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画像認識システムを含む自動きさげ盤の開発

氏名 堤 博貴
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第261号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 画像認識システムを含む自動きさげ盤の開発
論文審査委員
 主査 教授 久曽神 煌
 副査 教授 柳 和久
 副査 教授 金子 覚
 副査 教授 田辺 郁男
 副査 助教授 明田川 正人

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第1章 序論 p.1
1.1 緒言 p.1
1.2 工作機械ときさげ作業 p.1
1.3 きさげ作業の概要と現状 p.2
1.4 きさげ作業の自動化に関する従来の研究 p.3
1.5 きさげ作業自動化のための課題 p.5
1.6 きさげ面のしゅう動特性の評価とその必要性 p.6
1.7 本研究の目的 p.7
1.8 本論文の構成 p.7

第2章 画像処理を用いた当たり面認識と工具の位置決め p.11
2.1 緒言 p.11
2.2 画像処理系の構成 p.12
2.3 画像処理による当たりの認識 p.15
 2.3.1 画像処理の流れ p.15
 2.3.2 光明丹の塗布方法の検討 p.16
 2.3.3 照明むら補正 p.17
 2.3.4 2値化処理法 p.19
2.4 CCD画像濃淡値と表面形状 p.20
2.5 きさげ面の自動認識 p.22
 2.5.1 試験片とその表面性状 p.22
 2.5.2 自動認識結果 p.24
 2.5.3 さまざまな加工痕サイズのきさげ面の自動認識 p.25
2.6 画像計測による当たり位置の検出ときさげ工具の位置決め p.27
 2.6.1 画像による当たり位置測定の基本原理 p.27
 2.6.2 遠近変換 p.28
 2.6.3 回転変換 p.29
 2.6.4 並進座標変換 p.29
2.7 カメラキャリブレーション p.30
 2.7.1 キャリブレーションの概要 p.30
 2.7.2 距離換算係数の導出 p.30
 2.7.3 カメラ回転角の導出 p.30
 2.7.4 カメラ光軸-きさげ工具間距離の導出 p.31
2.8 画像計測における検出精度と誤差要因の検討 p.32
 2.8.1 画像処理による重心位置測定のばらつきの影響 p.32
 2.8.2 当たり面に対するCCDカメラの傾きによる誤差 p.32
 2.8.3 レンズの歪曲収差の影響 p.34
2.9 画像処理による工具位置決め精度の検証 p.35
2.10 結言 p.36

第3章 スクレーパ型きさげ工具の開発 p.39
3.1 緒言 p.39
3.2 熟練作業者の加工解析 p.40
 3.2.1 解析方法 p.40
 3.2.2 切削力 p.40
 3.2.3 すくい角と工具のモーション p.42
 3.2.4 表面粗さ p.43
3.3 実験装置 p.44
 3.3.1 きさげ工具形状と加工方法 p.44
 3.3.2 工具駆動モーション p.45
 3.3.3 切削力の測定方法 p.46
3.4 きさげ切削の理論的解析 p.47
 3.4.1 最大せん断応力説に基づく切削理論 p.47
 3.4.2 切削パラメータの導出 p.48
 3.4.3 すくい角と切削力の関係 p.49
 3.4.4 切削力のシミュレーションの原理 p.51
 3.4.5 シミュレーション結果 p.52
3.5 熟練作業者との比較 p.53
 3.5.1 加工痕の断面形状と表面粗さ p.53
 3.5.2 切削力 p.54
3.6 結言 p.56

第4章 きさげ面のしゅう動特性の評価 p.57
4.1 緒言 p.57
4.2 しゅう動摩擦試験機 p.58
 4.2.1 しゅう動摩擦試験機の概略 p.58
 4.2.2 しゅう動試験用スライダ p.60
 4.2.3 試験片 p.61
 4.2.4 各試験片の表面性状 p.63
 4.2.5 きさげ面の表面性状 p.64
 4.2.6 供試油 p.65
4.3 実験方法 p.66
 4.3.1 しゅう動面の洗浄と慣らし運転 p.66
 4.3.2 測定条件 p.67
4.4 しゅう動面の摩擦特性 p.68
 4.4.1 摩擦係数 p.68
 4.4.2 浮き上がり量 p.70
 4.4.3 しゅう動速度とスライダの浮き上がり p.71
4.5 高面圧下におけるしゅう動摩擦特性 p.73
 4.5.1 摩擦係数 p.73
 4.5.2 浮き上がり量 p.75
4.6 しゅう動面潤滑機構とすべり面の浮き上がり p.76
 4.6.1 しゅう動面の潤滑機構 p.76
 4.6.2 くさび効果による発生圧力 p.77
 4.6.3 スライダー入口での粘性引き込み圧力 p.78
 4.6.4 表面性状と潤滑機構 p.78
4.7 結言 p.80

第5章 自動きさげ盤の構成 p.81
5.1 緒言 p.81
5.2 自動きさげ盤の構成 p.82
 5.2.1 きさげ盤の基本構成 p.82
 5.2.2 制御系の構成 p.84
5.3 黒当たり面の認識と加工レベルの決定 p.86
 5.3.1 加工レベルの決定 p.86
 5.3.2 黒当たりの面積と加工レベルについて p.86
5.4 自動きさげ作業 p.89
 5.4.1 自動きさげ作業方法と作業の流れ p.89
 5.4.2 当たり面の認識と加工 p.90
5.5 きさげ面の表面性状 p.92
5.6 熟練技能者との比較 p.94
5.7 結言 p.96

第6章 結論 p.97

 きさげ作業はフライス盤などで切削した平面を基準となる平面ですり合わせをしつつ,ノミのような形をした工具でくり返し表面を削る作業である.きさげされた面は数μmの平面度と油だまりと呼ばれる多数の小さなくぼみを有するため,潤滑に適したすべり面にすることができる.また,特別な測定装置を使わずに,別々に制作したすべり案内要素を組み立てる際に面の当たりの調整ができることは,きさげ仕上げの長所の一つといえる.きさげ作業は熟練技能でありその習熟には長い年月を必要とする.また,近年,わが国における団塊の世代の引退や少子化の急速な拡大にともない,生産分野における熟練技能者の伝承が懸念されている.以上のことから,きさげ作業の自動化は緊急課題であると考えられる.

 本研究では,人間のような視覚認識技術と加工技術を有機的に結合した自動きさげ盤の開発を試みる.あらかじめすり合わせをして当たり出しを行った面から加工すべき当たりの位置を自動的に認識・検出する画像処理システムと,人間のような加工を行うスクレーパ型のきさげ工具を試作する.これら2つのシステムを有機的に結合し,定盤仕上げを対象とした自動きさげ作業を試みた.
 そして,CCDカメラにより当たり面の認識と精密な工具位置決めを行う.きさげ加工痕サイズの約1/10に相当する0.3~0.5mmを目標精度として,ワーク面上の加工位置を画像計測して空間位置を求め,位置決めするシステムを構築した.
 一方,きさげ面のしゅう動性能の評価を試みた.すべり案内時の摩擦力と面の浮き上がり量とを同時に測定可能な摩擦試験装置を試作し,そして,研削面と比較しつつ,さまざまな条件で実験を行い,表面性状がしゅう動特性に及ぼす影響を調べた.

 第1章では,研究の背景を述べ,関連する従来の研究を概観し,研究の目的および本論文の構成について記述した.

 第2章においては,画像処理を用いた当たり面認識と工具の位置決めについて述べた.きさげ面を対象とした各種画像処理方法を提案し,また,キャリブレーション法を含む当たり位置の計測法と,工具位置決め法を検討した.本システムは,さまざまな加工痕サイズを有するきさげ仕上げ面に有効であった.また,画像処理を用いてきさげ工具を位置決めしたときの位置決め誤差は,平均で0.3mmであり,この工具位置決め精度は実用上十分と考えられる.

 第3章では,熟練作業者の加工法をもとに,シャンク部を弾性体としたスクレーパ型工具を試作し,その加工性能について示した.きさげ加工は最大せん断応力説による二次元切削モデルで説明がなされ,これにより加工時の切削力をたわみ量の関数としてシミュレーションした結果,実験値との最大誤差は 10 N で比較的よく一致した.粗仕上げ相当する加工を行ったところ,その表面粗さRaは,熟練作業者0.78 μmに対して,0.51 μm と良好であった.たわみ量を変化させることで,深さ4~9μm 程度の加工が可能であった.このことから,試作された工具はきさげ作業に適しており,また,押さえつけ量によって加工力を容易に制御することが可能と考えられる.

 第4章では,摩擦係数と浮き上がり量の測定から,すべり案内面の面性状がしゅう動特性に及ぼす影響を調べた.きさげ面と研削面の2種類の試験片を用いて,さまざまな条件下で摩擦係数および浮き上がり量の測定を行った.きさげ面は研削面に比べて,摩擦係数は大きいものの,上下方向への浮き上がりによる誤差が小さく高精度であることがわかった.また,くさび効果によって発生する圧力を理論的に求めたところ,きさげ面は研削面の約1/3と小さく,回転モーメントも小さいことがわかった.

 第5章では,大型位置決めステージ,CCDカメラ,スクレーパ型きさげ工具からなる自動きさげ盤を試作し,定盤仕上げを対象とした自動きさげ作業を行った.黒当たりの面積から加工レベル決定するシステムにより,黒当たりと加工痕の面積誤差は平均11.7%で加工することができた.また,模様きさげから,認識きさげにいたる作業プロセスを提案し,これによりきさげ面の表面粗さ(最大高さ)は,模様きさげで25.42μm,認識きさげで12.65μmであり,きさげ加工により精度向上がなされた.さらに,きさげ盤によって加工されたきさげ面の平面度は11.6μmであり,坪当たりは12個であった.平面度としては,大物ベッド面相当,坪当たりとしては工作や測定に用いられるB級定盤相当と考えられる.また,100×100mmのサイズの面を仕上げるのに要した時間は約4時間であった.

 第6章「結論」では,各章で得られた結果を整理し,本論文を総括する.

 本論文は,「画像認識システムを含む自動きさげ盤の開発」と題し,6章より構成されている.第1章では,研究の背景を述べ,関連する従来の研究を概観し,研究の目的および本論文の構成について記述している.第2章では,画像処理を用いた当たり面認識と工具の位置決めについて述べている.きさげ面を対象とした画像処理方法を提案し,さまざまな加工痕サイズを有するきさげ仕上げ面当たり位置ときさげ工具の位置決め誤差は,平均で0.3mmであり実用上十分と考えられる.第3章では,熟練作業者の加工法をもとに,シャンク部を弾性体としたスクレーパ型工具を試作し,その加工性能について示している.きさげ加工は最大せん断応力説による二次元切削モデルで説明がなされ,これにより加工時の切削力をたわみ量の関数としてシミュレーションした結果,実験値との最大誤差は 10 N でよく一致している.粗仕上げ相当する加工を行ったところ,その表面粗さRaは,熟練作業者0.78 μmに対して,0.51 μm と良好であった.たわみ量を変化させることで,深さ4~9μm 程度の加工が可能であった.このことから,試作された工具はきさげ作業に適しており,また,押さえつけ量によって加工力を容易に制御することが可能と考えられる.第4章では,摩擦係数と浮き上がり量の測定から,すべり案内面の面性状がしゅう動特性に及ぼす影響を調べている.きさげ面と研削面の2種類の試験片を用いて,さまざまな条件下で摩擦係数および浮き上がり量の測定を行った.きさげ面は研削面に比べて,摩擦係数は大きいものの,上下方向への浮き上がりによる誤差が小さく高精度であることがわかった.また,くさび効果によって発生する圧力を理論的に求めたところ,きさげ面は研削面の約1/3と小さく,回転モーメントも小さいことがわかった.第5章では,大型位置決めステージ,CCDカメラ,スクレーパ型きさげ工具からなる自動きさげ盤を試作し,定盤仕上げを対象とした自動きさげ作業を行った.黒当たりの面積から加工レベル決定するシステムにより,黒当たりと加工痕の面積誤差は平均11.7%で加工することができた.また,模様きさげから,認識きさげにいたる作業プロセスを提案し,これによりきさげ面の表面粗さ(最大高さ)は,模様きさげで25.4μm,認識きさげで12.6μmであり,きさげ加工により精度向上がなされた.さらに,きさげ盤によって加工されたきさげ面の平面度は11.6μmであり,坪当たりは12個であった.平面度としては,大物ベッド面相当,坪当たりとしては工作や測定に用いられるB級定盤相当と考えられる.また,100×100mmのサイズの面を仕上げるのに要した時間は約4時間であった.第6章「結論」では,各章で得られた結果を整理し,本論文を総括している.
 よって,本論文は工学上および工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.

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