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産業用サーボシステムにおける振動抑制制御の高性能化に関する研究

氏名 金子 貴之
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第513号
学位授与の日付 平成21年3月25日
学位論文題目 産業用サーボシステムにおける振動抑制制御の高性能化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 大石 潔
 副査 教授 近藤 正示
 副査 准教授 野口 敏彦
 副査 准教授 伊東 淳一
 副査 准教授 漆原 史朗

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目次 p.1
第1章 序論 p.1
 1.1 研究の背景 p.4
 1.2 論文の目的 p.6
 1.3 論文の構成
第2章 産業用サーボシステムの制御技術と振動問題 p.11
 2.1 はじめに p.11
 2.2 産業用サーボシステムの制御構造 p.12
 2.3 産業用サーボシステムの制御対象と振動問題 p.15
 2.4 まとめ p.38
第3章 カウンタのオーバーフローを考慮した位置情報型外乱・速度オブザーバ p.43
 3.1 はじめに p.43
 3.2 離散化した位置情報型外乱・速度オブザーバ p.43
 3.3 カウンタのオーバーフローを考慮する方法 p.46
 3.4 計算機のシミュレーションによる検討 p.51
 3.5 実験結果 p.59
 3.6 まとめ p.62
第4章 Particle Swarm Optimizationによるオフラインチューニング p.63
 4.1 はじめに p.63
 4.2 提案するチューニングの概要 p.66
 4.3 未知構造のシステム同定 p.71
 4.4 制御系のセルフチューニング p.72
 4.5 実験による検証 p.76
 4.6 まとめ p.87
第5章 センサ遅れを補正する振れ角オブザーバによるクレーン振れ止め制御 p.89
 5.1 はじめに p.89
 5.2 システムと振れ角オブザーバ p.92
 5.3 検出遅れを考慮した状態量修正法 p.95
 5.4 シミュレーションおよびミニモデルによる評価 p.98
 5.5 まとめ p.110
第6章 結論 p.111
 6.1 本論文による成果 p.111
 6.2 今後の課題 p.114
付録A 本論文の適用事例を用いたGAとPSOの比較 p.117
 A.1 GAのシステム同定適用 p.117
 A.2 GAとPSOとの比較結果 p.119
付録B クレーンの運動方程式の導出 p.123

 近年、産業用サーボシステムにおける速度制御のカットオフ周波数応答は飛躍的に向上している。その結果、電動機の振動外乱対策に関する技術が注目され、モーションコントロールの重要なテーマの一つに位置づけられている。振動外乱は、軸ねじれやタイミングベルトの弾性体、軸のセンタずれ、機台の剛性などの様々な機械系の要素と、センサ情報の誤差や遅延などが原因となって発生するが、この振動外乱に対する制御技術は、古典制御の時代から研究が行われてきた。現在では、現代制御やロバスト制御の応用や、新しい考え方を取り入れた古典制御など、様々な制御方式が提案されている。
 本論文では、まず産業用サーボシステムの一般的な多重ループによる制御構造について説明し、産業用サーボシステムの制御対象を「1慣性の剛体負荷」、「弾性体で結合された3慣性系負荷」、「単振り子のクレーン負荷」としてその制御技術と振動問題に着目し、それぞれの振動問題に対する振動抑制の高性能化手法を提案した。各提案手法に関する一般化理論と具体的な適用構造について示し、数値計算によるシミュレーションと実機実験にてその有効性を検証した。
 第1章では、本研究の背景となる技術的な歴史と動向を述べ、本研究の意義、位置づけを明らかにした。
 第2章では、産業サーボシステムの一般的な制御構造として、多重ループの制御構造と検出器に関しその特徴について説明した。そして、先に示した産業用サーボシステムの制御対象と制御技術に対する振動問題を挙げ、それぞれの問題を解決する手法を提案した。具体的には、まず1慣性の剛体負荷に対して適用される、高いサーボ剛性を実現する制御技術である外乱・速度オブザーバに対し、センサ取得誤差であるエンコーダカウンタのオーバーフローにより速度制御ループが振動的になる問題点を示し、オーバーフローの時点でオブザーバの状態量を補正することによって振動問題を解決する手法を新たに提案した。次に、弾性体で結合された3慣性系負荷に適用される、速度制御ループにノッチフィルタを挿入した制振制御が、制振性と安定性を満足する調整を自律的に実現させることが課題であることを示し、最適化手法によるオフラインチューニングが有効な手段で、その手法にParticle Swarm Optimization(PSO)を適用して制御対象のシステム同定と、各ループ応答の時系列データによる評価からノッチフィルタと各ループの制御定数を自律的に調整する手法を提案した。最後に、単振り子モデルに対して有効である、フィードフォワードと振れ角をフィードバックする制振制御に対して、振れ角の検出遅れが制振性能のボトルネックであることを示し、トロリの推力と速度から振れ角を推定する振れ角オブザーバを構成し、振れ角の検出遅れ時間を周期とする振れ角オブザーバと、制御入力と同周期の振れ角オブザーバとを構築し、その状態量を補正することにより外乱やモデル化誤差にロバストで遅れの少ない振れ角推定を提案した。
 第3章以下では、第2章で提案した産業用サーボシステムの振動抑制制御の高性能化に関して、提案手法の詳細な実現方法を示して、その有効性を数値計算によるシミュレーションと実機実験により確認している。
 第3章では、第2章で提案した外乱・速度オブザーバの振動外乱対策に関して、ディジタルオブザーバにて実現するための詳細な構成方法と、本構成の理論的解析を実施し、ACサーボモータを対象としたシミュレーションとDCサーボモータによる実験にて、提案手法の有効性を確認した。
 第4章では、第2章にて提案した弾性体で結合された3慣性系負荷に対して適用する、PSOを用いたオフラインチューニング手法に関して、遺伝的アルゴリズムを適用した従来事例を示し、多重ループに適用する上での問題点について示した。そして、提案手法関する具体的な構成方法と従来例に対する優位性について示し、シミュレーションと3慣性軸ねじり系による実機実験にて提案手法の有効性を確認した。
 第5章では、単振り子のクレーン負荷に対して、適用する制振制御系の実現方法について説明し、第2章にて提案した振れ角の検出遅れ時間を周期とする振れ角オブザーバと、制御入力と同周期の振れ角オブザーバによる遅れの少ない振れ角推定手法に詳細なアルゴリズム構成について示した。そして、シミュレーションおよび汎用コントローラを用いた、等価モデルによる実験にて提案手法の妥当性を示した。
 最後に第6章において本論文を総括し、提案する制御法の有効性をあげ、今後の課題についてまとめた。
 以上の結果により産業用サーボシステムにおける振動抑制制御の高性能化を確立したことは、工学的社会的に意義のあるものである。

 本論文は、産業用サーボシステムの代表的な工学課題である、(1)出力センサ情報取得誤差、(2)振動抑制制御系のパラメータ未調整、(3)センサ情報のフィードバック遅延、で起こる振動現象について、物理的・制御的な理論展開を行い、その上で新しい高性能振動抑制制御法を統一的に提案し、実機において有効性を立証したものである。
 本論文は、「産業用サーボシステムにおける振動抑制制御の高性能化に関する研究」と題し、6章より構成されている。第1章「序論」では、本研究の背景と目的を述べる。
 第2章「産業用サーボシステムの制御技術と振動問題」では、産業用サーボシステムの一般的な制御構造と検出器の特徴について説明し、その振動問題を挙げ、解決する手法を提案した。まず剛体負荷に対して、高いサーボ剛性を実現する外乱・速度オブザーバに対し、エンコーダカウンタの飽和により速度制御ループが振動的になる問題点を示し、オブザーバの状態量を補正することによって解決する手法を新たに提案した。次に、弾性体で結合された3慣性系負荷に適用される、制御ループにノッチフィルタを挿入した制振制御が、制振性と安定性を満足する調整を自律的に実現させることが課題であることを示し、Particle Swarm Optimizationを適用して制御対象の同定と、各ループ応答の時系列応答評価から各制御定数を調整する手法を提案した。最後に、単振り子モデルに対する制振制御において、振れ角検出遅れが制振性能の悪化原因であることを示し、検出遅れ時間を周期とするオブザーバと、制御入力と同周期のオブザーバとを構築し、状態量を補正しロバストで遅れの少ない振れ角推定を提案した。
 第3章「カウンタのオーバーフローを考慮した位置情報型外乱・速度オブザーバ」では、提案する外乱・速度オブザーバをディジタルオブザーバにて実現する構成方法と、理論的解析を実施し、シミュレーションと実機実験にて、提案手法の有効性を確認した。
 第4章「Particle Swarm Optimizationによるオフラインチューニング」では、提案するオフラインチューニング手法に関して、遺伝的アルゴリズムを適用した従来事例を示して、その問題点について示した。そして、具体的な提案手法の構成方法と優位性について示し、シミュレーションと実機実験にて提案手法の有効性を確認した。
 第5章「センサ遅れを補正する振れ角オブザーバによるクレーン振れ止め制御」では、適用する制振制御系の実現方法について説明し、提案した振れ角オブザーバの詳細なアルゴリズム構成について示した。そして、シミュレーションと等価モデルによる実機実験にて提案手法の妥当性を示した。
 第6章「結論」は本論文を総括し、提案する制御法の有効性をあげ、今後の課題についてまとめた。以上のように、本論文では産業用サーボシステムにおける振動抑制制御の高性能化を確立している。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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