4.1 Introduction p.68
 4.2 Multifractals with full-width-Holder exponents definition p.69
 4.3 Results p.73
 4.4 Discussions p.80
 4.5 Conclusions p.86
Chapter5 Conclusions and Future Directions p.82
 5.1 Summary p.82
 5.2 Future Directions p.85
 5.3 Publications p.86
Appendix
 Chaos Analysis of Functional Near-Infrared Spectroscopy time series by Chaos Recurrent Neural Networks p.89
References p.105
Curriculum Vitae p.112
Publications p.117

 本論文では,機能的近赤外分光法(fNIRS)により計測される大脳皮質のヘモグロビン濃度時系列信号の特徴抽出の新規手法について論じている.具体的には,NIRS信号をサロゲート法により非線形性を検証した後,リアプノフ解析することにより,大脳皮質のヘモグロビン時系列信号におけるカオス性の存在を明らかにした.また,ウェーブレット変換による多重解像度解析により,マルチフラクタル解析を施した結果,NIRS信号はこれまでの我々の研究で明らかにしてきた脳波の場合と同様に,マルチフラクタル性を有することを見出した.このことは,神経細胞の活性度に係る脳波(電気信号)とNIRS(光学的信号)の間に,密接な関係があることを示唆している.
 本論文は全5章から構成されており,第1章ではNIRSの計測原理と特徴や先端応用技術について記し,本研究の意義・目的および論文概要について述べる.続く3つの章ではNIRS信号の特徴抽出としての数理工学的アプローチである,非線形性の検定,カオス解析,およびマルチフラクタル解析手法について述べ,これらの手法が複雑で不規則なNIRS信号の特徴抽出に対して有効であることを明示する.最後に,第5章では結論と今後の展開について述べる.
 まず,第1章では,従来の研究で提案されてきた 線形系か非線形系かを判定するための数理的手法を概観し,それらの長所・短所について述べると共に,本研究の意義・目的を明らかにした.
 次いで,第2章では,NIRS計測で得られるヘモグロビン濃度の時系列データを生成する系の非線形性を検定することを目的とする.具体的には,原時系列データとサロゲーション手法によりシャッフルしたデータの時系列間の有意差を検定するため,それぞれの場合のカオス性の変化を測度とし,それぞれの特徴量を比較する.原時系列の測度が,サロゲートされたデータの測度と著しく異なる場合,帰無仮説は棄却され,原時系列は非線形系で生成されカオス性を有すると判断される.本研究では,大脳皮質の酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン,並びに,それらの和の3種類の不規則時系列データに関してサロゲーションを適用し,カオス検定を行った.その結果,いずれの場合にも,サロゲート法では,帰無仮説は棄却され,非線形性を検出することができた.即ち,NIRS信号は,非線形系で生成される不規則時系列であると結論される.それ故,NIRS信号の不変的な特徴抽出のためには,非線形系に適した信号解析方法を適用することが重要であることが結論された.
 第3章の目的は,NIRS時系列の決定論的カオス性の強度を明らかにすることである.具体的には,前章で見出されたように,NIRS時系列が統計的な不規則信号ではなく,決定論的なカオス信号であることを受けて,そのカオスの強度を最大リアプノフ指数により定量化した.本解析の結果,NIRS時系列に対する最大リアプノフ指数は正であり,これは前章の検定の結果どおり,NIRS時系列信号が統計論的な不規則信号でなく,本質的にカオス性を有することを意味している.即ち,前章の決定論的非線形系の結論により,NIRS信号は決定論的非線形系で生成されたカオス時系列であることが明らかにされた.
 最後に,第4章では,NIRS時系列のマルチフラクタル構造を抽出し,マルチフラクタル特性と脳活動との関連性を解明することを目的とする.具体的には,NIRS時系列の自己アフィン指数としてのHurst指数の代わりに,多重的な特異性を定量化するためのHolder指数を導入し,その非一様性を検出することにより,マルチフラクタル特性を論じる.まず,予備解析として,一様なフラクタル(自己アフィン)信号に対して一様なHolder指数が得られることを確認し,本解析手法の妥当性を検証した.次に,NIRS時系列のマルチフラクタル特性を検出するために同手法を適用した結果,非一様なHolder指数が得られ,マルチフラクタル・スペクトル特性が見出された.本解析の結果, NIRS信号は決定論的非線形系で生成されるカオス信号であり,従来の我々の研究室で明らかにされた脳波信号と同様に,マルチフラクタル特性を有することが結論された.また,そのHolder指数の全値幅が右手と左手の想起タスクに対して,明瞭に変化することが見出された.このことから,マルチフラクタル特性の変化により,想起タスクの弁別が可能であり,ブレイン・コンピュータインターフェースへの応用可能性が示唆された.
 本論文では,近赤外分光法により大脳皮質のヘモグロビン濃度のダイナミクスに,決定論的な非線形生成系が潜在し,その決定論的な不規則データはカオス性を有することが結論された.さらに,多重解像度解析により,NIRS信号においても脳波と同様にマルチフラクタル特性が見出され,その特性は想起タスクの変化に応じて変動することが見出された.このことは,本手法がブレイン・コンピューター・インターフェイスの基盤技術として重要であることを示唆している.

 本論文では、機能的近赤外分光法(fNIRS)により計測される大脳皮質のヘモグロビン濃度時系列信号の特徴抽出の新規手法について論じている。具体的には、NIRS信号をサロゲート法により非線形性を検証した後、リアプノフ解析することにより、大脳皮質のヘモグロビン時系列信号におけるカオス性の存在を明らかにした。また、ウェーブレット変換による多重解像度解析により、マルチフラクタル解析を施した結果、NIRS信号はこれまでの我々の研究で明らかにしてきた脳波の場合と同様に、マルチフラクタル性を有することを見出している。このことは、神経細胞の活性度に係る脳波(電気信号)とNIRS(光学的信号)の間に、密接な関係があることを示唆している。
 本論文は全5章から構成されており、第1章ではNIRSの計測原理と特徴や先端応用技術について記し、本研究の意義・目的および論文概要について述べている。続く3つの章ではNIRS信号の特徴抽出としての数理工学的アプローチである、非線形性の検定、カオス解析、およびマルチフラクタル解析手法について述べ、これらの手法が複雑で不規則なNIRS信号の特徴抽出に対して有効であることを明示している。最後に、第5章では結論と今後の展開について述べている。
 まず、第1章では、従来の研究で提案されてきた 線形系か非線形系かを判定するための数理的手法を概観し、それらの長所・短所について述べると共に、本研究の意義・目的を明らかにしている。
 次いで、第2章では、NIRS計測で得られるヘモグロビン濃度の時系列データを生成する系の非線形性を検定することを目的とする。具体的には、原時系列データとサロゲーション手法によりシャッフルしたデータの時系列間の有意差を検定するため、それぞれの場合のカオス性の変化を測度とし、それぞれの特徴量を比較している。即ち、原時系列の測度が、サロゲートされたデータの測度と著しく異なる場合、帰無仮説は棄却され、原時系列は非線形系で生成されカオス性を有すると判断される。本研究では、大脳皮質の酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、並びに、それらの和の3種類の不規則時系列データに関してサロゲーションを適用し、カオス検定を行っている。その結果、いずれの場合にも、サロゲート法では、帰無仮説は棄却され、非線形性を検出することに成功している。即ち、NIRS信号は、非線形系で生成される不規則時系列であると結論しており、NIRS信号の不変的な特徴抽出のためには、非線形系に適した信号解析方法を適用することが重要であることを結論している。
 第3章では、NIRS時系列の決定論的カオス性の強度を明らかにすることを目的としている。具体的には、前章で見出されたように、NIRS時系列が統計的な不規則信号ではなく、決定論的なカオス信号であることを受けて、そのカオスの強度を最大リアプノフ指数により定量化した。本解析の結果、NIRS時系列に対する最大リアプノフ指数は正であり、これは前章の検定の結果どおり、NIRS時系列信号が統計論的な不規則信号でなく、本質的にカオス性を有することを意味している。即ち、前章の決定論的非線形系の結論により、NIRS信号は決定論的非線形系で生成されたカオス時系列であることを明らかにしている。
 最後に、第4章では、NIRS時系列のマルチフラクタル構造を抽出し、マルチフラクタル特性と脳活動との関連性を解明することを目的としている。具体的には、NIRS時系列の自己アフィン指数としてのHurst指数の代わりに、多重的な特異性を定量化するためのHolder指数を導入し、その非一様性を検出することにより、マルチフラクタル特性を論じている。まず、予備解析として、一様なフラクタル(自己アフィン)信号に対して一様なHolder指数が得られることを確認し、本解析手法の妥当性を検証した。次に、NIRS時系列のマルチフラクタル特性を検出するために同手法を適用した結果、非一様なHolder指数が得られ、マルチフラクタル・スペクトル特性を見出している。本解析の結果、NIRS信号は決定論的非線形系で生成されるカオス信号であり、従来の我々の研究室で明らかにされた脳波信号と同様に、マルチフラクタル特性を有することを結論している。また、そのHolder指数の全値幅が右手と左手の想起タスクに対して、明瞭に変化することが見出された。このことから、マルチフラクタル特性の変化により、想起タスクの弁別が可能であり、ブレイン・コンピュータインターフェースへの応用可能性を示している。本論文では、近赤外分光法により大脳皮質のヘモグロビン濃度のダイナミクスに、決定論的な非線形生成系が潜在し、その決定論的な不規則データはカオス性を有することを結論している。さらに、多重解像度解析により、NIRS信号においても脳波と同様にマルチフラクタル特性が見出され、その特性は想起タスクの変化に応じて変動することを見出しており、本手法がブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI)の基盤技術として有用であることを結言している。
 以上のことから、本研究成果は、近赤外分光計測信号のカオス・マルチフラクタル性に基づいた新規BCI技術の有用性を示し、また同手法は次世代光BCIに新機軸をもたらすものと期待され、学術的及び工学的に貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

平成20(2008)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る