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合成床版を適用した鋼連続合成I桁橋の合理的設計法の開発

氏名 上條 崇
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第622号
学位授与の日付 平成24年6月30日
学位論文題目 合成床版を適用した鋼連続合成I桁橋の合理的設計法の開発
論文審査委員
 主査 教授 長井 正嗣
 副査 教授 岩崎 英治
 副査 教授 高橋 修
 副査 准教授 下村 匠
 副査 埼玉大学大学院 理工学研究科 教授 奥井 義昭

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目次
第1章 緒論
 1.1 研究の背景 p.1
 1.2 鋼・コンクリート合成床板の研究動向 p.2
 1.3 鋼・コンクリート合成桁の研究動向 p.6
 1.4 本研究の目的 p.8
 1.5 本論文の構成 p.9
 第1章 参考文献 p.10
第2章 サンドイッチ型複合床板の開発
 2.1 緒言 p.13
 2.2 SW床板の課題 p.14
 2.3 サンドイッチ構造のせん断耐力 p.15
 2.4 SW床板の課題輪荷重走行試験 p.17
 2.5 SW床板の押抜きせん断耐力 p.27
 2.6 SW床板の最小コンクリート厚 p.31
 2.7 緒言 p.34
 第2章 参考文献 p.35
第3章 トラス鉄筋をずれ止めに用いた合成床板の開発
 3.1 緒言 p.36
 3.2 ずれ止めとしてのトラス鉄筋に関する実験 p.37
 3.3 実験結果と考察 p.44
 3.4 ずれ剛性に関する試算 p.59
 3.5 緒言 p.62
 第3章 参考文献 p.63
第4章 鋼橋のコンクリート系床板の疲労耐久性評価
 4.1 緒言 p.64
 4.2 道路橋RC床板の共通試験 p.65
 4.3 共通試験結果 p.71
 4.4 共通試験結果に関する検討 p.78
 4.5 RC床板の輪荷重走行試験データの収集と分析 p.83
 4.6 緒言 p.94
 第4章 参考文献 p.95
第5章 鋼連続合成桁の中間支点上における合成床板のひび割れ幅制御設計法の提案
 5.1 緒言 p.98
 5.2 ひび割れ幅および鉄筋応力の算定方法 p.99
 5.3 合成床板合成桁の負曲げ実験 p.104
 5.4 実験結果 p.110
 5.5 底鋼板のひび割れ幅低減効果に関する解析 p.117
 5.6 合成床板合成桁のひび割れ幅,鉄筋応力の試算 p.122
 5.7 緒言 p.125
 第5章 参考文献 p.126
第6章 結論および今後の課題 p.127
 謝辞 p.130
 本研究に関連する著者の発表論文・口頭発表一覧 p.131

 本研究は,中小スパンの橋梁を対象に,鋼橋のさらなるコストダウンによる競争力向上を目的とし,研究者らが開発した合成床版を適用した連続合成桁およびその設計法を提案する.本論文が取り扱う合成床版は2種類である.一つは,上下2枚の鋼板と形鋼からなる鋼殻に高流動コンクリートを充填する形式のサンドイッチ型複合床版(SW床版)であり,もう一つは,底鋼板にずれ止め兼,型枠補剛材としてのトラス鉄筋を溶接した鋼パネルにコンクリートを現場打設する形式のトラス鉄筋合成床版(TRC床版)である.これら2種類の合成床版を連続合成桁へ適用する上での利点や,適用支間長を現状よりも拡大する場合に問題になる課題を明確にするとともに,合理的な設計法を提案する.
 本論文は全6章から構成されており,本研究で得られた各章の主な結論は以下の通りである.
 第1章では,本研究の背景と目的について述べ,鋼・コンクリート合成床版の分類から要求性能,照査方法について説明した.また,鋼・コンクリート合成桁の研究動向を整理し,合成床版を有する合成桁の検討課題を明確にした.
 合成床版の性能照査は,これまで実験的検証に重点を置いてきたことから,設計法の理論的な整理が十分ではなく,特に,合成床版を連続合成桁へ適用する場合には中間支点上のコンクリートのひび割れ幅制御が課題となることを明確にした.
 第2章では,SW床版の開発経緯について述べ,この床版の耐久性を評価する上で重要な押抜きせん断耐力の評価法を検討し,以下の結論を得た.(1) SW床版は上下2枚の鋼板を有しており,他形式床版に比べて耐荷力が大きいため,床版のコンクリート厚は他形式床版よりも低減し得る.RC床版の半分のコンクリート厚のサンドイッチ型複合床版は,RC床版と同程度の耐荷力,疲労耐久性を有する.(2) コンクリート厚を鋼・コンクリート合成床版と同程度としたSW床版では,充填コンクリートのひび割れ進展は床版の耐久性に対して支配的な損傷モードにならない.しかし,SW床版のコンクリート厚を低減してゆくと,充填コンクリートのひび割れ進展やせん断破壊が床版の疲労耐久性に対して影響を与えるようになるので,コンクリート厚の小さいSW床版ではコンクリートの損傷をもとに床版の耐久性を評価する必要がある.(3) 輪荷重の繰返し作用を受けるサンドイッチ構造の面部材について,コアコンクリート内に形成される圧縮ストラットの特徴を考慮してせん断耐力を評価する簡易モデルを提案した.(4) 曲げ耐力,押し抜きせん断耐力,活荷重たわみに関する性能が,一般的な底鋼板一枚の合成床版と同等になるSW床版の最小コンクリート厚を提案した.
 第3章では,TRC床版の開発経緯について述べ,この床版の構造上の要点であるトラス鉄筋-底鋼板溶接部に着目し,この部位の強度,ずれ止めとしての剛性,疲労耐久性について実験結果に基づき考察し,以下の結論を得た.(1) ずれ止めの降伏せん断耐力,ならびに,最大せん断耐力は,ずれ止め-底鋼板溶接部ののど断面をもとに計算できる.(2) ずれ止めの溶接箇所数を変化させた場合,初期ずれ剛性は溶接箇所数に正比例しない.これは,ずれ剛性にはトラス筋とコンクリートが寄与しているためである.試算結果よりコンクリートの初期ずれ剛性への寄与は8割程度と大きい.
 第4章では,RC床版や合成床版などの道路橋床版の疲労耐久性を実験確認する方法として広く用いられている輪荷重走行試験について,この試験法で得られる結果のばらつきの程度や,試験方法を整理する上での留意点について検討した.従来,試験結果の評価に用いられてきたたわみは,異なる試験機の結果を比較する場合には,そのまま比較の指標とすることはできず,たわみ劣化度などの指標を導入することで統一的な評価が可能となることが明らかになった.さらに,試験方法のわずかな差や試験体の出来形のばらつきが,床版が終局状態に至るまでの寿命に大きな影響を及ぼしている可能性を指摘した.
 第5章では,鋼・コンクリート合成床版を連続合成桁へ適用する場合に,ひび割れ幅制御設計法が未整備であることを指摘し,第4章で述べたTRC床版を例に,合成床版の底鋼板が床版コンクリートのひび割れを抑制する効果の取扱いについて考察し,以下の結論を得た.(1) 合成床版を有する合成桁のひび割れ幅,鉄筋応力を精度良く求めるためには,テンションスティフニングおよびひび割れ状態の考慮が不可欠である.(2) 底鋼板を継手によって橋軸方向に連続させる場合,少なくとも,ひび割れを照査する荷重レベル(使用性を照査する荷重レベル)においては,合成床版の底鋼板はその全厚を桁断面に算入可能である.但し,終局限界状態の照査では,継手強度に基づき底鋼板が分担する引張力を低減する必要があると考えられる.(3) 合成床版の底鋼板は,桁断面の一部として曲げモーメントに抵抗するだけでなく,鉄筋と同様にひび割れ発生直後のひび割れ幅を抑制する効果がある.この効果を評価するために,底鋼板の鉄筋換算係数?を提案し,本研究が対象とするTRC床版では?=0.2~0.4であることを明らかにした.(4) 現行設計法でスタッド本数を決定した場合と,テンションスティフニングを考慮した床版の分担軸力に基づきスタッド本数を決定した場合の荷重-変位関係はほぼ一致しており,スタッド本数削減による合成度の低下は認められなかった.また,ひび割れ性状についてもスタッド本数の影響は認められなかった.(5) 実橋を対象にひび割れ幅の試算を行い,提案した計算方法が実用的であることを確認した.
 第6章では,本研究を総括し,結論と今後の課題について述べた.

 本論文は「合成床版を適用した鋼連続合成I桁橋の合理的設計法の開発」と題し、6章より構成されている。
 第1章「緒論」では、鋼橋をより一層合理化し建設コストを縮減するためには、鋼・コンクリート合成桁の積極的な活用や合成桁に組み合わせる高耐久性の鋼・コンクリート合成または複合床版の設計法の確立が必要であることを説明している。すなわち本研究の背景について述べるとともに、本研究の2つの柱となる合成床版と合成桁について、これまでの研究動向を整理し研究課題を設定している。
 第2章「サンドイッチ型複合床版の開発」では、この床版の耐久性を評価する上で重要となる押抜きせん断耐力の評価法が未整備である点を指摘している。連続合成桁にサンドイッチ型複合床版を適用して橋梁全体のコストダウンを図るには、床版厚を適切に設定して床版構造を合理化する必要があるとし、実験データに基づき、床版の押抜きせん断耐力の評価方法を提案するとともに、床版の薄肉化を可能とする新たな床版厚算定式を提案している。
 第3章「トラス鉄筋をずれ止めに用いた合成床版の開発」では、TRC床版の構造上の要点であるトラス鉄筋-底鋼板溶接部に着目し、この部位の強度、ずれ止めとしての剛性、疲労耐久性について実験により明らかにしている。
 第4章「鋼橋のコンクリート系床版の疲労耐久性評価」では、鉄筋コンクリート床版や合成床版の疲労耐久性を確認する方法として広く用いられている輪荷重走行試験について、この試験法で得られる結果のばらつきの程度や,試験方法を整理する上での留意点を整理している。その上で、異なる試験機で得られた試験データを統一的に扱う方法を提案するとともに、第2章に示されている輪荷重走行試験の妥当性を確認している。
 第5章「鋼連続合成桁の中間支点上における合成床版のひび割れ幅制御設計法の提案」では、鋼・コンクリート合成床版を連続合成桁へ適用する上で、ひび割れ幅制御設計法が未整備であることを指摘している。第4章のTRC床版を例に、合成床版合成桁の負曲げ実験を実施し、この結果に基づき合成床版の底鋼板が床版コンクリートのひび割れを抑制する効果の取扱いについて考察している。その上で、合成床版を有する連続合成桁のひび割れ幅制御設計法を提案し、その設計法の有用性を示している。
 第6章「結論および今後の課題」では、本研究を総括し、本研究で得られた結論と今後の課題について述べている。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分価値を有するものと認める。

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