高品質アンチモン系化合物半導体薄膜のシリコン基板上ヘテロエピタキシーとその結晶構造に関する研究
氏名 豊田 英之
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第296号
学位授与の日付 平成24年9月30日
学位論文題目 高品質アンチモン系化合物半導体薄膜のシリコン基板上ヘテロエピタキシーとその結晶構造に関する研究
論文審査委員
主査 教授 内富 直隆
副査 教授 上林 利生
副査 教授 打木 久雄
副査 教授 安井 寛治
副査 准教授 加藤 有行
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目次
第1章 序論 p.1
1.1 本研究の背景 p.1
1.1.1 シリコン基板上lIII-V 化合物半導体ヘテロエピタキシャル成長について p.1
1.1.2 Sb 系化合物半導体 p.2
1.1.3 GaSb / Alx Ga1-x Sb 多重量子井戸構造 p.5
1.1.4 AlSb 緩衝層 p.7
1.2 本研究の目的 p.8
第2章 各試料の成膜・評価方法 p.11
2.1 分子線エピタキシー法 p.11
2.1.1 本研究で使用したMBE 装置について p.11
2.1.2 Si 基盤の前処理 p.12
2.1.3 フラックスとBEP p.13
2.1.4 フラックス測定 p.13
2.2 作製試料の評価 p.15
2.2.1 RHEED p.15
2.2.2 フォトルミネッセンス (PL) 測定 p.19
第3章 Si (001) 面上のGaSb / AlGaSb MQW の作製・評価 p.21
3.1 量子井戸構造の分類 p.21
3.2 有限井戸型ポテンシャルモデル p.22
3.3 計算機シミュレーションによる井戸層、障壁層厚の計算 p.24
3.4 MQW 試料の作製 p.28
3.5 MQW 試料の評価 p.30
3.5.1 AFM 観察 p.30
3.5.2 断面TEM 観察 p.30
3.5.3 XRD p.31
3.5.4 MQW 構造 XRD のシミュレーション p.32
3.5.5 フォトルミネッセンス p.39
3.6 まとめ p.40
第4章 Si (111) 面上のGaSb / AlSb MQW の作製・評価 p.43
4.1 Si (111) 面を使用する利点 p.43
4.2 Si (111) 面上におけるAlSb 緩衝層 p.44
4.3 Si (001) / (111) GaSb / AlSb MQW の作製・評価・比較 p.47
4.3.1 成長中のRHEED 観察 p.47
4.3.2 RHEED パターンによる成長中の格子定数の見積り p.48
4.3.3 表面ホモロジーの比較 p.50
4.3.4 XRD(2θ/θscan) p.51
4.3.5 XRD(φ-scan) p.51
4.3.6 フォトルミネッセンス p.54
4.4 まとめ p.57
第5章 Sb テンプレートを使用した GaSb / Si (111) 薄膜の作製・評価 p.59
5.1 Sb 結晶について p.59
5.2 Sb テンプレート、AlSb 緩衝層を使用した GaSb / Si (111) 薄膜の作製・評価 p.59
5.2.1 成長中のRHEED パターン p.60
5.2.2 成長の各段階における表面 p.62
5.2.3 RHEED パターンによる格子定数の計算 p.63
5.2.4 AFM, SEM 観察による、表面の三角形状パターンについての考察 p.64
5.2.5 XRD(2θ/θscan) p.66
5.2.6 In-plane XRD (2θχ / φscan) p.66
5.2.7 XRD(φscan) p.67
5.2.8 2-domain 構造についての考察 p.69
5.2.9 XRD (逆格子マップ測定) p.71
5.2.10 透過率測定による禁制帯幅の見積り p.75
5.2.11 RHEEDシミュレーション p.78
5.2.12 Sb テンプレートについての考察 p.82
5.2.13 副ドメイン発生比率についての考察 p.88
5.3 まとめ p.90
第6章 総括 p.93
付録A Si / GaSb (AlSb) 界面で発生する積層欠陥について p.97
付録B RHEED 観察における、ストリークパターンとスポット状パターンの対応関係について p.101
付録C 各計算プログラムのソースコード p.105
C.1 有限井戸型ポテンシャルモデルによるサブハンド計算プログラム p.105
C.1.1 main 関数 (温度依存性計算用) p.105
C.1.2 mian 関数 (井戸幅依存性計算用) p.105
C.1.3 サブハンド計算関数 p.106
C.1.4 ヘッダファイル (param.h) p.108
C.2 超格子 (MQW) XRD パターン計算プログラム p.108
C.2.1 メイン関数他 ((001)界面用) p.108
C.2.2 メイン関数他 ((111)界面用) p.110
C.2.3 複素数演算関数及びヘッダファイル[54] p.111
C.3 RHEED パターンシミュレーションプログラム p.113
C.3.1 原子配列生成-(001) 面:閃亜鉛鉱構造 p.113
C.3.2 原子配列生成-(111) 面:閃亜鉛鉱構造 p.113
C.3.3 原子配列生成 : ウルツ鉱構造 p.14
C.3.4 原子配列生成 : √3 × √3 再構成表面 p.115
C.3.5 RHEED パターン計算 p.16
C.4 PL スペクトルフィッティングプログラム p.117
C.4.1 メイン関数、エラー関数他 p.117
C.4.2 シンプレックス法プログラム p.118
参考文献 p.121
本論文は「高品質アンチモン系化合物半導体薄膜のシリコン基板上ヘテロエピタキシーとその結晶構造に関する研究」と題し、6 章より構成されている。
第1 章では、シリコンフォトニクス実現を目指したSi 基板上Sb 系化合物半導体薄膜ヘテロエピタキシーの高品質化の重要性、Si 基板上ヘテロエピタキシーにおける格子不整合の問題点など本研究背景について述べられている。
第2 章では各薄膜試料の成膜・評価方法として、MBE 法の概要等成膜方法に関する説明、及び反射高速電子線回折(RHEED) 等各試料の評価に関する説明が行なわれている。
第3 章ではAlSb 緩衝層を使用した、Si(001) 面上GaSb/AlGaSb 多重量子井戸(MQW) の作製及び評価について記述されている。作製試料は良好な表面モホロジー、結晶性を示し、超格子バッファ層の貫通転位低減効果が明らかとなった。さらにMQW の周期構造によるXRD サテライトピーク解析のためシミュレーションプログラムを製作し、井戸層、障壁層幅の推定を行なった。フォトルミネッセンスのピーク波長は本研究において製作した有限井戸型ポテンシャルモデルによるシミュレーションの結果と良く一致し、高品質MQW層の形成が確認された。
第4 章では薄膜結晶性向上の新たな試みとして、Si(111) 面を使用した成膜について述べている。
Si(111) 面上AlSb 緩衝層や表面モホロジー観察より、AlSb 緩衝層はSi(111) 成長においても結晶品質向上に有効であること、エピタキシャル膜の2 ドメイン構造等が明らかとなった。またSi(111) 面上GaSb/AlSb MQWより有限井戸型ポテンシャルモデルと良く一致する発光が得られた。以上の結果より、Si(111) 面上においてもAlSb 緩衝層を使用することによりGaSb 薄膜のヘテロエピタキシーが可能であることが明らかにされた。
第5 章では、さらに新しい高品質化の方法として、Sb テンプレートを導入したSi(111) 面上GaSb薄膜成長について報告している。この方法により作製したエピタキシャル膜は本研究で作製した試料の中で最も良好な表面モホロジーを示した。また逆格子マップ測定等の詳細な結晶性評価及び考察により、積層欠陥や格子歪みの低減効果が明らかとなった。また成長初期の結晶構造解析を行うため、成長中に観察されたRHEED パターンを解析するためのシミュレーションプログラムを製作した。実際に観測されたRHEED パターンと本シミュレーション結果の比較から、成長中に観測された全てのRHEED パターンは閃亜鉛鉱構造による回折で説明できること、成長初期の3 次元成長の時点でGaSb の格子定数を持つ閃亜鉛鉱構造となっていること、及び副ドメインはこの時点で形成されていることが明らかとなった。この考察より、Si(111) 面上成膜における副ドメインは成膜開始直後の積層欠陥により発生しており、Sb テンプレートはこのような積層欠陥を低減する効果も有していることが示された。
第6 章の本研究全体の総括に述べられている通り、本研究により見い出された、Si(111) 面上Sb テンプレートを使用した成膜方法は、従来のAlSb 緩衝層を使用した方法よりも良好な表面モホロジー、低い副ドメイン比率の薄膜が得られるだけでなく、Sb, Ga 原料のみで成膜が可能であるという大きな利点がある。本研究成果は高品質GaSb/Si ヘテロエピタキシーの実現に寄与するものであり、光通信用のSi 基板上赤外光デバイス、シリコンフォトニクスをはじめ、様々な工学的応用への発展が期待できる。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。
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