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Ce添加CaGa2S4結晶の励起状態に関する研究

氏名 高山 勝彦
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第396号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 Ce添加CaGa2S4結晶の励起状態に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 打木 久雄
 副査 教授 上林 利生
 副査 助教授 内富 直隆
 副査 長岡工業高等専門学校教授 山崎 誠
 副査 新潟大学助教授 坪井 望

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第1章 序論 p.1
 1-1. カルシウムチオガレートについて p.2
 1-1-1. 物理的特性 p.2
 1-1-2. 応用例:蛍光体の母体材料として p.4
 1-2. Ce添加カルシウムチオガレートについて p.5
 1-2-1. 希土類イオンの遷移構造 p.5
 1-2-2. CaGa2S4によるCe3+イオンの準位 p.7
 1-3. レーザー媒質への応用 p.8
 1-3-1. 励起状態吸収(Excited State Absorption, ESA) p.8
 1-3-2. 光利得スペクトルの試算 p.9
 1-3-3. 発振閾値の試算 p.11
 1-4. Ce3+添加材料を用いたレーザー媒質応用への試みと励起状態吸収 p.12
 1-5. 研究の目的 p.15
 1-6. 本論文の概要 p.15
 参考文献 p.16

第2章 実験方法 p.19
 2-1. 溶融によるCe添加CaGa2S4結晶の作製 p.19
 2-1-1. 自己フラックス法について p.19
 2-1-2. 結晶作製の手順 p.21
 2-1-3. 透過スペクトルの測定 p.21
 2-1-4. フォトルミネッセンス(PL)スペクトル測定 p.22
 2-1-5. フォトルミネッセンス励起(PLE)スペクトル測定 p.22
 2-1-6. フォトルミネッセンスの励起強度依存性 p.24
 2-1-7. フォトルミネッセンスの寿命 p.25
 2-2. 単結晶試料 p.25
 2-2-1. 透過スペクトル p.25
 2-2-2. PL,PLEスペクトル p.26
 2-2-3. フォトルミネッセンスの励起強度依存性 p.26
 2-2-4. フォトルミネッセンスの寿命 p.27
 2-2-5. ポンプ-プローブ分光実験 p.27
 参考文献 p.28

第3章 光学特性 p.29
 3-1. 作製された溶融試料 p.29
 3-2. X線回折 p.29
 3-2-1. 測定結果 p.29
 3-2-2. 格子定数の計算 p.30
 3-3. EPMAによる分析 p.31
 3-4. 光吸収スペクトル p.32
 3-4-1. 溶融試料の場合 p.32
 3-4-2. 単結晶試料の場合 p.33
 3-5. フォトルミネッセンススペクトル p.35
 3-6. フォトルミネッセンス励起スペクトル p.36
 3-7. Ce3+イオンの遷移過程 p.38
 3-8. フォトルミネッセンスの寿命 p.40
 3-8-1. 溶融試料の場合 p.40
 3-8-2. 単結晶試料の場合 p.41
 3-9. 本章のまとめ p.42
 3-9-1. Ce添加CaGa2S4結晶の作製 p.42
 3-9-2. Ce添加CaGa2S4結晶の光学特性 p.42
 参考文献 p.44

第4章 フォトルミネッセンス強度の励起光強度依存性 p.45
 4-1. レート方程式による解析 p.45
 4-1-1. 励起状態吸収の存在 p.45
 4-1-2. 基底状態へ高速に遷移する場合 p.46
 4-1-3. 準位5から戻らない場合 p.49
 4-1-4. ESA準位の緩和レートを考慮した場合のレート方程式 p.50
 4-1-5. 解析結果 p.51
 4-2. フォトルミネッセンス強度の励起強度依存性 p.57
 4-2-1. 溶融試料の場合 p.57
 4-2-2. 単結晶試料の場合 p.58
 4-3. 高速緩和モデルによるフィッティング結果 p.59
 4-3-1. 溶融試料の場合 p.59
 4-3-2. 単結晶試料の場合 p.60
 4-4. 準位5の遷移レートを考慮したモデルによるフィッティング結果 p.60
 4-4-1. 溶融試料の場合 p.60
 4-4-2. 単結晶試料の場合 p.62
 4-5. 本章のまとめ p.63
 参考文献 p.64

第5章 ナノ秒ポンプ-プローブ分光実験 p.65
 5-1. 励起光の強度分布を含んだ光学利得または損失 p.65
 5-2. ナノ秒ポンプ-プローブ実験(パルスプローブ) p.67
 5-2-1. プローブ光強度比のプローブ光波長依存性 p.68
 5-2-2. プローブ光強度比のポンプ光エネルギー依存性 p.69
 5-2-3. プローブ光強度比のプローブ光遅延時間依存性 p.71
 5-3. ポンプ-プローブ実験(CWプローブ) p.72
 5-4. Ce3+イオンの遷移過程 p.82
 5-5. 本章のまとめ p.83
 5-5-1. パルスプローブ実験 p.83
 5-5-2. CWプローブ実験 p.84
 参考文献 p.85

第6章 総括 p.87

謝辞 p.93

研究業績 p.94

付録:CaGa2S4の原子位置座標 p.97

 チオガレート化合物のひとつであるCaGa2S4は,希土類元素セリウム (Ce) を添加する事により青-緑色領域においてCe3+イオンの5d-4f間遷移に起因する高輝度の発光を示す.そのため,EL素子や青色蛍光材料として有力視されているものの一つである.Ce添加CaGa2S4は,青-緑色領域で波長可変という新たな固体レーザー媒質への応用も期待されているが,励起状態吸収 (Excited State Absorption, ESA) の存在がレーザー媒質に応用するにあたって大きな課題となっている.本研究では,溶融法により作製したCe添加CaGa2S4結晶,及び水平ブリッジマン法により作製されたCe添加CaGa2S4単結晶について発光強度の励起光強度依存性やナノ秒ポンプ-プローブ分光実験を行う事により光学特性を調べた.また,レート方程式による解析などによりCe添加CaGa2S4におけるESAのダイナミクスを調べるとともにレーザー媒質として使用可能かの検証を行った.
 溶融法によりCe:CaGa2S4 (Ce3+ 0.45 wt%添加) の作製を試みた結果,幅1.5 × 2.0 mm,厚さ0.2 mm程の,小型ではあるが黄色がかった透明なバルク結晶を作製できた.作製した溶融試料に対してX線回折測定を行ったところ,CaGa2S4の特定方向のみのピークが現れ,a軸方向に対する配向性を持つ結晶である事が確認された.また,EPMAによる組成分析を行った結果,溶融試料は化学量論比的組成となっていた事が解った.
 定常光励起によりCe3+ 0.45 wt%添加溶融試料,Ce3+ 0.1 wt%添加溶融試料のフォトルミネッセンススペクトルを測定した.A-Band (2.43 eV) 及びB-band (2.64 eV) をピークに持つ発光帯が確認された.これらの発光帯は,Ce3+イオンの4f-5d間遷移に起因する発光として良く知られている.また,PLEスペクトル測定の結果.2.92 eVの吸収帯の他に2つの弱い励起帯 (3.64 eV, 3.90 eV) が紫外域に存在すると予測された.Ce添加CaGa2S4のフォトルミネッセンス励起ペクトル,特に紫外域における励起帯のピーク位置に関しては様々な報告例が存在しているので,Ce添加濃度依存性や温度依存性なども含めて研究していく必要がある.
 ESAによる再吸収過程を含んだレート方程式について考え,励起準位の占有率ρ3が励起光強度の増加に対してどの様に変化するかをシミュレートした.その結果,ESAの減衰時定数が非常に短いとき (< 10 ps),ρ3はある値に収束し,長いときは極大に達した後に減少傾向を示すと推測された.
 窒素レーザー励起色素レーザーを用いてCe3+ 0.8 wt%を励起し,発光強度の励起光強度依存性を調べた.発光強度の飽和傾向が確認され,フィッティングによりESAの吸収断面積を求めた結果,基底状態の吸収断面積より2桁程大きくなり,励起準位においてESAの影響が大きいといえる.この事から,発光の飽和はESAによる吸収により引き起されたではないかと考えられる.
 Ce3+ 0.1 wt%添加単結晶試料と2台のパルスレーザーを用いたナノ秒ポンプ-プローブ分光実験が行われ,試料に利得または損失が存在するかを調べた.光学損失がプローブ光の強度減少として観測され,Ce添加CaGa2S4をレーザー媒質に応用するのは難しいと結論付けられた.また,プローブ光強度のプローブ光パルス遅延時間依存性を調べた結果,プローブ光の減衰時定数が18 nsと見積もられた.この値は,Ce添加CaGa2S4の発光寿命 (36 ns) よりも短い値となった.
 励起時に試料を透過したプローブ光強度の過渡応答を調べるため,プローブ光源にCWレーザーを用いてポンプ-プローブ分光実験を行った.プローブ光波長532 nm, 635 nm, 685 nm, 780 nmのとき,短い緩和成分と0.8~89 msの長い緩和成分を併せ持つ減衰が確認された.波形分離により短い緩和成分の減衰時定数を求め,その結果約20 nsと見積もられた.この値は前項で述べたプローブ光強度のプローブ光遅延時間依存性の実験から出された減衰時定数とほぼ同じ値であり,ポンプ光強度・プローブ波長に依存せずほぼ一定であった.プローブ光強度の減衰時定数が発光寿命と異なっている事から,ESAによる遷移は発光に寄与する準位とは別の,細かく分裂したいずれかの準位が関わっていると考えられる.
 また,波形分離の結果より得られた短い緩和,長い緩和各成分の係数のポンプ光強度依存性をプロットした結果,短い緩和成分は飽和傾向,長い緩和成分は非線形の変化傾向を示しており,各緩和成分で変化の傾向が異なる事が解った.特に長い緩和成分は励起光強度に対して放物線状の変化傾向を持っていたため,トラップ準位を経由する様な二段階の遷移であると考えられる.

 本論文は,「Ce添加CaGa2S4結晶の励起状態に関する研究」と題し,6章より構成されている.第1章「序論」では、試料の物理的・光学的特性,レーザー媒質への応用,励起状態吸収に関する概要を示すとともに,本研究の目的を述べている.
 第2章「実験方法」では,結晶の作製法,フォトルミネッセンススペクトル・フォトルミネッセンス励起スペクトル,フォトルミネッセン強度の励起光強度依存性,フォトルミネッセンの減衰時間,ポンプ-プローブ実験について実験方法を述べている.
 第3章「光学特性」では,試料の吸収スペクトル,フォトルミネッセンススペクトル,フォトルミネッセンス励起スペクトル,フォトルミネッセンスの減衰時間に関する基本的な光学特性の測定結果を述べている.
 第4章「フォトルミネッセンス強度の励起光強度依存性」では,励起状態吸収を考慮したレート方程式による理論的解析を行い,励起状態吸収のためフォトルミネッセンス強度は励起光強度の増大に対して飽和傾向を示すことを述べている.続いて,フォトルミネッセンス強度の励起光強度依存性の実験結果を述べ,高速緩和モデルによる実験結果の解析,有限緩和時間モデルによる実験結果の解析を行い,実験データとのフィッティングから本結晶の励起状態吸収断面積の値を初めて求めている.
 第5章「ナノ秒ポンプ-プローブ分光実験」では,ポンプ-プローブ分光法における励起光の空間的強度分布を考慮した光学利得・損失の理論的表式について述べた後,ナノ秒色素レーザーパルス光をポンプおよびプローブに用いたポンプ-プローブ実験の結果,ナノ秒色素レーザーパルス光をポンプにCW光をプローブに用いたポンプ-プローブ実験の結果を述べ,光学利得は無く損失の方が大きいこと,少なくとも460nmから780nmに渡って励起状態吸収が存在すること,励起状態吸収の始状態は20nsの寿命をもつ状態と数msの寿命を持つ複数の状態からなることを明らかにしている.実験結果から予測されるCe3+イオンの遷移過程について述べている.
 第6章「総括」では,本研究の成果をまとめて述べている。

 以上のように、本論文は、レーザー媒質として期待されているCe添加CaGa2S4結晶の光学利得・損失特性をナノ秒レーザーを用いたポンプ-プローブ分光法を用いて調べ,励起状態吸収のため光損失が大きく,本結晶をレーザー媒質へ応用することは困難であること,励起状態吸収がレーザー発振作用を阻害する大きい要因であることを明らかにし、レーザー媒質へ応用する際に励起状態吸収の低減が重要な課題であることを指摘しており、工学上および工業上貢献するところが大であり、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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