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超音波振動を援用した回転型ダイヤモンド工具による精密加工

氏名 原 圭祐
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第397号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 超音波振動を援用した回転型ダイヤモンド工具による精密加工
論文審査委員
 主査 教授 久曽神 煌
 副査 教授 柳 和久
 副査 教授 金子 覚
 副査 教授 田辺 郁男
 副査 助教授 明田川正人

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第1章 序論 p.1
 1.1 研究背景 p.1
 1.2 鏡面仕上げを目的とした加工技術 p.2
 1.2.1 既存技術による鏡面仕上げ加工 p.2
 1.2.2 鏡面仕上げを目的とした新加工技術 p.3
 1.3 超音波振動援用加工 p.5
 1.3.1 超音波振動援用加工の原理・特色 p.5
 1.3.2 超音波振動援用加工現象に関する既存研究 p.8
 1.3.3 超音波振動援用加工による加工例 p.9
 1.4 本研究の目的 p.13
 1.5 本論文の構成 p.15
 1.6 本論文で用いる主な記号 p.16

第2章 超音波振動を援用したダイヤモンド正面研削による金型鋼表面の鏡面加工 p.21
 2.1 緒言 p.21
 2.2 加工実験 p.21
 2.2.1 加工原理 p.21
 2.2.2 加工機械 p.22
 2.2.3 超音波スピンドル p.26
 2.2.4 使用工具 p.28
 2.2.5 加工方法 p.30
 2.2.6 加工後の評価 p.31
 2.3 実験結果 p.33
 2.3.1 超音波振動援用研削の効果 p.33
 2.3.2 送り速度・ピック送り幅変化の影響 p.37
 2.3.3 切込量変化の影響 p.39
 2.4 ボール形状電着工具による傾斜面の研削実験 p.42
 2.4.1 実験方法 p.42
 2.4.2 実験結果 p.43
 2.5 超音波振動援用加工の熱解析 p.44
 2.5.1 超音波振動援用加工における熱影響に関する研究 p.44
 2.5.2 加工現象の熱解析パラメータの設定 p.44
 2.5.3 熱解析 p.48
 2.6 結言 p.52

第3章 高精度加工を目的としたダイヤモンド電着工具の自作および加工性能試験 p.55
 3.1 緒言 p.55
 3.2 ダイヤモンド電着工具の自作 p.56
 3.2.1 電着軸の加工方法 p.56
 3.2.2 ダイヤモンド砥粒の電着 p.57
 3.3 加工実験 p.59
 3.3.1 加工機械 p.59
 3.3.2 加工方法 p.59
 3.3.3 加工後の評価方法 p.60
 3.4 加工パラメータを変化させた加工実験 p.61
 3.4.1 工具回転速度の影響 p.61
 3.4.2 ピック送り量の影響 p.64
 3.4.3 送り速度の影響 p.65
 3.5 工具の耐久試験 p.66
 3.6 単一砥粒電着工具による加工 p.68
 3.7 CBN工具を用いた表面仕上げ加工 p.70
 3.7.1 実験方法 p.71
 3.7.2 加工実験 p.72
 3.8 3次元形状の鏡面加工実験 p.76
 3.8.1 実験装置 p.76
 3.8.2 実験方法 p.77
 3.8.3 実験結果 p.78
 3.9 結言 p.80

第4章 高周波振動と低周波振動を重畳したセラミックススリーブの内面仕上げ加工 p.82
 4.1 緒言 p.82
 4.2 実験装置・方法 p.83
 4.2.1 基本原理 p.83
 4.2.2 加工ワーク p.84
 4.2.3 ワーク励振器 p.84
 4.2.4 工具 p.87
 4.2.5 加工ワークの評価法 p.87
 4.3 実験結果 p.88
 4.3.1 重畳振動の効果確認 p.88
 4.3.2 ワーク側高周波振動を変化させた実験 p.91
 4.3.3 工具回転速度を変化させた実験 p.93
 4.3.4 送り速度を変化させた実験 p.94
 4.4 結言 p.96

第5章 結論 p.98

謝辞 p.101

 現在,IT産業が盛んになり,国内の最重要産業となっている.その代表例として,携帯電話などのモバイル機器の普及,通信環境の整備が急速に進行している.これらIT産業の発展には精密加工技術が必要不可欠である.例えば携帯電話の場合,光透過型ボタンなどの部品は,金型による射出成形によって大量生産されている.現在この金型は機械加工による粗切削の後,最終仕上げとして熟練工による手作業の鏡面研磨仕上げが行なわれている.研磨面は意匠性の高い美しい鏡面に仕上げられる.反面,作業時間が長い,機械加工面の精度が崩れる,形状がダレるといった欠点があり,仕上げ作業の時間短縮,形状精度向上が強く望まれている.また,光通信網の発達とともに,光ファイバを接続するためのジルコニアセラミックス製スリーブの需要が急増している.このスリーブは高品位の形状精度,表面粗さが求められている.現在はスリーブの仕上げ工程は,ホーニングにより行われている.しかし作業時間が長く生産性が悪いため,ワンパス加工による仕上げが望まれている.また,材質は難削材であるジルコニアセラミックス,仕上げ穴は小径かつ深穴のため,従来の技術では難しい加工であった.
 以上のように,加工精度の改善,鏡面加工,加工の高速化,難削材の加工といった従来の技術では対応できない加工の実現が今後のIT産業を支えるために必要となる.本論文では,上述の問題点を解決するための手法として,超音波振動を援用した回転型ダイヤモンド工具による精密加工の研究を行った.本論文の構成は,以下のようである.

 第1章では,緒論として,研究の背景,目的について説明している.また,本論文で扱う超音波振動援用加工の原理,利点および関連する研究報告についてまとめたほか,本研究の特色,独自性についても説明している.

 第2章では,超音波振動を援用したダイヤモンド電着工具による金型鋼の正面研削実験を行い,本手法による鏡面加工の有用性を確認した.通常,ダイヤモンド工具で鉄系材料を加工するとダイヤモンド中の炭素原子が鉄中に拡散,激しく摩耗することが知られている.ところが,超音波振動を援用することによる,工具とワークの連続接触の回避,潤滑・冷却効果の促進による工具表面温度の低減効果などにより,ダイヤモンド砥粒の摩耗・脱落なく鉄系材料の加工を継続できること,加工面粗さ0.4 mRzの準鏡面を得られることを確認した.また加工中の工具表面の温度を有限要素解析で計算し,超音波振動援用により工具表面の温度は室温を維持して加工できることを説明した.これより本手法による金型鋼の鏡面加工の有効性を確認した.

 第3章では,高精度の金型加工を行う目的で,ダイヤモンド工具を自作・機上で成形することにより,工具の回転振れを低減,工具の形状精度を向上させる手法を提案,同手法により工具を製作し,金型鋼の超音波振動援用研削実験を行った.正面研削の結果,10×10mmの面を12分で表面粗さ0.24 mRzの面に仕上げることを確認した.工具の耐久性も,加工面積5000mm2まで砥粒の脱落・摩耗無く加工できることを確認した.また,砥粒を一粒だけ電着した工具を製作,加工実験を行い,加工挙動を確認する実験を行った.その結果,単一砥粒工具を用いた場合でも,表面粗さ0.14 mRzの仕上げを実現できることを確認した.これより,加工に有効な砥粒の数が少なくても鏡面仕上げを実現できることを証明した.3次元形状の鏡面仕上げの試みとして,球形状工具を自作,機上成形を行った工具で球面形状の鏡面仕上げを行った.その結果,凸球面を鏡面反射のある面に仕上げることができた.以上より,超音波振動を援用したダイヤモンド電着工具による鏡面仕上げ加工の有用性を確認した.

 第4章では加工機テーブルに固定したワーク側に高周波振動,スピンドルに取り付けた工具に低周波揺動を重畳し,ジルコニアセラミックス製弾性スリーブの内面穴仕上げを行った.その結果,振動重畳加工では,工具揺動のみ,ワーク振動のみの加工に比べ,表面粗さRaおよび形状精度が35~60%向上し,そのばらつきも30~85%減少した.振動重畳加工では,工具揺動のみの加工に比べ,工具寿命が約20倍に向上し,ワーク100個の加工でも工具摩耗が見られなかった.以上より,工具側低周波揺動とワーク側高周波振動を重畳した振動の効果が確認でき,超音波振動を援用したダイヤモンド工具による加工が精密加工に有用であることについて論述した.

 第5章では,本論文のまとめとして,上記で得られた結論より,超音波振動を援用したダイヤモンド工具による精密加工の有用性をまとめた.

 本論文は,「超音波振動を援用した回転型ダイヤモンド工具による精密加工」と題し,5章より構成されている.第1章では,緒論として,研究の背景,目的,特色,独自性について説明している.第2章では,超音波振動を援用したダイヤモンド電着工具による金型鋼の正面研削実験を行い,本手法による鏡面加工の有用性を確認している.通常,ダイヤモンド工具で鉄系材料を加工するとダイヤモンド中の炭素原子が鉄中に拡散,激しく摩耗することが知られているが,超音波振動を援用することによる,工具とワークの連続接触の回避,潤滑・冷却効果の促進による工具表面温度の低減効果などにより,ダイヤモンド砥粒の摩耗・脱落なく鉄系材料の加工を継続できること,加工面粗さ0.4 mRzの準鏡面を得られることを確認している.また加工中の工具表面の温度を有限要素解析で計算し,超音波振動援用により工具表面の温度は室温を維持して加工できることを説明している.これより本手法による金型鋼の鏡面加工の有効性を確認している.第3章では,高精度の金型加工を行う目的で,ダイヤモンド工具を自作・機上で成形することにより,工具の回転振れを低減,工具の形状精度を向上させる手法を提案,同手法により工具を製作し,金型鋼の超音波振動援用研削実験を行い,10×10mmの面を12分で表面粗さ0.24 mRzに仕上げることを確認している.工具の耐久性も,加工面積5000mm2まで砥粒の脱落・摩耗無く加工できることを確認している.また,砥粒を一粒だけ電着した工具を製作,加工実験を行い,表面粗さ0.14 mRzの仕上げを実現できることを確認している.さらに,球形状工具を自作,機上成形を行った工具で球面形状の鏡面仕上げを行っている.以上より,超音波振動を援用したダイヤモンド電着工具による鏡面仕上げ加工の有用性を確認している.第4章では加工機テーブルに固定したワーク側に高周波振動,スピンドルに取り付けた工具に低周波揺動を重畳し,ジルコニアセラミックス製弾性スリーブの内面穴仕上げを行い,工具揺動のみ,ワーク振動のみの加工に比べ,表面粗さRaおよび形状精度が35~60%向上し,工具寿命が約20倍に向上し,ワーク100個の加工でも工具摩耗が見られなかった.以上より,低周波揺動と高周波振動を重畳した振動加工の有用性を論述している.第5章では,本論文のまとめとして,上記で得られた結論より,超音波振動を援用したダイヤモンド工具による精密加工の有用性をまとめている.
 よって,本論文は工学上および工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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