体系化概念構築のための次世代原子力システムの構造健全性確保・維持に関する研究
氏名 鈴木 一彦
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第297号
学位授与の日付 平成24年9月30日
学位論文題目 体系化概念構築のための次世代原子力システムの構造健全性確保・維持に関する研究
論文審査委員
主査 教授 小川 徹
副査 教授 武藤 睦治
副査 教授 末松 久幸
副査 教授 片倉 純一
副査 講師 大塚 雄市
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目次
第1章 序論 p.1
1.1 背景 p.1
1.2 研究の必要性と目的 p.5
1.3 本論文の構成 p.11
第2章 高照射損傷を受け、延性低下する機器の健全性維持 p.13
2.1 概要 p.13
2.2 高照射損傷領域における変形挙動 : 真応力-真ひずみ関係 p.14
2.2.1 引張試験方法と材料、試験片形状 p.14
2.2.2 照射条件 p.15
2.2.3 3次元変形測定 p.15
2.2.4 真応力-真ひずみ曲線 p.15
2.2.5 破面観察 p.17
2.2.6 照射硬化の非照射下での模擬 p.17
2.2.7 考察 p.19
2.3 高照射損傷領域における変形挙動 : 3次元構造体の変形挙動 p.38
2.3.1 試験方法と構造体形状、照射条件 p.38
2.3.2 試験結果 p.38
2.3.3 考察 p.39
2.4 延性破壊の定式化 p.47
2.4.1 延性破壊プロセスの検討 p.47
2.4.2 破壊点の定義 p.48
2.4.3 破壊ひずみによる延性破壊条件の定式化 p.50
2.5 高照射損傷機器の健全性維持の考え方 p.62
2.5.1 現行規格の前提 p.62
2.5.2 現行規格の前提が適用できない課題 p.63
2.5.3 構造健全性維持の考え方 p.65
第3章 製作段階において接合時の熱処理により母材にも強度変化が生ずる場合の健全性確保 p.81
3.1 銅合金のHIP 接合条件についての最適化 p.81
3.1.1 概要 p.81
3.1.2 強度試験結果 p.82
3.1.3 電気伝導度による恒温変態曲線 p.82
3.1.4 HIP 接合条件 p.83
3.2 健全性確保の方策 p.88
3.2.1 問題点とは p.88
3.2.2 解決策 p.89
第4章 脆性非金属部品の構造健全性確保・維持 p.92
4.1 脆性材としての材料特性 p.92
4.1.1 合成石英ガラス p.92
4.1.2 人工サファイア p.93
4.1.3 人工ダイアモンド p.94
4.1.4 まとめ p.95
4.2 構造健全性の確保・維持の考え方 p.110
4.2.1 基本思想 p.110
4.2.2 脆性非金属部品に対する基本思想の適用について p.111
4.2.3 許容制限 p.114
第5章 構造健全性の確保・維持研究成果に基づく体系化概念のアウトラインと適用例 p.117
5.1 概要 p.117
5.2 工程を通しての体系化概念 p.118
5.2.1 背景 p.118
5.2.2 システム化規格の先駆的な適用 p.119
5.3 適用条件範囲を拡大させるための体系化概念 p.122
5.3.1 破損様式の体系化 p.122
5.3.2 次世代原子力システムへの適用についての考察 p.124
5.4 体系化概念に基づく構造健全性の確保・維持 p.126
5.4.1 想定する破損様式の体系化概念 p.126
5.4.2 塑性変形能を有する場合の破損防止の考え方 p.126
5.4.3 塑性変形能を有しない場合の破損防止の考え方 p.127
第6章 結論 p.131
参考文献 p.138
謝辞 p.141
業績リスト p.142
本論文は、「体系化概念構築のための次世代原子力システムの構造健全性確保・維持に関する研究」と題し、6章より構成されている。第1章「序論」では核融合等の次世代原子力システムにおいて使用条件が一層苛酷化するとともに、種々の新しい技術の導入が不可避であることや、材料使用条件によっては現行の構造規格の前提や適用範囲を超えることもあること、そして、これら個々の材料や技術の規格化が相互に矛盾しかねず、安全を担保することが難しくなって来ていることを指摘し、一貫性のある構造規格体系が必要であることを論じている。そのうえで、(1)高照射により延性低下する機器の健全性維持、(2)製作段階の熱処理により母材にも強度変化が生ずる場合の健全性確保、(3)脆性非金属部品の構造健全性確保・維持の三つの課題について研究を実施し、それらの成果に基づき、構造規格の体系化概念のアウトラインを示すという本論文の目的を述べている。
第2章「高照射損傷を受け、延性低下する機器の健全性維持」では、高照射損傷領域では、現行の構造規格の前提(高延性、降伏比1未満)から大きく外れてしまわざるを得ないことを指摘した。しかし、真応力-真ひずみ曲線として整理しなおすと、破壊に近い高ひずみ領域で塑性硬化率が上昇することを明らかにしたうえで、照射硬化を予ひずとして表すことによりSwift式により記述できることを実証した。そして、照射、非照射にかかわらず、変形の安定性に着目した許容制限の考え方を適用することにより、延性の著しく低下する条件での整合的な規格化に道が開けることを示した。
第3章「製作段階においてHIP接合時の熱処理により母材にも強度変化が生ずる場合の健全性確保」では、核融合炉ブランケット内部にある銅合金冷却管において、HIP接合後の焼き入れ時の冷却速度が場所によって変わるため、熱処理条件による強度変化を考慮したうえで許容制限をどう定めるべきかという問題を扱った。このために、内部組織と電気伝導度との間の対応関係に着目して、熱処理の最適条件を定めた。構造規格の観点からは、素材と接合後熱処理との両方を考慮して、この問題に対処する複数の道筋を検討した。
第4章「脆性非金属部品の構造健全性確保・維持」では、石英ガラス、人工サファイア、人工ダイアモンドを対象として、疲労試験、破壊試験を実施し、研磨加工の表面層応力状態変化が破壊強度のワイブル分布に大きく影響することを認めた。現時点では破壊にいたる欠陥を定義、検出することの信頼性は低いことから、実機と同じ装置等でモックアップを製造、製作しモックアップの破壊試験を行って、設計値の妥当性を確認することを提案した。
第5章「構造健全性の確保・維持研究成果に基づく体系化概念のアウトラインと適用例」では、2~4章の成果に基づき、破損様式に遡って体系化を図ることが、構造規格の体系化概念構築においてとるべき基本的態度であることを論述した。そして、材料の塑性変形能の程度によって、破損様式を二つに大別して扱うことで体系化を行うとことを提案した。
第6章「結論」では、研究動因と方法、成果を要約し、この研究の結論をまとめている。以上のように、本論文は核融合のように従来は圧力境界を構成する構造材としては考えられなかったような新技術、材料の使用が不可避な分野において、構造規格の体系化に道筋を示したものである。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。
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