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水の分解反応に対する金属酸化物光触媒の活性に及ぼす複合化効果

氏名 門脇 晴彦
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第400号
学位授与の日付 平成19年3月26日
学位論文題目 水の分解反応に対する金属酸化物光触媒の活性に及ぼす複合化効果
論文審査委員
 主査 教授 井上 秦宣
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 佐藤 一則
 副査 教授 梅田 実
 副査 助教授 斉藤 信雄

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第1章 序論

 1-1 背景 p.1
 1-2 水分解用光触媒の開発および歴史 p.2
 1-3 本研究 p.9
 参考文献 p.14

第2章 d10-d10電子状態の複合酸化物LiInGeO4の光触媒活性

 2-1 はじめに p.17
 2-2 実験 p.17
 2-2-1 単独酸化物AInO2(A=Li,Na)およびA2GeO3(A=Li,Na)、複合酸化物LiInGeO4の作製 p.17
 2-2-2 金属酸化物へのRuO2の担持 p.19
 2-2-3 単独酸化物および複合酸化物のキャラクタリゼーション p.19
 2-2-3-1 X線回折測定 p.19
 2-2-3-2 走査型電子顕微鏡(SEM)像観察 p.21
 2-2-3-3 比表面積測定 p.21
 2-2-3-4 拡散反射スペクトル測定 p.22
 2-2-3-5 X線光電子スペクトル測定 p.23
 2-2-3-6 原子吸光測定 p.24
 2-2-3-7 密度汎関数法を用いた計算 p.24
 2-2-4 反応装置および反応条件 p.25
 2-3 結果 p.27
 2-3-1 RuO2担持複合酸化物の光触媒活性 p.27
 2-3-1-1 水の分解反応の経時変化 p.27
 2-3-1-2 焼成温度依存性 p.29
 2-3-1-3 RuO2担持量依存性およびRu酸化処理温度依存性 p.29
 2-3-1-4 LiInO2およびLiInGeO4の光触媒活性の比較 p.32
 2-3-2 単独酸化物および複合酸化物のキャラクタリゼーション p.32
 2-3-2-1 X線回折 p.32
 2-3-2-2 SEM像 p.36
 2-3-2-3 比表面積 p.36
 2-3-2-4 拡散反射スペクトル p.36
 2-3-2-5 LiInGeO4のX線光電子スペクトル p.42
 2-3-2-6 RuのX線光電子スペクトル p.42
 2-3-2-7 反応後の溶液の原子吸光分析 p.45
 2-3-2-8 密度汎関数法を用いた計算 p.45
 2-4 考察 p.49
 2-4-1 RuO2担持LiInGeO4複合酸化物の光触媒作用に及ぼすLiInGeO4の焼成温度依存性 p.49
 2-4-2 RuO2担持による効果 p.49
 2-4-3 局所構造と光触媒活性の相関 p.50
 2-4-4 電子状態と光触媒活性 p.55
 2-5 小括 p.56
 参考文献 p.57

第3章 d10電子状態のGa3+を含む酸化物への異種元素置換効果

 3-1 はじめに p.59
 3-2 実験 p.60
 3-2-1 異種金属を置換したα-およびβ-Ga2O3およびZnGa2O4の作製 p.60
 3-2-1-1 Ga前駆体の作製 p.60
 3-2-1-2 M(M=Cr,Rh,V,In,Sb)置換α-およびβ-Ga2O3の作製 p.60
 3-2-1-3 M(M=In,Y,Al)置換ZnGa2O4の作製 p.63
 3-2-2 金属酸化物へのRuO2の担持 p.63
 3-2-3 異種金属M(M=Cr,Rh,V,In,Sb)置換α-およびβ-Ga2O3、および、M(M=In,Y,Al)置換ZnGa2O4のキャラクタリゼーション p.63
 3-2-3-1 ラマン分光測定 p.65
 3-2-3-2 発光スペクトル p.65
 3-2-3-3 密度汎関数を用いた電子構造の計算 p.66
 3-2-4 反応装置および反応条件 p.68
 3-3 結果 p.69
 3-3-1 α-およびβ-Ga2O3 p.69
 3-3-1-1 光触媒作用 p.69
 3-3-1-1-1 水の光分解反応の経時変化 p.69
 3-3-1-1-2 焼成温度依存性 p.69
 3-3-1-2 α-およびβ-Ga2O3のキャラクタリゼーション p.72
 3-3-1-2-1 X線回折 p.72
 3-3-1-2-2 α-およびβ-Ga2O3の走査線型電子顕微鏡(SEM)像 p.75
 3-3-1-2-3 α-およびβ-Ga2O3の拡散反射スペクトル p.75
 3-3-1-2-4 β-Ga2O3の発光スペクトル p.78
 3-3-1-2-5 α-およびβ-Ga2O3のバンド構造 p.78
 3-3-2 M(M=Cr,Rh,V,In,Sb)置換α-Ga2O3 p.83
 3-3-2-1 光触媒作用 p.83
 3-3-2-1-1 水の光分解反応の経時変化 p.83
 3-3-2-1-2 光触媒活性と置換金属量の関係 p.83
 3-3-2-1-3 光触媒活性と置換金属種の関係 p.86
 3-3-2-2 キャラクタリゼーション p.86
 3-3-2-2-1 X線回折 p.86
 3-3-2-2-2 ラマンスペクトル p.91
 3-3-2-2-3 SEM像 p.91
 3-3-2-2-4 拡散反射スペクトル p.96
 3-3-2-2-5 α-Ga1.83In0.17O3のバンド構造 p.96
 3-3-3 M(M=Cr,Rh,V,In)置換β-Ga2O3 p.101
 3-3-3-1 光触媒作用 p.101
 3-3-3-1-1 水の分解反応の経時変化 p.101
 3-3-3-1-2 光触媒活性と置換金属量の関係 p.101
 3-3-3-1-3 光触媒活性と置換金属種の関係 p.101
 3-3-3-2 キャラクタリゼーション p.105
 3-3-3-2-1 X線回折 p.105
 3-3-3-2-2 ラマンスペクトル p.110
 3-3-3-2-3 SEM像 p.110
 3-3-3-2-4 拡散反射スペクトル p.113
 3-3-3-2-5 発光スペクトル p.117
 3-3-3-2-6 β-Ga1.83In0.17O3のバンド構造 p.117
 3-3-4 ZnGa2-2XM2XO4(M=In,Y,Al) p.117
 3-3-4-1 光触媒作用 p.117
 3-3-4-1-1 水の光分解反応の経時変化 p.117
 3-3-4-1-2 光触媒活性と置換金属量の関係 p.123
 3-3-4-1-3 光触媒活性と置換金属種の関係 p.123
 3-3-4-2 キャラクタリゼーション p.126
 3-3-4-2-1 X線回折 p.126
 3-3-4-2-2 ラマンスペクトル p.129
 3-3-4-2-3 SEM像 p.129
 3-3-4-2-4 拡散反射スペクトル p.132
 3-3-4-2-5 発光スペクトル p.135
 3-3-4-2-6 ZnGa2O4およびZnGa1.83In0.17O4のバンド構造 p.139
 3-4 考察 p.139
 3-4-1 α-Ga2O3の光触媒作用 p.139
 3-4-1-1 焼成温度依存症 p.139
 3-4-1-2 局所構造および電子構造の寄与 p.143
 3-4-1-3 金属置換効果 p.145
 3-4-1-4 置換量依存性 p.147
 3-4-2 β-Ga2O3の光触媒作用 p.148
 3-4-2-1 焼成温度依存性 p.148
 3-4-2-2 局所構造および電子構造の効果 p.149
 3-4-2-3 金属置換効果 p.150
 3-4-2-4 β-Ga2O3光触媒に対するM(M=Cr,Rh,V,In)の置換量依存性 p.151
 3-4-3 ZnGa2-2XM2XO4(M=In,Y,Al)の光触媒作用 p.153
 3-4-3-1 ZnGa2-2XM2XO4(M=In,Y,Al)の結晶構造 p.153
 3-4-3-2 ZnGa2-2XM2XO4(M=In,Y,Al)の電子構造 p.155
 3-4-3-3 ZnGa2O4光触媒に対する(M=In,Y,Al)置換量と光触媒活性の関係 p.157
 3-5 小括 p.158
 参考文献 p.160

第4章 d10s2-d0電子状態を持つ複合金属酸化物の光触媒作用

 4-1 はじめに p.161
 4-2 実験 p.161
 4-2-1 PbWO4および CaWO4の作製 p.161
 4-2-2 PbWO4および CaWO4へのRuO2の担持 p.163
 4-2-3 PbWO4および CaWO4のキャラクタリゼーション p.163
 4-2-3-1 PbWO4の定量分析 p.164
 4-2-4 反応装置および反応条件 p.165
 4-3 結果 p.165
 4-3-1 PbWO4の光触媒活性 p.165
 4-3-1-1 水の分解反応の経時経過 p.165
 4-3-1-2 作製雰囲気および作製温度依存性 p.165
 4-3-1-3 PbWO4および CaWO4の光触媒活性の比較 p.168
 4-3-2 PbXWO4の光触媒活性 p.168
 4-3-2-1 Pb0.75WO4光触媒による水の分解反応の経時変化 p.168
 4-3-2-2 PbXWO4の光触媒活性とPb量の関係 p.168
 4-3-3 PbWO4およびCaWO4のキャラクタリゼーション p.172
 4-3-3-1 X線回折 p.172
 4-3-3-1-1 (A)PbWO4および(N)PbWO4のX線回折 p.172
 4-3-3-1-2 PbXWO4のX線回折 p.175
 4-3-3-2 PbXWO4のラマンスペクトル p.175
 4-3-3-3 SEM像 p.179
 4-3-3-3-1 (A)PbWO4および(N)PbWO4のSEM像 p.179
 4-3-3-3-2 PbXWO4のSEM像 p.179
 4-3-3-4 拡散反射スペクトル p.184
 4-3-3-4-1 (A)PbWO4および(N)PbWO4の拡散反射スペクトル p.184
 4-3-3-4-2 PbXWO4の拡散反射スペクトル p.184
 4-3-3-5 発光スペクトル p.184
 4-3-3-5-1 PbWO4の発光スペクトル p.184
 4-3-3-5-2 PbXWO4の発光スペクトル p.184
 4-3-3-6 比表面積 p.188
 4-3-3-6-1 (A)PbWO4および(N)PbWO4の比表面積 p.188
 4-3-3-6-2 PbXWO4の比表面積 p.188
 4-3-3-7 電子線マイクロアナライザーによるPbXWO4の定量 p.190
 4-4 考察 p.190
 4-4-1 光触媒作用に与える作製条件の影響 p.190
 4-4-2 PbWO4およびCaWO4の局所構造および電子状態と光触媒作用 p.192
 4-4-3 Pb量の変化が及ぼすRuO2担持PbXWO4の光触媒活性への影響 p.197
 4-5 小括 p.204
 参考文献 p.205

第5章 f0d0電子状態への展開
 5-1 はじめに p.206
 5-2 実験 p.207
 5-2-1 M2+(M=Mg,Ca,Sr,Zn)およびM3+(M=Y,La,In,Sb)を添加したCeO2の作製 p.207
 5-2-2 金属酸化物へのRuO2の担持 p.207
 5-2-3 M2+(M=Mg,Ca,Sr,Zn)およびM3+(M=Y,La,In,Sb)を添加したCeO2のキャラクタリゼーション p.207
 5-2-4 密度汎関数法を用いた電子構造の計算 p.209
 5-2-5 反応装置および反応条件 p.209
 5-3 結果 p.210
 5-3-1 M2+(M=Mg,Ca,Sr,Zn)およびM3+(M=Y,La,In,Sb)を添加したCeO2 p.210
 5-3-1-1 RuO2担持0.1Sr2+-CeO2およびRuO2担持0.1La3+-CeO2による水の分解反応の経時変化 p.210
 5-3-1-2 光触媒活性と照射波長の関係 p.209
 5-3-1-3 RuO2担持xSr2+-CeO2(x=0~0.5)の光触媒活性とSr2+量の関係 p.213
 5-3-1-4 光触媒活性と添加金属種の関係 p.213
 5-3-2 キャラクタリゼーション p.213
 5-3-2-1 X線回折 p.213
 5-3-2-1-1 xSr2+-CeO2(x=0~0.5)のX線回折 p.213
 5-3-2-1-2 0.1M2+-CeO2(M=Mg,Ca,Sr,Zn)および0.1M3+-CeO2(M=Y,La,In,Sb)のX線回折 p.217
 5-3-2-2 SEM像 p.220
 5-3-2-2-1 xSr2+-CeO2(x=0~0.5)のSEM像 p.220
 5-3-2-2-2 0.1M2+-CeO2(M=Ca,Sr)および0.1M3+-CeO2(M=Y,La)のSEM像 p.220
 5-3-2-3 拡散反射スペクトル p.223
 5-3-2-3-1 xSr2+-CeO2(x=0~0.5)の拡散反射スペクトル p.223
 5-3-2-3-2 0.1M2+-CeO2(M=Mg,Ca,Sr,Zn)および0.1M3+-CeO2(M=Y,La,In,Sb)の拡散反射スペクトル p.223
 5-3-2-4 励起および発光スペクトル p.226
 5-3-2-5 CeO2およびSr添加CeO2のバンド構造 p.226
 5-4 考察 p.229
 5-4-1 Sr2+-CeO2とSrCeO3の局所構造および電子構造と光触媒作用 p.229
 5-4-2 RuO2担持Sr2+-CeO2に及ぼすSr量依存性 p.232
 5-4-3 CeO2に対する添加金属種と光触媒作用 p.233
 5-5 小括 p.233
 参考文献 p.236

第6章 総括 p.237

本論文に関する発表論文 p.241

本論文に関する国際学会発表 p.242

本論文に関する国内の学会発表 p.244

謝辞 p.247

 水素エネルギー社会の到来の中、クリーンな方法による水素生成の技術が求められている。これに対し光触媒を用いた水素を作る方法は理想的な方法であり、これを可能にする高機能な光触媒の開発が重要である。金属酸化物の光触媒作用はそれの局所構造およびバンド構造の2つの因子によって支配される。このため本研究では光触媒の高効率化法の確立と新規光触媒の開発を目的とし、d10およびd0電子状態の金属酸化物に対し異種金属イオンを共存、置換、欠損および添加などの方法により複合化させ、光触媒作用を司る上述の2つの因子に及ぼす効果および光触媒作用に及ぼす効果について調べた。
 複合酸化物は沈殿法および固相法を用いて作製し、その結晶構造、局所構造および形状をX線回折法、レーザーラマン分光法および走査型電子顕微鏡像観察により、光吸収特性を拡散反射スペクトル法により、さたに電子状態を発光スペクトル法およびX線光電子分光法により解析した。また密度汎関数法を用いた複合酸化物の計算により、電子構造および電子状態密度を明らかにした。
 d10電子状態のIn3+とGe4+を共存複合させたd10-d10電子状態のLiINGeO4を用い、d10電子状態を持つ金属酸化物AInO2(A=Li,Na)およびA2GeO3(A=Li,Na)と比較し、光触媒作用に及ぼす局所構造および電子構造の複合化効果について調べた。RuO2担持LiInGeO4は光照射により水から水素および酸素をほぼ化学量論比で定常的に生成させる光触媒作用を示し、単一のd10電子状態の光触媒に比べ高い活性をもったことを見出した。これはd10-d10電子状態の複合酸化物ではInO6八面体およびGeO4四面体の歪み局所構造に基づく極子モーメントが増加し、分極場効果が高まること、および、電子軌道の混成により伝導帯のバンド分散が高まり高い移動度を持つ励起電子の生成をもたらす電子的効果により、高い光触媒活性が生じることを明らかにした。
 置換による複合化ではGa系酸化物について、歪んだGaO6八面体から構成されるα-Ga2O3、歪んだGaイオンとIn,Cr,Rh,V,Sb,YおよびAlの種々の金属イオンによる置換複合化効果を調べた。金属イオン置換α-Ga2O3ではバンド構造に対する効果、ホール長寿命化の励起電荷トラップ効果および結晶性の向上効果により、またβ-Ga2O3では局所構造変化による分極場効果により活性が増加することを示した。さらにZnGa2O4では金属イオン置換がGaO6性八面体の局所構造に変化を与えると共に、焼成時の酸素欠陥の生成を抑制させる効果により活性が顕著に増加することを明らかにした。
 シーライト構造のPBWO4はd0電子状態のW6+を含むW系酸化物では光触媒作用を持った初めての金属酸化物である。同様の構造を持つ不活性なCaWO4の構造および電子状態と比較し、複合化の観点から活性発現機構を調べた。電子状態の詳細な解析により、PbWO4の価電子帯のO2p起動にPb6s軌道が混成し、伝導帯W5d軌道にはPb6p軌道が寄与し、価電子帯および伝導帯のバンド分散を増加させた電子構造を持つCaWO4には見られない特徴を見出した。この電子構造が高い移動度を持つ電子および正孔を発生させ、活性発現をもたらす機構を明らかにした。PbWO4はPbを欠損させると共に活性が増加し、、PbxWO4においてx=0.75で最大となる特異的な現象について解析し、Pb欠損状態では価電子帯にW5b軌道の寄与が増加し活性増加となることを示した。
 本研究で得られた複合化効果の見地をこれまで光触媒作用の報告がほとんど無い希土類酸化物に展開し、希土類金属イオンのf0d0電子状態であるCeO2に、2価の金属M2+(M=Mg,Ca,Sr,Zn)あるいは3価の金属M3+(M=Y,La,In,Sb)を加え、天下による複合化効果を調べた。Mg、Zn、InおよびSbを添加したCeO2では光触媒活性を示さないが、Ca、Sr、YおよびLaを添加したCeO2では水素と酸素をほぼ化学量論比で与え、希土類金属酸化物が水の分解反応に対し光触媒作用を持つことを初めて見出した。光触媒活性は添加金属イオンのイオン半径がCe4+のそれより大きい場合にのみ発現することからCe4+およびCe3+が混在するCeO2中の、トラップサイトとして働くCe3+を消失させるため光触媒作用が生じることを明らかにした。さらにDFT計算から、反応に寄与する電子遷移はf軌道ではなくO2p軌道からCe5d+Sr5p混成軌道への励起であることを示した。
 以上に基づきd10およびd0電子状態の金属酸化物光触媒に対し、共存、置換、欠陥および添加等の複合化により、光触媒の増加が可能であること、および、希土類金属酸化物で示したように新たな光触媒作用の発見も可能であり、複合化効果は光触媒開発の重要な要素の一つになると結論した。

 本論文は、「水の分解反応に対する金属酸化物光触媒の活性に及ぼす複合化効果」と題し、クリーンなエネルギー源である水素を得る水分解反応用のd10およびd0電子状態の金属酸化物光触媒に異種金属イオンを共存、置換および添加などの方法により複合化させた場合の活性化効果と新規光触媒の開発について述べている。
 第1章では、水の分解反応により水素を得る技術の社会的重要性、これを可能とする光触媒の原理、最近に至るまでの光触媒研究の現状および本研究の意義を述べている。
 第2章では、d10-d10電子状態のLiInGeO4を用いた場合の共存複合化効果について述べている。助触媒としてRuO2を担持した場合に、単一のd10電子状態のAInO2(A=LI,Na)やA2GeOs(A=Li,Na)に比べ、LiInGeO4は高い光触媒活性を持つことを見出し、異種金属イオンの共存による複合化が、InO6八面体とGeO3四面体の分極場の効果を高め、さらに伝導体のバンド分散を大きくし、励起電子の移動度を高めるため、高い光触媒活性となることを明らかにしている。
 第3章では、Ga系酸化物について置換による複合化効果について述べている。局所構造の異なるα-Ga2O3、β-Ga2O3、およびZnGa2O4のGaイオンをInやCr金属イオンと置換した場合に顕著な活性増加が起こることを示し、ラマンスペクトルおよび発光スペクトルの解析から、金属イオン置換がGaO6八面体の局所構造に変化を与えると共に、焼成時の酸素欠陥の生成を抑制させる効果により顕著な活性増加をもたらすことを明らかにしている。
 第4章では、d0電子状態のW6+を含む新規光触媒として注目されているPbWO4について、同様の構造を持つ不活性なCaWO4と比較し、軌道の混成による複合化効果について述べている。バンド構造の解析より、CaWO4には見られない特徴としてPbWO4の価電子体のO2p軌道にPb6s軌道、また伝導帯W5dにはPb6p軌道が混成し、高い移動度を持つ電子と正孔を発生させ、活性発現となる機構を示している。さらに、PbWO4ではPbを欠損させると共に活性が増加する特異的な現象について解析し、Pb欠損状態では価電子帯にW5d軌道の寄与が増し活性増加となることを明らかにしている。
 第5章では、これまで研究報告がほとんど無い希土類酸化物に展開し、f0d0電子状態であるCeO2に、2価あるいは3価の金属イオンを添加した場合の複合化効果について述べている。Ca、Sr、YおよびLaを添加したCeO2が水の分解反応に対し光触媒作用を持つことを初めて見出し、新規光触媒を開発している。金属イオン添加がCe4+とCe3+が混在するCeO2中の、トラップサイトとして働くCe3+を消失させるため光触媒活性となること、および反応に寄与する電子遷移はf軌道でなくO2p軌道からCe5d+Sr5p混成軌道への励起であることを明らかにしている。
 第6章では本研究で得られた成果を総括している。
 以上のように、本論文では金属酸化物光触媒に複合化効果を応用して光触媒の高効率化の方法を確立し、さらに希土類金属酸化物の新規光触媒を開発している。よって、本論文は、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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