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走査型プローブ顕微鏡を用いた半導体表面およびデバイス信頼性の評価に関する研究

氏名 安江 孝夫
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第409号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 走査型プローブ顕微鏡を用いた半導体表面およびデバイス信頼性の評価に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 河合 晃
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 高田 雅介
 副査 教授 濱崎 勝義
 副査 助教授 木村 宗弘

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序論 p.1

第1章 走査型トンネル顕微鏡によるシリコン基板の形状変化と局所電気伝導評価 p.10
 1.1 STMの原理 p.10
 1.2 STM装置 p.12
 1.3 STMによるイオン注入したSi(100)表面の観察 p.14
 1.4 走査型トンネル分光法 p.18
 1.5 STM/STSによるSi(100)表面の観察 p.20

第2章 原子間力顕微鏡による微細形状観察と半導体用レジスト密着性の定量評価 p.27
 2.1 AFMの原理 p.27
 2.2 AFMの観察例 p.30
 2.2.1 SC1洗浄による表面マイクロラフネス変化 p.30
 2.2.2 化合物半導体InP/InGaAsPエピタキシャル成長表面の観察 p.32
 2.3 AFMによる表面付着力測定 p.33
 2.3.1 Force-Curve測定法 p.33
 2.3.2 ARC用TiN膜への応用 p.36
 2.3.3 SiON膜への応用 p.40
 2.4 AFMによる表面付着力分布測定 p.44
 2.4.1 表面付着力分布測定法 p.44
 2.4.2 半導体材料の表面付着力分布測定 p.49

第3章 走査型プローブ顕微鏡によるシリコン局所加工表面と酸化膜絶縁破壊評価 p.52
 3.1 SPM装置 p.54
 3.2 SPMのフラッシュメモリ・トンネル酸化膜への応用 p.58
 3.3 SPMによるシリコン加工表面のI-V特性 p.61
 3.4 SPMによるシリコン酸化膜の絶縁破壊特性 p.67
 3.5 SPMによるシリコン酸化膜の経時絶縁破壊測定 p.75

結論 p.84

参考文献 p.87

本研究に関わる研究発表 p.89

謝辞 p.93

 半導体メモリの高集積化が進行し、果てしない開発競争が世界中の半導体メーカー間で繰り広げられている。スケーリング則に従い、MOS構造トランジスタで使用するシリコン酸化膜厚は益々薄くなり膜中電界強度が増加し、基板との界面構造がトランジスタ特性や信頼性に大きな影響を与える。このため、半導体製造プロセスが半導体材料表面に及ぼす微細な形状変化や局所的特性変化を定量的に捉え、この変化がデバイス特性に及ぼす影響を明確化することは非常に重要である。本研究では上記視点に立ち、表面の微細形状変化のみならず局所的な吸着力、電気特性、更には局所加工が可能な走査型プローブ顕微鏡を用い、様々な半導体表面およびデバイス信頼性の評価に関する研究を行った。
 第1章では走査型トンネル顕微鏡(STM)や走査型トンネル分光(STS)を用いて、イオン注入されたシリコン基板表面のナノメーターオーダーの形状変化を評価すると共に、フッ酸洗浄により水素終端したシリコン基板表面の局所的な電気特性を明らかにしている。最初に、イオン衝突がシリコン表面に与える形状変化を真空中STM用いて評価した。イオン衝撃を加えることにより、シリコン表面に異なる凹凸が現れ、20~200keVのイオン注入エネルギー範囲では、表面凹凸差がエネルギーの増加と共に増加し、クレーターの深さも増加することが分った。次に、STSによりフッ酸洗浄により水素終端したシリコン基板表面の局所的な電気特性を明らかにした。微分コンダクタンスの面内分布から水素終端領域と酸化領域を明確に区分し、前者領域のI-V特性が典型的ショットキー・バリア・ダイオード特性を示し、バンド曲がりに基づくMIS理論により説明できることを明らかにした。一方、後者の酸化領域では電子伝導は表面準位に支配され、フェルミレベルは表面でピンニングし、電圧降下が半導体と酸化膜間で生じていることが分った。
 第2章では、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面微細形状を観察すると共に、Force-Curve測定法を併用して微細形状と表面吸着力との相関性を調べ、半導体用レジスト密着性への影響を定量化した。最初に、SC1洗浄による表面マイクロラフネスの変化をAFM観察し、SC1洗浄が表面マイクロラフネスを増大させ、これに伴い酸化膜中電荷の捕獲効率が増加し、MOSトランジスタ動作におけるホットキャリア効果の影響を受け易くすることが分った。また、化合物半導体であるInGaAsP上のInPエピタキシャル成長面のAFM観察も行い、成長初期過程で下地中Asの外部拡散によりInPの結晶性が乱れること、十分な膜厚に達すると明瞭な原子ステップが現れ、<111>方向に走ることを確認した。次に、AFM探針を試料表面で上下させるForce-Curve測定法をプロセス条件の異なる反射防止膜(ARC)用TiN膜に適用し、フォトレジスト密着性が表面ラフネスや表面吸着力に強く左右されることを定量化した。また、GaAs ICプロセスにおけるSiON膜上のレジスト剥がれ不具合の原因調査にも適用し、レジスト密着性が良好な膜ほど表面マイクロラフネスが小さく、吸着力が大きいことが分った。更に、本手法を面内で展開し表面付着力分布測定法を考案し、InP表面にHBr処理+水洗処理を行った表面や、InGaAsP基板上のレジスト表面の付着力分布を可視化し、分布が材質により異なることを明確にした。
 第3章ではSTMやAFMの機能を合わせ持った走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用い、電界誘起酸化法で局所加工したシリコン酸化膜の電気特性を明らかにすると共に、走査型プローブ顕微鏡のプローブ電流をモニタすることにより,酸化膜の絶縁破壊現象を直接評価する方法を開発し、絶縁耐性が製造プロセスの違いにより影響を受けることやパターン内で位置依存性を持つこと、ドライエッチングの有無が酸化膜信頼性に影響を与えることを明らかにした。最初に、SPMを16Mフラッシュメモリのトンネル酸化膜に応用し、絶縁破壊の90%が分離酸化膜のエッジ部分に集中することが分った。これは、エッジ部分のトンネル酸化膜が、自身の薄膜化やシリコン界面でのキンク等の物理的要因により絶縁耐圧が低下しているためであり、従来TEGによる電気特性結果とも一致している。次に、SPM探針を用いて局所加工したシリコン酸化膜の電気特性を測定した。加工領域では、酸化膜成長による「膜厚増加」と「電流値減少」が見られ、I-V特性のFNプロットが直線性を示し、伝導メカニズムがFNトンネリングであることを示唆した。また、直線の傾きから算出したバリアハイト値は、通常のMOS構造の値と一致した。一方、非加工領域のFNプロットは直線からずれ、電子伝導は直接トンネル理論によることを示した。次に、13nm厚のシリコン酸化膜絶縁破壊特性を評価するにあたって、酸化膜中キャリアの影響を受けない絶縁耐圧測定を行った。その結果、耐電圧差は16.5~16.7Vの0.2V(1%)以内で、ほぼ均一となった。本手法を基板結晶の異なる二つの酸化膜に適用し、両者の絶縁破壊中心電圧が0.2Vずれることから、基板結晶が絶縁耐圧に影響を及ぼすことを検証した。さらに、絶縁破壊電圧がパターン内で位置依存性を持つことも分った。これらからシリコン酸化膜の絶縁破壊電圧が、酸化膜自体の絶縁電圧と、界面構造の不均一性や不完全性両者に影響を受けていることが分った。最後に、膜厚9.5nmのシリコン酸化膜の経時絶縁破壊特性について調べた。測定結果をワイブル・プロットし、印加電圧サイクル数に対する累積不良率を求めたところ、不良率が直線上に分布し、形状パラメータが印加電圧によらず一定で、故障モードが変わっていないことから、酸化膜の経時絶縁破壊特性測定にも十分適用できることが分った。本手法を、プラズマ・ダメージを加えたものと加えていない2種類のシリコン酸化膜に適用し、両者の平均寿命が、実用である1~6MV/cmの電界強度領域において異なり、プラズマ・ダメージを加えることで膜の平均寿命が短くなることが分った。
 本研究により、半導体材料表面の微細形状変化、局所的な吸着力や電気伝導、酸化膜絶縁破壊特性に関する知見が多く得られており、今後の最先端半導体開発におけるデバイスの信頼性向上に貢献すると考えられる。

 本論文は、「走査型プローブ顕微鏡を用いた半導体表面およびデバイス信頼性の評価に関する研究」と題し、3章より構成されている。
 第1章では走査型トンネル顕微鏡(STM)や走査型トンネル分光(STS)を用いて、イオン注入されたシリコン基板表面のナノメーターオーダーの形状変化を評価すると共に、フッ酸洗浄により水素終端したシリコン基板表面の局所的な電気特性を明らかにしている。イオン衝撃を加えることにより、シリコン表面に異なる凹凸が現れ、20~200keVのイオン注入エネルギー範囲では、表面凹凸差がエネルギーの増加と共に増加し、クレーターの深さも増加することを示している。次に、STSによりフッ酸洗浄により水素終端したシリコン基板表面の局所的な電気特性を明らかにしている。微分コンダクタンスの面内分布から水素終端領域と酸化領域を明確に区分し、前者領域のI-V特性が典型的ショットキー・バリア・ダイオード特性を示し、バンド曲がりに基づくMIS理論により説明できることを明らかにしている。
 第2章では、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面微細形状を観察すると共に、Force-Curve測定法を併用して微細形状と表面吸着力との相関性を調べ、半導体用レジスト密着性への影響を定量化している。最初に、SC1洗浄による表面マイクロラフネスの変化をAFM観察し、SC1洗浄が表面マイクロラフネスを増大させ、これに伴い酸化膜中電荷の捕獲効率が増加し、MOSトランジスタ動作におけるホットキャリア効果の影響を受け易くすることを明らかにしている。次に、AFM探針を試料表面で上下させるForce-Curve測定法をプロセス条件の異なる反射防止膜(ARC)用TiN膜に適用し、フォトレジスト密着性が表面ラフネスや表面吸着力に強く左右されることを定量化している。
 第3章ではSTMやAFMの機能を合わせ持った走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用い、電界誘起酸化法で局所加工したシリコン酸化膜の電気特性を明らかにしている。また、走査型プローブ顕微鏡のプローブ電流をモニタすることにより,酸化膜の絶縁破壊現象を直接評価する方法を開発し、絶縁耐性が製造プロセスの違いにより影響を受けることやパターン内で位置依存性を持つこと、ドライエッチングの有無が酸化膜信頼性に影響を与えることを明らかにしている。また、膜厚9.5nmのシリコン酸化膜の経時絶縁破壊特性について調べている。測定結果をワイブル・プロットし、印加電圧サイクル数に対する累積不良率を求めたところ、不良率が直線上に分布し、形状パラメータが印加電圧によらず一定で、故障モードが変わっていないことから、酸化膜の経時絶縁破壊特性測定にも十分適用できること明らかにしている。
 本研究により、半導体材料表面の微細形状変化、局所的な吸着力や電気伝導、酸化膜絶縁破壊特性に関する知見が多く得られており、今後の最先端半導体開発におけるデバイスの信頼性向上に貢献すると考えられる。
 よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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