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酸化チタン光触媒反応により生成する活性酸素種の選択的検出に関する研究

氏名 平川 力
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第251号
学位授与の日付 平成14年3月25日
学位論文題目 酸化チタン光触媒反応により生成する活性酸素種の選択的検出に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 藤井 信行
 副査 教授 山田 明文
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 助教授 小林 高臣

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序章
0-1 緒言 p.1
0-2 本研究の目的 p.5
0-3 本論文の構成 p.5
0-4 参考文献 p.7
1章 序論
Abstract p.10
1-1 酸化チタン光触媒 p.10
1-1-1 試料 p.10
1-1-2 半導体光触媒反応の原理と機構 p.11
1-1-3 光触媒反応の活性を支配する因子 p.13
1-2 活性酸素種 p.15
1-2-1 スーパーオキサイドイオン(O2・-) p.15
1-2-2 ヒドロキシラジカル(OH・) p.16
1-2-3 過酸化水素(H2O2) p.17
1-2-4 TiO2光触媒反応と活性酸素種 p.17
1-3 実験方法とその原理 p.19
1-3-1 酸化チタン粉末の物性値の評価方法 p.19
1-3-2 ルミノール化学発光プローブ法 p.21
1-3-2-1 ルミノール p.22
1-3-2-2 ルミノール化学発光メカニズム p.22
1-3-2-3 ルミノール自動酸化反応の速度論的解析 p.24
1-3-2-4 ルミノール標準発光法 p.26
1-3-2-5 ルミノール化学発光プローブ法装置と測定手順 p.28
1-3-2-5-1 溶液調整方法と測定手順 p.28
1-3-2-5-2 実験装置説明 p.29
1-3-2-5-3 フォトンカンウンティング法原理 p.30
1-3-2-5-4-1 アナログモードとデジタルモード p.30
1-3-2-5-4-2 原理 p.31
1-3-2-6 予備実験 p.32
1-3-2-6-1 TiO2のO2・-生成とルミノールによる検出 p.32
1-3-2-6-2 TiO2光触媒反応で生成したO2・-の居場所とルミノールのプローブ能 p.32
1-4 テレフタル酸蛍光プローブ法 p.38
1-4-1 テレフタル酸 p.38
1-4-2 テレフタル酸の特性 p.38
1-4-3 テレフタル酸のOH・プローブのメカニズム p.39
1-4-4 2ヒドロキシテレフタル酸の合成 p.40
1-4-5 テレフタル酸蛍光プローブ法実験手順 p.42
1-4-6 抄括 p.44
1-4-7 参考文献 p.45
2章 市販酸化チタン粉末の物性値とスーパーオキサイドイオン(O2・-)生成能との関係
Abstract p.49
2-1 緒言 p.49
2-2 実験方法 p.50
2-2-1 試料 p.50
2-2-2 ルミノール化学発光プローブ法 p.50
2-3 実験結果と考察 p.51
2-3-1 O2・-生成量とTiO2光触媒粉末の重量依存性 p.51
2-3-2 O2・-生成量の光照射時間依存性 p.52
2-3-3 O2・-生成量と1次粒子径との関係 p.54
2-3-4 O2・-の寿命と減衰プロセス p.56
2-3-5 添加物イオンのTiO2光触媒反応とO2・-生成への影響 p.58
2-3-6 O2・-の減衰プロセス p.61
2-3-7 O2・-の吸着状態 p.66
2-4 まとめ p.67
2-5 参考文献 p.68
3章 高活性酸化チタン粉末HyCOMの物性値と活性酸素種生成能との関係
Abstract p.70
3-1 緒言 p.70
3-2 HyCOM法 p.72
3-3 実験方法 p.73
3-3-1 試料調整 p.73
3-3-2 HyCOM-TiO2の物性値 p.73
3-3-3 ルミノールCLプローブ法 p.74
3-3-4 ESR分光法測定 p.74
3-4 実験結果と考察 p.75
3-4-1 HyCOM-TiO2の物性値 p.75
3-4-2 光照射時間依存性とO2・-の生成能 p.77
3-4-3 ESRによるHyCOM-TiO2の光生成表面ラジカル種の測定 p.80
3-4-4 O2・-生成量とESRシグナル強度の関係 p.82
3-4-5 HyCOM-TiO2の表面吸着物質 p.84
3-5 まとめ p.86
3-6 参考文献 p.87
4章 酸化チタン光触媒反応により生成するO2・-とOH・に対する過酸化水素の役割
Abstract p.88
4-1 緒言 p.88
4-2 実験方法 p.90
4-2-1 試料 p.90
4-2-2 ルミノール化学発光プローブ法 p.90
4-2-3 テレフタル酸蛍光プローブ法 p.91
4-3 実験結果と考察 p.91
4-3-1 ルミノール化学発光プローブ法 p.91
4-3-1-1 光照射時間とO2・-生成量 p.91
4-3-1-2 O2・-生成量とH2O2濃度依存性 p.92
4-3-1-3 H2O2存在懸濁液中におけるO2・-の減衰プロセス p.94
4-3-2 テレフタル酸蛍光プローブ法 p.95
4-3-2-1 2-ヒドロキシテレフタル酸の合成 p.95
4-3-2-2 懸濁液からの粉末TiO2の除去とその影響 p.96
4-3-2-3 TAによるOH・のプローブ p.96
4-3-2-4 OH・生成速度のH2O2濃度依存性 p.98
4-3-3 H2O2存在中におけるOH・とO2・-の挙動 p.100
4-4 まとめ p.102
4-5 参考文献 p.103
5章 アナターゼ、ルチル結晶型酸化チタン光触媒反応による活性酸素種生成能および反応反応選択性との関係
Abstract p.105
5-1 緒言 p.105
5-2 実験方法 p.107
5-2-1 試料 p.107
5-2-2 テレフタル酸蛍光プローブ法 p.107
5-2-3 ルミノール化学発光プローブ法 p.107
5-3 実験結果と考察 p.108
5-3-1 テレフタル酸蛍光プローブ法 p.108
5-3-1-1 OH・生成速度 p.108
5-3-1-2 H2O2添加効果 p.109
5-3-2 ルミノール化学発光プローブ法 p.112
5-3-2-1 O2・-生成 p.112
5-3-2-2 H2O2添加効果 p.113
5-4 まとめ p.116
5-5 参考文献 p.117
6章 酸化チタン光触媒反応で生成するH2O2のルミノール化学発光プローブ法の適用とその問題
Abstract p.119
6-1 緒言 p.119
6-2 実験方法 p.122
6-2-1 試料 p.122
6-2-2 実験手順 p.122
6-3 実験結果と考察 p.122
6-3-1 Preaddition法 p.123
6-3-1-1 TiO2光触媒反応によるH2O2生成 p.123
6-3-1-2 TiO2光触媒反応によるLの生成 p.126
6-3-1-3 白金担持系TiO2光触媒反応へのPreaddition法の適用 p.127
6-3-2 Postadditon法 p.132
6-3-3 まとめ p.133
6-4 参考文献 p.134
7章 大気中酸化チタン粒子上に光触媒反応で生成するスーパーオキサイドイオンの挙動
Abstract p.135
7-1 緒言 p.135
7-2 実験方法 p.136
7-2-1 試料 p.136
7-2-2 ルミノール化学発光プローブ法 p.136
7-3 実験結果と考察 p.140
7-3-1 未焼成TiO2粉末からのルミノール化学発光 p.140
7-3-2 焼成TiO2粉末からのルミノール化学発光 p.145
7-4 まとめ p.148
7-4 参考文献 p.149
8章 総括 p.150

 TiO2光触媒は、大気汚染物質や水溶液中の微量有害物質の除去、紬菌の殺傷等に有用な事から盛んに研究が行われ、これを利用した製品等が実用化され始めている。TiO2光触媒反応の利点は酸化力の強さであり、多くの反応において光触媒反応で生成するヒドロキシルラジカル(OH・)やスーパーオキサイドイオン(O2・-)、過酸化水素(H2O2)等の活性酸素種生成が関与する事が知られている。しかし、O2・-の生成はTiO2光触媒に光誘起する電子一正孔対の電荷分離の向上に重要な反応であるが、実際にどの程度生成し、どの様な挙動を示すのか等明確ではない。また、OH・生成量や、その挙動を調査する研究は多く成されているが、検出選択性に問題があり明確ではない。しかし、光触媒反応に活性酸素種が関与しており、それらの生成能が光触媒活性を左右する因子と考えられている事から、活性酸素種の挙動を明確にする事は必要と考えられる。
 そこで本研究では、生物化学や超音波化学等に用いられている活性酸素種プローブ分子のルミノールとテレフタル酸を懸濁TiO2光触媒反応系に用いて、生成するO2・-、OH・の選択的検出を行い、活性種の生成濃度と挙動を解明する事でTiO2光触媒の活性酸素種生成能と物理的特性との関係を明らかにする事を目的とした。
 序章では、酸化チタン光触媒反応の有効性や、これまでに解明されている点や不明な点、また問題点などを述べると共に本研究の目的および方針について述べた。
 1章「序論」では、酸化チタン光触媒反応の原理、活性酸素種との関係、それらの挙動を調査するために本研究で用いたルミノール、テレフタル酸の反応機構や物理化学的特性を述べ、粉末懸濁光触媒系への適用に関する予備実験等の結果などを示した。それにより、アルカリ水溶液中に懸濁したTiO2光触媒反応により生成したO2・-は、TiO2表面上に吸着しておりルミノールはそれを検出できる事を明らかとした。
 2章「市販酸化チタン粉末の物性値とスーパーオキサイドイオン(O2・-)生成能との関係」では、TiO2粉末粒子光触媒反応によるO2・-生成量は約1μM程度あり、量子効率は約10-3である事が分かった。O2・-の減衰プロセスは、これまでに知られている不均化反応は主要ではなく、TiO2粒子表面上を拡散して水を酸化できない電位にトラップされたホールとの反応により減衰する事を明らかにした。
 3章「高活性酸化チタン粉末HyCOMの物性値と活性酸素種生成能との関係」では、近年新規にHyCOM法により合成された高活性TiO2のO2・-生成能を調査した。HyCOM-TiO2の表面上にはn-butoxy groupsが粉末の一部として存在し、O2・-生成に関与する事を本法により見出した。また、O2・-生成量は、ESRスペクトルから観測されたTi3+ラジカルのシグナル強度と比例関係にあり、O2・生成能と光生成表面ラジカル種との相関を明らかとした。
 4章「酸化チタン光触媒反応により生成するO2・とOH・に対する過酸化水素の役割」では、H2O2を添加してTiO2光触媒反応で生成する活性酸素種の挙動について調査した。添加されたH2O2がTiO2表面上で直接酸化される事で、電子-正孔対の再結合反応が抑制されO2の還元反応が促進し、O2・の生成量が増大する事を明らかとした。標準TiO2のP25のOH・生成速度は、0.06μMmin-1であり、量子効率は約10-5と算出された。また、H2O2はTiO2表面上で直接還元されOH・生成する事を見出した。
 5章「酸化チタン光触媒反応で生成するOH・ラジカルの結晶型依存性」では、アナターゼ、ルチル結晶の活性酸素種生成能やH2O2との反応選択性について調査した。OH・はアナターゼ型TiO2において生成し易い事を明らかとした。また、H2O2を表面で直接還元反応してOH・を生成するのは、ルチル型TiO2である事を明らかとした。アナターゼ結晶ではHarber-Weiss反応によりOH・を生成すると考察された。これは、結晶構造によるH2O2の吸着状態の違いが影響していると結論付けられた。
 6章「酸化チタン光触媒反応で生成するH2O2へのルミノール化学発光プローブ法の適用とその問題」では、本法の初期の研究で示されてきた研究に関する誤りを示し、初期の研究で提唱されていた方法ではH2O2を検出する事ができない事を明らかとした。また、白金担持TiO2光触媒を用いて、H2O2がTiO2表面上に吸着する事で、O2・を表面上からバルク水溶液中に拡散させる事を明らかとした。
 7章「大気中酸化チタン粒子上に光触媒反応で生成するスーパーオキサイドイオンの挙動」では、大気中に曝されたTiO2粉末の光触媒反応で生成したO2・-の挙動について調査した。O2・-の定常量は凝集の程度または2次粒子サイズと共に増加する事を見出した。O2・-の減衰は、水溶液中の場合と異なり2次速度論に不均化反応で減衰する事を見出した。幾つかのTiO2光触媒で、表面吸着OH・ラジカルが光照射終了後1秒間存在する事を見出した。還元反応を生じさせる光誘起された電子が照射後数秒間残っている事が示された。1173K以上の温度で粉末を焼成した所、O2・-の表面吸着OH・ラジカルとの反応による減衰が顕著になる事を見出した。
 本研究により、懸濁系TiO2光触媒反応で生成するO2・-濃度とTiO2物性値依存性と、O2・-減衰過程、生成するOH・の濃度、またH2O2による触媒活性向上に寄与する主要反応が初めて解明された。以上の知見は、多くのTiO2光触媒反応のメカニズム解明に役立ち、光触媒活性の評価、また高活性TiO2の構築において重要な指針となる事を確信する。

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