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吹送流の推算法の開発と物質拡散への応用に関する研究

氏名 犬飼 直之
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第189号
学位授与の日付 平成14年3月25日
学位論文題目 吹送流の推算法の開発と物質拡散への応用に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 福嶋 祐介
 副査 教授 早川 典生
 副査 助教授 細山田 得三
 副査 独立行政法人産業技術総合研究所中国センター グループ長 村上 和男
 副査 新潟大学工学部 教授 泉宮 尊司

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第1章 序論 p.1
1.1 沿岸域 p.1
1.2 沿岸域の物理現象 p.2
1.3 吹送流に関する従来の研究 p.3
1.4 本研究の目的 p.4
第2章 本研究で使用する気象データの選定 p.5
2.1 必要な気象データの時間間隔 p.5
2.2 海上風データの種類 p.5
2.2.1 観測データ p.5
2.2.2 客観解析データ p.6
2.2.3 天気図 p.7
2.3 まとめ p.8
第3章 吹送流による物質拡散-日本海重油事故を例として- p.9
3.1 日本海重油流出事故の概要および調査 p.9
3.1.1 事故概要 p.9
3.1.2 現地調査 p.11
(1) 調査概要 p.10
(2) 1997年1月27日調査 p.11
(3) 1997年2月13日調査 p.14
(4) 1997年3月6日調査 p.17
3.1.3 調査のまとめ p.21
3.2 各流れ成分の大きさの推定 p.22
3.2.1 吹送流 p.22
(1) 能登半島付近の水温 p.22
(2) 能登半島の風、海表面の流れ p.23
3.2.2 潮流 p.28
3.2.3 海流 p.33
3.2.4 まとめ p.35
3.3 重油事故後遺症調査(目視による海底状況確認) p.36
3.3.1 調査目的 p.36
3.3.2 石地海岸の海底地形概要 p.36
3.3.3 調査方法 p.37
3.3.4 調査結果及びまとめ p.38
3.4 まとめ p.42
第4章 吹送流のメカニズム及び天気図からの推算法 p.43
4.1 海上風の推算法 p.43
4.1.1 大気下層の構造 p.43
4.1.2 風に働く力 p.44
(1) 地衡風 p.44
(2) 傾度風 p.44
(3) 地表面の風 p.45
4.1.3 大気境界層内の風の変化式導出 p.46
(1) 地表付近の風の変化式導出 p.46
(2) 風向差の計算 p.49
4.1.4 天気図からの海上風の推算 p.51
(1) 舳倉島の概要 p.51
(2) 風データの解析 p.52
(3) 海上風の推算 p.53
(4) ECMWFとの比較 p.56
4.1.5 まとめ p.58
4.2 風と流れの相関係数 p.59
4.2.1 自己相関係数 p.59
4.2.2 相互相関係数 p.61
4.2.3 まとめ p.68
4.3 吹送流に作用する風の応カ p.69
4.3.1 海面に働く風応力 p.69
4.3.2 流れの鉛直構造 p.70
4.3.3 海水に働く海底摩擦 p.73
4.3.4 まとめ p.74
4.4 海上風による吹送流の推算 p.75
4.5 吹送流による重油漂流再現計算 p.77
4.5.1 概要 p.77
4.5.2 流れ及び重油の拡散計算手法 p.77
4.5.3 計算条件 p.78
4.5.4 計算結果 p.78
4.5.5 まとめ p.80
4.6 まとめ p.81
第5章 沿岸域の吹送流 p.82
5.1 海上風の変化による水位変動-Cedar Key,Floridaを例として- p.82
5.1.1 はじめに p.82
(1) 本節の概要 p.82
(2) Cedar Key付近の状況 p.83
(a) 現地の状況 p.83
(b) 海底地形 p.85
(c) ロスビー変形半径 p.86
5.1.2 定常状態における水位変動の式の導出 p.88
(1) 基本式の導出 p.88
(2) 単純地形への適用 p.90
(3) 実地形への適用 p.92
5.1.3 数値シミュレーション p.94
(1) 領域および数値モデルの決定 p.94
(2) 使用した風データ p.94
(3) 実験結果および考察 p.97
5.1.4 まとめ p.98
5.2 流れ及び物質拡散-渤海、中国を例として- p.99
5.2.1 はじめに p.99
5.2.2 流れと拡散の数値シミュレーション p.101
(1) 数値シミュレーションのための諸条件の決定 p.101
(a) 地形 p.101
(b) 吹送流 p.101
(c) 潮汐流 p.102
(2) 計算条件 p.103
(3) 計算結果および考察 p.104
(a) 流れの数値計算 p.104
(b) 物質の移流拡散 p.106
5.2.3 まとめ p.108
第6章 まとめ・結論 p.109
6.1 総括 p.109
6.2 今後の研究課題 p.109
参考文献 p.110
謝辞 p.114

 沿岸域は、水深の浅い大陸棚付近の海域を含む海域であり、地球の全海面面積の3%を占めているに過ぎない。しかし、多量な栄養塩の供給や、海底近くまでの太陽光の透過などにより海洋生物の宝庫となっている。また、石油、天然ガス、石炭などの鉱物資源も豊富であり、沿岸域は、人類にとって非常に重要且つ大変身近な海域である。
 しかし近年、海岸付近では、干拓や埋立てや、臨海工業地帯の展開による顕著な人口密集と産業活動により、沿岸域の環境は大きく変化し、海洋汚染や自然破壊が著しく進行した。更に現在では、沿岸域の海洋汚染は更に外洋へ拡散しており、1970年代の主な環境保全の対象海域は海岸や内湾などであったのに対し、近年では地球規模で環境問題に取り組まなければならない状態になりつつある。したがって、今まで通り人類が今後とも繁栄を続けるためには、上述の問題を解消しながら海洋環境を保全しつつ、且つ、海洋の生産性を維持しながら、豊富な恵を受け続ける必要性がある。この為に必要な、調和ある方策を探すためには、その海域で行なわれている諸過程を明らかにすることが極めて重要であると考えられる。特に生物活動を含めた物質循環を明らかにすることが大切であり、そのためには、まず海水の流動機構や混合拡散の物理的過程を把握する必要性があると考えられる。
 ところで、海水の表面付近では、海上風に駆動されて吹送流が生じる。吹送流は非定常性が強く、時間的にも空間的にも不均一な流れである。沿岸域では、特にこの流れが海域の環境問題の重要な要素となる場合が多い。よって吹送流の流動機構を、領域全体で把握することは極めて重要であると考えられる。
 更に、吹送流を推算するには、駆動力である海上風も把握しなければならないが、この海上風も吹送流と同様に、時間的に空間的に不均一な流れ場を形成するので、領域内全体で連続的に且つ精度よく把握をする必要性がある。しかし近年では、この海上風の把握には、各地に点在する灯台の気象観測データの他、人工衛星による観測データや、ECMWF等の客観解析モデル等が、局所的な気象状況までを精度よく把握できるようになった。近年では、インターネット上のデーターべ一スが整備されつつあり、観測データの種類によっては、リアルタイムに、且つ安易に入手が可能になった。しかし、まだ多くのデータについては、購入という問題点や、インターネットを利用できず、入手に時間を長く要する等の問題点もある。よって、本研究で海上風を推算するには、まず、上述の問題点を考慮しながら様々な気象データを比較し、選定を行なう必要性がある。
 以上より、本研究では、海上風データの中で、入手が容易な地上天気図を用いて、領域全体の海上風及び吹送流を推算する技術を確立することを試みる。更に、この吹送流の把握の手法と、一般的に用いられている潮汐流を把握する手法の両者を用いることによって、コリオリ力の影響を受ける広さの海域における海水の流動機構及び物質の拡散過程を再現する技術を確立することを目的とする。
第1章では、吹送流や沿岸域での流れ場についての従来の研究を概説するとともに、研究の背景と目的・範囲を述べた。
第2章では、現在利用されている様々な海上風の観測データについて論じ、比較・検討をすることによって、本研究で用いる観測データの選定を行なった。
第3章では、日本海重油流出事故を例として、冬季の日本海の表層では、吹送流が卓越する事を確認した。具体的には、事故の際に実施した現場調査結果及び、他の機関の観測結果に基づいて、潮汐流・海流・吹送流の大きさを、数値解析により求め、比較をした。また、日本海重油流出事故では、漂着重油による海環境悪化等の後遺症も懸念されたので、潜水調査も行なった。
第4章では、気圧配置から風が発生し、海表面へどのように伝わっているか、これに対する海底摩擦による減衰はどの程度の大きさか等を考察した。また、地上天気図を用いて地衡風と海上風を推算し、観測値及び現在主に用いられている客観解析データとを比較し、本研究で提案する手法の実用性を検討した。この算定手法を応用し、日本海における重油流出事故での重油の漂流計算を行い、観測結果と比較をした。
第5章では、前章までに説明をした手法を用いて、特にコリオリ力の影響を強く受け、且つ陸地の影響を受ける沿岸域の吹送流による水位変動および流動機構について考察を行なった。まず、直線状海岸であるFloridaのCedar Keyを例に上げ、コリオリ力の作用により、風向が海岸に平行な場合に水位変動が最大になることを定量的に示した。次に、地形が入り組み、半閉鎖的な海域として中国渤海を例として数値解析を行った。この解析では海水の流動と物質拡散のシミュレーションを行い、さらに渤海の海水交換なども求めた。
第6章では、本研究を総括し、本研究で得られた知見をまとめた。また今後の検討課題を示した。

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