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高度電子化社会を支える接地システムに関する研究

氏名 土田 崇
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第624号
学位授与の日付 平成24年6月30日
学位論文題目 高度電子化社会を支える接地システムに関する研究
論文審査委員
 主査 教授 原田 信弘
 副査 教授 大石 潔
 副査 准教授 菊池 崇志
 副査 准教授 宮崎 敏昌
 副査 長岡工業高等専門学校 教授 恒岡 まさき

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目次
第1章 序論
 1.1 接地システムの概要 p.1
 1.2 接地システムの動向 p.4
 1.3 接地システムの課題と研究動向 p.11
 1.4 本研究の目的と論文構成 p.13
 第1章の参考文献 p.15
第2章 TN系統の適用に関する事項
 2.1 配線用遮断器の動作に関する検討 p.17
 2.2 地絡事故の健全回路への影響に関する検討 p.28
 2.3 第2章のまとめ p.44
 第2章の参考文献 p.45
第3章 インバータのコモンモード電流抑制に関する事項
 3.1 コモンモード電流の観点からの接地系統の評価 p.47
 3.2 インバータの出力配線へのシールドケーブル適用に関する検討 p.63
 3.3 接地系フィルタによるコモンモード電流抑制 p.77
 3.4 第3章のまとめ p.83
 第3章の参考文献 p.84
第4章 接地システムの高周波特性に関する事項
 4.1 接地システムの高周波特性と改善に関する検討 p.85
 4.2 SRGの高周波特性と改善に関する検討 p.98
 4.3 第4章まとめ p.115
 第4章の参考文献 p.116
第5章 総括
 5.1 総括 p.119
 5.2 今後の展望と課題 p.122

 接地の用途は、主に感電防止を目的とした「保安用」、電子機器の安定動作を目的とした「機能用」、落雷からの保護を目的とした「雷保護用」の3つの用途がある。それぞれが異なる周波数,電流,電圧を対象としているため、建築電気設備の安全性および性能を確保するには接地をシステムとして計画・設計しなければならない。それに加えて「国際規格との整合化」や「電磁環境の変化」といった社会的あるいは技術的な環境が変化しており、従来の接地システムの考え方では電気設備の安全性・信頼性を十分に保つことができてなく、改善が求められている。
そこで本論文では、世界に開かれ高度に電子化した社会を高度電子化社会と位置づけ、この高度電子化社会を支える接地システムを実現することを目的として、現在の接地システムの課題を明示し、接地システムの検討,評価,提案を行う。
接地システムの課題は多様であるため、これに対処するには幅広いアプローチが必要である。そこで本論文では2章から4章で章毎に異なるテーマを対象に検討,評価,提案を行う。

本論文は5章で構成される。
第1章では、接地システムの概要と動向と課題および研究動向を示し、本研究の目的を示す。

第2章では、TN系統の適用に関して保安の観点から評価する。
国際規格との整合化の観点からこれまで日本では実施例の少ないTN系統が定着しつつある。TN系統では地絡時にTT系統に比べて大きな故障電流が流れる。このとき地絡電流を速やかに遮断しかつ健全回路への影響を与えないかどうか、計画・設計者の関心事であるが、これまで十分に検証されていない。
そこで本章では、試験用に高圧受電設備を構築するなどして実施した人工地絡試験による検証について述べる。検証の結果、TN系統では地絡事故時の保護に関してTT系統と同様の保護方式を前提としては安全上懸念される状況があることが分かった。JISへの遮断性能試験の追加,TN系統における地絡時の接地線サイズの選定方法や接触電圧からの保護などを国内規格に導入することを提言する。本章の知見によりTN系統採用の判断基準を与え、TN系統を採用する場合には保安の観点からの対策を講じることができるものと期待できる。

第3章では、インバータを発生源とするコモンモード電流の抑制に関して検討する。さらに、コモンモード電流による障害を抑制する接地システムを検討する。
建築電気設備ではインバータに代表されるパワーエレクトロニクス機器からのコモンモード電流による障害が多く報告されており、この対策は重要な課題のひとつである。建物の省エネルギー促進と高機能化を両立させるには、このコモンモード電流対策は不可避である。
そこで、実験室内にインバータ,誘導電動機等によって構成される試験回路を用いて実験を行い、また数値解析によっても評価を行った。本章では建築電気設備におけるコモンモード等価回路を示し、コモンモード電流の漏洩経路と周波数について述べる。また、接地系統をコモンモード電流障害の観点から評価する。さらにコモンモード電流の抑制の観点からインバータの出力配線へのシールドケーブルの適用に関して検討し、シールドケーブルの適用が必ずしも対策とならず、むしろ電磁環境を悪化させる場合があることを示す。最後にコモンモード電流の抑制のための簡易な方法として接地系統にフィルタを挿入することを提案する。本章の知見により、対処療法が主体であったノイズ対策を事前の計画に盛り込むことで、電子機器に安定的な電磁環境を与えることが期待できる。

 第4章では、新たな課題として接地システムの高周波特性とその改善対策について検討する。
これまでの建築電気設備では、接地システムは商用周波数を中心に直流から数百キロヘルツの周波数帯域について対象としているが、建物の大規模化やスイッチング電源の高周波化等を考えればより高い周波数での検証も必要である。高周波帯域では、共振や反共振によって定在波が生じるため、接地システムは等電位とはならず機能用接地としての機能を保つことができない。
この点について基礎的な実験として「接地システムの高周波特性と改善に関する事項」を、具体的な接地システムとしてデータセンターで用いられるSRG(Signal Reference Grid)を例に「SRGの高周波特性と改善に関する事項」について検討した内容を述べる。検証は試験回路での実測と数値解析により行った。検証を通じ共振・反共振による定在波が生じることを確認し、この現象による問題点を述べ、さらに共振抑制対策を示す。本章は、接地システムの領域では新たな知見を示したものであり、今後この領域へのニーズが増加するものと期待できる。

 第5章では、全体を総括し今後の展望を述べる。
 世界に開かれた高度電子化社会において接地システムに要求されるのは、まず、人身と設備への「安全性」である。国際化の流れからのTN系統の採用要求に答えることが必要である。
次に、高機能化した電子機器が多様なノイズ源と共存できる環境を作ること、「信頼性」の確保が接地システムに要求される。そのために、接地システムがコモンモード電流を抑制・限定できる機能を有すること、接地システムの高周波特性を改善することが必要である。
本論文に示した知見・提案により本論文が接地システムの安全性・信頼性を高め、高度電子化社会を支える接地システムの実現の一助となることを期待できる。

以上

 本論文は「高度電子化社会を支える接地システムに関する研究」と題し,5章より構成されている.世界に開かれた高度電子化社会を支える接地システムを実現することを目的として,現在の接地システムの課題を明示し,接地システムの検討,評価,提案を行っている.
第1章「序論」では,高度電子化社会に向けた接地システムの概要と課題および研究動向を示し,本研究の目的と範囲を明示している.
第2章「TN系統の適用」では,試験用高圧受電設備を構築した人工地絡試験によるTN系統の地絡事故時の安全性について検証をしている.検証の結果,TN系統では地絡事故時の保護に関して,現在わが国の主流であるTT系統と同様の保護方式では安全上懸念があることを明らかにした.TN系統では,遮断性能試験の追加,接地線サイズの選定方法や接触電圧からの保護などを導入することを提案し,TN系統採用の判断基準を与え,保安の観点からの対策が可能であることを示している.
第3章「インバータのコモンモード電流抑制」では,インバータを発生源とするコモンモード電流による障害を抑制する接地システムを検討している.インバータ,誘導電動機等によって構成される試験回路を用いた実験及び数値解析を行い,コモンモード等価回路を示し,コモンモード電流の漏洩経路と周波数について明らかにしている.さらに,接地系統をコモンモード電流障害の観点から接地システムを評価している.加えてコモンモード電流の抑制の観点からはシールドケーブルの適用が必ずしも対策とならず,むしろ電磁環境を悪化させる場合があることを示している.最後にコモンモード電流の抑制のための簡易な方法として接地系統にフィルタを挿入することを提案している.本章の知見により,対処療法が主体であったノイズ対策を事前の計画に盛り込むことで,電子機器に安定的な電磁環境を与えることが期待できることを提案している.
第4章「接地システムの高周波特性」では,具体的な接地システムとしてデータセンター等で用いられるSRG(Signal Reference Grid)の高周波特性とその改善策について,実験と数値解析により検討している.検討の結果,共振・反共振による定在波が生じることを確認し,さらに共振抑制対策を明らかにしている.
第5章「総括」では,全体を総括し今後の展望を述べている.本論文の知見により,接地システムの安全性・信頼性を高め,高度電子化社会を支える接地システムの実現が大いに期待できる.よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.

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