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板紙押抜加工用型工具の耐久特性

氏名 長江 暁
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第390号
学位授与の日付 平成18年9月30日
学位論文題目 板紙押抜加工用型工具の耐久特性
論文審査委員
 主査 助教授 永澤 茂
 副査 教授 福澤 康
 副査 教授 東 信彦
 副査 教授 田辺 郁男
 副査 青山学院大学理工学部教授 佐久田博司

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論文概要 p.i
要旨 p.ii
記号・用語一覧 p.iV
図・表一覧 p.iX

第1章 緒論 p.1
 1-1 研究の背景 p.2
 1-2 研究の位置付け p.9
 1-2-1 従来の研究状況 p.9
 1-2-2 本研究の範囲 p.12
 ・参考文献 p.14

第2章 板紙の押抜特性に及ぼす円弧刃先形状の影響 p.19
 2-1 緒言 p.20
 2-2 工具および供紙材 p.22
 2-2-1 工具切刃 p.22
 2-2-2 工具面板 p.23
 2-2-3 板紙 p.24
 2-3 実験方法 p.26
 2-3-1 ショットブラスト処理による円弧刃先の製作 p.26
 2-3-2 実験装置と計測方法 p.26
 2-4 実験結果と考察 p.28
 2-4-1 押込み荷重応答と刃先半径の関係 p.28
 2-4-2 潰れた刃先の形状に及ぼす先端形状の影響 p.36
 2-4-3 板紙の切断面形状に及ぼす先端形状の影響 p.39
 2-5 結言 p.43
 ・参考文献 p.44

第3章 刃先の変形特性に及ぼす刃材硬さの影響 p.47
 3-1 緒言 p.48
 3-2 工具および供紙材 p.50
 3-2-1 工具切刃 p.50
 3-2-2 工具面板 p.50
 3-2-3 板紙 p.51
 3-3 白板紙を用いた切刃の押抜き耐久実験の概要 p.52
 3-3-1 実験装置 p.52
 3-3-2 実験方法 p.57
 3-4 荷重制御下における板紙無しの刃先押付実験の概要 p.58
 3-4-1 実験装置 p.58
 3-4-2 実験方法 p.59
 3-4-3 押付け速度について p.59
 3-5 板紙無しの負荷実験(空打負荷)の概要 p.61
 3-5-1 実験装置 p.61
 3-5-2 実験方法 p.61
 3-6 実験結果および考察 p.62
 3-6-1 押抜回数に対する切断抵抗と刃先幅の変化 p.62
 3-6-2 刃先硬さと線荷重の関係 p.66
 3-6-3 板紙の切断抵抗と刃潰れ幅との関係 p.66
 3-6-4 押抜回数における刃先面圧の変化 p.71
 3-6-5 切断負荷の有無と刃潰れ仕事の関係 p.72
 3-7 結言 p.76
 ・参考文献 p.77

第4章 押抜過程における刃先と面板の形状変化特性 p.79
 4-1 緒言 p.80
 4-2 工具および供紙材の仕様 p.81
 4-2-1 工具切刃 p.81
 4-2-2 工具面板 p.81
 4-2-3 板紙 p.81
 4-3 実験方法 p.82
 4-3-1 実験装置および計測方法 p.82
 4-3-2 無次元化された線荷重fの導入 p.82
 4-4 実験結果および考察 p.84
 4-4-1 板紙の切断面の形状 p.84
 4-4-2 短期押込回数における面板のへこみと切刃の先端形状の概要 p.86
 4-4-3 刃先形状 hC,hF,tC と線荷重fとの関係 p.87
 4-4-4 面板のへこみ深さdD、へこみ幅tDと線荷重fとの関係 p.89
 4-4-5 切断抵抗の変化と線荷重fとの関係 p.91
 4-4-6 押込回数に関する面板のへこみと刃先形状の変化 p.94
 4-4-7 押込回数に対する面板のへこみと刃先の形状変化 p.98
 4-5 結言 p.104
 ・参考文献 p.105

第5章 結論 p.107
 ・研究業績 p.110
 ・謝辞 p.112

塗工紙やシール材,樹脂板等の押抜加工は,平面上に置かれた板紙にくさび状の切刃を押込む切断方法として広まってきた.また近年はリードフレームやLSIチップ絶縁薄膜等の精密部品の任意形状を切断加工する手段として押抜加工が注目されている.しかし,現在まで包装用紙器加工分野における板紙,切刃,面板の相互の関係を考慮した工具摩耗特性や切断負荷特性等の基礎的な研究はあまり見受けられず,生産現場においては定性的な経験知識に頼る作業が数多い.被加工材の切断性能と工具の切れ味に関する経験的,定性的な報告例は,従来,業界誌等において見受けられるが,加工理論の現実問題への適用や現場の観察による解析モデルの創出に関する研究報告はほとんど無い.

本論文は,板紙の押抜加工における型工具の切断・変形特性の予測と最適な加工条件を導くための指針を提供しており,(1) 押抜き加工性と限界性能に及ぼす円弧切刃の先端半径の影響,(2) 連続押抜における押抜回数と刃先端形状の変化特性の関係,(3) 工具の硬さの組合せを考慮した面板と切刃のかみ合い負荷特性を述べている.

第1章「緒論」ではまず一般的な貫通方式の金型成形と対比して,包装用板紙の押抜加工における工具の構成と切断機構の特徴を述べ,刃先と面板のかみ合い変形の問題を概観した.また,引切りを伴う一般的な刃物の切れ味に関する従来の研究状況と比べて,板紙の押抜刃に求められる切断性能を概念的に示すことにより,本研究の位置付けを明確にした.

第2章「板紙の押抜特性に及ぼす円弧刃先形状の影響」では,かえりを生じ難いと期待される円弧刃先の板紙に対する基本的な切断特性を明らかにすることを目的として,円弧刃の初期先端形状(半径)と板紙の押抜負荷特性との関係を実験的に解析した.その結果,次のことが明らかになった: (1)刃先幅が円弧半径の2倍相当の台形刃による切断特性との類似性がある,(2) 鋭利な刃先と変わらず顕著な潰れを呈して台形状となる限界の先端半径が存在する,(3) 帯状紙粉がほぼ確実に発生する上限界の先端半径が存在する,(4) 帯状紙粉の発生を始める限界は,台形刃モデルを拡張した幾何学的条件から推測可能である,(5) 円弧刃による切断面中層の凹凸形状は,台形刃による切断面よりも相対的に滑らかであり,中層における極端な紙繊維の引き抜けがみられない.

第3章「刃先の変形特性に及ぼす刃材硬さの影響」では,硬質面板を用いた長期の繰返し切断条件において,鋭利な刃先の変形挙動を明らかにすることを目的とし,先端に焼入れ処理を施した2種類の硬質刃を被試験工具として用いて押抜時の負荷応答特性と刃先の潰れ幅の推移特性を評価した.このことから,次のことが明らかになった:(1) 切断荷重の落差に対応する弾性解放エネルギーと塑性的な刃潰れ幅との関係,(2) 刃潰れ幅の押抜回数に対する対数則,(3) 刃潰れ幅の成長速度が初期の主塑性変形領域と潰れが安定した後の主弾性変形領域とに分けられること,(4) 刃潰れ幅の成長速度に対する刃材硬さの影響.また,実際的な刃の変形を予測するには板紙の切断を考慮する必要がある.

第4章「押抜過程における刃先と面板の形状変化特性」では,硬さの異なる面板と切刃のかみ合いによる形状変化を明らかにすることを目的とし,面板の硬さと押込荷重が面板と刃先の変形に及ぼす影響について解析した.また,切刃のかえりが板紙の切断品質に与える影響について解析した.この結果,次のことが明らかとなった: (1) 軟質な面板を用いるとき,刃潰れの有効接触面積に基づく刃先の面板に対する沈み込み限界荷重を予測できる,(2) 刃先が沈み込みを呈する条件で面板の溝深さに関係なく切断抵抗が一定量だけ増加する,(3) 刃先のかえりの成長に関して最大値が存在し,かえりの長さに関して損傷欠落の対数則が存在する,(4) 面板の硬さは, 刃先のかえりの成長規則に影響を及ぼす.

第5章「結論」において,本研究で得られた結果を総括して述べた.

本論文は,「板紙押抜加工用型工具の耐久特性」と題し,5章より構成されている.第1章「緒論」では,一般的な貫通方式の金型成形と対比して包装用板紙の押抜加工における工具の構成と切断機構の特徴を述べ,刃先と面板のかみ合い潰れの問題を概観した.また,引切りを伴う一般的な刃物の切れ味に関する従来の研究状況と比べて,板紙の押抜刃に求められる切断性能を概念的に示すにより,本研究の位置付けを明確にした.その上で,本研究の目的を述べ,本論文の構成をまとめた.第2章「板紙の押抜特性に及ぼす円弧刃先形状の影響」では,板紙に対する円弧刃の基本的な切断特性を明らかにすることを目的として,円弧刃の初期先端形状と板紙の押抜負荷特性との関係を実験的に解析した.これらの解析を通して,円弧半径と先端幅との相当変換や紙粉発生の機構を説明しており,台形刃と円弧刃との基本的な相違点ならびに類似点を明らかにした.第3章「刃先の変形特性に及ぼす刃材硬さの影響」では,硬質面板を用いて鋭利な刃の先端形状の経時変形特性を明らかにすることを目的とし,先端に焼入れ処理を施した2種類の硬質刃を実験工具として用いて,押抜回数と負荷応答特性の関係ならびに刃先の潰れ幅の推移特性を評価した.この結果,刃潰れ幅の成長速度が初期の主塑性変形領域と潰れが安定した後の主弾性変形領域とに分けられることを明らかにした.また,実際的な刃の変形を予測するには板紙の切断を考慮する必要があることを明らかにした.第4章「押抜過程における刃先と面板の形状変化特性」では,硬さの異なる面板と切刃のかみ合い負荷特性と面板の形状変化を明らかにすることを目的とし,面板の硬さと押込荷重が面板と刃先の変形に及ぼす影響について解析した.また,切刃のかえりが板紙の切断品質に与える影響について解析した.この結果,面板の沈み込み限界荷重の予測式ならびに刃先のかえりの成長と損傷欠落に関する対数則を明らかにした.第5章「結論」において,本研究で得られた結果を総括して述べた.

このように,本研究は板紙の連続押抜における刃先と面板の形状変化を詳細に計測評価し,刃と面板のかみ合い条件における潰れ幅やかえりの成長機構を明らかにした.さらに,負荷条件と対応する工具の形状と材質の適正な組合せの知見を示した.

よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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