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単結晶Ni基超合金の複合組織形態と高温疲労強度の相関性に関する研究

氏名 坂口 基己
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第404号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 単結晶Ni基超合金の複合組織形態と高温疲労強度の相関性に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 岡崎 正和
 副査 教授 武藤 睦治
 副査 教授 福澤 康
 副査 教授 鎌土 重晴
 副査 助教授 南口 誠
 副査 東京大学大学院工学系研究科 教授 鈴木 俊夫

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第1章 序論 p.1
 1.1 背景 p.1
 1.2 単結晶Ni基超合金の高温疲労に関するこれまでの研究 p.4
 1.3 γ/γ’複合組織とその形態変化 p.5
 1.4 本論文の目的 p.7
 1.5 本論文の構成 p.8
参考文献

第2章 高温疲労強度特性に対する実験的検討 p.15
 2.1 緒言 p.15
 2.2 実験方法 p.15
 2.2.1 供試材および疲労試験片 p.15
 2.2.2 高温疲労試験 p.17
 2.3 実験結果および考察 p.19
 2.3.1 繰返し応力ひずみ関係 p.19
 2.3.2 疲労破損寿命 p.22
 2.3.3 破壊形態 p.24
 2.3.4 疲労試験後の微細組織変化 p.26
 2.3.4.1 疲労試験後のγ/γ’組織形態変化 p.26
 2.3.4.2 疲労試験後の転位構造 p.27
 2.3.5 巨視的力学パラメータを用いた破損寿命評価 p.28
 2.4 結言 p.31
参考文献

第3章 外負荷により生じるγ/γ’組織形態変化に対する実験的検討 p.35
 3.1 緒言 p.35
 3.2 クリープ過程中のラフティング現象 p.36
 3.2.1 ラフト組織の材料学的特徴 p.36
 3.2.2 メカニズム解明のためのこれまでの解析 p.38
 3.2.3 疲労強度に与える影響に対するこれまでの研究 p.39
 3.3 室温における塑性ひずみの付与とその後に加える熱処理により生じるγ/γ’組織の形態変化 p.40
 3.3.1 実験方法 p.40
 3.3.1.1 試験片 p.40
 3.3.1.2 室温での塑性ひずみの導入 p.42
 3.3.1.3 後熱処理と組織観察 p.43
 3.3.2 実験結果および考察 p.43
 3.3.2.1 丸棒試験片における塑性ひずみの大きさの影響 p.43
 3.3.2.2 リング状試験片における塑性ひずみの大きさと方向の影響 p.45
 3.3.2.3 塑性ひずみ履歴の影響 p.45
 3.4 高温疲労負荷により生じるγ/γ’組織の形態変化 p.48
 3.4.1 実験方法 p.48
 3.4.1.1 応力制御の疲労負荷 p.48
 3.4.1.2 ひずみ制御型の疲労負荷 p.49
 3.4.2 実験結果および考察 p.50
 3.4.2.1 応力制御型疲労負荷によるγ/γ’組織の形態変化 p.50
 3.4.2.2 ひずみ制御型疲労負荷によるγ/γ’組織の形態変化 p.51
 3.5 実機稼働中の損傷により誘起されるセル状組織 p.53
 3.5.1 モデル実験によるセル状組織の形成 p.53
 3.5.2 セル状組織の形態 p.54
 3.5.3 セル状組織が高温疲労強度に及ぼす影響 p.55
 3.6 結言 p.58
参考文献

第4章 γ/γ’複合材料系の各種力学特性を解析する統一モデルの構築 p.63
 4.1 緒言 p.63
 4.2 モデルの概要 p.65
 4.3 γ/γ’複合組織のモデル化 p.67
 4.3.1 Sphereモデルによる組織形態のモデル化 p.67
 4.3.2 Cubicモデルによる組織形態のモデル化 p.69
 4.4 内部応力の計算 p.71
 4.4.1 Sphereモデルにおける内部応力の計算 p.71
 4.4.1.1 無負荷状態下のミスフィット応力 p.71
 4.4.1.2 弾性変形状態で生じる適合応力 p.74
 4.4.1.3 不均一非弾性変形により生じる付加的内部応力 p.75
 4.4.2 Cubicモデルにおける内部応力の計算 p.77
 4.4.2.1 無負荷状態下のミスフィット応力 p.77
 4.4.2.2 弾性変形状態下の適合応力 p.79
 4.4.2.3 非弾性変形下の付加的内部応力 p.80
 4.5 力学的ポテンシャルエネルギーの算出 p.82
 4.5.1 Sphereモデルの力学的ポテンシャルエネルギー p.83
 4.5.2 Cubicモデルの力学的ポテンシャルエネルギー p.84
 4.6 単調負荷下の巨視的構成式の導出 p.84
 4.6.1 Sphereモデルの巨視的構成式 p.85
 4.6.1.1 弾性状態における応力ひずみ関係 p.85
 4.6.1.2 γ相塑性領域における応力ひずみ関係 p.86
 4.6.1.3 均一塑性変形領域における応力ひずみ関係 p.89
 4.6.2 Cubicモデルの巨視的構成式 p.89
 4.6.2.1 弾性変形下での巨視的ヤング率 p.90
 4.6.2.2 StageIIにおける弾塑性構成式 p.91
 4.6.2.3 StageIIIにおける弾塑性構成式 p.93
 4.6.2.4 StageIVにおける変形挙動 p.95
 4.7 繰返し負荷過程への拡張 p.96
 4.8 疲労損傷との関連付けと寿命予測 p.96
 4.9 結言 p.98
参考文献

第5章 外負荷により生じるγ/γ’組織形態変化に対するモデルの展開と応用 p.101
 5.1 緒言 p.101
 5.2 組織形態のエネルギー的安定性 p.103
 5.2.1 無負荷状態における安定組織形態 p.103
 5.2.2 外的負荷が安定組織形態に及ぼす影響 p.104
 5.2.2.1 単軸負荷の影響 p.104
 5.2.2.2 多軸負荷の影響 p.106
 5.2.3 不均一な非弾性変形が安定組織形態に及ぼす影響 p.109
 5.3 ラフティングに対する解析と実験結果との比較 p.113
 5.4 塑性ひずみと後熱処理によって生じる組織形態変化に対する解析 p.115
 5.4.1 室温でのSphereモデルの弾塑性変形挙動 p.115
 5.4.2 安定組織形態の予測と実験結果との比較 p.116
 5.5 セル状組織に対する安定組織形態 p.119
 5.6 結言 p.122
参考文献

第6章 高温における疲労破損予測へのモデルの展開と応用 p.124
 6.1 緒言 p.124
 6.2 単調単軸負荷下の応力ひずみ関係 p.125
 6.2.1 巨視的応力ひずみ関係 p.125
 6.2.2 単調負荷過程におけるγ相、γ’相での局所的応力状態 p.127
 6.2.2.1 ミスフィットにより各相に生じる整合応力 p.129
 6.2.2.2 弾塑性変形過程における各相の応力状態 p.130
 6.3 繰返し負荷下の応力ひずみ関係 p.133
 6.3.1 繰返し負荷下での巨視的応力ひずみ関係 p.133
 6.3.2 繰返し負荷過程におけるγ相、γ’相での局所的応力状態 p.136
 6.4 塑性仕事密度を用いた高温疲労破損予測 p.139
 6.4.1 LCF,TMF試験条件下の応力ひずみ関係 p.139
 6.4.2 LCF,TMF寿命予測 p.141
 6.5 結言 p.143
参考文献

第7章 組織形態が疲労強度に及ぼす影響の予測 p.145
 7.1 緒言 p.145
 7.2 γ/γ’組織形態が単調負荷下の変形挙動に与える影響 p.146
 7.2.1 組織形態が巨視的応力ひずみ関係に与える影響 p.146
 7.2.2 ミスフィット応力に及ぼす組織形態の影響 p.148
 7.2.3 巨視的硬化率に及ぼす組織形態の影響 p.149
 7.3 γ/γ’組織形態が繰返し変形挙動に与える影響 p.151
 7.3.1 組織形態がヒステリシスループに与える影響 p.152
 7.3.2 各相での微視的応力状態に組織形態が及ぼす影響 p.153
 7.4 γ/γ’組織形態が疲労強度に及ぼす影響 p.155
 7.4.1 組織形態が疲労強度に与える影響の予測 p.155
 7.4.2 予測と実験結果との比較 p.155
 7.4.3 ミスフィットが疲労強度に与える影響の予測 p.157
 7.4.4 繰返し負荷中の組織形態変化の影響について p.158
 7.5 結言 p.160

第8章 結論 p.162

 付録A 式中の記号について p.165
 付録B Spereモデルの計算過程 p.167
 付録C Cubicモデルの計算過程 p.176

研究業績 p.186

謝辞

 エネルギー資源の節約,CO2削減による温暖化防止の観点から,複合発電やジェットエンジンに用いるガスタービン機関の効率向上が求められており,次世代超高効率ガスタービンを支える耐熱材料の開発と,その信頼性,経済性の向上を目指した研究が進められている.単結晶Ni基超合金は,Ni固溶体γ母相中にNi3(Al,Ti)を基本とするγ'相を均一かつ微細に整合析出させた複合組織制御材料であり,先進ガスタービンの動静翼材として不可欠な材料となっている.タービン動静翼には,遠心力によるクリープに加え,高サイクル疲労(HCF)や低サイクル疲労(LCF),さらには,熱応力と外力との重畳によって生じる熱機械疲労(TMF)など各種の高温疲労負荷が加わるため,これらの損傷を正確に捉え,余寿命を正確に評価することが工業的ニーズとなっている.また,ごく最近では,単結晶超合金のγ/γ'複合組織形態が,高温下での使用期間中に変化し,これによって材料の強度特性が大きく変化する可能性も危惧され始めている.
 本論文では,単結晶Ni基超合金の高温疲労強度特性,外負荷により生じるγ/γ'複合組織の形態変化,および,それらの相関性に焦点に当て,実験的・解析的な検討を行った.特に,γ/γ'複合組織が持つさまざまな材料学的・力学的因子を考慮に入れ,同合金の高温疲労寿命,組織の形態学的変化のメカニズム,ならびに,複合組織形態が疲労寿命に与える影響,を統一的に扱うことのできる独自のモデルを構築した.提案したモデルに基づく予測結果は種々の実験結果ともよく一致し,上の3つの課題に対する合理的な説明を与えるものであることも示した.
 本論文は,以下の8章から構成される.
 第1章では,単結晶Ni基超合金の高温疲労とγ/γ'複合組織の形態変化に対するこれまでの研究を概説し,本論文の目的と位置づけについて記述した.
 第2章では,単結晶Ni基超合金CMSX-4に対する様々な条件下での熱機械疲労(TMF),低サイクル疲労(LCF)試験を行い,試験温度,ひずみ速度,ひずみ比がLCF寿命に与える影響,ならびに,温度/ひずみ位相条件がTMF寿命に与える影響について検討した.その結果,同超合金は,従来の耐熱材料とは異なる独特な疲労特性を示し,これらの特性に対しては,従来の巨視的力学パラメータでは適切な評価・予測が困難であることが明らかになった.
 第3章では,外負荷により生じるγ/γ'複合組織の形態変化に注目し,室温での塑性ひずみの付与とその後に与える熱処理によって生じる組織形態変化,高温疲労負荷によって生じる形態変化,および,タービン翼の製造・実機稼働→補修といった一連の工程をモデル化した工程により生じる形態変化について実験的に検討した.その結果,同合金のγ/γ'組織は,加えた外負荷の影響でその形態が変化すること,その形態変化は,材料に加わった応力やひずみの大きさ,方向,履歴に強く依存することが明らかとなった.また,機械加工によって表面にセル状の異常組織を形成させたCMSX-4丸棒試験片に対する高サイクル疲労試験を行い,セル状組織の形成が同合金の疲労強度を著しく低下させることも明らかにした.
 第4章では,第2章,第3章で得た実験結果を踏まえ,目的とする 3つの解析を統一的に行える力学モデルを展開した.具体的には,Eshelbyの楕円体介在物理論を基に,その理論を,析出物間相互作用,材料系の非弾性変形,および,γ'相の立方体形状を検討できるものに拡張した.展開したモデルは,γ/γ'組織形態をはじめ,γ/γ'間格子ミスフィット,析出物体積率,各相の弾塑性的性質の相違など,単結晶材の持つ様々な微細構造因子を考慮しており,これらの因子が,超合金の各種力学特性に与える影響を検討できるものとなった.
 第5章では,第4章にて展開したモデルを用いて,第3章で実験的に検討したγ/γ'組織形態変化について,組織形態のエネルギー的安定性の観点から解析を行った.その結果,クリープ過程中のラフティング現象に対し,γ相とγ'相の間に生じる非弾性ひずみの不均一性を考慮することにより,これまでのEshelby理論では説明不可能であった実験結果を合理的に説明することに成功した.また,同様のアプローチにより,室温での塑性ひずみの付与とその後の熱処理により生じるγ/γ'組織の一方向粗大化,および,球状圧痕周りに形成されたセル状組織における安定組織形態も合理的に予測できることが明らかとなった.
 第6章では,第4章で展開したモデルに基づき,第2章で行った単結晶材のLCF,TMF試験を対象とした寿命予測を行った.まず,単調負荷,および,繰返し負荷下での巨視的,局所的な応力ひずみ関係を導き,提示したモデル計算が,単調負荷下の変形に及ぼすγ/γ'ミスフィットの影響,および,繰返し負荷下での材料の移動硬化を正確に再現することを明らかにした.また,得られた巨視的,局所的応力ひずみ関係に基づき,繰返し負荷過程中にき裂発生・初期進展の優先サイトに加わる塑性仕事密度を計算し,それを用いたLCF,TMF破損寿命予測を行った.その結果,第4章で展開したモデルにより,従来のマクロ的な考え方では説明のつかなかった単結晶超合金の高温疲労強度特性の多くを評価・予測できることが明らかとなった.
 第7章では,寿命予測モデルの中でγ/γ'組織の形態変化を表現することにより,組織形態の変化が単結晶材の繰返し変形挙動,および,疲労寿命に与える影響についての予測を行った.その結果,繰返し負荷下の材料の巨視的・局所的応力ひずみ関係は,材料系の持つ組織形態や材料学的因子により大きく変化し,それにともない,材料の疲労寿命も変化するであろうことが予測された.例えば,γ/γ'ミスフィットが負の超合金の場合,負荷軸方向に対して平行な方向に伸張したラフト組織が疲労強度を上昇させるのに対して,垂直な方向に伸張したラフト組織は疲労強度を大きく低下させると予測された.これらの予測は,現段階で得られている実験結果ともよく一致した.また,γ/γ'ミスフィットが変化すると,この特性も大きく変化するであろうことが強く示唆された.
 以上,本論文で提案したモデルの特徴は,1)超合金の持つ材料学的・力学的因子,2)高温負荷条件下における組織の安定形態,そして,3)高温での疲労強度 という3つの事象を,それぞれの間の連成問題として扱える点にある.一連の研究成果は工業界の超合金設計,信頼性確保,部材維持管理 などに対する重要な指針を与えるものになると期待される.

 本論文は,「単結晶Ni基超合金の複合組織形態と高温疲労強度の相関性に関する研究」と題し,8章より構成されている.
 第1章「緒論」では,ガスタービン,及び,そこで使用されている単結晶Ni基超合金の開発の歴史と動向,材料科学的特徴,材料強度学的特徴,γ/γ'と呼ばれる複合組織形態に関する従来の研究の概要を示すとともに,本論文の目的と範囲を述べている.
 第2章では,単結晶Ni基超合金CMSX-4に対する様々な条件下での熱機械疲労(TMF),低サイクル疲労(LCF)試験を行い,試験温度,ひずみ速度,ひずみ比がLCF寿命に与える影響,ならびに,温度/ひずみ位相条件がTMF寿命に与える影響について実験的に検討している.その結果,同超合金は,従来の耐熱材料とは異なる独特な疲労寿命特性を示し,これらの特性に対しては,従来の巨視的力学パラメータでは適切な評価・予測が困難であることなどを明らかにしている.
 第3章では,外負荷により生じるγ/γ'複合組織の形態変化に注目し,室温での塑性ひずみの付与とその後に与える熱処理によって生じる組織形態変化,高温疲労負荷によって生じる形態変化,および,タービン翼の製造・実機稼働,その後の補修といった一連の工程をモデル化した工程により生じる形態変化について実験的に検討している.その結果,同合金のγ/γ'組織は,加えた外負荷の影響でその形態が変化すること,その形態変化は,材料に加わった応力やひずみの大きさ,方向,履歴に強く依存することを明らかにしている.さらに,機械加工によって表面にセル状の異常組織を形成させた試験片に対する高サイクル疲労試験を行い,セル状組織の形成が同合金の疲労強度を著しく低下させることも明らかにしている.
 第4章では,第2章,第3章で得た実験結果を踏まえ,以下に示す 3つの解析を統一的に行える力学モデルを提示・展開している.具体的には,Eshelbyの楕円体介在物理論を基に,その理論を,析出物間相互作用,材料系の非弾性変形,および,γ'相の形状などを検討できるようなものに拡張している.提示したモデルは,γ/γ'組織形態をはじめ,γ/γ'間格子ミスフィット,析出物体積率,各相の弾塑性的性質の相違など,単結晶材の持つ様々な微細構造因子を考慮しており,これらの因子が,超合金の各種力学特性に与える影響を検討できるものとなっていると述べている.
 第5章では,第4章にて提示したモデルを用いて,第3章で実験的に検討したγ/γ'組織形態変化について,組織形態のエネルギー的安定性の観点から解析を展開している.そして,クリープ過程中のラフティング現象に対し,γ相とγ'相の間に生じる非弾性ひずみの不均一性を考慮することにより,これまでのEshelby理論では説明不可能であった実験結果を合理的に説明することに成功している.また,同様のアプローチにより,室温での塑性ひずみの付与とその後の熱処理により生じるγ/γ'組織の一方向粗大化,および,球状圧痕周りに形成されたセル状組織における安定組織形態も合理的に予測できることも示している.
 第6章では,第4章で展開したモデルに基づき,第2章で行った単結晶材のLCF,TMF試験を対象とした寿命予測に対する展開をはかっている.まず,単調負荷,および,繰返し負荷下での巨視的,局所的な応力ひずみ関係を導き,提示したモデル計算が,単調負荷下の変形に及ぼすγ/γ'ミスフィットの影響,および,繰返し負荷下での材料の移動硬化を正確に再現することを明らかにしている.また,得られた巨視的,局所的応力ひずみ関係に基づき,繰返し負荷過程中にき裂発生・初期進展の優先サイトに加わる塑性仕事密度を計算し,それを用いたLCF,TMF寿命予測を行い,第4章で提示したモデルにより,従来のマクロ的な考え方では説明のつかなかった単結晶超合金の高温疲労強度特性の多くを評価・予測できることを明らかにしている.
 第7章では,γ/γ'組織の形態変化を寿命予測モデルの中で数値的に表現することにより,組織形態の変化が単結晶材の繰返し変形挙動,および,疲労寿命に与える影響についての予測を行っている.そして,繰返し負荷下の材料の巨視的・局所的応力ひずみ関係は,材料系の持つ組織形態や材料学的因子により大きく変化し,それにともない,材料の疲労寿命も変化するであろうことを予測している.これらの予測は,現段階で得られている実験結果ともよく一致するものであり,提示モデルの合理性をしめしている.さらに,γ/γ'ミスフィットなどの材料学的因子が変化すると,寿命特性も大きく変化するであろうことも予測している.
 第8章では,この論文で得られた知見を総括するとともに,工業的応用のために残された課題を総括している.
 以上を要約するに,本論文は,単結晶Ni基超合金の高温疲労強度特性,外負荷により生じるγ/γ'複合組織の形態変化,および,それらの相関性について実験的に明らかにするとともに,γ/γ'複合組織が持つさまざまな材料学的・力学的因子を考慮に入れながら,同合金の高温疲労寿命,組織の形態学的変化のメカニズム,ならびに,複合組織形態が疲労寿命に与える影響,を統一的に扱うことのできる独自のモデルを構築・提示したもので,これまでに全くなかった独創的なものである.一連の研究成果は今後の単結晶超合金の設計,信頼性確保,部材維持管理 などに対する重要かつ有効な指針を与えるものになると期待される.
 よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.

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