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大電流パルスパワー電源の開発とEUV光源への応用

氏名 大嶋 伸明
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第418号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 大電流パルスパワー電源の開発とEUV光源への応用
論文審査委員
 主査 助教授 江 偉華
 副査 教授 新原 晧一
 副査 教授 原田 信弘
 副査 助教授 末松 久幸
 副査 新潟大学教授 小椋 一夫

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第1章 序論 p.1
 1.1 パルスパワーの発生と応用 p.1
 1.2 EUV光源 p.2
 1.3 EUV光の発生方式 p.4
 1.3.1 Z-pinch方式 p.6
 1.3.2 プラズマフォーカス方式 p.8
 1.4 本研究の位置付け p.10

第2章 大電流パルスパワー電源の開発と動作試験 p.12
 2.1 はじめに p.12
 2.2 出力目標 p.13
 2.3 回路パラメータの決定 p.15
 2.4 磁気スイッチの設計 p.20
 2.5 短絡動作試験 p.27
 2.6 Z-pinch方式によるパルスパワー電源の特性評価 p.34
 2.7 放電電流および負荷電圧波形観測 p.36
 2.8 投入エネルギーとプラズマインピーダンスの検討 p.38
 2.9 測定機器 p.41
 2.9.1 高速度カメラ p.43
 2.9.2 可視発光波形計測器 p.44
 2.9.3 EUV発光波形計測器 p.46
 2.9.4 平面結像型斜入射分光器 p.49
 2.10 プラズマの挙動と可視発光波形計測 p.50
 2.11 EUV発光波形計測 p.53
 2.12 分光計測 p.55
 2.13 2章のまとめ p.56

第3章 プラズマフォーカス方式における極性の影響 p.58
 3.1 はじめに p.58
 3.2 正極性電圧による実験 p.60
 3.3 負極性電圧による実験 p.64
 3.4 負極性プラズマフォーカス方式における沿面放電の有無 p.67
 3.5 3章のまとめ p.76

第4章 負極性プラズマフォーカス方式の特性調査 p.80
 4.1 放電特性に対する電極長の影響 p.80
 4.2 放電特性に対するホロー径の影響 p.85
 4.3 4章のまとめ p.89

第5章 結論 p.90

謝辞 p.94
参考文献 p.96
研究業績 p.100

 半導体の微細化には短波長光源を用いることが非常に有益である。次世代光源の様々な候補の中でExtreme Ultraviolet ( EUV ) 光源が最も注目されており、多くの研究が行われている。EUVは特に波長 13.5 nm の波長の光を指し、高温高密度プラズマから放射されることが知られている。本研究では、小型なEUV光源の開発を目指して研究を行った。
 1章では、序論としてEUV光源と本研究の位置付けについて述べた。
 2章では低出力インピーダンス電源の開発とZ-pinch方式による特性試験について述べた。
本研究ではEUV光源の開発のために、放電によって高温高密度プラズマを生成する Discharge Produced Plasma ( 以下DPP ) 方式を採用した。DPP 方式は大電流放電によってピンチプラズマを生成する方式であり、電源から見た負荷は低インピーダンスの放電負荷である。そのため、プラズマに効率よくエネルギーを投入するためには電源の低出力インピーダンス化は必須であると考えた。これは同時に出力電圧を低く設計することが重要となる。また、プラズマをピンチさせる力は電流の絶対値でその強度が決まるため大電流出力も要求される。このように大電流出力および低出力インピーダンスが要求されるパルスパワー電源の開発とZ-pinch方式による電源の特性評価を行った。電源の開発は、まず要求される出力電流を Bennett の条件式から算出し、その結果を参考に短絡負荷で30 kA 以上と決定した。この出力電流を実現するために、半導体スイッチと磁気パルス圧縮を組み合わせた回路のパラメータを決定した。電源の出力部を短絡して試験を行った結果、出力電流ピーク値40 kA、パルス幅400 ns という大電流短パルス出力を達成した。電流波形より電源の出力インピーダンスは 120 mΩ となり、非常に低い値を実現した。目標出力電流および低出力インピーダンスを達成し、EUV光源に特化したパルスパワー電源を開発できた。このパルパワー電源に Z-pinch 型の電極を取り付けて、電源の特性評価およびEUV発生実験を行った。負荷電圧および放電電流を観測することによって、電源と負荷を合わせた回路動作を明らかにした。得られた電圧波形には電源出力部分と負荷に存在するインダクタンス成分に誘起された電圧が含まれており、この電圧を測定波形から除去することによって電極間電圧を算出した。電極間電圧と測定した電流から、プラズマに投入されたエネルギーおよびプラズマのインピーダンスを算出し、それぞれ 4.5 J および 40 mΩ となった。これより、電源と負荷間のエネルギー転送効率は 50.3 % となり、電源の出力インピーダンスが負荷のインピーダンスよりも高くなっていることが分かった。また、放電によって生成されるプラズマの挙動と可視発光波形を高速度カメラと可視光フォトダイオードによって観測し、ピンチと思われる細い線状のプラズマが発生していることを確認した。さらにそのプラズマが生成されているタイミングでEUV光も放射されていることを確認した。
 3章ではプラズマフォーカス方式の内部電極に印加する電圧の極性による動作違いを比較するために、正極および負極の電圧を印加する実験を行った。その結果、負極性電圧印加による絶縁破壊電圧の低下を実証した。この時の放電電流波形にはディップが、電圧波形にはスパイクが現れており、強いピンチプラズマが生成され、EUV光が放射されていることを確認した。また沿面放電の有無を明らかにするために、沿面放電の発生によって放電の特性が変化すると考えられる2種類の電極を用いて実験を行った。その結果、放電電流波形、プラズマの振る舞い、EUV発光波形、発光スペクトルの全てでほぼ同様の結果が得られた。このことから負極性電圧を印加することで、沿面放電が発生せずに内部電極の先端と外部電極間で放電が発生することを実験的に証明した。これらの結果より、負極性プラズマフォーカスは絶縁破壊の発生が容易であり、沿面すなわち絶縁物を必要としないという利点を見出した。このような現象の大きな要因をホローカソード効果と考え検討を行った。
 第4章ではホローカソード効果がピンチ現象へ与える影響を調べるに電極長およびホローの直径を変化させて実験を行った。その結果、放電開始からピンチプラズマの生成に要する時間は電極長に依存しないことを明らかにした。またホロー径を広げることによって、ホローカソード効果の影響が小さくなり絶縁破壊が発生しなくなることを確認し、ホロー径には最適値が存在することを明らかにした。
 第5章では本研究で得られた結果を総括し、小型EUV光源をDPP方式によって実現するためには、低出力インピーダンス電源と負極性プラズマフォーカスが最適であるという結論を得た。

 本論文は、「大電流パルスパワー電源の開発とEUV光源への応用」と題し、全5章から構成されている。
 第1章「序論」では、序論としてEUV光源とその発生方法について述べるとともに、小型なEUV光源を放電によって発生することを目標とした研究の流れとについて述べている。
 第2章「大電流パルスパワー電源の開発と動作試験」では、放電によってEUV光源を生成するDPP方式に必要な電源の開発について述べている。作製された電源は、低出力電圧、低出力インピーダンス化を実現することによって出力電流40kA、パルス幅400nsという大電流・短パルス出力を達成している。また、Z-pinch方式を用いて電源の動作試験を行い、負荷電圧および放電電流を観測することによって電源と負荷を合わせた回路動作を明らかにした。得られた電圧波形からインダクタンス成分に誘起される電圧を除去して電極間電圧を算出し、この電圧と測定した電流からプラズマに投入されたエネルギーおよびプラズマのインピーダンスを算出している。その結果、プラズマのインピーダンスは電源の出力インピーダンスよりも低なっていることを述べている。プラズマの挙動と可視発光波形を観測し、ピンチと思われる細い線状のプラズマが発生していることを確認している。さらにそのプラズマが生成されているタイミングでEUV光も放射されていることを述べている。
 第3章「プラズマフォーカス方式における極性の影響」では、従来の正極性の電圧を用いる方法と負極性の電圧を用いる方法を比較している。その結果、負極性では絶縁破壊電圧が低下し、また沿面放電が発生していないことを実験的に明らかにしている。負極性の場合は、放電電流波形にプラズマのインピーダンスが急激に変化したと思われるディップを確認している。
 第4章「負極性プラズマフォーカス方式の特性調査」では、ホローカソード効果がピンチ現象へ与える影響を調べるために電極長およびホローの直径を変化させて実験を行っている。その結果、放電開始からピンチプラズマの生成に要する時間は電極長に依存しないことを明らかにし、ホロー径を広げることによってホローカソード効果の影響が小さくなり絶縁破壊が発生しなくなることを確認している。
 第5章では本研究で得られた結果を総括し、小型EUV光源を実現するためには、低出力インピーダンス電源と負極性プラズマフォーカスが最適であるという結論を得ている。
 以上のように、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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