先進軽金属材料のレーザーによる複合機能化に関する研究
氏名 平賀 仁
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第177号
学位授与の日付 平成13年9月19日
学位論文題目 先進軽金属材料のレーザーによる複合機能化に関する研究
論文審査委員
主査 教授 小島 陽
副査 教授 福澤 康
副査 教授 伊藤 義郎
副査 助教授 鎌土 重晴
副査 新潟工科大学教授 一ノ瀬 幸雄
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第1章 緒論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.1.1 チタン合金およびマグネシウム合金の歴史 p.2
1.1.2 チタンおよびマグネシウムの特性 p.3
1.1.3 加工の現状 p.4
1.1.4 現状の問題点 p.6
1.2 本研究の必要性 p.7
1.3 本研究を達成する手法 p.7
1.3.1 レーザーの歴史 p.7
1.3.2 レーザー熱加工の特徴 p.8
1.3.2.1 レーザー表面改質 p.9
1.3.2.2 レーザー溶接 p.10
1.4 本研究の目的 p.11
1.5 チタン合金のレーザー表面改質および接合 p.12
1.5.1 チタン合金の表面改質 p.12
1.5.2 耐エロージョン性 p.13
1.5.3 チタン合金の異材接合 p.15
1.6 マグネシウム合金のレーザー表面改質および接合 p.16
1.6.1 マグネシウム合金の表面改質 p.16
1.6.1.1 耐摩耗性 p.17
1.6.2 マグネシウム合金の接合 p.19
1.7 本論文の構成 p.20
第2章 供試材および実験装置 p.27
2.1 供試材 p.27
2.1.1 チタン・チタン合金 p.27
2.1.2 マグネシウム合金 p.28
2.2 加工に使用したレーザー装置 p.29
2.2.1 連続波CO2レーザー p.30
2.2.2 連続波Nd:YAGレーザー p.32
2.2.3 ノーマルパルスNd:YAGレーザー p.35
2.3 計測に使用したレーザー p.37
2.3.1 Arイオンレーザー p.37
2.3.2 パルスQスイッチNd:YAGレーザー p.40
第3章 レーザー複合溶射法によるチタン合金の表面改質 p.43
3.1 緒言 p.43
3.2 実験方法および評価方法 p.43
3.2.1 レーザー複合溶射 p.43
3.2.2 エロージョン特性の評価 p.47
3.2.3 弾塑性特性の評価 p.48
3.2.4 接合特性の評価 p.50
3.2.5 メカニカルアロイング p.51
3.2.6 プラズマ溶射特性の評価 p.52
3.3 実験結果及び考察 p.55
3.3.1 レーザー複合溶射によるNiTi膜の作製 p.55
3.3.1.1 混合粉末を用いた皮膜形成の検討 p.55
3.3.1.2 混合粉末によるエロージョン特性の検討 p.59
3.3.1.3 皮膜の動的機械特性と耐エロージョン性の関係 p.68
3.3.1.4 皮膜の弾塑性特性とエロージョン性の相関 p.71
3.3.2 皮膜界面接合特性の向上の検討 p.74
3.3.2.1 接合強度特性と耐エロージョン性の関係 p.74
3.3.2.2 インサート層による接合性の検討 p.80
3.3.3 MA粉末を用いた皮膜の耐エロージョン特性の検討 p.82
3.3.3.1 MA粉末のプラズマ溶射特性 p.82
3.3.3.2 MA粉末によるレーザー複合溶射特性 p.86
3.3.4 レーザー複合溶射皮膜の特徴及び考察 p.92
3.3.5 レーザーを用いたプラズマ溶射特性の評価 p.93
3.3.5.1 ガンパーツが溶射現象に及ぼす影響 p.93
3.3.5.2 プラズマ溶射粉末の挙動の特徴および考察 p.99
3.4 結言 p.102
第4章 レーザーを用いたチタン合金の異材溶接技術 p.106
4.1 緒言 p.106
4.2 実験方法および評価方法 p.106
4.2.1 供試材料 p.106
4.2.2 スポット溶接 p.107
4.2.3 板材の溶接方法 p.108
4.2.4 パイプの溶接方法 p.109
4.3 実験結果および考察 p.111
4.3.1 スポット溶接による予備試験 p.111
4.3.2 平板重ね溶接による接合条件の検討 p.115
4.3.2.1 剪断強度の評価 p.115
4.3.2.2 接合組織の解析 p.119
4.3.2.3 チタンとステンレス鋼の溶接組織形成メカニズムの考察 p.123
4.3.3 異材二重管構造の作製とその特性 p.124
4.4 結論 p.127
第5章 パウダーインジェクション法によるマグネシウム合金の耐摩耗表面改質 p.129
5.1 緒言 p.129
5.2 実験方法 p.129
5.2.1 供試材 p.129
5.2.2 インジェクション実験方法 p.130
5.2.3 摩擦試験実験方法 p.132
5.3 実験結果および考察 p.133
5.3.1 炭化物のインジェクション特性 p.133
5.3.1.1 TiC粉末のレーザーインジェクション p.133
5.3.1.2 SiC粉末のレーザーインジェクション p.134
5.3.1.3 炭化物インジェクション組織の耐摩耗性 p.137
5.3.2 過共晶Al-Siの合金化特性 p.138
5.3.2.1 過共晶Al-Siの合金化特性 p.138
5.3.2.2 過共晶Al-Siの合金化組織と耐摩耗特性の関係 p.144
5.4 結言 148
第6章 YAGレーザーによるダイカスト・展伸材マグネシウム合金の溶接技術 p.150
6.1 緒言 p.150
6.2 実験方法 p.152
6.2.1 供試材料 p.152
6.2.2 シールド条件検討実験 p.153
6.2.3 ダイカスト材の溶接検討実験 p.154
6.2.4 インプロセスモニタリング実験方法 p.155
6.3 実験結果および考察 p.157
6.3.1 マグネシウム合金溶接のシールド条件の最適化 p.157
6.3.2 マグネシウム合金ダイカスト材の適正溶接条件の検討 p.165
6.3.2.1 ダイカスト材の溶接特性 p.165
6.3.2.2 突合せ溶接での溶接欠陥の抑制 p.172
6.3.3 マグネシウム合金溶接のモニタリングによる欠陥発生の評価 p.178
6.4 結言 p.188
第7章 総括 p.191
工業用材料の中で、金属は機械部品や輸送機器、電子機器等あらゆる製品で構造用や筐体として中心的な存在である。20世紀は、鉄鋼材料が主要な構造材料として、中心的な役割を果たしてきた。しかし、地球環境問題を考慮しながら高性能化を進め、エネルギーの有効利用を図るためには、これら鉄鋼材料を中心に使用されてきた、筐体や構造物の軽量化は、世界レベルで推進されており、21世紀の最重要課題である。
本研究は、近年注目されているチタン合金やマグネシウム合金などの“先進軽金属材料”に対して、高出力レーザーを用いた接合技術および表面改質技術の適用し、その高機能化を図ったものである。レーザー加工は、非接触で加熱領域を自由に設定できるため、理想的な熱源として注目されているが、現状では鉄系またはアルミ系材料への適用がほとんどであり、チタン合金やマグネシウム合金などの“先進軽金属材料”に対する適用例が少ない。すなわち、それらの先進軽金属の利用拡大を図るためには、接合・溶接や、表面改質などのレーザー加工技術を高度化させることが重要である。
第1章は緒論であり、研究の背景と本研究を纏めるにあたっての周辺技術の現状を調べ、本研究に関連する問題点を指摘するとともに、本研究の必要性と目的について述べた。
第2章は本研究で利用した主な供試材の特性とその物性、および使用した各種レーザー装置の特徴について述べた。
第3章ではレーザー複合溶射法を用いたチタン合金の表面改質法、特に NiTi 皮膜の形成方法とそのエロージョン特性を調べ、NiTi 膜のエロージョン性に関する知見を得た。特に、6.0×108W/m2以上のレーザー照射密度と、Ti-62 at%Ni 混合粉末を用いて成膜した際に、Ti 合金の約380倍の、巨大な耐エロージョン特性が得られることを明らかにした。そのエロージョン特性の向上は、膜のオーステナイト化と、過飽和に固溶したNi に起因する加工硬化の重畳したメカニズムに起因することを見出した。さらに、中間層として母材および溶射膜と金属間化合物を形成し難い金属を溶射することにより、高い耐エロージョン性と接合性を両立可能であることも明らかにした。また、メカニカルアロイング粉末を用いることにより、低い照射エネルギーでも、均質で耐エロージョン性の高い皮膜が得られることを見出した。
第4章では、純チタンとステンレス鋼から成る真空容器を作ることを目的に、パルスNd:YAGレーザーを用いた、重ね溶接法の開発を行った。レーザー照射する面を入れ替えて、平板で適正な接合条件を抽出し、その結果をもとに異種金属の真空容器を試作した。その結果、ステンレス鋼の構成元素を大量に固溶可能なチタン合金をレーザー照射面とすることにより、金属間化合物の生成を抑制した健全な溶接金属が形成できることを見出した。また、真空容器として、内瓶からレーザーを照射することで、面を圧縮場として、健全な溶接金属を界面に形成する条件を示した。また、溶接部の真空リークテストを行い、パルス幅と照射エネルギーを適正条件範囲に設定することで、真空漏れの無い構造を形成できた。
第5章ではマグネシウム合金表面の耐摩耗性を向上させるために、各種炭化物セラミックス粉末を用いた硬質粒子の注入層の形成および、Al-30 mass%Si 合金粉末による合金層の形成を行い、それらの耐摩耗性を評価した。炭化物注入組織の耐摩耗性は母材と比べて、炭化物量が増加するに伴い大きく向上し、ほとんど摩耗しない条件が得られた。しかし、相手材としてのピンの摩耗は炭化物が多いほど増加した。一方、Al-30 mass%Si 粉末を用いた合金化では、供給量が多くなるにつれて、改質層全体に硬質なMg2Si 化合物が微細に晶出するようになるとともに、マトリックス相も Mg 固溶体→Mg-Al 系金属間化合物→Al固溶体に変化することを示した。その結果、硬質粒子の晶出により耐摩耗性が向上し、しかも軟質なAl固溶体により硬質粒子の剥離が生じにくくなり、三次元アブレッシブ摩耗が抑制され、ピンの摩耗量も減少することを明らかにしている。
第6章では、マグネシウム合金のレーザー溶接を最適化するため、レーザー装置、溶接技術、材料技術と測定技術の研究開発を行った。CO2レーザー溶接では、センターガスシールドにHe、バックシールドにArを用いて溶接を行うことで、良好なビードが得られるが、センターガスにArを用い、またバックシールドを行わない場合には、ビード裏面が激しくアンダーフィルとなる。高速カメラによる観察を解析した結果、これはシールドガスと金属のレーザー誘起プラズマによる影響であり、特に裏面ではプラズマ反力の影響によって、ビードに溝が掘られることがわかった。ただし、連続波Nd:YAGレーザーを用いる場合、後者の条件でも気化したマグネシウムがシールドガスの役目を果たし、良好なビードが得られることを見出した。ダイカスト材と展伸材の溶接では、隙間を0.2mm、オフセットを展伸材側に0.2mm移動することにより、ダイカスト材でのガス抜き効果とポロシティの起源との遭遇率を低下させることができ、その結果、ポロシティを大幅に抑制できることがわかった。さらに、Nd:YAGレーザーの反射光を用いることで、ダイカスト材溶接の不具合検出が可能であることも見出した。
第7章は本研究で得られた結果を総括した。
本研究は軽金属材料に対するレーザー熱加工を、広範囲にわたり総合的に研究した成果である。この成果はチタン合金やマグネシウム合金の利用促進のために役立つと考えられる。